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【ピックアップ】逆噴射小説大賞2021より21作品

よくきたな。わたしは餅辺です。

鮮やかなタイトルと趣向を凝らした800文字の書き出しのみで、どれだけ次のページを捲りたくならせるかを競いあう。そんな熱き戦いが繰り広げられた逆噴射小説大賞2021も募集期間を終え、あとは選考を待つのみとなりました。

投稿された作品はなんと403作! どれもすごいエネルギーが集まって溢れるパワーがミクスチャーされた質量がパッションしてすごい! わたしは全投稿作を読み切りましたが、モニター越しにビシビシ突き刺さる熱気がすごく、今年もハイレベルな争いになったことが実感できました。

そんな熱気溢れる作品群。あなたも読んでみたいですか? 読んでみたいですよね。でも「403作もあるの? どれから読んでいいのか分からないよ」とか「全部読まなきゃなんか気持ち悪いし403作とかムリ! だから1作も読まない!」みたいな足踏み感情も当然あると思います。

もちろんどこから読むかは完全な自由であり、読むのをやめるのも自由。テキトーにちょっと摘んだからといって黒服の用心棒があなたを通せんぼしたりはしませんし、邪悪なそんざいが「読め・・・! ぜんぶだ・・・!」とかいって椅子に縛り付けたりもしません。

でもいきなり「403作から自由に選べ」と言われても困りますよね。なので今回わたしは数々の素晴らしい作品から21作品(2021なので)をピックアップし、あなたにご紹介させていただくことにしました!

それでは早速始めましょう!


1.竜をサウナに入れるには

山を巻く巨体の竜に、サウナの快感を味わわせるにはどうすればいいか。

突拍子もない難題だが、様々な省庁の関係者が集い、議論を重ねる光景は真剣そのもの。この世界の人間と竜との関係も会話文に散りばめるように描写され、トンデモなスケールの物語をうまく引き締めている。竜の台詞は一つだけだが、どこかユーモラスで面白い。


2.ライブ絵師JIN

冴えないお絵描き配信者が描いた絵が、突然動き出す。

絵に命が宿るというモチーフはありがちだが、ネット配信という現代性が絡んだことで好奇心をそそられる展開になっている。好き勝手に無責任なアドバイスを出すリスナーたち。正体がまったく謎な隊長や敵。隊長に物資を供給できる能力を持ちながらも絵が下手なジン。様々な要素が話の広げ方に期待を持たせる一作。


3.箱庭商事の幽霊ちゃん!

幽霊の出る会社、夜間警備のアルバイト。

そんなホラーなイメージは、続く文章であっさり覆される。深夜の会社内という絵面と裏腹な文面が、コミカルなタイトルと合わさって何とも言えない面白みを出している。幽霊ちゃんがオカルティックな存在と確定していないことで、いろいろ勘繰りながら読むのも楽しそうな一作。


4.蒼い牙

襲いかかった理不尽に対し、テングリに助けを求めるマラルと、復讐を誓うチノ。

戦う力のない少年と、力を持つ少年。実体のないものへの復讐という達成不可能な目標に対し、二人の物語はどう進んでいくのか。マラルの持つ不思議な赤い石とタイトルの「蒼い牙」がどう繋がっていくのかも面白そうだ。

(追記)……と早とちりで思っていたものの実際はだいぶ違っていたみたいです。


5.BUG

頼れるものはおらず、息抜きすらも自分にとってはバグだと断じる、幼い娘を持つ母。

焦燥感から逃げ出すことすら出来ない。息の詰まりそうな重苦しさの中に浮かぶ悪い想像の、さらに上を行く事態の兆し。ここから何が起こるのか。あるいは起こってしまうのか。いや、もしかすると起こしてしまうのかもしれない。不穏な展開に目が離せなくなる一作。


6.侵入主義者はかく定めき

日々を平然と過ごしながらも、現実に対する不穏な妄想を渦巻かせた少年。

侵入思考と呼ぶそれらに折り合いをつけていながらも、彼は時々それらを満足させるための『ギリギリの実現』を行っている。

それは一体何なのか? 「あるある」から徐々に外していき、引きに興味を持たせる展開が面白い。語り口もどこか他人事のようにユーモアが織り交ぜられ、楽しく読んでいける一作。


