松田聖子さんデビュー曲『裸足の季節 魅力を声楽家目線で解説‼︎

 松田聖子…。その第一声を聴いた瞬間、私の涙腺は崩壊した。彼女のデビュー曲が『裸足の季節』であることなど微塵も知らなかった以前の私なら、こんな日が来ることなど想像出来なかったことだろう。人生は本当に解らない。声楽を始めて10年あまり、人の声を聴いて泣いたのは本当に久しぶりだった。いや、もしかしたら初めてだったかもしれない。それが今、現実となって私に押し寄せている。感動の嵐が‼︎

 松田聖子のファンになって1か月の私が、今まででいちばん聴いている曲がこのデビュー曲『裸足の季節』である。今回は曲の魅力を楽曲面、歌唱面から私独自の目線で解説していく。ぜひ最後までお読みいただきたい。

 手引きは以下の通りである。

・楽曲の最大の魅力=松田聖子の最大の魅力

・歌詞に隠された『秘密』

・旋律の工夫と松田聖子の『低い音域の知的さ』『母音を伸ばして印象的に』

・聖子にエクボはなかった!

それでは解説を始めよう。

 この楽曲の最大の魅力、それは『夏を予感させる爽やかさ』である。彼女に抱いた最初の印象はズバリ『爽やか』である。
そして、元気というよりもむしろ『上品』であること。更には『娯楽性に富んだ声』であること。松田聖子が何故、唯一無二の存在と言われるのか?それは、70年代までの歌謡界で求められていた『上品さ』を持ち合わせていながらも、山口百恵の持つ『哀愁』やキャンディーズの持つ『元気』とは違った『爽やかさ』を持っていることにあると私は思う。
 それともう一つの最大の魅力が『予感』や『期待』と言った未来を連想させる声であること。
聴いた瞬間からパッと心が明るくなるような『娯楽性』である。
その証拠に、このデビュー曲『裸足の季節』と大ヒットソング『青い珊瑚礁』は両曲共にCMソングなのである。これが実はこの曲を聴く上で、歌う上で大きなポイントになっている。

 歌詞に注目して欲しい。

歌詞の中に『裸足』という言葉は一度も出てきていない。『裸足の季節』というタイトルでありながら、『裸足』がないとはどういうことか?

 この曲が発売されたのが1980年の4月1日。裸足から連想できる事と言えばそう、海である。海?
4月1日?

 もうお気づきの読者も多いと思うが、実際の発売日よりも季節を先取りしているではないか!春なのに夏を予感させる歌を歌っているではないか!
それもそのはず、これは夏に進んでいく最中でのCMソングだからである。
つまり
裸足(になった時)の季節なのである。

 さらにさらに、エクボの秘密あげたいわ(あなたにね)笑顔を見せてあげたいわ。(エクボ洗顔フォームを使ったから)という具合に商品と歌詞が見事にマッチするように作られているのだ。季節に先取りする形で。

 歌詞中に出てくる『背のびする季節と言われたけれど』これはあくまで妄想だが、『誘われた映画は私には大人過ぎてまぶしすぎたの…背のびする季節と言われたけれど(夏に向けてね!)なのである。こう言われしまっては買わない訳にいかない。何故なら、彼との『嬉しい未来』が想像出来るからである。

 ここまで来たらあとは楽曲の旋律だ。
夏を予感させるメロディ…エレキギター!あ、でも季節はまだ春だから春らしさも出したいよなフルート、バイオリンである。

 春を連想させる『クラシックな楽器たち』夏を連想させる『ポップな楽器たち』を随所随所にミックスさせている。どちらかと言えば歌謡曲調だが、この曲を「新鮮だ」と感じさせる工夫が実は隠されているそれが『テンポの良さ』と『聖子の歌い方』にある。

 ドラムとギターのポップな楽器で弾けるイメージを持たせながらもバイオリンのフレーズは常に長めにゆったりとしている。
曲を通じて明るい印象だが、サビの『エクボの』の箇所だけバイオリンが『哀愁漂う』和音を弾いている。この一瞬だけ。

  次に松田聖子の歌い方について。

 基本的に松田聖子の特徴的な歌い方のひとつである、しゃくり(青い珊瑚礁の わたしの恋は の最後の部分で半音上げる技術)をまだこの曲では使っていない。のちに印象的となる『高音の爽やか』ではない魅力、ズバリそれは『低い音域の知的さ』と『母音を伸ばして印象付けていること』である。

 まず知っていただきたいのは、デビュー当時彼女は18歳になったばかりの高校生であるということ。
にも関わらず、声のノビ(音の後半になっても声の音量、強さが出し始めと変わらないこと。)があることだ。 

 それに加えてその爽やかな高音もさることながら、低い音にしっかりとした知性を感じるところだ。
それも歌い始めの一つめの『シ』の音がいちばん低いが、しっかりと出している。というのもひとつひとつの音としてよりむしろ、歌詞を流れるようにリズミカルに歌うこと『フレージング』が非常に丁寧で安心感すら感じさせるのだ。伸ばすところはしっかり伸ばして、切るところはしっかり切る。低音域がしっかりと出せるのには、元来の彼女の声質はどちらかと言えば低めであり、タイプとしては『高音だけではない歌手』ということが言えるだろう。

 芯がありながらも決して暗くない声。そして音感の良さ。これがあるからこそ、サビの部分の爽やかさが一層際立っているのである。
これだけの特徴を持つ歌手は、松田聖子以外に私は知らない。

 前述した通りこの曲はCMソングであったため
曲を強く印象付けるための工夫が必要だった。
高い音の箇所に印象的な歌詞を持ってくる。そして、母音を伸ばす。

 わかりやすく言えば『いらっしゃいませーーーー‼︎』である。高い音の母音を伸ばして印象的にするこの、『いらっしゃいませーーーー‼︎効果』(私が独自に命名😂)を多用している。

エクボのーーーー秘密あげっったーいーわー‼︎‼︎

 見事にいらっしゃいませ!と言っている😂
これは印象に残らない訳がない。
夏に向けて、あなたに向けて洗顔フォームを買おう‼︎という気にさせる見事な構成である。
デビュー曲がCMソングとは素晴らしい。
ぜひこの曲を歌う際は『いらっしゃいませ!』の気持ちで明るく爽やかに歌い上げて欲しい。

 ん?待てよ…。松田聖子ってエクボないよね?

その通り。松田聖子はエクボがないのである。
でもどうしてもこの曲でデビューさせたいということでCMにはエクボの可愛らしい別の女優さんを起用したらしい。松田聖子は歌のみの出演となっている。

 最後に

 聴いていて気持ちが良いとはまさにこのこと。それは「上品でありながら爽やかであること」や低音に魅力がありながら明るい声をしていること。未来や期待、予感というかつてないアイドル像が、またそのイメージがピタリとあてハマること。

 またCMソングであることでキャッチーで明るくポップな曲になっていること。いらっしゃいませ!効果をふんだんに使っていること。

 色々な要素、事情、歌い方、天性…。これらが重なり合ってリリースされた曲が『裸足の季節』なのだ。のちに松田聖子が大スターアイドルになることを予感させるプロローグ的楽曲なのである。

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