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【声劇台本】I see you.(男2:女1)

登場人物(男:2、女:1)

・アルベルト・デニィー/男
考古学研究で注目を浴びる若き学者。仕事熱心なあまりプライベートは破綻している。プライドが高いせいで人付き合いもよくないが、本当は素直で真面目な性格。

・リン/女
アルベルトを誘惑しようとしたベルの妹の悪魔。元は感情を持ち合わせて居なかったが、アルベルトと過ごす内にどんどんと明るくなっていく。

・ベル/男
アルベルトと勝負という名の契約を交わしたリンの兄の悪魔。享楽主義で物事を深く考えない。

サブキャラクター(兼ね役可能)
・女1…2セリフくらい
・女2…2セリフくらい
・店員…ちょっと多い
・研究員1…2、3セリフくらい
・研究員2…2、3セリフくらい

【時間】約50分
【あらすじ】
アルベルトは優秀な学者だ。ある日一冊の古い書物を紐解こうとページを捲れば、悪魔を名乗るベルと言う青年が現れた。ベルは自分の所有物である書物を勝手に持ち出した事に腹を立て、一つの勝負を持ちかける。「これから一年、恋に堕ちてはいけない」と。


【本編】


ベル「俺はお前が勝つ方に賭ける」

リン「もし私が負けてしまったら?」

ベル「何でも願いを叶えてやるよ」


スマホの着信音

アルベルト「うん…?あぁ、しまった、寝ていたか…スマホスマホ…電話誰だ?…あぁ、はいもしもしアルベルトだ…あぁ、大丈夫だ、うん…あぁそれは……」



アルベルト「あぁ、ではまたこちらから連絡するよ。それじゃ………はぁ、仕事が山積みだな。ま、篭りきりの方が集中出来るし他人に邪魔されないなら何でもいいか」

傍の書物を寄せるアルベルト

アルベルト「さて、この間海外のツテで譲ってもらったこの書物…もっと詳しく読み解かないと…ふふっ、やっぱりこういう研究はわくわくしてしょうがない…」

アルベルト「しかしこの文字は…年代的にも…ふむ…ん?このページは…?……何だ!?眩しいっ……うわぁ!?」

急に眩い光に包まれる

アルベルト「うっ…なんだ?真っ白い空間…どうなってるんだ?」

ベル「よぉ、お前か?俺の本を勝手に開けた奴は…?」

アルベルト「え?うわぁ!?」

ベル「随分ひょろ長な男だなぁ?お前名前は?」

アルベルト「……あ、アルベルト。お前は誰だ!?」

ベル「俺はベル。悪魔だ」

アルベルト「あ、くま…?」

ベル「その顔信じてねぇな?ま、人間なんてそんなもんか。つーかお前!何俺の本を勝手に持ち出した?これは俺の魔力を制御する為の大事な魔術書なんだよ」

アルベルト「ま、魔術書?あの書物が!?でも大分古い物に見えたが…?」

ベル「勝手に知らねー国に運びやがって何様のつもりなんだか…ま、いいやちょっと面白い事思いつーいた」

アルベルト「え?」

ベル「お前、俺の目を見ろ」

アルベルト「は?何で…」

ベル「俺の目を見ろ。そうだ…見せてみろ。よぉく見せな…」

アルベルト「……何を」

ベル「ふぅん…アルベルト・ディニー。考古学者とか言う奴?…若い割には結構有名らしいな」

アルベルト「な、なんで俺の事…⁉︎」

ベル「後お前…ふふっ、人間関係あまりよく無いな?それはそのプライド故か…」

アルベルト「っ…さっきからなんなんだ!?急に現れて…あぁ、これは夢か!それしかないな…ははっ最近疲れてたからな…」

ベル「現実逃避は人間の十八番だな…どう思われてもいいさ…俺は俺のしたい事をする」

アルベルト「ふん、好きにしろ。俺はさっさとこの夢が覚めれば良いと思うだけだ」

ベル「じゃあアルベルト…俺と賭けをしようぜ」
アルベルト「賭け…?」

ベル「あぁ、お前が俺との勝負に勝てばなんでも一つ願いを叶えてやる」

アルベルト「願い?」

ベル「あぁ、富でも名声でもお前の知らない知識でもなんでも…だ。どーだ?魅力的だろ?」

アルベルト「面白い夢だ…いーよ。その勝負乗ってやろう」

ベル「随分あっさりだな。ま、その方が楽で良い。契約成立だ♪」

アルベルト「で、どんな勝負だ?早いところこの夢から醒めさせてくれ…仕事が山積みなんだ」

ベル「そうだなぁ…。アルベルト、お前は一年以内に誰かと恋に堕ちなかったら…お前の勝ちだ」

アルベルト「誰かと恋に堕ちる…?」

ベル「つまり一年間恋愛禁止って事だ。簡単だろ?」

アルベルト「……まぁ、いいよ。俺は今かなり忙しくて彼女なんて作る暇もない。一年なんてあっという間さ」

ベル「強気だね〜、夢と思ってるからなのもあると思うけど…お前は性格が難ありだから女性経験大してないだろ」

アルベルト「そこまで読めてんのか…ちょっと腹立つな…」

ベル「しかしお前が良いならこの契約で賭けは成立だ。どーする?」

アルベルト「乗ってやろう。俺が勝てばお前の魔術書とやら以外の資料を寄越せ」

ベル「ふふっ。いいぜ!じゃあ期限は今日から一年後だ!アルベルト、契約だ!」

辺りが白く輝く

アルベルト「うっ、また…眩しい……うわぁぁ!?」

机に突っ伏して寝ているアルベルト

アルベルト「……ん?また寝ていた…?……夢か。変な夢だな…うん?本のこのページ…。挿絵が描かれてる…まるで悪魔みたいに凶々しいイラストだ…悪魔…ベル…まさか、な…」

