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【ピックアップ】逆噴射小説大賞2019より19作品

よくきたな。わたしは餅辺です。

今年も逆噴射小説大賞の応募期間が終了しました。真の男たちが撃ちはなったパルプの弾丸はダイハードテイルズさんのマガジンに集積され、審査の時を今かと待ち望んでいます。

私もまた自身のパルプの弾丸を撃ち終え、一息ついたのちマガジンへアクセスし、投稿作640ノートを全て読み終えました。どの作品も素晴らしく面白く、ストレートな格好良さに奇想天外な胡乱さ、小説としての力強さや興味を惹く独特な文体などなど、多種多様な楽しみ方をさせてくれました。

そこでわたしは感謝の意味も込め、膨大な作品群の中から特にという19作をピックアップし、あなたに紹介させていただくことにしました。正直に言うとあと50作くらい紹介したかったのですが、色々大変なので断念しました。前置きはこのくらいにして、始めることにしましょう。


1.名探偵には遅すぎる

『私』の到着時、全ては終わっていた。凄惨な殺害現場を前に、名探偵は当然のように推理を始めていく。衝撃的な書き出しから、冷静に綴られていく調査光景に想像力をくすぐられるのが心地いい。舞台設定と、何名かの死体が既に登場していることも合わさり、登場人物の名前と年齢を見ているだけでも興味が尽きない。数々の謎の断片は、果たしてどのように結実するのか。好奇心を昂らせてくれる一編。


2.右腕狂想曲

全身サイボーグ、電脳、義体パーツショップ……不穏なワードが飛び交う中に繰り広げられる、大きな買い物に浮かれる女子高生とそれを心配する友人というありふれた光景が、この世界の常識と2人のキャラクターを短い尺の中で丁寧に描き出している。ラストはごく少ない文量だが、タイトルとも合わさり、物語の始まりを強く予感させてくれる。ワザマエの光る一編だ。


3.復讐するは今にあらず

失速せずに進んでいた殺意は、不意な事故から止まってしまう。しかし状況はそれを許さず、物語は刻一刻と先へ進んでいく……緊張感に溢れたシチュエーションと、復讐者たる丸山の切羽詰まった心の動きは、全体に強い緊迫感を漂わせる。それは読者をも巻き込み、否応なくページを捲らせる……そんな展開を期待させてくれる一編だ。


4.冥竜探偵かく記せり

『冥竜探偵』の響きがまず格好いい。竜と洞窟というファンタジーでお馴染みのシチュエーションの中、冥竜シャールは冷静に推理を巡らせる。そのギャップがたまらない。雷竜ゴルオーンを殺害したのは何者なのか。その手段は。最後に登場した女性は犯人なのだろうか? それとも助手として……様々な疑問をシャールが紐解いていく様が楽しみになる、キャラクターの魅力を感じる一編。


5.悪党の対歌

わるい野郎だ。悪党2人は石造りの牢屋にブチ込まれ、処刑を待つほどの悪事を、そんな一言でぐつぐつと笑ってみせる。本当にわるい。文章のテンポがとても小気味良く、それでいて悪党2人の悪さや性格(性質?)の違いが如実に表されている。悪党ラザルはあっさり看守を殺し、先を諦めていた悪党ピンカスを平然と脱獄させる。そのあまりにも軽い様が恐ろしく、先を読むのが怖くなる。だが読んでみたい。魅力ある一編だ。


6.僕らはどこにも続かない

残ったのは、俺一人。「誰かに愛されると死ぬ」そんな奇病による死に縋り付く主人公の孤独感、絶望感。そして終末的な雰囲気が良く表れており、ラストに現れた少女との出会いが、一筋の光明として差している。だが奇病の症状が生き残りの推察通りだとすれば、主人公と少女、そのどちらかが孤独の中で死んでいかなければならない。不穏なタイトルもまた、過酷な物語を予感させる。雰囲気の素晴らしい一編だ。


7.魔法使いの弟子

初見の際、不覚にもシド・ディアスの気持ちを追体験してしまった。度肝を抜く展開の後に待ち受けるのは、さらなる波乱を予感させる展開。タイトルからは穏やかそうな印象を受けたが、いざ読むと息もつかせぬ展開の連続に飲み込まれてしまった。シドは真相を知ることができるのか。電話を切らずに戦い続けられるのか……映画を観るように読み進めたい。そう思わせてくれる一編だ。


8.エスコートの流儀

格好いいキャラクターというのは、読者を物語に引き込む上で大きな役割を果たす。この老婆はまさにそれだ。「この先」の想像を二転三転させる構成も素晴らしいが、最後に「エスコートの流儀」というタイトルにピタリと嵌まるところがたまらない。少年はなぜ父とファミリーを憎むのか。巨大な敵を相手に2人はどう戦い抜くのか。純粋な楽しみを持って読み進めたい一編だ。


9.リバイバル・オブ・メモリー

妻を失い、悲しみに暮れる夫。そんな彼を大きな謎が突き動かす。平然と銃を抜き、人を殺してみせる自身。襲いかかる隣人たち。妻を失った時のために残したメッセージ。そして最愛の妻の過去とは。記憶を持ちながらも主人公の妻として振る舞っていた、そんな彼女の存在が大きなアクセントとなっており、これから明かされていく記憶に興味を湧かせてくれる一編。


10.地龍VS事故物件

地龍、VS……事故物件!? インパクトのあるタイトルから、地龍の恐ろしさを簡潔に表す一文、その深刻な被害状況、そして意外な形で関わってくる事故物件……と短い中に物語が詰まっている。加納と松山、2人は何者なのか。そして事故物件の曰くはどのように物語に関わっていくのか……全く想像がつかない、想像を裏切ってくれるだろうと期待させる、魅力的な設定の一編だ。