7.俳優アントニオ・マルティネスについての記憶

アントニオ・マルティネスの専任スタントは、副業に裏稼業を行っている。

心は本業にありながらも、舞い込むのは副業の依頼ばかり。ままならないシチュエーションの中で、絶対に断れないとんでもない依頼が舞い込んでくる。

本業、副業、そして自身の命。3つの秤が揺れ動く中、アントニオが男を問い詰めようとする。ドキッとする引きが印象的だが、『記憶』というタイトルも秀逸。それが何を意味するか様々な想像を浮かばせることで、本文の面白さに一役買っている。


8.イヴの葬送

亡くした姉の亡骸を葬るために、超兵器と化した骸を集めて回る男。

ハードで簡潔なサイバネ戦闘描写も魅力だが、主人公と姉、姉の恋人である「先生」の三者の関係性にも想像が膨らませられる。2/13から0/13へと繋がる引きも困難な旅路を予感させ、面白い。


9.月竜を喰む

月に広がる竜牧場。それを管理するAIと主人公の『私』。

彼女(彼?)に襲い掛かるのは食糧危機と、地球に起こったとんでもない事態。そしてその事態は、対岸の火事で済まされるようなものではない。魅力的で謎の多い設定にも惹かれるが、タイトルも謎めいていて面白い。竜を喰む。それが本作にとってどういう意味を持つのか。ここからの展開に期待の高まる一作。


10.秤は天地のいずこにありや?

死体の上半身は伯領。下半身は教会。裁判権はどちらにある?

法務代官のアルベールと司祭のシリル。彼らは昔馴染みの行商人ニコラを殺した犯人への裁判権を巡り、対立せざるを得ない。

2人のキャラクターがしっかりと立っており、切り捨てられがちな容姿の描写もあるので絵面が想像しやすい。犯人を追う過程に期待が膨らむ。一切情報のない4人目の登場も楽しみだ。


11.四号車、暗黒専用車両

「あの、ここは暗黒専用車両ですよ」

いつもの電車で帰っていたはずが、気づけば明らかな人外たちの乗り合わせた謎の車両。しかもその『暗黒』たちは極めて常識的で、やんわりと出ていくように勧めてくる。脳が混乱する状況の中、降りて外から見てみると、暗黒たちの中には信じ難い人の姿が。

ただただ奇怪な情景の後、ふたたび暗黒専用車両へ向かう動機が提示され、主人公が謎を解明していく展開を期待させる。漂う空気感がお気に入りの一作。


12.『一寸の虫』

やれるからやる。それが困難なほど面白い。

仕様造反者バグライダーの老義賊ダヤンは、脱出不可能な獄舎をいとも簡単に抜け出し、危険に満ち溢れた世界へ。彼の根底にあるのは極めて単純な、周囲の迷惑に無頓着な行動原理。そんな危険人物を脱獄させた謎の人物の目的とは? 仕様造反バグを利用したダヤンの盗みの手口とは?

独特な世界観と、ダヤンのキャラクターを魅力に感じる一作。説明だけでは不可解なバグ仕様造反をあっさり実演してみせる引きも面白い。


13.銀の網

リタイアした警察官の周辺に、不穏な事件の影が過ぎる。

高齢者向け定期宅配の弁当を届けに行くと、受取人は不在で、代わりにいたのは引越し業者を名乗る謎の人物。利三が対応策を考えているうちにも事態はさらに悪化していく。

最初の一行に違和感を持たせることで作中世界に引き込んできたり、ほんの少しの描写でキャラクターを立てる手腕が見事。


14.旗片の風

決して矢に当たらない女が身受けに提示したのは、自身に矢を当てること。

ならばと銃を向けるのは、どう見ても楊弓場に相応しくない軍人。彼が彼女を迎え入れようとする、その目的とは。

お由と軍人、どちらも非常に豪胆さを持った人物で、硬質な文章も合わさり、力強く物語を進めてくれるのだと期待させてくれる力のある一作。


15.どこにもない日

架空のアイドルに、脅迫される。

実在しない新人アイドルのSNSを代行していた男は、唐突に「本人」から意図不明な脅迫を受け、要求を飲まされる。解決できない問題ではない。そう考えていた男に、さらなる実在しない存在が襲い掛かり……