時計を見る

アルベルト「2月24日…ふん、まぁ色恋は今の俺には不必要だし、変なスキャンダルも起こしたくないから好都合か…一年なんてあっという間だ!研究に集中してやる!」


1ヶ月後

アルベルト「……おかしい」

女1「ねぇ、あの人カッコ良くない?」

女2「つかテレビとか新聞に載ってたよね?若くて優秀な学者さんだって!」

女1「嘘〜!ちょ、声かけちゃう?」

女2「やだー!ワンチャン狙っちゃう?」

アルベルト「おかしい。非常におかしい…」

女1「お兄さ〜ん、良ければ私達とお茶でもどうですかー?」

女2「お兄さんテレビで見た事ある気がするー!ねぇねぇお名前はー?」

アルベルト「あ、あぁ…。その…すまないが君らに構ってる時間は無いんだ…。悪いがそこを退いてくれないか?」

女1「は?何か冷たくない?」

女2「えー、ノリ悪いタイプかよ」

アルベルト「え、怖…」

女1「でもそこも良い〜!ねぇねぇ遊ぼー?」

女2「うちらと恋してみちゃっても良くね〜?」

アルベルト「急いでるんだ!失礼する!!」



走り去るアルベルト

アルベルト「はぁはぁ…気分転換で散歩に出たのに…何て雑なナンパ…いや、ここ最近ずっと似たような事ばかりな気がするが…。あぁ、公園か少しベンチで休んでから帰ろう…」

公園のベンチに座るアルベルト

アルベルト「はぁ…しかしさっきのは何だ?あの夢以来女性が近付いてくる頻度が段違いだ…」

ベル「そりゃ俺が魔法をかけてるからな」

アルベルト「そうかい…君のせいか……………え!?お、お前はあの時の夢に出てきた…!?」

ベル「ベル様だぜ♪びっくりしたー?」

アルベルト「び、びっくりというか…何故お前がここに…!?夢じゃなかったのか!?」

ベル「夢じゃねーよ。俺は正真正銘悪魔だ。契約はちゃんと続行中!つーか、お前がお堅過ぎるから人間の女の行動を操ってお前にけしかけてんだよ」

アルベルト「…随分ファンタジーな事をやってるみたいだが随分雑じゃないか?さっきの女達なんて感情の切り替えがホラーだったぞ」

ベル「そりゃ完全に魔法かけたらお前と恋に堕ちるなんて簡単だ。でもそれじゃ女の方は本心じゃないから賭けは俺の負けになる」

アルベルト「なるほど…互いに本心から恋をしないといけないのか…。つか俺の方が誰かに恋するのは簡単だって言いたそうだな」

ベル「童貞だろお前?」

アルベルト「んな訳あるか!い、一回…くらい…学生の時に…だな……」

ベル「照れる位なら続きは聞きたくねぇなぁ…しっかし女っ気ない時間が長いとここまで拗らすかぁ…こりゃ一年なんてあっという間か…?不味いなぁ」

アルベルト「色々腹立つし聞きたい事は山ほどあるが…お前が悪戦苦闘する様は面白いなぁ!ふん、こうなったら最後まで勝負してやるよ」

ベル「人間の上から目線超うぜー!…そういうのがモテない証拠だろ?」

アルベルト「うるさい!一言多いなお前は!…ま、精々雑な魔法で俺を堕としてみろよ?じゃあな悪魔ベルくん♪」

立ち去るアルベルト

ベル「……こうなりゃ奥の手を使うか…」


数日後

アルベルト「ここ数日…研究室に篭りきりだったな…久し振りに近くのカフェに行こう。…またベルが変な事をしなければいいが…」

カフェ
扉を開ける音

店員「いらっしゃいませー。あちらの席へどうぞ」

アルベルト「ありがとう…ちょっと混んでるな。すぐに座れるだけマシか」

店員「お決まりになりましたらお声掛け下さい」

アルベルト「あぁ、コーヒー一つ。ブラックで」

店員「かしこまりました、失礼致します」

アルベルト「ふぅ…ノートパソコン持って来てるし、データを少し見直すか…」

カフェの扉が開く

リン「あの…すいません…」

店員「いらっしゃいませー。一名様ですか?」

リン「はい…人、多いですね…」

店員「そうですねぇ…すいません、今満席の様で…相席でよろしければお通し出来ますが…」

リン「では、それでお願いします」

店員「かしこまりました、ではこちら………あちらの席へご案内いたします」

リン「はい…」

店員「すいませんお客様」

アルベルト「はい?」

店員「只今席がいっぱいでして、相席をお願いしても宜しいでしょうか?」

アルベルト「え、いや…相席ならもうちょい広い席の方が……」

リン「あの、ご迷惑でしたか…?」

アルベルト「え、女性…。っ……え」

リンに見惚れるアルベルト

リン「…あの」

アルベルト「あ、いや…べ、別に大丈夫です!ノパソ片付けるので…相席で良いですよ!」

店員「有難う御座いますお客様!」

リン「有難う御座います…すみません、お忙しそうな所を…」

優しく微笑むリンに顔を赤くするアルベルト

アルベルト「い、いえ…作業はここじゃなくても出来るので」

リン「では、こちらの席失礼しますね…すみません店員さん、コーヒーをお願いします」

店員「かしこまりました」

アルベルト「……美しい」(ボソッ)

