車の中に草刈り用の鎌とのこぎりを置いておいた事件:銃刀法違反

銃刀法違反の裁判を傍聴すると、そこには70歳くらいのおじいちゃんがいました。 痩躯で短髪白髪。裁判官は3名の合議。いったいどんな重大事件なんだ?と思ってしまいます。

とんでもなかったです。私が今まで傍聴した中でも、もっともしょーもない裁判でした。被告の罪はなんと「車のなかに草刈り用の鎌とのこぎりを置いておいた」というもの。え!それで地裁の通常裁判まで!!?謎と興味は深まるばかり。いったい、このおじいちゃん(以下被告)になにがあったのでしょう。

被告はまず弁護士と軽めの質疑。どうやら前回被告人質問の弁護士側はやってしまったようです。ですので、今回はその補足。

弁護士「K弁護士は何て言ってたの?」

被告「所有権放棄すれば無罪になるのに!と」

弁護士「なぜ、所有権放棄しなかったの?」

被告「冤罪に巻き込まれると」

弁護士「口述書にサインはしましたか?」

被告「いえ、内容が違いますし」

弁護士「k弁護士には?」

被告「その時には、K弁護士は検察側に寝返ったと感じていました」

弁護士「で、白紙にサインはしてないのね?」

被告「はい」

弁護士「第一回の簡裁でK弁護士が同意しますって言ってるよね?」

被告「よくわからなかった」

弁護士「でも、要旨の告知を聞いておかしいと思わなかった?」

被告「よくわからなかった」

弁護士「もし、要旨の告知のコピーを貰っていたら、みとめていた?」

被告「いえ、事実と違うので困ります」

弁護士「逮捕されたことについて」

被告「任意だけど、強制的だった」

弁護士「K弁護士を解雇してますね?」

被告「あとは論告求刑というところで、大事なところが終わって、自分に不利になると思った」

弁護士「今考えて、所有権放棄すればいいとおもった?」

被告「いえ、思いません。放棄すると警察や検察の思いのままになり、ネットをみるとしている人がいるが、それは恐ろしいことだと思います」

ここで弁護士質問は終わりました。

どうやら最初は簡裁で行われていたようです。そこでK弁護士を解雇してしまったのが、ここまで長引いている原因だった模様。後で知ったことだが、このK弁護士。被告人が雇った私選の弁護士なのでした。

(ここまでコトをややこしくしたのは被告人にあるんじゃないかと思う。)

弁護士の質問が終わり、検察の番になりました。若い女性の検察官。被告とは孫とおじいちゃんぐらいの年齢差ですが、この検察官、じつにヤリ手でした。

相手をイラつかせるのが上手なんです。小娘キャラというのでしょうか、語尾に「~ですかぁ?」とつけて跳ね上げたり「~ですよねぇ」と下げたり。渡辺直美のやるケータイショップの店員のような感じ。

