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選ぶことの楽しさと、選びかたを知った日

 先日、同じWEB記者のかたがたと3人で、仕事終わりに池袋へ赴いた。私以外の2人が一度訪れたことがあるというパスタ屋さんで、夕飯がてらおしゃべりしようと。

 時刻は午後6時過ぎ。ちょうど夕飯時の店内は埋まっていて、「しばらくお待ちいただきますが…」と、店員さんが申し訳なさそうに告げる。ただまぁ、3人ともそこまでお腹が空いているというわけでもないし、時間にも余裕はあったので、店の外で並ぶことになった。

 並べられた丸椅子に腰かけるなり、「良ければこちらどうぞ」と、先の店員さんが1人1冊ずつメニューを用意してくれる。使い込まれて少しくたびれたメニューは、思いのほか分厚かった。

「うわぁ、いっぱい種類あるんですねぇ」

 思わず口に出してしまう。6〜8種類ほどのパスタが、6ページにわたって並べられていた。どうやらページごとに、カテゴリー分けされているらしい。

 ふむふむ、たらこパスタが売りのお店なのか…にしたって色んな食材とかけ合わせた、たくさんの種類のたらこパスタがある。魚卵、しらす、シソ…どれも美味しそうだなぁ。
他にも王道の…ナポリタン、ボロネーゼ、カルボナーラあたりも捨てがたいし、期間限定だという北海道の海の幸を使ったパスタも、せっかく「限定」されているなら食べてみたい。

ふと、隣に並んでいた記者さんが「ぼくはこの前、アボカドとエビのジェノベーゼパスタ食べましたよ。美味しかったから同じのにしようかなぁ」と、呟く。

なに?こんなにたくさんあって、リピートしたくなるほど…なんて、相当美味しいんじゃないか。そういえば最近、レトルトのジェノベーゼソース使って、ちょっと失敗したんだよなぁ。うぅん…

 また思わず、「せっかくだから、自分では作らないモノを選びたいですよね…」と声に出してしまった。するとすかさず、もう1人の記者さんが「分かる分かる!」と頷いてくれる。どうやらお2人も、メニューを決めかねているらしかった。

 そうして私はうんうん悩みながら、マスクの下で、自分の口元が綻ぶのを感じていた。
私は今まで、食べるものに悩んだことが滅多とない。いつも「食べやすくて」「味の予想ができるもの」、かつ「満腹感を最も得られるもの」という、至極明確な私なりの選択基準があったのだ。食事に対して「楽しむ」という気持ちが、あまりなかったともいえる。

 それが今はどうだろう。あれも食べてみたいこれも食べてみたいと、メニューの写真や文字に心を躍らせる私は、間違いなく食事を楽しもうとしている。
なんだかその事実が、自分にとっても意外で、嬉しかった。


 その後、30分ほど待ってから店内に呼ばれ、テーブルについてからパスタを平らげるまでは、あっという間だった。
(ちなみに私は、チラッと耳に入ったエビとアボカドのジェノベーゼパスタにした。エビもアボカドもたっぷり入っていて、私の大好きな太めのパスタにしっかり絡まったジェノベーゼソースが最高だった。ソースに若干、アボカドが溶けていたのも良かった…あれは確かに、リピートしたくなる)

 食べ終えてからは、しばらく談笑タイム。お2人とは仕事に限らず、プライベートの話も共通項が多くて、いくら話していてもネタが尽きない。なので…盛り上がって話し込むあまり、またちょっと小腹が空いてしまった。

「ねぇ、良かったらデザートとコーヒーでも頼まない?」
「いいですね!」
「そうしよそうしよ」

 デザートは、ケーキ4種類ほどから選べる形式だった。ガトーショコラ、洋梨のタルト、紅茶のシフォンケーキ…またどれも、そそられる選択肢ばかりだなぁ。

 真っ先に目に入ったのは紅茶のシフォンケーキ。そもそも私は甘ったるいものが得意ではないから、出来るならば甘さは控えめのものがいい。あと単純に、シフォンケーキが好き。紅茶味のお菓子も好き。
でも。洋梨って美味しいよなぁ。いや、菓子用に加工された梨は食べたことなかったっけ?もしかしたら予想外な味に当たるかもな…それは避けたい。けど、気になる…せめて写真があれば…

 と、2択で悩みながら、チラチラと視界に入ってきたのがガトーショコラ。さすがの私でも、キミが濃厚なチョコレートたっぷりの菓子だとは知っているぞ。「濃厚なチョコレートたっぷり」…普段の私なら、絶対に選ばない。なんならさっきのパスタも、かなり濃厚な味だった。

 さすがに、濃厚な味を続けて食べるのはちょっと…と、思うのに。考えれば考えるほど、私の口内には、ガトーショコラの味が再現されてしまっている。

 ん?もしやこれが、「食べたい」という感覚なのか。

いまさらだけれど、私、「食べたい」と思って食べるものを選んだことって、あんまりなかった。(さっき選んだジェノベーゼのパスタは、迷いすぎた末のヤケクソ)
そう気づくと、また私は、自分の口元が綻ぶのを感じた。

 ちなみに、自分の感覚を信じて選んだガトーショコラは大正解。ぎゅっと詰まった濃厚なチョコレート味は、当然ながらパスタの濃厚さとはまた別物で。口の中でほろほろ溶ける甘さが、凝り固まった脳内をほぐしてくれるような気がした。


 この日は、大好きな記者さん2人とそろって食事にいくのが初めてで。私はこのタイミングをずっとずっと心待ちにしていたから、お店に着いた時点で、私の心がとても満たされていたんだと思う。だからこうして、今までと違った食事の選びかたが出来て、楽しめた。

 知らなかったなぁ。食べるものを選ぶのって、こんなにしあわせで楽しいのかぁ。食べるものを選ぶって、こんな感覚もあるんだなぁ。
またゆっくり、のんびり、満たされた気持ちで同じように食事を楽しむ機会がほしい。次から…特に外食するときは、意識してみよう。

※画像は公式サイトからお借りしました。
こういうときのために、みんな食べ物の写真撮ったりするのかぁ…

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