11.Dance, Defence, Rock'nRoll

動機は力だ。精細に書かれた『彼』の演奏の描写は、主人公がいかに彼を尊敬しているかを雄弁に語り、その思いの強さで物語を進めてくれるのだろうと胸を膨らませてくれる。主人公は一般人に過ぎず、顔見知りも少ない。相手は銃まで持っている上、単独犯か組織かすら不明。おまけに冒頭で捕まってしまった。だが彼はきっとやり遂げてくれる。何を? 警備を。シンプルなフレーズが力強く印象に残る一編だ。


12.夜を泳ぐものたち

閉塞感を感じさせる冒頭から、『僕』の視点が急速に広がっていく様が心地よい。夜を泳ぐ描写も美しい。夜空に孤独を求める少年は、同じ夜を泳ぐものたちとの出会いでどう変わっていくのか。彼らは昼、どう過ごしているのだろうか。少年と同じように記憶もない日々を送っているのだろうか。それとも……ただよう空気感が素敵な一編。


13.アンバーグリスの心臓

クジラ狩りの花形は空。しかしミオは海に憧れる。短くもまとまった『見上げた』光景は、ファンタジーながらも真に迫った質感が溢れており、想像を掻き立ててくれる。ミオが海に出る日、何を見るのだろうか。それとも父とは違い、空を行くのだろうか。その時、ミオの対を行くものは。〈天使の殻〉、ひとかけらの灰コハク、その日の船団を帰らぬものにしたクジラ……魅力的な世界観に張られた様々な伏線が、続きへの期待感を高めてくれる一編。


14.着地屋稼業

『着地屋』の今回の顧客は、一頭の知性化されたジャイアントパンダだった。おれ視点のユーモラスな語り口と、着地屋の地に足のついた設定が楽しい。地上でまっとうな暮らしをするには、しっかりと宇宙から着地しなければならない。そのために何を考え、どうパンダを着地させていくのか……着地屋の手腕が問われる。パンダのキャラクター性も楽しみな一編。


15.ヴェロニカはそこにいる

再現されたヴェロニカと、死んでしまったヴェロニカ。2人を隔てる31時間の記憶。『僕』はそのことを伏せながら、再現された妻とうまくやっていかなければならない。31時間の中で何が起こったのだろう。再現されたヴェロニカは何も知らないのだろうか。31時間に至る動機が彼女の内にもあるのなら、僕が何も語らずとも、彼女は真相へ辿り着くのでは。後ろめたさを覚えながらも、それでも再現された妻との生活を求めた僕の心理とは……スリリングな雰囲気に溢れた一編だ。


16.去りゆく冬の日々

最低限の情景描写から、ハッキリとした映像が浮かんでくる。状況は会話の中で自然に説明され、地の文の少なさと相まってスッと心に入ってくる。それでいて雰囲気を損なわず、終始ただよう寂寥感と人の温かみが心地よい。タバコや線香、些細な小物からも登場人物たちの心情が窺える。秋や冬に静かに読みたくなる素晴らしい一編だ。


17.仇統のアスタリスク

全体的に情報の密度が高く、800字と思えないほど内容が詰まっている。二十八星。星統教。紋付きの装備。竜の心臓。王国。「先を越された」……ハードな物語の始まりに散りばめられた伏線群は、おそらく物語が進むたびに読み返すことで新たな発見を得られるのだろう。そう思わせるだけの力強さを感じる一編。


18.106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

タイトルがまず素晴らしい。もしこれが「106つのジョー・レアルの生首」あるいは「108つのジョー・レアルの生首」だったとすれば、私はここまで興味を惹かれなかったと思う。状況は不可解に満ちており、謎めいたタイトルが現時点での首数が106個という事実と相まり、先の読めない展開を予感させる。そしてそれすらも人生で2番目に恐ろしい出来事へと変えるという、穏やかな声の人物とは。謎に満ちた魅力の一編。

なんと既に続編が書かれているらしい。

19.かく語りき、一輪の星

短いフレーズの繰り返しが、乾いた文面に力をみなぎらせている。核戦争で荒廃した世界。一挺の銃と五発の弾丸を携え、『俺』はどこへ、何を求めて歩いていくのか。彼の自由がもたらすのは戦いか。それとも救いか。決めるのは彼自身だ。シンプルだが独特の味があり、強く印象に残った一編だ。


未来へ

以上、19作品をピックアップして紹介させていただきました。どれも素晴らしい作品だらけなので、その魅力の一片でも伝わればと思います。

前回の逆噴射小説大賞と比べ、応募作品の総数自体は減少しましたが、文圧とでも言うべきものは更に増しており、力みなぎる作品の数々に、わたしも歓喜と血反吐に悶えながらのピックアップとなりました。二度にも渡り開催していただいたダイハードテイルズさん、逆噴射聡一郎先生。そして沢山の作品を読ませてくれた参加者の皆さま方、本当にありがとうございました。

終わりとなりますが、今回取り上げられなかった作品にも、パワフルな作品やあなたの心臓を撃ち抜く作品がわんさとあります。なので#逆噴射ピックアップタグだけでなく、集積マガジンもご覧になると、もっと楽しめるでしょう。(全部となると掛け値なしに大変ですが、一つ一つは短いので、隙間時間につまむ形でも十分楽しめます!)

そして楽しんだ作品にスキを付けたり、時間が許すなら感想ツイート行為やピックアップで発信してみましょう! スキを表現するのに遠慮はいりません! ハートマークのボタンをポチッと押すだけで書き手を喜ばせられる貴方が、そんなところで尻込みする必要はないのです! 未来へ……!

(おしまい)

(【油断なき商人の目】餅辺のパルプの弾丸はコチラ

それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。