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シルバニアお化けトイレ

我が子はシルバニアファミリーのドールハウスで遊ぶのが大好きである。


そのシルバニアファミリーの家具の一つである、便器を使って、お化けごっこを始めた。


ちなみに、トイレは洋式の便器が2つある。


どちらも蓋を開けると花子さんが出てくるという設定らしい。


うさぎの男の子など、怖すぎてトイレに行けず、うつ伏せて寝てしまった。

子は、最初はお化けごっこを楽しみ、人形達を脅かして遊んでいた。なのに、だんだん自分自身も怖くなってきてしまったらしく、みるみる元氣がなくなってしまった。トイレって怖いとこなのかな、と思い始めたらしい。

その様子が面白くてつい、私は「うちのトイレも花子さん出るかもね」と呟いてしまった。

さあ大変。私(ママ)の口からそんな不安要素が呟かれたことによって、子の恐怖を一層駆り立ててしまった。もう寝る時間なのに、子はトイレに行きたがらない。嘘だよ、大丈夫だよ、と私は焦って訂正するも、子は耳を貸さない。花子さんなんか出ないよ、冗談だよと子の片腕を引っ張りトイレに促すも、子は廊下に膝をついて抵抗する。

ついには子は泣き出した。トイレに花子さんがいたらどうしよう、トイレに引きずり込まれたらどうしようと言って大粒の涙をボロボロこぼした。私は余計なことを言ってしまったことを後悔しつつ、ごめんね、あんなの冗談だよ、花子さんなんかいるわけないじゃんと言って子を抱きあげた。

抱きしめながらトイレのドアを開ける。子は運命を悟り、目玉をひん剥いて、口はルアーが引っかかった魚のようにパクパクしながら、ギャンギャン泣いて私の髪を引っ張ったり胸をポカポカ叩いた。私はそれでも子を羽交い締めして、パジャマのズボンとパンツをずり下ろし、なんとか便座に座らせた。

やだ、やだ、花子さんに連れてかれちゃう、やだー!!子はありったけの声を出して便座から逃れ、床に尻もちをついた。何としてもこの恐ろしい便座にだけは座りたくないという鋼鉄の意志、断固たる決意が見てとれた。私は、ママがここにいるから大丈夫、連れてかれないよと、務めて優しい声を出し、どうにかして再び便座に座らせようとした。子は尻を便座につけまいとのけ反り、ふたたびトイレの床に墜落した。その時トイレットペーパーを引っつかみ、ペーパーがガラガラと音を立てながら大量に床に散乱した。

そんなすったもんだの最中に旦那が帰宅した。すると、子は下半身が裸のまんま旦那の元へ飛んで行った。私がいきさつを話すと、今度は旦那が子を抱いてトイに連れていった。パパなら助けてくれると思ったのに、事態は真逆の方向へ向かった。子は断末魔の叫び声をあげながら旦那の力強い腕に捕まり、強制的に用足しをさせられた。

泣きじゃくる子を寝室に入れて寝かしつけた。旦那の話によると、本人もかなり尿意を我慢していたらしく、勢いよくオシッコを出したという。よし、それならおねしょはされないだろう、と私はほっとした。子は、花子さんに引きずり込まれずに済んだものの、私と旦那に無理くりオシッコさせられたことが悔しいのと、恐ろしかったので興奮が覚めないらしい。布団の上で横になっても、私の手を固く握りしめ、なかなか離そうとしない。

10分。20分。怖い、とときどき呟くので、大丈夫だよと囁いてやる。しかし、何度も寝返りを打つ。夢が怖い、と言って私の上体を抱き寄せる。私のおでこあたりにはぁはぁ生温かい息を吹きかけてくるのでおかしくて笑ってしまう。熱いよといって子を突き放すと、嫌!と叫んでしがみついてくる。

シルバニアお化けごっこは完全に失敗である。本人がやりだしたことではあるが、こんな幼い子どもがやる遊びではない。その昔、私も未就学児だった頃、陽キャな父親に映画「エイリアン」を見せられたことを思い出した。人の胸部を突き破り、中からエイリアンが産まれ出るシーンは、それはそれは恐ろしくて、その晩におねしょしてしまった。

きっと我が子も純粋だから、怖くて怖くて寝つけないんだろう。シルバニアの人形を怖がらせるはずが、自分自身が怖くなってしまうようなタマである。しばらくして、私の方が先に寝落ちしてしまった。

翌朝になった。私が朝ごはんを作ってる間、子はソファから離れた窓辺に座り、シルバニアで遊んでいた。例のシルバニアお化けトイレは、2つともバスタオルでがんじがらめにされ、ソファの足元の、奥の奥の奥の方へねじ込まれていた。