リン「え?何か仰いました?」

アルベルト「あ!いえいえ、な、何でも…」

リン「…やはりご迷惑でしたか?」

アルベルト「そんな事ありません!その…お恥ずかしながら緊張してまして…」

リン「何故、緊張してるのです?」

アルベルト「あ、貴女が美しくて…」

リン「え」

アルベルト「はっ!?お、俺は今何を…!?す、すす、すいません!今のは違くて…いや、違くは無いんですけど、つい口に出たと言うか、俺こんなん言うキャラじゃないんですよ、本当…!その…」

リン「ふふっ…」

アルベルト「あっ……あはは」

店員「失礼致します、コーヒーお持ちしました」
アルベルト「あ、ありがとう」

リン「ありがとうございます」

店員「ごゆっくりどうぞ」

アルベルト「あ、ミルク入れます?」

リン「はい、貴方は…」

アルベルト「俺はブラックで大丈夫です…」

リン「……あの、お名前お聞きしても宜しいですか?」

アルベルト「へ、あ、あぁ名前!お、俺はアルベルト・ディニーと申します」

リン「アルベルト…素敵なお名前ですね」

アルベルト「き、恐縮です…」

リン「私はリンと言います」

アルベルト「リン…貴女も素晴らしい名だと思います。…はは、本当俺今日どうしたんだろう…こんなに緊張してるのに誰かと会話するのが楽しいって思えたの久しぶりだ…」

リン「そう…なんですね」

アルベルト「実は俺、学者をやってまして…まぁまぁメディアに顔を出す事があるんですけど、チヤホヤされるのが苦手というか人に邪魔されたくないっていうか…」

リン「はい…」

アルベルト「それのせいでちょっと他人との距離を取ってしまって全くモテないんですよね、でも…なんだか貴女といるとそういうのを感じないって言うか…って、本当何言ってんでしょうね!初対面で訳わかりませんよね…ごめんなさい」

リン「いいえ、寧ろ初対面でそこまで話してくれるなんて嬉しいです。…私達相性がいいのかしら」

アルベルト「…そ、そう…か、ははっなんだか照れますね」

リン「あの、もし良ければ連絡先交換しませんか?またゆっくり話がしたいです」

アルベルト「お、俺で良ければ!……あ、」

リン「アルベルト?」


ベル「一年位内に誰かと恋に堕ちたらお前の負けだ」


アルベルト「……いえ、すいません。すぐに戻らないといけなくて…ここは俺がお金を出します。有難うリン、楽しい時間でした…」

リン「え、ちょっとアルベルト!?」

アルベルト「さようなら」

お金を置いてカフェを出るアルベルト

アルベルト「……くぅぅ…!ベルの幻聴が聴こえて正気に戻ったぞ!また微妙に雑な感じで来たからこれもきっとベルの差金だ!あんなに好みな女性がこの世にいたとは…!しかし、あれでほいほい誘いに乗ったらベルの思惑通り…きっと彼女もベルの力で俺に好意的だったんだろう…そう思うと泣けてくる…」


数日後

アルベルト「はぁ…気持ちが落ち込むと研究室や自室に籠るのは癖かなぁ…。しかし少しでも外に出るとまたベルの仕向ける雑なナンパの嵐だ…挙句の果てに外に出なさ過ぎとベルに言われる始末…良いだろ!どういう風に過ごしたって!!」



アルベルト「…カフェでコーヒーでも飲んで頭を覚ますか………。流石にまた彼女に会えるなんて…ないか、そんな偶然…」

カフェに入るアルベルト
ガチャっと扉を開ける音

店員「いらっしゃいませー!」

アルベルト「あれ、結構混んでる…」

店員「すみません、今満席でして…」

アルベルト「あ、そうなんですか…うぅん、じゃあ今はいいかな………あ」

店員「お客様?」

リン「あ、アルベルト!」

アルベルト「リン!?」

店員「あちらの方のお連れ様でしたか?」

アルベルト「あ、いや彼女は…その…」

リン「アルベルト、良ければこちらに来て下さい」
アルベルト「え」

リン「貴方が良ければまたお話がしたいの」

アルベルト「……すいません、あそこの席でいいですか。コーヒーのブラックを一つ」

店員「はい、かしこまりました!ごゆっくりどうぞ」

席に着くアルベルト

アルベルト「すみません、リン…」

リン「ふふ、ようやく会えた…」

アルベルト「え?」

リン「貴方がまた来るんじゃないかと思ってこのカフェに通っていたの」

アルベルト「え!?」

リン「…なんだかストーカーみたいで気持ち悪いよね…自分でもどうかしてる気がするわ…」

アルベルト「何でそこまで…」

リン「私がアルベルトに会いたかったから」

アルベルト「……っ」

リン「こういうの…なんて言うんでしょうね…貴方は分かる?アルベルト…」

アルベルト「……それは俺も同じ気持ちだ…リン、俺も君が…」

店員「失礼いたしまーす!コーヒーお持ち致しましたー」

アルベルト「すぅぅう……」(声に鳴らない呻き声)

店員「……ごめんなさい、何か間が悪かった気がします」

リン「ふふ、うふふふ!」

アルベルト「…こりゃ俺の負けか」(ボソっ)


