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ボクらの1日だけのSEVEN DAYS WAR ②

2米軍弾薬庫跡と1日だけのSEVEN DAYS WAR

月隈にある米軍弾薬庫跡は、幽霊が出るとか一番奥の部屋に死体があるとか
そんな噂があるらしかった。

終業式の翌日、親には友達の家に泊まりに行くと伝えリュックを背負い近所の小塚酒店で駄菓子や飲み物を買い込む。兄貴の部屋からこっそり、兄貴が大事にしていたCDラジカセを借りていく。
自転車に乗り空港通りを直走る。中学校へと上がる道には向かわず直進すると左手にフェンスに囲まれた空き地が現れる。
すでに数人が来ていた。
「富木くんこっちこっち」と村上くんが指差した方向を見るとフェンスの下部が切り取られたようにめくれている。どうやらここから入るようだ。
程なくして。8人が揃う。
予定通りの人数。ボク、ノリ、村上くん、光安くん、関くん、山内くん、武村くん、大場くん。
フェンスをくぐり中に入ると一部コンクリートで舗装された道のようなものがある。その先の山の方へ目をやると山肌をくり抜いて建物を建てたような建造物があった。
「DANGER」と書かれているのが中学1年生の拙い英語力でもなんとかわかった。
あとは読めなかった。
緊張と期待に胸がドキドキした。入口らしきものが3つある。村上くんが先導して右端の入り口の方に向かう。「こっちから入れるらしいんだよ」
扉を潜ろうとすると、近くに猫がいた。人懐っこい猫でボクらの方についてくる。
猫をお供に加えたボクたちは中へ入る。
午後2時過ぎというのに窓もないため、中は暗い。
夏だというのになんとなくヒンヤリしている。
開いた入り口から入り込む光で入り口周囲のみ明るい。
各々が持参した懐中電灯を取り出す。
「明るい明るい」
入り口付近の壁にはスプレーを使って絵を描いてあったり
食べ物や飲みのものゴミが散乱していた。
以前も誰かが忍び込んだりしたんだろう。
「奥の方の部屋に死体があるとか噂があるんだよ」と光安くん。
「みんなビビるなよ〜、せっかくだから夜になってから肝試しも兼ねて
中を探検しよう」という提案をする村上くん。
このメンバーが集まると大体リーダー的役割は村上くんだった。

とりあえず夜になるまでは各々好きなことをするという自由時間。
武村くんや山内くんなど数名は建物の外に出てバスケットボールで遊んだりしている。
副級長の大場くんも外に出ているが太陽の下で読書していた。
「大場くん何読んでるの?」
「あぁ、もちろんぼくらの七日間戦争を読み返しているんだよ」と満面の笑顔の大場くん。
光安くんは昨年でたばかりのゲームボーイでテトリスをやっていた。
入り口から少し入ったところの壁を見上げている村上くんがいた。
「富木くん、見てここからハシゴみたいなのがずっと上まで続いてるみたいだ」
確かに上に向かってマンホールサイズぐらいの穴が空いておりハシゴが続いてる。
「ちょっと登ってみようよ」
「うん、いいよ」
そう答えると村上くんは早速ハシゴに手をかけ上り始めたため、ボクも後に続く。
どんどん上に上がっていく。しばらくすると村上くんが止まる。
「なんか蓋がある、開かない」
おそらく開けた先は弾薬庫の屋根というか、丘陵の頂上なんだろう。
どうやら錆び付いてるのか鍵が掛かっているのかわからないが開かないので
断念して下に戻る事にした。

夕方になりやや陽が傾いてきた。
そろそろ小腹が空いたみんなは、なんとなく入り口付近の明るいところへ集まり
持ってきていたパンを食べたりお菓子を食べたりしている。
「そういえば、もっくんCDラジカセ持ってきてたね」
“もっくん“という小学校時代のあだ名で呼ぶのはノリしかいない。
「うん、電池で聴けるやつだから持ってきた」
CDはそんなに持っていないけど、今日はどうしてもここで
みんなで聞きたいCDを持ってきていた。
「せっかくみんなで、ぼくらの七日間戦争みたいなことしようって
集まったから、みんなで聞きたいCDがあるんだよね、七日間戦争みたいに
大人たちと戦うわけではないけどさ」と言ってボクはCDをトレイにセットする。

“Revolution”
ノートに書きとめた言葉
明日をさえぎる壁
乗り越えてゆくこと
割れたガラスの破片
机の上のナイフの傷
理由を話せないまま
閉ざされたドア叩いていた
すべてを壊すのではなく
何かを捜したいだけ
すべてに背くのではなく
自分で選びたいだけ
Seven day war 闘うよ
僕たちの場所この手でつかむまで
Seven days war Get place to live
ただ素直に生きるために

