読書会・勉強会のすすめβ(2)―読書会の流れと形式

前回の記事では、読書会の説明とメリットについて簡単に説明しました。加えて、読書会が「事前の予習」と「当日の議論」という2つのパートに分かれていることも紹介しました。今回は、この2つのパートについてもう少し詳しくまとめてみたいと思います。特に「当日の議論」の進め方にいくつかの種類がある、ということが今回の記事のポイントです!

議論の形式をまず決めるべし!

前回の記事で紹介した通り、読書会は「事前の予習」と「当日の議論」の2部構成になっています。読書会では、参加者が集まる当日は最初から内容についての確認・議論に入ります。したがって、参加者は事前に題材となる本を読んで準備をしておく必要があります。事前の準備は、限られた時間の中でより密度の高い議論を実現する上でも不可欠だと言えます。

では、どのような予習をしておく必要があるのでしょうか。この答えは、実は簡単ではありません。予習は「当日の議論のために」行うものですから、「当日の議論」のパートをどのように進めるかをあらかじめ定めておかないと予習の内容は決められません。そのため、読書会の実施に際しては、どのように議論を進めるか、そのスタイルをまず決めておく必要があります。

当日の進め方の4パターン

この記事では、読書会の進行スタイルを大きく4つのパターンに分けて紹介してみましょう。その4つのパターンは以下の通りです(それぞれの名前は、便宜上付けた名前であり、正式名称ではありません)。

①論点列挙形式
②要約発表形式
③訳読形式(洋書)
④問題演習形式

以下では、上記の形式についてそれぞれ「当日の進め方」と「事前にしておくべき準備」について紹介します。なお、すべての読書会が厳密に上記のいずれかの形式に従っているとは限らず、またその必要もありませんが、1つのプロトタイプとして頭に入れている価値はあると思われます。

①論点共有形式

1つ目の進行パターンは論点共有形式です。この形式では、次のような進行が考えられます。

<論点共有形式の進め方Ⅰ>
①各参加者から、本の内容についての疑問点や論点、問題点を募る。
②全体で論点を共有し、議論する。

論点を出す人を事前に指名しておくこともできるかもしれません。

<論点共有形式の進め方Ⅱ>
①担当者(1人~数名)が、事前に用意してきた論点を共有する。
②全体で論点を共有し、議論する。

恐らく、漠然と「読書会」と言ったときにイメージされるのはこのような形式ではないかと思います。ですが、結論から言うとこの形式はお勧めしません。理由は大きくわけて2つです。

1つ目の理由は「論点をすぐに出せるとは限らない」というものです。そもそも、読書会を行う場合の多くは「1人で読むにはハードルが高い本をなんとか読破する」という目標を持っています。ですから、事前の予習(=1人で読む時間)に論点を完璧に整理する、というのは極めて非現実的です

また、たとえ論点が挙がったとしても、参加者全員の内容理解に穴があると議論がかみ合わなくなる恐れがあります。論点がどこか分かっても、そこを論じるのに必要な前提となる理解や知識をまずは整備しておくことが重要です。

以上の理由から、この「論点共有形式」はあまりお勧めしません。代わりに、以下で紹介する3つの形式、特に次に紹介する「要約発表形式」が最もベーシックな進め方だと考えられ、お勧めできるものです。

②要約発表形式

恐らくもっともベーシックな読書会の進め方の1つが要約発表形式です。この形式における当日の進行は次のようなものになります。

<要約発表形式の進め方>
①事前に決められた担当者が、本文の割り振られた箇所の要約を発表する。
②他の参加者は要約を聞いて、要約の内容と自分自身の理解・解釈が合致しているかを確認する
③要約の内容と他の参加者の理解が異なる場合、両者の解釈を全体に共有してもらい、該当箇所の解釈について全員で検討する。
④内容の整理が済んだら、発表担当者または他の参加者から内容についての疑問点や論点を挙げてもらい全体で検討する。
(※②~④は、順番が前後することも有り)

ポイントは①と②です。この形式では、事前に決められた担当者が要約の作成・発表を行い、それを起点にディスカッションを行います(要約の共有は、口頭で行っても良いですし、レジュメなどの資料を用意しても構いません)。この内容それ自体の要約は、発表者が本文内容を正確に理解できているかを全体で検討することを可能にします。加えて、この要約と照らし合わせることによって、各参加者が自分自身の理解に穴が無いかを見直すことができ、結果的に、参加者全体の本文内容に対する理解を整理・平均化することができます

これはやってみると分かることですが、自分では「読めた!」「わかった!」と思っていても、他の人の読みを聞いていると自分の理解の穴が浮かび上がってくることが多々あります。自分が「理解していない」という事実はなかなか自覚できず、他の人の理解と「比べてみる」ことでより鮮明に自覚できるのです

この形式では、次のような「予習」が必要になります。

<要約発表形式の予習(発表担当者)>
①担当箇所の要約作成を行う。
②担当外の箇所についても目を通し、内容の理解と疑問点の整理を行う。 
<要約発表形式の予習(発表担当ではない参加者)>
①その回で扱う箇所を事前に読み込み、内容の理解・整理と、疑問点・論点等の洗い出しを行っておく。

なお、発表担当者は1人でも良いですし、複数人でも構いません。たとえば「次回は1~5ページを読みましょう。1ページ目はAさんの担当、2ページ目はBさんの担当……」のような割り振りを行うと、発表担当者の負担を分散させることができます。各回でどれくらいの分量を進めるのか、発表担当者の割り当ては何ページ程度にするのか、は参加者と相談し、実際の読書会の様子を見ながら探っていくのが良いでしょう。