検察「10月にのこぎりと鎌を車に乗せたのが事件になっているんですよねぇ?いつから載せていたんですかぁ?」

このとき7月です。去年の秋の事件だったんです。このしょうもない事件にとんでもない時間とカロリーが費やされていたのでした。

被告「6月初めです」

検察「なぜ、下ろさなかったんですかぁ?」

被告「従兄の家の木材を切るとか、廃材の処分をするためです」

検察「今すぐのこぎりと鎌を使うって陳述書に書いたでしょぉ?」

被告「え、書いてありました?」

検察「あなたの記憶をきいてるんですよぉ?」

被告「・・・・」

検察「陳述書にはあなたの思いのたけを書いたんでしょ?」

被告「・・・・」

検察「私の質問わかりますぅ?」

被告「いえ、書いてあると」

検察「フーン、あなたの記憶だと書いてあるんだァ」

被告「ちょうど、伸びた草を刈り取るために」

検察「前回ぃ、警察の人が強圧的態度をとったって言ってますけど、どんな態度何ですかぁ?」

被告「家宅捜査令状もないのに車を開けさせたり、口述調書に『警視正』って書いてあって、それが強圧的に感じました」

検察「学歴とか、家族構成とか聞かれましたぁ?」

被告「はい」

検察「それ、弁護士に見せてもらいましたぁ?」

被告「見せてもらってないです」

検察「フーン、学歴とか話したのに、鎌を使う予定とか言えなかったんですかァ?」

弁護士立ち上がります

弁護士「それは聞かれなかったって言ってますよ」

検察「年金とか言いたくありませんっていってますよねぇ?」

被告「財産のことですから」

検察「それでも、強圧的に感じたんですかぁ?」

被告「その時は言えました」

検察「職務質問した警察官について聞きますね、お巡りさんは何て言ってたんですか?」

被告「令状もってますか?って聞いたら『いーから、いーから』って言われて『後ろ空けて』ってハッチバックを開けさせられ、あと、メジャーをもってきました」

検察「その時、お巡りさんから体を触られたり、暴力を受けたりとかありました?」

被告「いえ」

検察「お巡りさんが『新聞紙で隠して』って言ってるんですけど?」

被告「まるで犯罪に使われるみたいにいっていました」

検察「なんで新聞紙をかぶせたんですか?」

被告「カマやノコは刃物ですから、刃で手を切らないようにと」

検察「危険だし、恐怖心があるから、使われないようにってことですかぁ?」

被告「ええ」

検察「そのこと、陳述書にかいてありますね?」

弁護士立ち上がる

弁護士「すいません、どこですか?」

検察「先生、把握してないんですかぁ?10ページにあります」

陳述書、口述書の確認

検察「あなたにとって、所有権放棄は冤罪に巻きこまれるって思っていたからK弁護士を雇ったんですよね?じゃあ、検察官が『K弁護士に電話するぞ』が、なんで脅しになるんですかぁ?」

被告「その時点で完全に私の味方ではないと思っていたが、弁護士だし、裁判が終わるころには・・と思っていました」

ここで検察の質問が終わります。被告のK弁護士への不信感は相当なものだったようです。そして小娘検察官のイラつく感じ。被告人、大変だったでしょう。ますます反権力の気持ちを強めたんじゃないでしょうか。

そして質問はまだまだ続き、裁判官3名による質問がありました。

裁判官A「警察官から何の罪に問われているか説明がありましたか?」

被告「特にないですが、あなたは犯罪者だから所有権放棄しなさいと言われました」

裁判官A「どうして署に行くことになったんですか?」

被告「犯罪を犯しているんだから・・・と」

裁判官A「それは言われてない?」

被告「はい」

裁判官A「では、それはあなたの推測ですか?」

被告「はい」

裁判官A「〇〇警察官から実際に署に行く理由は言われてないんですね?」

被告「はい・・・私は注意されて終わりだと思っていましたが、これは別の犯罪に巻き込まれると直感的に分かりました」

裁判官A「K弁護士に電話するぞという脅しがあったということですが、起訴状が届いてからK弁護士と打ち合わせはしましたか?」

被告「していません、写真を出したり、陳述書を出したけど『だめだ』と言われました」

裁判官A「では、事件の話はしていない?」

被告「個々に・・ではないけど、話はしたと言えます」

裁判官Aの質問により、被告がだいぶ疑心暗鬼だった様子がわかります。続いて裁判官Bの質問。

裁判官B「カマやノコはいとこの家でつかったんですか?」

被告「はい、ちょっとした木材を切るとか」

裁判官B「警察に免許みせてと言われました?」

被告「はい」

裁判官B「後ろ空けてとは?」

被告「はい言われました」

裁判官B「その時は運転席に座っていた?」

被告「はい」

裁判官B「で、ハッチバックを開けた」

被告「はい」

裁判官B「そして警察官が新聞紙をはがした?」

被告「はい」

裁判官B「警察署に行くとき、鎌やのこぎりはどこにありました?」

被告「すでに押収されていました」

裁判官B「その時、何か言いました?」

被告「いえ、もうどうしようもないと、何も言えませんでした」

そして裁判官Cの質問にうつります

裁判官C「電動のこぎりはつんでいました?」

被告「はい」

裁判官C「従兄が入院していた時も草刈りをしました?」

被告「はい、退院してからもやってました」

裁判官C「車に積んだ理由を聞かれた?」

被告「全然聞かれなかったです」

裁判官C「でも、理由を話した」

被告「私の方から署でいいました」

これで質問はすべて終わりましたが、弁護士が最後に確認をします。

弁護士「所持品検査はされました?」

被告「それはないです」

検察官から証拠について横やりがはいりましたが、弁護士は「ええ?普通の職務質問の内容ですよ?」ととぼけあい。

これで被告人質問は終わりました。次回は相互申請された警察官が証言台に立ちます。これは気になります。いったいどんな職務質問をして、ここまでこじれにこじれまくってしまったのか?期日を確認すると傍聴できそうだったので、傍聴してきました。