謎が謎を呼ぶ設定と、急展開のアクションの引きがシンプルに魅力的な一作。ヒグマはヤバい。


16.あの子に好きだと言ったなら

憧れのあの子と、5年越しの再会。……が勝手にセッティングされた。

土俵に上がる前に勝負から逃げ出し、かといって諦めもできずに「あの子」へのネットストーカー行為を5年も続ける男。そんなウジウジした悩みをバッサバッサと切り捨て、再会の約束を勝手に結ぶウサ耳のメイド。しかもメイド喫茶で。

ありふれた失恋話と非日常の存在の掛け合わせ、軽快に話が進んでいくテンポ感に独特の味わいが生まれている一作。どこか情緒不安定気味なメイドの性格も面白い。


17.ピーターパンの手枷

自棄になり、酔っ払い、グダを巻き、「今なら飛べる!」と叫んだら、飛べた。

当然降りる手段はない。やむを得ず同高度のタワマンに着地した主人公は、尿意に突き動かされるまま、最上階に暮らす少女を連れ出す約束を交わす。

謎の飛行能力、深夜まで起きている(おそらく)両親不在の少女、彼らが交わした実現不能な約束、後悔を匂わせる引き、「手枷」というタイトル。ふわふわした雰囲気と裏腹に不穏な気配が満ち溢れている、不思議な雰囲気が魅力的な一作。


18.あるいは、剣楽に痴れたる夜

斬奏。

打ち合い、斬り合い、心臓を切り潰すことすらも、彼にとって音を奏でる手段に過ぎない。展開はさほど大きくなく、両者の名も明かされることもない戦いがただ決着するだけなのだが、ここまで描写されるとそれ自体が大きな魅力を生んでいる。鍛えに鍛えた筋肉が全てを解決するのと同じだ。文章筋で思い切り殴られたい人は読んでみるといい。極めて異質な魅力のある一作。


19.デッド・オン・アライブ

正気を保つ仮面が、落ちる。

ゾンビが溢れ、狂った世界。ハイテンションな笑みを正気を保つ仮面代わりに、サテュオはただ、死んでいないから生きていた。そんな彼の笑みを溶かしたのは、死にながらにして生きる、喋るゾンビとの邂逅だった。

脳みそが溶けているはずのゾンビがなぜ喋るのか。彼はもともとどんな人間だったのか。サテュオはこの出会いから何を得るのか。ゾンビモチーフの中でも光るものを感じた一作。


20.彼女と蝶々と世界崩壊

お昼ごはんを食べ損ねると、巡り巡って世界が滅ぶ。

小さな蝶の羽ばたきが巡り巡って世界を動かすように、些細なトラブルから世界を滅ぼす少女、咲。そんな彼女と幼馴染の亨は、未来を見る能力によってトラブルを事前に解決。崩壊を防いできたのだが、ある時とんでもないトラブルが降りかかる未来を見てしまう。

特異な設定と、連想ゲームのように次々示される世界崩壊が小気味よく、些細なトラブルを解決する日常物かと思わせた上で予想外の展開に繋げてくる引きも面白い。


21.電波鉄道の夜

それだけでいい。

よくわからない機械が体内に入っているらしく、開かれなかったショッピングモールの跡地に住んでいて、働いているはずで、非実在のアイドルの声を電波によって聞き、それと会話することもできて、駐車場にヘリの残骸が落ちていて、電車が街中を走っている。

どういうことかと考えてみても、よく分からない。けれども読んでいて面白い。ただ読み進めて、読み終えた後にパタンと本を閉じ、天井を眺めながら内容を振り返る。そんな楽しみ方が出来そうな一作。


未来へ

以上で21作品の紹介を終わります。あなたの興味を引く作品は見つかりましたか? 見つかったなら是非読んでみてください! 見つからなかったのなら他のピックアップ記事を読んでみたり、集積マガジンにダイブしてみるのも良いでしょう。

わたしは血涙を流しながら21作品に厳選しましたが、まだまだ魅力的な作品は山ほどあります。あなたの心にビビッとくる作品が、その中にきっとまだまだ眠っています! わたしはあなたではありません。あなたにとって最高の作品を見つけるのは、あなたにしか出来ないのです。ですがそうして最高の作品と出会えた喜びもまた、あなただけの物なのです!

そしてお気に入りの作品を見つけたら、スキを付けたり感想ツイート行為で感情を発信してみましょう! スキを表現するのに遠慮はいりません! ハートマークのボタンをポチッと押すだけで書き手を喜ばせられる貴方が、そんなところで尻込みする必要はないのです! 未来へ……!

【おしまい】


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それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。