時が経ち

アルベルト「俺の負けだ…」

リン「ふふ、今日も待ち合わせは私の方が早く着いたね!」

アルベルト「おかしい…いつも君が早いから俺も早く出るようにしてるのに全く敵わないなんて…リン、君はいつからいるんだい?」

リン「さぁ?でもいいじゃない。お互い早く来たってことは帰るまでの時間が長くなるのよ」

アルベルト「……そうだね。行こうか、今日は映画を観に行こう」

リン「その後はカフェでお茶して…」

アルベルト「あ、近くの公園!薔薇の花が咲いて見応えがあるらしいよ」

リン「楽しみ!行きましょうアルベルト!」

アルベルト「こら、そんなに引っ張らないでリン」

楽しそうにはしゃぎながらデートをする二人


後日、アルベルトの研究室廊下

研究員1「なぁ、今日はアルベルトさんこっちの研究室に来てるのか?」

研究員2「あの人ってマジで何考えてるか分かんないわよね、部屋に篭りきりだったかと思えば最近は女の名前呟いてニヤニヤしてたわよ。きも」

研究員1「滅多な事言うなよ、あの人地獄耳だぞ」

アルベルト「お前ら俺の事そういう風に思ってたのか…」

研究員1「うわぁ!?あ、アルベルトさん!」

研究員2「お疲れ様です、アルベルトさん」

アルベルト「…はぁ、今日は部屋に籠るからあまり呼ばないでくれ、じゃあな」

アルベルト去る

研究員2「あの人絶対モテないでしょ」

研究員1「言うなって!」


アルベルトの研究室

アルベルト「はぁ…最近こっちに集中出来てなかったから作業を進めないとな…。それにこの本…ベルは魔術書と言うが………ベル」

ベル「なんだよアルベルト」

アルベルト「っ!?…ベル、お前はまたいつのまに俺の近くに…」

ベル「俺は常にお前のそばにいる。なんたってお前と俺は契約を結んでいるからな」

アルベルト「……如何ともし難い。勝負は俺の負けの様だ。願いなどどうでもいい程俺は彼女と恋をしてしまった」

ベル「キザっぽいねあんた。…しかし、そうかそうか…お前の負けかぁ♪」

アルベルト「あぁ、どうすればいい?この本は譲ってくれた人に返せばいいのか?それともお前?」

ベル「いひひひっ、俺の勝ちかぁ!後3ヶ月だったのにぃ♪じゃあお前の魂を頂くとするかぁ!!」

アルベルト「え?」

ベル「なんだよそのマヌケ顔!傑作〜。…いひっ。じっとしてろよアルベルト…」

アルベルト「な、何だ?俺の首元に手を持って来て…、何をする気だ?手をどけてくれ邪魔だ…」

ベル「このまま指を食い込ませたらどーなるかな?」

アルベルト「ふざけるなベル!」

ベル「おっと、いってぇ…いきなり俺の手をはたき落とすなよ」

アルベルト「俺を殺す気か?」

ベル「…くく、あぁそうだよ!…でもまぁちょっと意地悪だったか」

アルベルト「は?」

ベル「言い忘れてたんだよ♪人間と悪魔の契約は魂を賭けるって。つまり勝負に負けたお前は死ぬの」

アルベルト「言い忘れで命を賭けられてたのか俺は!?」

ベル「そゆこと♪…ま、暇潰しがてらで無理やり結んだ契約だからな、ラストチャンスをやろう!俺は優しい悪魔様だからな」

アルベルト「…優しい悪魔?どの口が…」

ベル「うっせーな、言い忘れただけなんだよマジで。大目に見やがれ」

アルベルト「…しかし、本当に魂を?非科学的過ぎるだろ…」

ベル「あの女と別れろ。あの女に嫌われろ。そしたらお前の勝ちにしてやる」

アルベルト「リンと…?」

ベル「あぁ、簡単だろ?」

アルベルト「…何でそんな事を聞かないといけない?俺は彼女を…」

ベル「じゃあ死ぬか?アルベルト」

アルベルト「っ、今度は俺の胸元に手を持って来て、何をするつもりだ?」

ベル「こうするんだよ!」

アルベルト「ふっ!?ぐっ、うぅうああぁ!!?」

ベル「俺の魔法だ…!どうだ?心臓を握りつぶされてる感覚だろ?こうも簡単に人の命を奪える事が出来るんだぜ?俺は…」

アルベルト「苦しっ…やめ、やめてくっ…うぅ…」

ベル「はい、やーめた♪どーだ?アルベルト」

アルベルト「はぁ、はぁ…あ、あぁぁ…」

ベル「これで分かっただろ?俺はマジだ」

アルベルト「ひっ……」

ベル「いっひひ…楽しみにしてるぜアルベルト…またな」


ベル消える

アルベルト「…はぁ、はぁはぁ…。あ、あぁ…す、スマホ……」

スマホで電話をかける

リン「もしもし、アルベルト?どうしたの?」

アルベルト「ごめん、リン…。話したいことがある…近くの公園に来てくれるかい…」

リン「うん、いいよ…。どうしたの?大丈夫?アルベルト」

アルベルト「……大丈夫。待ってるね」

電話を切る

アルベルト「……ごめん。ごめん、リン…本当にごめん……」

①①
公園

リン「アルベルト、お待たせ」

アルベルト「リン、…ごめんね急に呼び出して」

リン「私は大丈夫…どうしたの?顔色が良くないけど」

アルベルト「…リン、ごめん。君とはもう会えない」

リン「え?」

アルベルト「君の事が嫌いになった」

リン「アルベルト…」

アルベルト「リン!君は俺には相応しくない一般の女性だ!…いきなりで本当にすまないとは思ってるが、君にはもう会いたくないんだ…」

リン「…アルベルト」

アルベルト「だからもう…俺の事は忘れてくれ」