警察官の証人喚問

日にちが変わって警察官の証人喚問にやってきました。被告人もしっかりと在廷しています。警察官は別々に登壇して2名。まずは若い警察官Tさんからです。

T警察官は警察官になって4年ほど。地域課に配属になり職務質問は月20件から30件ほどやるということです。

今回はベテランのK警察官と2人でやりました。被告を発見したのは住宅街から離れた施設の駐車場です。そこは警らルートになっていて、被告の他には工事関係者の車両が数台。被告の車は入り口からやや離れたところにありました。

検察「なぜ、声を掛けたんですか?」

T警察官「被告がパトカーを気にしていて、近づくと目をそらせたからです」

検察「パトカーを気にしているとは?」

T警察官「こちらを見てきて、見返すと、目をそらしたことです」

車を止めた状況や、職務質問についての確認が行われました。

検察「職務質問の理由や法的根拠はしっていますか?」

T警察官「警察官職務執行法の2条1項です」

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる(https://izumi-keiji.jp/column/houritsu-gimon/shokumushitsumon)より

その後も職務質問の様子について質問がありました。長いので割愛しますが、とくに異常な点はないように思えます。被告人の供述との違いはありません。

普通に質問して、被告人もそれに従い、ハッチバックの鎌とノコを確認。メジャーでその長さを図って、それが銃刀法違反になるか署に確認します。6cm以上の刃は銃刀法違反に該当するとのことなので、任意捜査に切り替えパトカーに移動。そこから署に同行を願いました。

検察「被告が署に行くことについて何か言ってました?」

T警察官「こんなことで検挙されなきゃいけないの?注意じゃすまないの?といってました、同行したK警察官が銃刀法違反だからと説得していました」

検察「最終的には署に行くことに納得していました?」

T警察官「はい、まあ、わかりましたという感じです」

その後実況見分をし、署に行きます。取り調べはT警察官。

検察「使う予定は聞きました?」

T警察官「はい、無いと言っていました」

検察「仮に、すぐ使うと言っていたら?」

T警察官「専門の部署に連絡して、事件性があるか聞きます」

検察「そうゆうノルマがあるんですか?」

T警察官「いえ」

そして身元引受人を決めました。被告が草を刈っているいとこです。これで1回目の取り調べは終了しました。

2回目が1ヶ月後に行われました。この時はT警察官とK警察官の2名で取り調べを行いました。

検察「なぜ2人で?」

T警察官「〇〇さん(被告)が弁護士を付けたとのことで、経験のあるK警察官に同席してもらいました」

検察「1回目と2回目で違いはありました?」

T警察官「ありませんでした」

検察「事件にすると被告に言いました?」

T警察官「検察に書類を送ると言いました」

検察「所有権放棄については?」

T警察官「まだ使いたいからと応じなかったです」

検察「被告から冤罪になると言われました?」

T警察官「いえ」

ここでT警察官が退廷、代わりにK警察官がよばれました。

K警察官はがっしりとした体形。柔道の無差別級の選手のようです。この人が正面に立っていたら威圧感を感じてしまうかもしれません。

K警察官はベテラン、職務質問の件数を聞かれ「月50件ほど職質してます」といいます。当日は部下であるT警察官と警らしていました。

職務質問した理由はT警察官と同じです。「1台だけぽつんと止まっていて、目をそらした、利用客は通常もっと奥に止める、奥には入り口の階段がある」「視線をそらしたことについて」「何かやましいことがあると」「どちらが職質しようと言い出した?」「2人同時に」

パトカーを降りて、被告の車に近づきます。被告はなにか動画を見ているようでした。

検察「動画を観ていたなら、視線をそらしたことにはならず、職務質問法2条にあたらないのでは?」「実際に声を掛けないと分からない」「なんてこえをかけました?」

「こんにちは、なにをしているんですか?」「ドライブ」「最近あぶない事件とか多いんで、何か危ないものつんでないですか?」「カマとノコ」「見せてもらっていいですか?」「いいよ」

