水道が止められたからカルディに行った

ご覧の通り、水道が止まった。いくら蛇口を捻っても錆びた蛇口からは水が出ない。ここに越してから3ヶ月目である。何をするでもなく窓から顔を出していると隣人が話しかけてきた。元気かとその隣人は聞いて、私はぼちぼちであると答えた。季節は春の終わり頃で、歩くだけで汗が湿ってくる日も増えてきた。隣人は高齢で、手にはうちわとタバコを持って一本いるかと私に聞いた。私は快くいただいた。「実は、水道を止められてしまって」それだけ言うと隣人は「カルディに行きなさい。あそこには全てがある。」といって笑った。前歯が一本なかった。

私は近くのイオンモールに入っているカルディに行った。試飲用のアイスコーヒーを貰った。喉が渇いていたのですぐに飲み干した。隣人は全てがここにあると言っていたが、この喉の渇きを潤してくれることが全てだった。私は恥ずかしそうにもう一度コーヒーを貰いに行った。目を合わせないように定員はコーヒーを注いだ。その仕草は私にコーヒーを何度ももらう事が非常識である事を知らせた。

しかし試飲用では足りない。私は一度家に帰り服を着替え、汗で湿った事をいいことに髭を剃り、またカルディに向かった。店員は気づいていないようだった。小さいコップの半分だけ注がれたアイスコーヒーは下に砂糖が溜まっていて最後にかけて美味しかった。同じ服装で2回までコーヒーが貰えると思った私はもう一度コーヒーを貰ってまた家に服を着替えに行こうと思った。また店員のところに行くと、店員は私の目をじっと見つめて「わかりました。ご案内いたします。」と言った。私はなんのことかさっぱりだったが、断る理由もないので着いて行った。

スタッフルームのドアを開けると先ほどの隣人がいた。彼は「待っていたよ。ここで全てだ。」と言って私に笑いかけた。私は何が全てなのか彼に聞いた。彼は肉体だと答えた。そして私の顔を思い切り殴った。信じられないほど痛かった。鼻から血が吹き出している。「これが全てだ。」と言って隣人は部屋から出て行った。私は痛みでうずくまっていた。

しばらくして痛みが引いた頃、私は隣人に対して怒りを覚えて家に向かった。向かう途中に雨が降り出した。雨が傷口に降り注ぎ、私は口を開けて雨で喉を潤した。その時に全てが分かった。全ては肉体であり、水であり、イオンモールであった。

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