見出し画像

都市と地方を行き交う人たちの増やし方(MOTION GALLERY Crossing#1)

 駅前のデパート、少し郊外に作られたショッピングモール、全国で目にするコンビニやチェーン店など、 “便利さ”や”豊かさ”を求めた、似たような街並みが、都市部でも地方でも広がっています。一方で、都市での暮らしから離れ、便利さや快適さが劣る地方での暮らしに、自ら飛び込んでいく人たちも増えてきています。

 都市化した「まち」の暮らしのなかで、私たちは何を忘却し、地方での暮らしに何を求めているのか。日本の都市と地方は、これからどんな関係性のなかで、新しい社会をつくっていくのがよいのか…。

 クラウドファンディングから2020年以降の未来を創造する企画「MOTION GALLERY Crossing」。#1は「都市と地方を行き交う人たちの増やし方」をテーマに、地域おこしやまちづくり、暮らしづくりに関わる実践をしている4人のゲストとともに考えました。

*

 4人のゲストのうち2人は、特定の地域に根ざして活動をしています。

 1人目は長崎県雲仙市を盛り上げる活動を続けている市来勇人さん。もともと福岡のご出身ですが、惚れ込んだ雲仙に移住、長年の夢だったゲストハウスを営みながら、10以上にわたる団体に関わり、町内から県に至るまで、様々なレンジから地域を盛り上げる活動をしています。

 雲仙は明治時代初期より避暑地として国内外の人たちに愛されてきた場所です。当時の風景を現代風にアレンジした「UNZEN△FES」を昨年立ち上げ、県外からも多くのファンを集めています。

 2人目は長野県飯山市の”秘境”遠山郷に魅了されている高橋歩さん。飯山のなかでも市街地で育った高橋さん。大学・大学院は石川県の金沢へ。卒業後、長野県軽井沢町で働きながら、定期的に遠山郷に通っています。高橋さん以外にも、遠山郷に”ハマった”若者たちで「山暮らしカンパニー」という団体を立ち上げ、それぞれが自分のできる方法、好きな形で、遠山郷を内側から盛り上げたり、外に伝える活動を行なっています。

 残り2人のゲストは、もう少し俯瞰した場所から「地域」を見つめています。

 3人目の中村功芳さんはNPO法人アースキューブジャパンで、地域活性の拠点となるようなゲストハウスや生業づくりのための合宿を主催。まちづくりの担い手を全国に輩出しています。

 元々、23歳で独立して携帯電話の会社を経営していた中村さん。一時は九州四国地方で一番成績がよい店舗となり、売上も2億円超えに。しかしその後、お金より時間を持っていることに価値を感じるようになり、心機一転、当時は国内にほぼ存在していなかった「ゲストハウス」を立ち上げます。以降は、一人ひとりが独自の文化をつくる、"暮らしのアート"を広げ、「奥さんから褒めてもらえて、子どもが跡を継ぎたくなるような仕事を、全国各地に増やしていく」こと、それによって地域を活性化することを目指しています。

 4人目は、東京アーバンパーマカルチャーという団体を立ち上げ、東京から地球の未来を変えるための様々な活動を展開しているソーヤー海さん。日本とアメリカのハーフで、東京生まれ、新潟、ホノルル、大阪育ち、田舎と都会、日本とアメリカを行き来してきたソーヤーさんにとっては、「地球全体」が自分のシェアハウスのようだと言います。

 地球で暮らすことをもっと学ぶために、一時は中米コスタリカのジャングルで生活。人間より吠え猿と暮らしていたというソーヤーさんは、大自然の中で、「地球にはすでにコミュニティがあり、人間はそのコミュニティの一員」だと思うようになっていったと言います。ジャングルの中で感じた"生かし合う関係性"を都会でも実現できるように、パーマカルチャーの思考に基づいたワークショップやイベントを開催しています。

*****

 そんな4名とともにスタートしたCrossing #1。そもそも、都市部から地方へと足を運んだり、移住する人たちは、何を求めているのでしょうか?

