電車で隣に座っただけで「ありがとう」と言われた話
「ごめんね」
「今日は暑いね」
「お姉さんは名古屋に行くの?」
「ありがとうね」
ほんの十数分
おじさんが私の隣に座っていた間に交わした会話
生きていて思うところがあったのだろうか
―――
「若い女の隣に自分が座る」ということがタブーであると思い知らされて生きてきたのか
相手が誰であってもこのおじさんは謝ったのかもしれない
私の隣は偶然空いていて、その人はそこに座っただけ
ありふれた日常の一部分である
丁寧な人、と言うだけで片付けてはならない気がした
―――
おじさんが隣に乗ってきた瞬間に「うわ、きた」って思わなかったか
小綺麗とは言えない見た目のおっさんが隣に乗り込んできたと邪険に思わなかったか
隣で小銭をチャラチャラさせているのを不審に思っていなかったか
差別的な視線を向けてはいなかったか
きっとそんな視線を何度も感じてきたのだろう
だからこの人は、偶然空いていた席に座っただけで「ごめんね」と謝罪したのだ
少し会話をしただけで「ありがとう」と言ったのだ
ごめんねと言わせてしまってごめんなさい
私もあなたにそう言わせてしまった世界の一部だから
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