TM NETWORK/SEVENDAYS WARより

「おー映画のぼくらの七日間戦争の主題歌やん!かっこいいー」
「宮沢りえかわいいよなー」
ボクの大好きな小説
ぼくらの七日間戦争は1985年に発行された、宗田理先生の作品。ボクは小学校の時に
ハマり、何回も読み込んだ。シリーズも全部買っていた。
小説のヒットを経て、ぼくらの七日間戦争は1988年の夏に映画が公開された。
宮沢りえの女優デビュー作である。
「みんなが好きな七日間戦争の主題歌をここで聞きたかったんだよね」
「うんうん、最高だったよ富木くんありがとう」
その後は、入っていたカセットテープ(兄貴が入れたままにしてたブルーハーツなどのテープ)を聴きながら夜は更けていった。
「よし、夜になったし中の探検しようぜ!」
「おーしようしよう」
各々が懐中電灯を持ち奥へと向かうことに。
奥に突き当たると部屋がある。部屋の入り口の脇には階段があり2階へと続いている。
「部屋から見る?その後2階?」と誰かが言った。
「そうだね」
前方を全員が照らしているため前は明るいがそれぞれの顔はほとんど見えない。誰がどの順番で歩いているかもよくわからないほど暗い。
入り口でお供になった猫が時折ミャアと鳴くのが聞こえる。ついてきているようだった。1階の部屋は物が散乱していて奥には進めないくらいだった。壁にはスプレーのいたずら書きもあり、ここまできた人もいるようだ。
正直な話、ボクはびびっっていた。死体があるとかは信じてはいなかったけど
不気味な雰囲気が漂っているし、夏なのになんだかひんやりしている気がするし。
1階の部屋には死体らしきものは見当たらなかった。
まぁそりゃあそうだ。
「よし、2階に行ってみよう」
村上くんが先頭になって階段を登り出した。鉄製の段と段の間があいているタイプの
階段だ。村上くんが階段を登り切るかどうかの時点で、突然
猫が「み゛ゃ〜!!」と奇声をあげて階段を駆け降りる音がする。
「わぁーーーなんだぁーー」みんなびっくりして階段を降りて
入り口付近まで戻ってくる。
「もう1回行ってみる?」
村上くんがみんなに声をかける。
数名がもう行かなくていいという。
結局、村上くんと武村くんと光安くんとボクの4名で2階にもう1回行く事にした。
8人で行った2回目より人数が少ない分、前方を照らす懐中電灯の数も減ったので
不気味さが増す。
ボクは村上くんに続いて2番目を進む。
2階の部屋に入ると1階と同じく物が散乱していた。
壁に赤色のスプレーがついており血の雰囲気がないわけではなかった。
1階と違ったのは一部分の床と壁が焦げた跡があったことくらいだ。
弾薬庫跡とはいえ当時のものではなく、おそらく誰かが侵入して
火をつけたんだろうと思われた。
「特になんもないねぇ」
「そうだね」
「戻ろうか」
ボクら4人は1階へと降りる。
夜も遅い時間となり、そろそろ寝る事にした。
下はコンクリートなので一応床に敷くタオルケットなどを持ってきていた。
山内くんや光安くんは寝袋を持ってきていた。

翌朝。
「ぼくらの七日間戦争」らしさを感じたくて、廃工場ならぬ、弾薬庫跡で
たった1泊を過ごしたボクたち。特に何も起こらなかった。
まぁこんなもんだよね、大人たちに反抗するために廃工場に籠った「ぼくら」とは
違うんだよね「ボクら」は。小説とか映画になるようなことは何も起きなかったけど
この1泊の体験で8人は仲良くなった。
解散する前に、ボクの持ってきたCDラジカセで
「SEVEN DAYS WAR」を聴いた。
8人の友達の特別な時間はあっという間に終わりを告げた。

帰宅後、兄貴にCDラジカセを勝手に持ち出したことを怒られたのは言うまでもない。
8人とも親に弾薬庫跡に泊まったことはバレていないと思う。


「あそこに米軍の弾薬庫跡があって、中学校の時にこっそり忍び込んで一泊したことあるんですよ」
とデイサービスのドライバーさんに話す。
「トミくん、そんなことしたったい、意外と不良やったちゃね」と言われる。
「いやいや、別に不良っていう訳じゃないんですけど」とにが笑いした。


ボクらの1日だけのSEVEN DAYS WAR  完

2024年4月17日に衝撃のニュースが。
ぼくらの七日間戦争作者の宗田理先生が亡くなられたとの事。
95歳だった。ずっとぼくらシリーズを書き続けられていた。
高齢なのは分かっていたけど、やはりショックでした。
宗田理先生のご冥福をお祈りいたします。
いちファンとしてこの作品を宗田理先生に捧げます。

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