リン「……」

アルベルト「……リン」

リン「……うん?」

アルベルト「…どうして何も言わないんだ」

リン「……」

アルベルト「どうして黙ってる!俺は君に…」

リン「好きだから」

アルベルト「え…」

リン「どう言われたって私はアルベルトが好きだから…」

アルベルト「俺はもう君の事は…」

リン「それでもいい。本心でも本心じゃなくても…私は心の底から貴方が好き。好きになったから…」

アルベルト「………俺は、もう君の事は好きじゃない…どうせ君も、あいつが仕向けた女だろう…」

リン「アルベルト?」

アルベルト「ごめん、なんでもない。…もう顔も見たくない…さようならだリン」

リン「………分かった。ばいばい、アルベルト」

リン、去る

アルベルト「……リン、くそっ……」

①②
アルベルトの研究室

ベル「よぉアルベルト!こりゃお前の勝ちかぁ?」
アルベルト「ベル…何の用だい?」

ベル「いや、お前が引き篭もりっぱなしで相手をけしかけれないから暇で暇で…」

アルベルト「期限まで後2日ほどか…もうそんなに経っていたか」

ベル「外に出てくれよ〜、何もしないって賭けとして成り立たねぇじゃーん!」

アルベルト「そもそもお前が勝手に結んだ契約だろ。あんなん脅しだ。裁判なら無効だぞ」

ベル「悪魔に裁判なんか通じるかよ。結ばせたらいいんだから」

アルベルト「…お前は俺の命が目的なのか?そのくせ女と良い感じになったら俺を焚きつける…何がしたいのか全く分からない」

ベル「俺は、俺が良ければいいんだよ。魂はついで。お前が負けて頂けたらラッキーって感じ♪」

アルベルト「俺が負ける事が目的じゃないのか…」

ベル「お前が勝っても負けても俺の退屈な気持ちが無くなればそれだけで儲け物だよ♪」

アルベルト「…」

ベル「なぁ、願い事はどーすんの?一年前から変わってないのか?」

アルベルト「は?俺、何て言った…?」

ベル「俺の魔術書以外の書物を寄越せってな、沢山の研究材料が欲しいんだろ?」

アルベルト「…あぁ、その事か……ベル、もう一度彼女に会いたいという願いはダメか?」

ベル「駄目だ。あの女も俺がお前に近付けた女だからな。つーかあいつは俺の妹だ」

アルベルト「は?妹!?」

ベル「あぁ、最終手段としてお前を誘惑する為に利用した俺の実の妹。つまり、俺と同じ悪魔だ」

アルベルト「……リンが?嘘だろ…」

ベル「嘘じゃねぇ。お前、あいつに滅茶苦茶惹かれたろ?それはあいつの魔法だ。俺と逆で自分に好意を持たせる魔法だ」

アルベルト「…リンが悪魔……俺を騙していたのか」

ベル「…どーだろうな」

アルベルト「え?」

ベル「俺の契約はお前が誰かと恋に堕ちること…つまりお前一人じゃこの賭けは成立しねーの」

アルベルト「…そういえば、そうだな」

ベル「あいつがもうちょいお前に本気になれば…この賭けは俺の勝ちだったけど…、お前に契約の代償の事伝え忘れてたからなー…惜しい事したわー」

アルベルト「白々しい…君の差し金である彼女が人間の男に夢中に成りかけてたって?本気で言ってるのかい?」

ベル「どーかな…。別にリンとは仲がいいわけじゃねぇし。でもリンはお前を誘惑する為に使った、ただの感情のない駒だ。俺と妹はそんな関係さ」

アルベルト「…悪趣味だな。というか、誰かと恋に堕ちるって条件なのに俺に好意を寄せるって魔法…お門違いじゃないか?俺が恋しても相手は偽りの感情だろ?」

ベル「やっべ、バレた?まぁまずはお前の女性経験の無さを改善させて、魔法の効力を薄めて距離を近い所からスタートさせる予定だったんだよ♪お前顔は良いし」

アルベルト「なんて回りくどい方法を考えてるんだ…その為の一年という期間か!?」

ベル「うっせーな!つーか外出ろ外!流石の俺も切れるぞ!」

アルベルト「うるさいな!せっつくな!」

ベル「外出ーろ!外出ーろ!」

アルベルト「あーもう、分かったよ!」

ベル「今日は魔力大放出だ!お前の半径5メートル以内に入った女は全員お前に好意を寄せる魔法をかけてやる!」

アルベルト「やめろ!逆に外に出る気が失せるわ!」

①③


アルベルト「はぁ…外に出た途端ベルはまた姿を消して…。ちょっと待て?本当に魔法とかかけたんじゃ………いや、今女性とすれ違ったが何もない…」



アルベルト「はぁ…。ため息ばかり吐いてしまうな。少し前までそんな事なかったのに……。あそこのカフェ、リンと出会った所……。あ、しまったまた……駄目だな…女々し過ぎるだろ、自分から振っておいて、それに彼女はベルの妹だ…彼女も悪魔だ….」

暫く歩くアルベルト

アルベルト「…ここの店リンと来た…。あそこの店も…そういえば、女性に物を送るなんて初めてだったな…。それでも彼女は喜んでくれて…。俺があげたアクセサリーとかよく付けてくれてたな…。それも全部俺を欺く為の策略だったのか……?」



アルベルト「駄目だ…何処を歩いても彼女との思い出しか思い浮かばない…俺はどうしたんだ…。いつも一人だったのに…娯楽なんて考えなかった。なのに…、休みを合わせて何度もリンとデートをして…遊園地、水族館、映画に美術館…こんなに楽しかったと思った事なんて…今までなかった…リン。俺は、こんなにもリンの事………」

