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9月12日

 ホームのベンチで電車がくるのを待っていたら空中をなにか緑色のものが横切り、消えたと思ったら戻ってきてまた横切り、ぐらぐら、びゅんびゅん宙を駆ける。やがて緑色は屋根の下に伸びている鉄骨部分に行き着いたようで、近付いてよく見たら蟷螂だった。鉄骨の上やら横やらを、ああでもないこうでもないと歩き回っている。時々また飛び立とうとして、すぐやめて鉄骨に戻る。蟷螂がぴょんと飛び上がるたび、近くで電車を待っていた2、3の他人らは怯え、線路に落っこちそうになりながら遠のいて行ったが、私はなんだか目を離すことができなくて、真下に立ってずっと見ていた。
 決して小さいとは言えないサイズだったけれど、特別大きく立派な蟷螂でもなかった。蟷螂の平均体型がわからないが、印象としては華奢なタイプだと思った。とても鮮やかで、発光するような緑色をしていた。これは誰かだ、とつい思ったが、考えるのをやめた。電車が来たので乗った。ずっと蟷螂を見上げていたので、若干首が痛い。電車が走りはじめても、少しの間窓から鉄骨の上の蟷螂が見えた。翡翠のように光っていて、きっとこっちを見ていた。


おすすめに出てきてから繰り返し見てしまう動画
https://youtu.be/JQVKkjA0law

多肉の花

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