30歳という罪
特殊詐欺の受け子、出し子の事件でした。被告人席にはぴったりとしたシャツを着た毛髪が多めの男性。被告人質問が始まっています。
弁護士「どうしてまたやってしまったんですか?」
どうやら再犯らしい。受け子の再犯。ただでさえ厳しい特殊詐欺では、初犯でも執行猶予がつくことはまずありません。その再犯なのだから、かなりの長期の服役になるのは目に見えています。
被告「携帯に非通知で電話がかかってきてしまって・・・」
最近の受け子は犯罪グループとはかかわりのない人がやっています。だから完全に使い捨てで、被告が何を話そうが、本当に悪い人は捕まりません。だから弁護士も国選なのでしょう。もし、何かを知っているのなら、犯罪グループが弁護士を雇い、接見禁止を出すからです。そうして家族と引き離して、秘密を守る。彼には守るべき秘密がないんです。
被告「自分で1日稼ぐよりも大きな金額を稼げるから・・・」
弁護士「これからはどうしますか?」
被告「1度母親の元に帰り、それから自分に厳しくやっていこうとおもいます」
諦めているのか、それとも裁判なんて慣れっこなのか。被告の語りはスムーズでした。すべての質問にもスラスラ答えています。弁護士とちゃんとこの日の為に練習した形跡がうかがえます。この努力を、普通の仕事につかえれば・・と思ってしまいます。
1発でドカンと稼ぐ。この思考はキケンです。なぜなら、皆がそう思っているからです。なぜ、そのことに気付かないのか。
検察の質問が始まりました。
検察「前回、2年とちょっと服役したでしょ?100万ぽっちの為に。イヤじゃなかったですか?」
被告「後先考えないでやってしまいました」
検察「もう30になるのに後先考えないって・・・他の仕事はなにかやってたんですか?」
被告「父親の元で半年働きましたが、ウマがあわなくて・・フォークリフトの免許も持ってます」
検察「前回は250万の被害額になります。1円でも弁償しました?」
被告「自分はまだ働いてない。働いて返すのがスジだとおもっています」
検察「・・・沢山の、何の罪もない、お年寄りを騙して、いろんな人悲しませて、たいした額でもない30万ぽっちの金の為に、今度こそ冷静に考えてくださいね」
被告の感情に訴えてくる検察質問でした。「1円でも」とか「たかだか30万ぽっち」というワードに力をこめています。怒りをあらわにせずに、被告の問題点をあぶりだすようなスタイルでした。傍聴席で(うまいなあ)とうなってました。
その検察にひっぱられてか、もしくは最初からなのか、裁判官は怒ってました。
裁判官「きっかけは非通知の着信って怪しすぎでしょ、どれぐらいお金に困っていたんですか」
被告「ケータイ代も払えないぐらい」
裁判官「働けなかったわけではないんですよね」
被告「その時は・・・・・・」
裁判官「フォークの免許も持っているのに」
被告「正直、真剣みが足りなかった」
裁判官「今回の被害者の数わかる?」
被告「・・・6名」
裁判官「あ、あなたの中では6名って認識なんだ」
被告「いえ、他にもいます」
裁判官「何人?」
被告「大体二十・・・数名」
裁判官「二十・・母親の手紙に、母親にも責任があるって書いてるけど?」
被告「母親にはないです」
裁判官「そうでしょうねえ!貴方の周りにいる人、皆不幸になりますね!年齢も30って・・・」
そして検察による求刑、とても早口でした。
検察「・・・・被害額は3名、750万・・・長期の服役後、1年6か月後の再犯と言うことも考慮し・・・5年」
弁護士は被害者がすでに被欺罔状態であることを言い「できる限り短い方がよい」ということを言っただけでした。
裁判を通してなじられ続けた被告。検察や裁判官の言葉のハシハシには「30にもなって・・」というものがありました。
「30にもなって母親に頼るって・・・」
「30にもなっているのに、裁判の書類を母親に書かせるって・・」
「30なのに働かないって・・」
「30なのにこんなところにいるって・・」
これらを要約すると、つまりはこうゆうことでしょう。
「30なのに・・・こんなバカなの?」
まるで30歳という年齢が罪のように聞こえました。これは他にはない特徴です。特殊詐欺と30歳、この2つがそろったときに出てくる説教なのかもしれません。
30歳だから罪というわけではないのです。でも「もう30なのだから」という言葉はとても響きます。これは実際に30歳を超えてしまうと、まったく響かなくなる魔法の言葉です。
そこには諦めが生まれてしまうからでしょう。もう若くはないし、どーでもいいです、と。「30だけどばかでーす!」と。おっさんとなってしまうのです。
29歳から30歳になるこの短い期間、この期間だけに効果的なこの言葉。被告に突き刺さればいいなと思いました。だってもう30なのですからね。
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