①④
ふらふらと歩いてるとリンと別れた公園に来ているアルベルト

アルベルト「……いつの間にか研究所に近い公園に戻っていたのか……リンを振ってしまった場所だ…リン。俺はなんて事をしてしまったんだ…。自分の保身の為、彼女に酷い事を言った………いや、でも…彼女はベルの差し金…俺を誘惑した悪魔…これで良かったんだ…これで……」

悲しみが込み上げるアルベルト

アルベルト「くそっ、あんな別れ方する位ならちゃんと好きだと言えば良かった!…どーせ彼女は俺を本気で好きにはならなかったんだろうからな…!」

リン「本気だったよ」

アルベルト「え」

リン「私は本気で貴方を好きになったの。魔法の力じゃない」

アルベルト「リン…何でここに…」

リン「ごめんなさいアルベルト…貴方を騙したのは本当…私はベル兄様の駒だから…」

アルベルト「リン……やっぱり…」

リン「でも、本気で人間を好きになるなんて思ってもみなかった…」

アルベルト「え…」

リン「私は悪魔で、貴方と契約してるベル兄様の妹…。兄様の命令で私に好意を持たせる魔法をかけた…。でも、それは最初の日だけ!私はアルベルトを好きになったの」

アルベルト「……何で、俺なんか…」

リン「貴方はずっと魅力的だよ…。きっと最初の私の魔法で貴方の素直な所ばかりが出てしまったせいで、貴方の偏屈な所が目立たなかったのね」

アルベルト「…なんて事を言うんだ…酷いじゃないか…」(泣き笑いっぽく揶揄う様に)

リン「ごめんなさい、私悪魔だから…」(はにかむ)

アルベルト「…酷いのは俺も同じだ。君に酷い事を沢山言った…君ほど好きになった人はいないのに」

リン「貴方は本当は素直で優しい人…。プライドが高いけど、とっても素敵な人…私なんかに好かれちゃいけなかったのよ…」

アルベルト「リン…愛してる」

リン「やめて…抱きしめないで…。私が貴方を好きになってしまっただけだから…」

アルベルト「じゃあ振り解けばいい…。このままじゃ研究が手に付かないんだ…全部全部…君のせいだ」

リン「……ずるい。人間のくせに…。好きなのに振り解けるなんて出来ないよ……」

アルベルト「君が手に入らない、研究も集中できない……こんなの死んだ方がいいかもしれない」

リン「う、うぅ……好きよ。愛してるのアルベルト…。こんな感情、知らなかったの…。兄様に言われて仕方なく貴方に近付いたけど、私の魔法のせいであんなに素直で優しい人だなんて思っても見なかったの…」

アルベルト「俺も…何度も会う度、君とデートする度君を好きになっていった…。本当に魔法は最初だけだったのかい…?」

リン「うん…そうだよ…」

アルベルト「くそ、…この勝負…」

ベル「俺の勝ちだな」

リン「っ!…ベル兄様」

ベル「よぉ、大逆転感謝するぜぇ愚妹。お前の告白のおかげでこの勝負は決着がついた」

アルベルト「……ベル」

①⑤

リン「兄様、ちょっと待って下さい」

ベル「あ?待つも何もねぇよ。時間制限まで待つつもりはねぇぞ」

アルベルト「いいんだ、リン…君と最後に想いが通じあって良かったよ…」

リン「兄様、貴方は人間の魂なんて必要ありませんよね?貴方は暇潰しが欲しかっただけでしょう?」

ベル「………何?俺に反抗するの?リン…お前は俺の駒だろ。お人形さんは黙って遊ばれてればいーの」

リン「お人形さんに感情を与える様な事をしたのは兄様の失態ですね。恐ろしい…恋とは感情までも動かす様ですよ、兄様」

ベル「何が言いたい、リン。言葉によってはお前から殺すぞ」

アルベルト「よせベル!リンはお前の妹だろ。リンも…これは俺とベルの勝負だ…俺は負けたんだ」

リン「アルベルトは殺させない!私が勝手に兄様に楯突いてるだけだから」

ベル「は〜?殺させない…?何言ってんのお前は…そんなに馬鹿だったとは救いようがねぇよ…なぁリン…お前、アルベルトにそんなに本気なの?」

リン「兄様もだいぶアルベルトにお熱の様ですね…そんなに彼が気に入りまして?」

ベル「チッ、こいつがここまで言うようになるとは…お前のせいだぞアルベルト!」

アルベルト「な、何で急に俺に矛先が!?」

リン「あながち間違ってません。私を変えたのはアルベルト…だから私は兄様に抵抗します!アルベルトを殺すのなら私を殺しなさい!!」

ベル「っ!?」

アルベルト「な、リン!何を言ってる!?」

リン「私は悪魔です。でも、悪魔同士が殺し合ってはいけないなんて、人間の様なルールはありません」

ベル「……だからって俺がそれに乗るとでも?お前を殺した所でアルベルトとの契約は続行される。お前と恋に堕ちた事は変わりはしないからな」

リン「…兄様は何も覚えてないんですね。貴方は感情的で目先の事しか頭にない…昔から変わりませんね」

ベル「は?」

アルベルト「り、リン!?何でベルを煽り出してるの!?」

リン「お忘れですか?悪魔は人間の様な法律は無くても、禁忌と呼ばれる物はいくつかあります」

ベル「何を言って………あっ」

リン「悪魔が人間を好きになる事は禁忌…。これは立派なルール違反。裁きを受けるのは私です」

アルベルト「え!?そんなルールが…」

ベル「あっ……」

リン「アルベルトは誰かと恋に堕ちてはいけないという条件で、兄様は私を使った。しかし私は愚かにもアルベルトを好きになった。確かにこれは兄様の勝ち。でも、人間を好きになってはいけないという悪魔のルールを破った私…。どちらを優先的に裁きますか?」

