年金が350万入ってきたからホテル暮らしをしてしまう男:常習累犯窃盗

常習累犯窃盗、つまりは万引きをやめられなくなる状態です。その被害額は軽微でも、数年の実刑判決が下る重い罪、それが常習累犯窃盗です。

なぜ、万引きがやめられないのでしょうか?それにはさまざまな理由があるようです。2000万の貯金がありながら、将来が不安な60代の主婦。盗れる、と感じたら盗ってしまう男。お金は常に酒代に消えるおじさん。いろいろな人をみてきました。

今回傍聴したのは小太りな男性。年齢は70歳前ということですが、若々しいです。40台と言っても通用しそう。バリトンボイスで人定質問に答えます。

それから検察のターン。被告人は大学を卒業後郵便局に勤務、それから警備員などを経て、現在は年金生活ということです。法廷に家族の姿はありませんでした。ということは独身かもしれません。

年金額は2ヶ月で20万ほど。ということは、郵便局を定年まで勤め上げたのかもしれません。(私も5年ほど郵便局員でした)退職金も出たでしょうし、独身ならお金使うこともないのでは?と思います。

ですが被告は万引きを繰り返します。最初は簡裁、次も簡裁、そして地裁と窃盗罪で裁判。そこで有罪判決が下り、執行猶予期間にも窃盗。刑務所に入り、そこから出てきて、今回雑誌とビール2缶を窃盗します。ビールを2缶リュックに入れたところを「あやしい動きをしているリュックを背負った男、経験からやるなと思った」と万引きGメン。つかまりました。

保護観察中なので、刑務所に戻るのは鉄板です。被害に遭った店舗は「万引き被害は年間で数百万円、厳しく処罰してほしい」とコメントしています。Gメン雇う人件費も大変ですよね。

さらに、被告の経済状況について語られます。「年金が359万円振り込まれ、ホテルに80連泊、42万円つかっており・・・」ってなにそれ?年金が359万円?

どうやら、刑務所に服役している間、入るべき年金が入ってきていないと思った被告。年金事務所に請求するとはいってきた金だったようです。年金事務所・・・

そこから贅沢をしてホテル暮らし。焼肉、パチンコ、酒を堪能しスッカラカンになるのでした。金が無くなっても贅沢はやめられないんでしょう。ビールを盗み、パチスロ雑誌を盗んでしまいます。

「今後ギャンブルは一切やらない」と被告は誓います。ふーん、という法廷の空気。そうして、弁護士による被告人質問が始まりました。

弁護士は熱心な人で、被告人に有利になるように頑張ってました。

弁護士「3年前に携帯ラジオ盗んでいますね?」「はい」「それはなぜ?」「年金事務所に事務処理をする手紙を出すための切手代がなく、ラジオを売って切手代にしようと思いました」「つまり、年金を請求するためだった?」「はい」

弁護士「まとめて年金が入ってきて、それまでは万引きしてませんね?」「はい」

弁護士「お金使ってしまって、残金が何百円となって、次の支給は待てなかったんですか?」「はい」

弁護士「今回、まちがいなく刑務所に入るけど、その間も年金が入るよね?また同じように使ってしまわないですか?」

被告「今回のことで反省し、えんぴつ一本買うのにもレシートをとり、公共の期間にお世話になっていきます」

弁護士「あなたも高齢者なのだから、包括支援センターを利用すべきだと思いますよ」

被告「はい、これからは家計簿をつけ、家賃は今住んでいる市営住宅なのであまりかからないです」

弁護士「あなたは使うだけ使っちゃうから、そうしたほうがいいですよ」「はい」

そして検察の質問になります。

検察「万引き被害に遭った店舗のこと、そこで働いている人の気持ちを考えたことある?」「はい、本当に申し訳ございません」

検察「それでも盗みを繰り返したの?」「はい」

検察「万引き対策で警備員とか雇わないといけないよね?」「はい、申し訳ございません」

検察「過去にも裁判で万引きしないって誓ってるよね?」「はい、今後は家計簿をつけていきます」

検察「パチンコはどうするの?」「今まで趣味でやってしまいました」

検察「それはやらないってこと?」「はい」

検察「それ以外にギャンブルは?」「パチンコ、スロット、それから数百円単位で競馬を」

そして裁判官も質問します

裁判官「年金、2ヶ月20万って、厳しいけど生活できないってほどでもないよね?」「はい」

裁判官「家賃はいくらなんですか?」「市営で月8500円です」

裁判官「仕事はしてないんですか?」「はい」

裁判官「今後も?」「免許も無くなって、厳しいですがポスティングの仕事など見つけて、体が動く限り働きたいです」

裁判官「家族はいないんですか?」「母は要介護で病院に、兄とは連絡を取っていません」

裁判官「空いた時間があると、ギャンブルしてしまうでしょ?」「趣味である渓流釣りとか、映画とかを見に行きます。あと、ビールのつまみになってしまうけど、料理とか嫌いじゃないです」

裁判官「そうゆう趣味とかで社会復帰したほうがいいですよ」

最後に求刑です。検察は3年を求刑し、弁護士は「なんでも刑法235条を当てはめるのは間違いであり、今回は刑法66条を適用すべき案件である」と弁護してました。

※刑法235条:窃盗罪、10年以下の懲役または50万円以下の罰金

※刑法66条:情状酌量

刑務所に服役し、また年金が溜まるであろう被告。出てきたらまた数百万の金が通帳に入っちゃうのでしょう。それをパーっと使ってしまう姿がなんとなく見えてしまいます。

私は現在介護施設で働いているのですが、これは珍しい事ではありません。むしろ、認知所の初期症状でよくある話なのです。

計画的な買い物が出来なくなり、買えるだけ買ってしまう。子供が気付いたときには、実家の家計はゼロになっている・・・家にはよく分からない健康器具や腐った食材、ありとあらゆる無駄遣い。だれしも、高齢者になるとお金の使い方が下手になってしまう可能性があります。だから包括支援センターとかのお世話になるんですよね。

被告はどうだったのでしょうか。ただのギャンブル狂で、浪費家という可能性もあります。年金事務所に請求することができることからも、頭はしっかりしている人と思われます。

ただ、歯止めがないんですよね。家族もおらず、酒が好きで、車もありません。車が無いから渓流釣りなんていけないし、映画も見に行くったってめんどくさくなるでしょう。

「教養とは一人で時間をつぶすことが出来る能力のことである」と言われます。大学も出て、教養もある人なのだから、次こそ大金を上手に使って人生をエンジョイしてほしいと思いました。

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