③訳読形式(洋書)

「1人ではちょっとハードルが高い本を、仲間と一緒に」というのが読書会の典型パターンです。そんなハードルの高い本の典型例が「洋書」ではないでしょうか。特に、大学に入ったばかりの1~2年生の方は、受験で英語に触れてはいても「10ページをゆうに超えるような大量の英文を読む」ことや「専門知識を英語”で”学ぶ(≠英語を学ぶ)」ことにはまだ慣れていないこともあるかもしれません。そういった洋書の読書会では「要約発表形式」ではなく「訳読形式」の方が適しているかもしれません

<訳読形式の進め方>
①担当者が事前に用意した、担当箇所の日本語訳を共有する。
②共有された訳について、その訳が正確かを検討する。
③訳を踏まえた上で、内容についても検討を行う。

この形式では、本文を正しく訳せているかという英文解釈の正確性を第一に見ます。もしかすると「訳なんか二の次で良い。内容の方が大事だ」と思う人がいるかもしれません。しかし、私たちの英文解釈は自分で思っている以上にいい加減で不正確なことがほとんどです。これは、内容理解と同じで、自分の英文解釈の不備は、他の人の解釈と照らし合わせないとなかなか自覚できないのです。そもそも、英文解釈に間違いがあれば、当然内容の理解にも影響しますから、事前に訳を検討することにはかなりの価値があると言えます。

さて、訳の確認を終えたら、今度は内容に踏み込んでいきます。上記では「訳を踏まえた上で、内容についても検討を行う」と、ずいぶんふわっとした書き方をしてしまいました。その理由の1つは(特に洋書を読み慣れていない場合には)訳の検討でエネルギーを使い切ってしまうから、と言うのがあります。本気で英文解釈を検討すると、それくらい大変です。

ですが、それ以上に重大な理由があります。それは英文解釈の検討が、そのまま内容の検討に直結することがあるからというものです。例えば「指示代名詞の"it"が何を指すか」という英文解釈の検討は、内容の検討に直結します。英文解釈について参加者の意見が割れた場合、そこには単なる和訳の問題だけではなく、内容理解の相違が隠れている場合が少なくないのです。

もし、英文解釈上の論点があまり膨らまず、内容の検討が停滞してしまう場合には、訳の担当者に、簡単に内容の要約も担当してもらうのも手かもしれません。あるいは、そういう場合にはそもそも訳読形式を辞めて、要約発表形式に完全に切り替えてしまうことも1つの選択肢です。

さて、この訳読形式では次のような準備が求められます。

<訳読形式の予習(訳の担当者)>
①担当箇所の和訳を作る(特に、専門用語の訳・定義の確認や指示代名詞、内容の言い換えに注意)。
②必要に応じて、内容の整理(場合によっては要約)を行う。特に、論理関係、専門用語の使われ方や定義に注意する。
<訳読形式の予習(訳の担当でない参加者)>
その回で扱う範囲を読み込み、英文解釈上の疑問点を整理する。また内容についても理解を整理し、論点を洗い出す。

要約発表形式と同じく、訳読形式でも訳の担当者は複数人居て構いません。ただし、訳読形式の場合は担当者の負担がより大きくなりやすいので、割り振りには注意が必要です。

④問題演習形式

最後に紹介する形式は問題演習形式は、教科書の章末問題や、演習用の問題集を使ったです。これは、今まで見てきたものとは少し違い、本文を読むことよりも練習問題を解くことに重きを置くスタイルです。やや特殊な形式で、多くの場合「大学の試験勉強」や「理数系科目等の演習」に向いている形式だと言えるでしょう。

<問題演習形式の進め方>
①担当者が、割り振られている問題の解法を示し、他の参加者に説明する。
②他の参加者は担当者の説明を聞き、不備や問題点がないかを確認する。また、うまく理解が及ばなかった点について質問する。

この形式では、担当者がいわば「先生役」となり「授業(=練習問題の解説)」を行います。他の参加者は「生徒役」として解説を聞きますが、単に聞き役に徹するのではなく、先生役の解説が本当に正しいかを見極めて、誤りを指摘する役割も担います

この形式の予習は次のようになるでしょう。

<問題演習形式の進め方>
①教科書等を用いる場合は、事前に本文を読み込んでおく。
② ①を踏まえた上で、その回で扱うすべての問題を解く。
③(先生役は)割り振られた問題の解説の準備をする。必要に応じて板書の準備やレジュメ等を用意する。

まとめ

以上、読書会の典型的なパターンを4つ紹介してきました。このうち、もっともベーシックなスタイルだと考えられるのは「要約発表形式」です。この形式では、担当者が自身の理解を要約して共有し、内容理解を各参加者間ですり合わせることから読書会をスタートします。洋書に取り組む場合には、和訳の検討を先に行う「訳読形式」も有効です。また、アウトプット重視の読書会・勉強会として「問題演習形式」を選ぶことも可能です。

どの形式を選ぶかによって、事前の準備の仕方が少しずつ変わってきます。また、発表の担当者かそうでないかによっても準備の内容が変わりますし、負担の差も生じてきます。こうした割り振りの管理も、読書会を運営する上では必要な事柄です。

はじめのうちは、読書会の準備や進行に戸惑うことと思います。また、各回でどれくらいの分量を扱うのか、担当者の割り振りは何ページくらいにするのか、というのも案外悩ましい問題です。この辺りは、参加者の余裕や能力、扱う本の難しさ、読書会の頻度などにも依存するので一概に答えを出せるものではありません。回を重ねる中で、良いバランスを模索する必要があります。これもまた、読書会の醍醐味の1つだ、ともいえるかもしれません。

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