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陽氣なお誕生日会

以下の一件があって以来、子の誕生日会をどうしたものかと悶々としていた。


誕生日というものがどんなものだったか、自分の場合を思い出した。

私が幼い頃、祖父に「何歳になったのかな」と聞かれて、「よんさい!」と元氣いっぱいに答えた。親戚のケーキ屋が作ってくれた7号サイズのケーキの周りを、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

7歳のときは、自営業の両親の仕事が特に忙しくてお手伝いをした。母は、夕食に私の大好きなハンバーグを焼いてくれた。姉は可愛い文房具を、兄はぬいぐるみをくれた。

8歳のときは、仲の良いお友達に招待状を出して、誕生日会を開いた。口々にお誕生日おめでとうと言われ、プレゼントを渡された。母が作った手料理をがつがつ食べ、その後はみんなでかくれんぼをやったり高鬼や色鬼をして遊んだ。

どの誕生日会でも家族や友達に囲まれて、私は嬉しくて、楽しかった。愛が溢れて、幸福だった。

我が子の誕生日はこれから何度もある。でも、一年に一度の大切な日なのに、幼児にとって祖父母が来てくれない寂しさというのはどれほどのものだろう。

すると、とあるフォロワーさんが名乗りを上げてくれた。一緒に遊びましょうと言ってくれた。私とは一度会ったことはあるが、子とは初対面になる。

私は是非お願いしますと伝えた。ここで遠慮するのは無意味だと思った。実際の我が子の誕生日ではないけど、お互いに都合がつけられる日取りを決めて、自宅に来てもらうことにした。子にそれを伝えると、物凄く喜んだ。嬉しい、やったーと歓声をあげる。まだ会ったこともない人なのに、本人はそれでも嬉しいらしい。ママの友達なら、自分も安心して遊べると思ったのだろう。

誕生日会当日になった。フォロワーさんは、午前11時に到着予定である。子は前日になかなか寝てくれず、睡眠不足なはずなのに早起きした。8時ごろ朝食を食べ終えてから、数分おきに「ママの友達まだ?」「ケーキは?」と連呼していた。

かくしてフォロワーさんは我が家へやってきた。犬の変装をして登場したところ、子はびびって私の後ろに隠れてしまった。変装を解くと、美しい笑顔で挨拶してくれた。本当に来てくれたんだ、と思うとそれだけで私は泣きそうになる。

私が下準備しておいた料理の仕上げをしていると、フォロワーさんは大量の荷物を持ち出してリビングに広げた。中身は沢山のぬいぐるみだった。子は大喜びしてソファに並べた。さらにフォロワーさんと一緒にお店屋さんごっこをしたり、お絵描きをしたりしてはしゃいでいる。初対面だという遠慮はもう無いらしい。

料理が完成して、テーブルに並べる。作ったのはスペアリブと鶏の唐揚げ、赤海老の塩焼き、バーニャカウダ、コンソメスープ、バゲット、そして栗ごはんだ。

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和洋折衷で何の統一感もないところ、フォロワーさんが持ってきてくれたピンク系の可愛らしい花束と、メッセージプレートを飾ってみたら、テーブルが華やかになった。先日、食べたいと言っていた栗ごはんを茶碗に盛ってあげると、フォロワーさんは大喜びした。

ここは、準備に抜かりない。なんといっても前日に、直売所で剥き栗を買い占めておいたから。

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子はもっぱら海老の塩焼きを気に入り、がつがつ食べていた。

フォロワーさんは実に良く食べてくれた。これだけたくさん食べてくれると、作り甲斐があるというものだ。どうせだから食べ切らなかった分はジップロックに入れて持ち帰ってもらうことにした。これにもすごく喜んでくれた。

食事が終わり、ケーキを食べることにした。近所で一番美味しいケーキ屋で注文した、ベリーとピスタチオのホールケーキである。蝋燭を立てて、部屋を暗くして、みんなでハッピーバースデーを歌う。

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私とフォロワーさんがクラッカーを威勢よく鳴らすと、子は怖がった。フォロワーさんがさらに、小さな金色のくす玉を割ると、子は面白がった。中からは垂れ幕が出てきて、「おめでとう」と書かれている。

