許されるべき凶悪犯:住居侵入、窃盗


住居侵入窃盗の裁判でした。被告は35歳の男性。ぴしっとスーツを着たスポーツマン体形です。身柄は拘束されておらず、母親が証人として来ていました。
被告は介護関係の仕事をしており、そこで訪問介護した利用者の家で合鍵を発見、それを使って被害者が在宅しない時間(デイサービスとかに行っている時間なのでしょう)に空き巣をはたらいたのです。被害額は10万円。30万円の弁済をしていますが、被害者は受け取りませんでした。
証人として母親が呼ばれます。スーツ姿の女性。証言する声には後悔や懺悔の響きがありました。弁護士から質問が始まります。
弁護士「息子さんの犯罪を知って、どう思いました?」
「まさか自分の息子がと、頭が真っ白になりました」
「今まで一緒にいて、こんなことはありました?」
「ありません!息子はスポーツが好きで剣道や卓球なども県大会にでるほど精力的に取り組んでいました」
自慢の息子だったようです。
弁護士「最近はどうですか?」
「お年寄りの世話をする仕事を誇りを持ってやっていました」
「ギャンブル、ここではパチンコですがやっていたのは知っていました?」
「知っていました」
「いつからやっていました?」
「高校を卒業してからです」
「被害者に対してなにか思うことはありますか?」
「息子が犯した罪で不安や精神的な苦痛を与えてしまい、この罪は息子と一生をかけて償っていくつもりです」
「今回の弁償金はお母さんが?」
「はい、私が用意しました」
「被害額は10万でしたが」
「苦痛を与えてしまったということで、少しでも多く、30万円用意しました」
「10万しか受け取ってくれませんでしたね」
「当然かもしれません」
「職場関係の家に侵入した原因は何だったと思いますか?」
「ギャンブルにのめり込んでしまったからと思っています」
「仮に、ギャンブルじゃなかったらやらなかったと?」
「やはり、ギャンブルと言うのは欲の塊で・・・・ギャンブルじゃなかったらしなかったと思う」
「ギャンブルしない為には、どのような対策を?」
「息子の生活をチェックしていきます」
「今、一緒に生活しているんですか?」
「はい、以前はお嫁さんと、いまは兄弟と私で監督し、更生させますのでよろしくおねがいします!」
いままで、いろんな母親の証人喚問を傍聴しましたが、100点です。被告、愛されて育ってきたんだなあと感じました。続いて検察の質問。
検察「息子さんと会う頻度は?」
「月1から2回です」
「何を話してました?」
「他愛のない、子供、孫の話です」
「ギャンブルの話は?」
「しなかったです」
「今はどうですか?」
「毎日、ギャンブルは恐ろしいものとはなしています。」
「更生を願ってます?」「早く更生させます!」

母親が傍聴席に戻り、被告が証言台に呼ばれました。弁護士から質問が始まります。

弁護士「今いくつです?」「35歳です」
「パチンコは?」「好きでした」「いつからやってました?」「高校卒業してからです」「収支はどうでした?プラスでした?」「ずっとプラスでしたが、ここ数年は・・」「いつからマイナスになってました?」「去年の10月からです、ボートレースもやりましたがダメでした」「どうしてやったんですか?」「今まで負けたことが無いほど負けてしまい、それをとりもどそうとしてしまいました」

いまちょっと調べてみたのですが、パチンコ・パチスロ業界もコロナの影響をモロ受けており、店は集客でたいへんなようです。遊タイムという機能を搭載されている機種が出始めており、それはパチスロでいう天井のようなもの。よくわからないのですが、沼の底にあるジャンプ台のようなものでしょうか。ハマってしまった台で当たったら時短が発生し、より収益を得られるようになる・・・つまり、ギャンブル性を高めているってことじゃないのかな?そんな環境のようです。

ギャンブルのことはよくわからないですが、コロナでホールが厳しいというなら、なおさら行ってはいけないでしょう。飲食店の食べて応援じゃないのだから。向こうだって商売を続けるために、設定を厳しくするんじゃないのかな。

それに「負けたから、とりもどす」という発想がなにより危険です。熱くなってる人は周りが見えず、より深く沼に沈んでいきます。沼の底にジャンプ台はありませんって。負けた悔しさを腹の中に飲み込めないのなら、それはギャンブラーではないのでは。

