ワクチン打った祖父母に会いたい

この秋、誕生日を迎える我が子。誕生日会をとても楽しみにしている。朝食のとき、子は口の周りに神酒の偽ヨーグルトをつけたまま、嬉しそうに聞いてきた。

「おじいちゃんとおばあちゃん、くる?」

私は一瞬、黙りこんだ。毎年、父母と義母を呼んでお誕生日会を自宅で開催している。

「おじいちゃんもおばあちゃんも来れないよ。だから、パパとママと、楽しいところにお出かけしよう」

私が作り笑顔でそう言うと、子の表情は途端に曇った。

「どうして。なんで来れないの。やだ!おじいちゃんとおばあちゃん、来るの!」

どう返したらいいのか分からない。私だってそうしたい。そうしたかった。こんなことにならないように、私は、特に義母には再三に渡ってワクチンを打つなと説得してきた。打ったら孫に会わせるわけにはいかない、と。

でも、伝わらなかった。簡単に意見を翻してしまった。だから義母とはこの二ヶ月、音信不通状態である。両親とは時々メールでやり取りはするものの、ワクチンの話になると途端に返事が返ってこなくなる。両親はハッキリとは言わないが、言わないからこそ、ワクチンを接種したのだろう。私も聞かない。聞きたいけれど、聞きたくない。

「ママは、おじいちゃんやおばあちゃんたちに、来て欲しいと思っていたよ。でも、それを分かってくれなかったの。どうしてかな。みんなでお祝いしたかったのに」

こんなことを幼い子どもに言ったって仕方ないのに、あえて言った。子は悲しそうな顔をして私の顔をじっと見ていた。

「おじいちゃんとおばあちゃんに、会いたい…」

そうだよね。会いたいよね。子の目が潤んでいる。

「ねえ、じゃあクリスマスは来る?クリスマスには、みんなでパーティーする?」

子は誕生日は諦めて、クリスマスに期待をかける。

「クリスマスも、来られないんじゃないかな」

私は目を逸らしながら、テーブルを拭いた。

「やだ!クリスマスするもん!みんなでケーキ食べるんだもん!」

子はとうとう、わんわん泣き出した。なぜ、こんなにも祖父母に会わせてもらえないのか。ママはどうしていつも「まだ会えない」としか言わないのか。パパ側のおばあちゃん(義母)に限って言えば、ほぼ毎週会いに行っていたのに、寂しくてたまらないのだろう。

ごめんね。きょうだいも居ないし、ペットも居ないし、ママとパパだけじゃ寂しいよね。優しく抱きしめてくれるおじいちゃんおばあちゃんが恋しいよね。大きくなったねと頭を撫でてもらいたいよね。一緒に美味しいご飯を囲んだり、ケーキにろうそく立てて歌ったり、カメラの前でポーズとりたいよね。

でも。でも。ワクチンを打ったあの3人に、私はあなたを会わせられない。会わすわけにはいかない。すでに保育園の保育士は打っているし、だったら同じことかもしれないけれどね。彼らに会えば、保育士達よりもさらに濃厚接触するでしょう。打った人によってはシェディングが酷いし、場合によっては死に至ることもあるらしい。単なる眠気で収まるならまだしも、湿疹や痛み痒み、熱、帯状疱疹など、得体の知れない症状があなたに起きたら、あなたが将来、子作りできない体になってしまったら、ママはママを許せない。

それに、ママが渾身の力を込めて説得したことが通じなかったことが、ママの心身を蝕んでしまったんだよ。ママは彼らを許せない。愛しているから憤っている。洗脳されてるから仕方ないとはいえ、憎しみに変わらないか不安なほどに。会えない状況をつくったのはママじゃない。おじいちゃんおばあちゃんのほうなんだよ。ママだってみんなを呼んでご馳走つくりたかった。みんなで笑い合いたかった。とても幸せな時間になるはずだったのに。その想いを斬り捨てたのは、おじいちゃんおばあちゃんなんだよ。

だから、ごめんね。本当にごめんね。今は平時でなはい。戦時中なんだよ。見えない敵と戦っているの。あの3人には会わせられない。たとえ恨まれても構わない。私にはあなたを護る義務がある。

リビングの床に正座して、子を膝の上に乗せた。くすぐってやったら泣きやんだ。私を見上げて、きゃっきゃと笑い出した。子の脇腹をつかみ、私の胸に顔を埋めさせる。そこで私は、こっそり泣いた。