ベル「……っ」

リン「私がアルベルトを本気で好きになる前に止めるべきでしたね」

ベル「…お前が先にその事を言えば良かったじゃねーか!後出しすんな!!」

リン「兄様に言われたくありません!私だって自分の身を賭してまで惹かれる人間に会えるとは思ってなかったんですから!」

ベル「…お前、分かってて俺に言わなかったのか?」

リン「兄様が忘れてるなんて思ってなかったです。私の全ては兄様だけでしたから…」

アルベルト「リン…」

ベル「…くそ、くそ…ルールなんて覚えてる訳ねぇだろ…そんな馬鹿な事、するはずねぇし」

リン「計らずともそういう風にしてしまったのは兄様ですよ…そういえば兄様ってかなり強引な方ですが、頭の方は…残念でしたね♡」

ベル「っ!!」

アルベルト「お、おいリン!?」

ベル「………言うようになったなぁ?お前を使ってやった兄に向かって…感情のないただのガラクタもどきを利用してやったのは誰だと思ってる!?俺を馬鹿にするとはいい度胸だ!リン!てめぇはぶっ殺してやるぅ!!」

リン「っ!?」

アルベルト「リン!?」

①⑥
二人の前に立ちはだかるアルベルト
リンに襲いかかるも、寸での処で止まるベル

ベル「どけ…アルベルト。お前ごと殺すぞ」

アルベルト「俺はどうなってもいい!だが、リンに危害を加えるな!リンは…妹なんだろ?」

ベル「ぐっ……!うるせぇ!そんな愚妹俺は知らん!人間に惚れ込んで自ら禁忌を犯して、兄を欺いて…」

アルベルト「寂しいのか?」

ベル「あ?」

リン「え?」

アルベルト「お前…寂しいんだろ。大事だと思ってた妹にそんな事言われて…」

ベル「んな訳ねぇだろ!リンは駒で俺は利用するだけだ。兄妹の情なんてねぇ!胸糞悪りぃ!!」

アルベルト「…暇潰しで契約を取るのも、魂が目的じゃないのも…構って欲しいからじゃないのか?…ずっと一人で退屈だったんだろ」

ベル「いや…マジでそんなんじゃなくて…」

アルベルト「リンが感情豊かじゃなかった頃はリンはお前だけだったのに…俺がそれを奪えるとか思ってもなかったんだろ…だから余計に…」

ベル「ちげーって言ってんだろ!!馬鹿なのか!?俺にそんな感情は一切ない!つーかお前にだけはそんな事言われたくねぇ!このプライド男!」

アルベルト「今は違う!リンのおかげで人間らしくなったと思う!」

ベル「うるせぇお前は人間だ!…あーーもう興醒めだ!バカの相手は疲れる!俺は帰る!!」

リン「兄様!?」

ベル「この契約は俺が放棄する。勝負も無効だ。そもそも魂が欲しくてやってねぇし…だけどな、リン。ルールはルールだ。お前が悪魔である限りアルベルトとは結ばれない」

リン「…はい」

アルベルト「ベル…」

ベル「アルベルト。お前は面白い人間だと思ってたけどそうでもなかった。二度と俺の所用物に手を出すんじゃねぇ」

アルベルト「…あぁ、あの本はもうこれ以上調べないよ。今の持ち主に返すさ」

ベル「じゃあなバカども」

ベル、去る

①⑦
アルベルト「行ってしまったか…」

リン「兄様とアルベルトって少し似てるかも」

アルベルト「え?俺とベルが…?」

リン「うん、偏屈でプライドが高くてちょっと頭が固い…でも、優しい所もある…兄様の方が素直じゃないけど」

アルベルト「そうかな…」

リン「兄様や私は自分の物を大切にしてるの…自分に与えられた物全部…全部」

アルベルト「どう言う事だい?」

リン「あの魔術書…兄様が昔仲良くなった魔法使いさんに貰った物なんだって…それを今の人間の一族が預かってくれてたんだけど、貴方が研究するって持ち出したから怒ってたの…」