っと熱くギャンブルについて語りたくなってしまいました。弁護士の質問は続きます。

弁護士「犯行時、手持ちの現金とか貯金はゼロでした?」「いえ、3,40万ありました」「なんで、それをギャンブルに投資しなかったの?」「子供たちの為に、病気とか進学のお金でしたから」

あ、そこは踏みとどまったんだ・・・よかった。被告は罪は犯してしまいましたが、クズではありません。本物のクズはそれつかって、そして借金までしてしまうからです。母親の言う通り、ほんとギャンブルの魔性にやられてしまったんでしょうね。だからこそ「(家族の為に)とりかえそう」としたんでしょう。

弁護士「捕まるとは思わなかったんですか?」「当時は、思わなかったです、気持ちが動転していて・・負けを取り戻そうとしていました」「今はどうですか?」「被害者に辛い思いをさせてしまい、そして業務係長の職を失い、戻りたいなら戻りたいです」

弁護士「何が悪いと思いました?」「自分は信用される立場だったのに、それを裏切ってしまった」「家族は?」「妻と子、そしておなかの中に1人」「妻とはどうしますか?」「私は続けていきたいと思っています」「今までの勤務先はどうなりました?」「懲戒解雇になりました、その月の給料とボーナス、積み立てていた退職金も無くなりました」「資格は持っていました?」「介護士と準看の資格を持っていましたが、資格取り消しになる可能性が高いです」「今仕事していますよね?」「はい、建設関係の仕事に、今回の事をすべて話して、1日7000円で雇っていただいてます」「刑務所は嫌ですか?」「妻と子供を養っていけないのが辛いので嫌です」「ギャンブルについて」「自分はギャンブル依存症だと思っています、そこで依存症の専門病院にかかり、治療をし、自助グループに入る予定です」

聞いているだけで辛くなるような、そんな被告の話です。給料、ボーナス、退職金、資格、職、家族の信用を失ってしまったということですが、これ以上何を失えばいいの?という状況でしょう。つらいよなあ・・・

質問は検察になりました。

検察「被害者は施設の利用者ですか?」「はい、週一回あってました」

おそらく、訪問介護の利用者だったのでしょう。

検察「勤務している施設の人ですよね、不安にさせるとは思わなかった?」「今思えば、ギャンブルでたくさんのお金を失い、とりもどしたいとしか思えなかったです」「お母さんの証言を聞いてどう思いました?」「二度と罪を犯さないと思いました」「最後に何か?」「自分の身勝手な行動で被害者を不安にさせてしまい大変もうしわけない・・・・」

介護施設の利用者ってとても弱い存在なんですよね。だからちょっとしたことで不安になるし、不安になると感情的になったり体調を崩してしまったりします。だから職員との信頼関係がとても重要です。その信頼を裏切ってしまったことは、ひいては施設そのものの信用を失うことにつながります。そんなことは被告も知っていたでしょうが、それすらも忘れていたようでした。

裁判官も質問しました。

裁判官「保証金150万はどうやって?」「母と姉弟、妻の兄弟にかき集めていただきました」「警察の取り調べで、それぐらいの財産があったと」「今、お金は妻が管理していますので・・」「今の月収は?」「使用期間ですが、1日7000円ほどです」「今自由に使えるお金は?」「まったくありません」

家族の信頼までは失っていないようです。150万集めてくれる家族がいれば、被告は立ち直ることが出来るでしょう。検察が求刑しました。

「被告は利用者宅で合いカギを発見し、それを使って利用者のいない時間に侵入をして10万円を盗んだ・・・1年6月」

弁護士「被告は35歳と比較的若年であり、資格をはく奪され給与も受け取れず、懲戒解雇になっている、社会的制裁はすでに受けていると言える、真摯に反省しており、家族による監督も期待できる、執行猶予が妥当である」

被告「被害者には本当に、心より申し訳ないと思っております」

初犯で1年6月、おそらく執行猶予が付くパターンです。

傍聴を終え、被告ほど経験がないとはいえ私も介護職。被告のやった犯罪の重さはよく分かります。利用者の弱い立場を利用し、信頼を裏切った行為はあるいみ凶悪な犯罪と言えるでしょう。

だけど、立ち直って欲しいな。刑務所なんて入らずに、できれば介護にもどってきて欲しい。過ちなんて誰だって犯すのだ。





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