 福岡の中心市街地から雲仙温泉街へ移住した市来さん。まず驚いたのは、家にお風呂がないこと。地元の人はみんな温泉に通い、温泉が憩いの場、コミュニケーションの場になっているのです。市外から人が来るとすぐわかり、みんな絶対話しかけるといいます。市来さんも温泉で地域の若いお兄さんから声をかけられ、一緒に飲みに行って、どんどん地域の人との繋がりが広がっていったといいます。温泉のように地元の人と旅人が集まり、交わり、笑いが生まれるような場所を作りたいという思いから、現在のゲストハウスを営んでいます。

 高橋さんは高校時代、遠山郷出身の同級生に誘われて、初めて同地を訪問。自分が暮らしている飯山市街地の「田舎」より、もっと本物の自然が溢れる「田舎」に衝撃を受けたそうです。遊び場のような大自然の空間に触れたくなるのはもちろんですが、やはり大事な友人がいるからこそ、通い続けたくなり、気づけば10年が経過。今では生活の一部になり、「帰る」場所になっているといいます。

 よく移住促進のための発行物等は景色の写真がメインで使われていますが、「風景や自然は他の場所にもある。よほど一番の何かがない限り、行く理由にはならないと思う。大好きな人、大切な人がいるから、会いに行きたくなる」と高橋さん。「この人のここが面白い!って一番伝えたいけど、会ってもらわないと分からない。だから風景ばかりが使われるのだと思う。でも風景だけで移住を決める人はいない」と市来さん。

*

 地域に行きたくなる鍵は「人」。さらに掘り下げると「人と人の関係性の中身」や「コミュニティの質」が影響していそうです。資本主義社会においては、お金を介して、行為と対価が交換されますが、そうではないコミュニケーションが地方においては成り立ちやすく、そこに惹きつけられていく理由があるのかもしれません。

 例えば、市来さん(雲仙)は地方のコミュニケーションは「しっかりと干渉する」と話します。「こういう風に私は梱包してみたんだけど、こうやってみたらどう?」「私こういう風に作ってきたんだけど、こういう味付けにしたらどう?」と、自分でやって伝える。最後までしっかりと世話を焼く。そこに金銭のやりとりはなく、ただ”干渉“しあえばしあうほど、関係性は深まり強まっていく。それが田舎には必要だし、みんなそれをしてくれるから幸せだと、市来さんは言います。

 山暮らしカンパニー(遠山郷)では、「コンパスハウス」という古民家を再生したシェアハウスを立ち上げるため、クラウドファンディングを行ないました。遠山郷の外で主に活動しているメンバーが、その情報拡散に尽力し、地域に暮らしている若者たちは、リターンの伝統野菜を育てる。ビーフジャーキーも、プロに教えてもらいながら、みんなで学びながら作ったり、パッケージのデザインは、東北在住のデザイナーがわざわざ遠山郷を訪れて手伝ってくれていると言います。

 こうした、一人一人が自分の役割を果たして、一つの美しいものを作るために協力しあう関係性こそが「本来の人間のコミュニティの形だと思う」とソーヤーさん(東京アーバンパーマカルチャー)。自然発生的に人が集まり、それぞれの思いを大事にした、質の良い暮らしをする。その延長線上に地域は良くなり、もっと人が集まってくるだろうと。

 そしてこうした関係性は、中村さん(アースキューブジャパン)が目指している「競争しない社会」とも重なります。

 競争社会で考えれば、流行るもの、成長するものには、みんながどんどん参入していきます。しかし中村さんは、「誰かが既にやっているものなら意味がない。100軒あるものを1000軒つくっても消耗するだけ。1万時間考えてもニヤニヤするような自分オリジナルの考えでなければ、やらないほうがいい」と話します。

 そしてそれぐらい考え抜いて、誰かがゲストハウスをつくるときには、みんなで手伝いに行くのだと言います。1人の10歩より10人の1歩を大切にするために…。ライバルとして競い合い、消耗し合い、蹴落としていくような関係性ではなく、同じ思いをもつ仲間として助け合う関係性を築いていく。

 今夏、西日本豪雨災害があった際に、中村さん(アースキューブジャパン)は被災者やボランティアのための宿泊場所を提供してくれる宿を募ったところ、当初8カ所募集するつもりが、結果的に50軒以上の協力先が集まりました。これは、それまでに繋いできた関係性が「発酵」した結果です。

 効率や競争に価値を置いた社会構造を「男性系経済」と表現する中村さん。そしてそれは、縄文時代から弥生時代に入り、米の備蓄が始まった時から始まっている、と話します。「蓄える」ということは「量」の問題となり、富(お金)の合理性の世界になっていきます。しかし本来は、時間の合理性や美の合理性、心の合理性など、様々な"合理性"があるはずで、これからはそうした別の合理性に目を向けた「女性系経済」にシフトさせていきたい、と言います。

*

ここから先は

2,630字 / 4画像

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?