アルベルト「…そう、だったのか…何も知らなかったとは言え…人の物なら勝手に持ち出して調べられたら気は良くないよな…。なんだか、悪い事したな」

リン「うん。私も…アルベルトから貰ったアクセサリーとか誰かに持ってかれたら嫌だもん」

アルベルト「今日も付けてくれてるんだね…」

リン「好きな人から貰った物だもの、嬉しいの」

アルベルト「……あの本はすぐに向こうに返さないとな…そして今後は持ち出しはしない様に頼んでみるよ」

リン「ありがとう、また兄様は退屈になっちゃうかもだけど…あの魔術書さえ無事なら大丈夫だと思う」

アルベルト「そっか…そんなに大切な物なんだね」

リン「………アルベルト」

アルベルト「なんだい?」

リン「貴方と兄様の契約は取り消しになって、貴方は死ぬ事はなくなった…でも、私と貴方が結ばれる事はない事実は変わらない…」

アルベルト「何か方法はないの?俺はまだ君といたい…」

リン「……」

①⑧

アルベルト「…駄目、なのか…」

リン「……試す価値のある方法がある」

アルベルト「え?」

リン「アルベルト、私と賭けをしましょう」

アルベルト「え、賭け…!?」

リン「条件は一年前に戻って、もう一度私と出会えたら……貴方が勝てば何でも一つだけ、願いを叶えてあげる」

アルベルト「そんな事、出来るの?」

リン「うん。でも、この一年の記憶は全部無くしてもらう」

アルベルト「え!?」

リン「記憶があったままだと勝負にならないでしょ?」

アルベルト「記憶が無い方が難しいだろ!…リンとの思い出も…ベルとの契約もどうなるんだ?」

リン「そこは私が兄様に伝える。きっと今の兄様なら私たちのこの勝負…面白がるはずだから。結構兄様ってアルベルトの事気に入ってたのよ」

アルベルト「だからって…勝てる気がしないよ…」

リン「それなら私の事を知らないままで人生を過ごすだけ…。何もデメリットはないわ。むしろ兄様が邪魔した分を取り戻せる」

アルベルト「…でも、リンはそれでいいの?」

リン「私はもう貴方に恋をした時点で悪魔の禁忌を犯した…。この勝負が失敗したら私は裁きを受けるだけ。恋に溺れた悪魔を兄様も助けないと思うし…」

アルベルト「リン…」

リン「だから、アルベルト…この勝負は私達の最後のチャンス…貴方が私を見つけてくれたら…」

アルベルト「見つけるよ。絶対に…」

リン「約束よ…」

白い光に包まれる

アルベルト「くっ…眩しっ…!?」

リン「次に貴方が目覚めたら何も知らない一年前に戻る…アルベルト…契約の代償は私の罪……」

①⑨
研究室

アルベルト「っ……寝ていたのか…いたたっ…。机に突っ伏して寝ていたせいか…体が痛い…しかも、なんだか長い夢を見ていた気分だ…どのくらい寝ていたんだろ…スマホスマホ…」

時計を見るアルベルト

アルベルト「2月24日…。ん?何で日付なんか気にしたんだ俺は…。…寝ていたのは1時間くらいか…今日はこの間譲ってもらった本をもう少し読み解いて……」

机の上の本を見つめる

アルベルト「いや…いいか。これは……年代だけ確認したら向こうに返そう…。深入りした所で大した成果はないだろう……。今日はもう家に帰って休むか…最近研究室に篭りきりだったしな…」

研究室を出るアルベルト
扉を開けて閉める音

②⓪

ベル「…リン、何であいつと契約をした?」

リン「これは契約という名の約束です」

ベル「失敗したらどうするんだ?」

リン「兄様が独りぼっちになってしまうだけです」

ベル「…どっちにしろ俺は独りだろ」

リン「お寂しいので?」

ベル「抜かせ…。お前と俺に兄妹の情はない」

リン「私には兄様だけでした…でも今は……」

ベル「アルベルトが勝てると思ってるのか?」

リン「…勝負しますか?ベル兄様」

ベル「…おもしれぇ、俺とお前の最初で最後の賭けか…」

リン「何を賭けましょうか」

ベル「この契約の代償は…アルベルトとの思い出だ」

リン「……やはり兄様もアルベルトが好きだったのですね」

ベル「お前と一緒にするな。俺は退屈しのぎで始めただけだ…思い出なんてお前と一緒に消してやる」

リン「ふふっ、分かりました。それでは兄様が賭けるのは…」

ベル「あぁ、俺は………」

②①
2ヶ月後、カフェ付近

アルベルト「はぁ、また外に出るのを忘れていたな…研究室に居座り過ぎだと他の奴らに言われる始末だし……あそこのカフェで少し休むか…」

カフェに入る

店員「いらっしゃいませー」

アルベルト「一人なんですが、空いてますか?…なんだか混んでるなぁ…」

店員「そうですね…少々お待ち下さい。お席の方確認して参ります」

アルベルト「あ、はい…」

店員その場を去る
アルベルト、賑わってる店内を見渡す

アルベルト「ん…」

店員「お客様、奥の席でしたらご案内出来ます」

アルベルト「いや…、すいません。あの席の…」

店員「え?…あちらのお客様ですか?待ち合わせでしたか?」

アルベルト「いえ…。そのなんというか……ごめんなさい、あそこでいいです」

店員「あ、お客様…!」

女性が座ってる席の前に立つアルベルト

アルベルト「あの…」

リン「え……」

アルベルト「ここ、いいですか…?」

リン「…どうぞ」

アルベルト「失礼します」

向かい合わせで座る
沈黙

リン「……あの」

アルベルト「あの、お名前は…」

リン「……」

アルベルト「その…」

リン「どうして?」

アルベルト「え、いや…えっと……。いきなり、すみません…でも、どうしても名前をお聞きしたくて……俺も何でいきなりこんな事してるのか分かんないんですけど…」

リン「…」

アルベルト「もしかして、俺…貴女と以前何処かでお会いした事ありますか?……なんだかとても懐かしい気持ちで…」

リン「……」

アルベルト「気に障ったらごめんなさい!下手なナンパみたいになってる自覚あるんで…!つーか俺自身こんなキャラじゃないのに…」

リン「リン」

アルベルト「え…」

リン「リン…、私の名前」

アルベルト「リン…素敵な名前ですね…」

リン「貴方は?」

アルベルト「あ、俺はアルベルト・ディニーと言います。若輩ながら学者をしていて……。リ、リン…どうしたんですか?俯いて…」

リン「……ふふっ、…私の負けよ!アルベルト」

嬉しそうに泣き笑うリン
戸惑いながら釣られて微笑むアルベルト
木漏れ日の中爽やかな空気に包まれる二人

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