蝋燭の火を上手に吹き消さないので私が手伝った。それからケーキをカットして、みんなで分け合って食べた。

子は本当に嬉しそうで、楽しそうで、延々とはしゃいでいた。ずっとずっと笑顔で遊んでくれるし抱っこもしてくれる、優しい大人がいるというのは、なんて素晴らしいことだろう。ママやパパは小言ばかり言うけれど、フォロワーさんは言うはずないし、それどころか色んな面白い遊びを教えてくれていた。子はどこからどう見ても幸福そのものだった。

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夕方になり、子が出かけたいというので、フォロワーさんの車で一緒に出かけた。公園は駐車場が締まる時間なので、直売所を目指した。閉店4分前に駆け込んで、フォロワーさんを案内した。

私の住んでいる郊外と違い、直売所が無いというのでフォロワーさんは買い物かごを持って生き生きと買い物しだした。案の定、剥き栗はない。殻付きの栗しかなかった。こんなこともあろうかと、昨日買い溜めしておいてよかったなあと思った。6袋かったので、そのうち2袋は誕生日会の栗ご飯に使った。さらに2袋は冷凍した。もう2袋をフォロワーさんにあげることにした。

フォロワーさんは他にも実にいろいろな農産物をカゴにぽいぽい入れていった。物価も安く、新鮮なので、料理をする人には恵まれた場所だと改めて思った。

直売所を後にすると、コンビニへ向かった。私が子にお菓子を買ってやるかたわらで、フォロワーさんはアイスを買って食べ出した。あの脂っこい食事とケーキを食べてなお、ソフトクリームを食べるとはさぞかし立派な胃袋なんだなと感心した。

いよいよフォロワーさんが帰る時間になり、荷物を片付けはじめた。子は沢山のぬいぐるみを貰えるものと思っていたようだが、そうは問屋が卸さない。我が家には大量のぬいぐるみが居座っている。子に可愛がってもらえるのは一部だけで、ほとんど大切に扱われていない。

フォロワーさんは、子が欲しがれば全部くれたかもしれないけれど、私がダメだと言った。なので、大きいキティと小さいキティ、大きいスヌーピーと、合計3体のぬいぐるみをもらった。それだって十分な、立派なぬいぐるみである。とても綺麗で大切にされてきたのが分かる。

そもそも、私はフォロワーさんに何が欲しいか聞かれて、お花、としか答えなかった。子は、花束をもらったことがなく、前から欲しそうにしていたからだ。フォロワーさんは花束だけでなく、メッセージプレートと沢山のガーゼタオル、さらに私宛にもプレゼントを寄越した上、大量のぬいぐるみを「お友達だよ」と言って車に詰めてやってきてくれたのだ。もう十分過ぎるではないか。

子は号泣して、ぬいぐるみを持ち帰るなと叫び続けた。私が抱っこしてあやすも、なかなか泣き止まない。フォロワーさんが車に乗って出発するときも、運転席の外でまだ泣いていた。ぬいぐるみへの愛は半端ないらしい。

手を振って送り出すと、子はぴたりと泣き止んで、こう言った。

「ママの友達の家、遠い?」

さっきまでぬいぐるみに執着していたのに、急に話の矛先がフォロワーさんになった。ぬいぐるみが居なくなるから寂しいんじゃない。遊んでくれたフォロワーさんが帰っちゃうのが、寂しいんだ。

「遠いよ。遠くからわざわざ来てくれたのよ」

「どこ曲がれば、着く?」

「いくつも角を曲がらないと、フォロワーさんちには着けないよ」

「きょう、楽しかったね。ママの友達に、また会いたい」

薄闇のなかで目をキラキラさせながら、子は微笑んだ。



❤️おまけ❤️

他のフォロワーさんにも、プレゼントを送って頂きました。どれも素敵なプレゼントで、子は大喜びしています。私も、とてもとても嬉しいです。細やかなお心遣いをありがとうございます。このご縁に、感謝しています😢💐

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