所持品検査をして、カマとノコを確認します。新聞紙でくるまれていたので「とりだしていい?」「いいよ」みたいな感じで、日ごろから確認するクセをつけていました。「いつ使う予定?」「今日使う?」と聞きました、正当な理由があるか確認するためです。

K警察官「パトカーに移動し、銃刀法違反になると言うと『こんなん、注意にならんのか』と悪態をつき始めました。署に同行願うと『なんで?』といわれ署の地域課に連絡しました、任意同行にしぶっており、違う方法を考えようと」「違う方法とは?」「現行犯逮捕とか、時間が経過すると現行犯逮捕にはなじまないのでやってません」「発見してすぐだったら現行犯逮捕できた?」「いえ、被告が捜査に協力してくれたのでそれはできません」「これ、仮定の話になるんですけど、もし近日中に使う予定があると言ったらどうしました?」「捜査します」

その後、K警察官は身元引受人のいとこの家に行き、被告人が刈るはずだった草を確認。2回目の取り調べにも同席します。が、T警察官との違いはありませんでした。

再び証人入れ替わり。K警察官が退廷しT警察官が入廷します。質問は弁護人が行いました。

弁護士「銃刀法違反22条はいままでどれぐらいやりました?」

T警察官「いままで5件ぐらいです」

第22条(刃体の長さが6センチメートルをこえる刃物の携帯の禁止)
何人も,業務その他正当な理由による場合を除いては,内閣府令
で定めるところにより計つた刃体の長さが6センチメートルをこえ
る刃物を携帯してはならない。ただし,内閣府令で定めるところに
より計つた刃体の長さが8センチメートル以下のはさみ若しくは折
りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で,政令で定める
種類又は形状のものについては,この限りでない。(https://ssl.tachibanashobo.co.jp/upload/save_pdf/06111058_51b6843ddaf9c.pdf)より

弁護士「送致までするんですか?」

T警察官「それは専任の機関に」「専任の機関って?」「生活安全課の主管です」「それは常に上げるの」「いえ」

弁護士「被告が注意で済まないのか?と言ってますが」

T警察官「今回は注意では済まないと思いました」

弁護士「現場で判断して、主管と相談して注意で終わらせることはありますか?」

T警察官「はい」

弁護士「22条の関係で始末書ってあるけど、書いたことありますか?」

T警察官「ありません」

ドラレコや無線の使用について確認した後で、職質した日の話に。

弁護士「不信事由ってなんですか?」

T警察官「車を発見して、パトカーを被告が見て、目をそらしたので」

弁護士「目をそらした回数は?」

T警察官「覚えてませんが、一度ではないです」「ということは?」「一度被告の前を通り、戻ってきたときに数度」

弁護士「最初目をそらした時の距離は」「感覚で5mぐらい」「2回目の距離は」「2,3mぐらいかな?」「不信感があった?」「はい、近づいたとき、助手席に手を伸ばして作業をし始めたので」

弁護士「一般論として、パトカーを見るのはあると思うんですが、見るをのやめるってのもありますよね?それって不信事由なんですか?」

T警察官「すべてってわけではないです」

弁護士「ってことは、パトカーを見たのに目をそらした、しかも2怒鳴らずというのが不信事由なんですか?」

T警察官「それに私たちが近づいたにもかかわらず、助手席に手を伸ばしたからです」

それから細かい状況の確認をしていました。残念ながら傍聴できたのはここまで。ですがいい話を聞けたと思います。

・パトカーを見てはいけない

・パトカーから目をそらしてはいけない

・警察官が近づいてきたら、作業を始めてはならない

なんだか野生の羆を警戒する文言のようです。

車内にいろいろ放置しちゃう私にとっても貴重な体験でした。実際なにが、銃刀法違反22条に該当するかはぼんやりしているので、すべては現場の警察官と主管の匙加減1つなのかもしれません。警察官にとって私は「裁判傍聴なんかをしているヤベー奴」と映るかも。そうなったらカッターナイフ1つでも書類送検されてしまうんでしょう。まあ、それも貴重な体験だからとウキウキしてしたがってしまいそうです。



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