見出し画像

【声劇台本】ホロウテイルと黒猫

メイン登場人物(男:1、女:3)

・ロゼッタ/女
残灰の魔女。村外れに住み、強くはっきりとした物言いいをする。人間の旦那とクロエとエリンと言う実子を亡くしている。子供好き。

・クレア/女
10にも満たない幼い少女で、エレンの姉。強気でしっかり者で、妹を守る為いっぱい我慢している。

・エレン/女
10にも満たない幼い少女で、クレアの妹。泣き虫で怖がり、姉のことが大好き。物語を聞いたり考えたりするのが趣味。

・エミール/男
喋る黒猫でロゼッタの使い魔の様なもの。気さくで優しい性格。元はロゼッタの旦那で元人間。事故で亡くなる直前にロゼッタの力で猫になった。

サブキャラクター(兼ね役可能)
・フードの男1…魔女を崇拝する組織の教祖。
・フードの男2…フードの男1の右腕の青年。
・フードの女…魔女を崇拝する熱心な教徒。

【時間】約40分
【あらすじ】
クレアとエレンは暗い森の中、小さな体で彷徨い歩いていた。帰り道がない森で涙が溢れてくる。そんな二人に声をかけてきたのは黒色の猫だった。異様に流暢に喋る猫に戸惑う姉妹にさらに声をかけてきたのは美しい女性だった。


【本編】



エミール「むか〜しむかし、月の光も消えてしまう程真っ暗な森の奥に、とてもとてもこわ〜い魔女が住んでいました。魔女は一匹の黒猫と毎日毎日退屈な日々を過ごしており、時折り迷い込んでしまう人間の子供を楽しみにしていました。…何故、子供が来るのを待つのでしょう?それは勿論……人間の子供を食べしまうからなのです!」


暗い森の奥を彷徨う二人の少女

エレン「うぇぇぇぇん!!」

クレア「もう、泣かないでよエレン!」

エレン「だって…、クレアお姉ちゃんが魔女のお話するからぁ…」

クレア「こんなの嘘に決まってるじゃない。森に近付かないように大人が言った嘘が大げさになってるだけよっ」

エレン「でもぉ……、森に入ってから全然帰れないよ…出口どこぉ?…ママぁ、パパぁ」

クレア「もう、泣かないでよ!私だってママ達の所に帰りたいのに!」

エレン「うぇぇん…ひぐっ…ふぇぇ…」

クレア「大きな声を出さないで!こんな森の中で何が出るか分からないじゃない」

エレン「ひくっ…うぅ…」

クレア「気分を紛らわす為にと思って、魔女のお話をしたのはごめん…。こんな場所だもん…思い出したお話がこれだったのよ…」

エレン「うぅ…、他のが良い…お姫様のお話して…」

クレア「お姫様!?えぇ…えぇっと……急に言われても分かんないわよ!」

エレン「ふぇぇぇん!!」

クレア「あぁ、もう!…うぅ…私だって泣きたいもん〜!うぇぇぇん!真っ暗だよぉ、怖いよぉ、お腹空いたよぉ!」

エレン「帰りたぃ…道が分かんないよぉ!」

泣き続ける二人

エミール「おやおや、これはどうした?小さいのが二つ…お嬢ちゃん達泣いてるのかい?」

クレア「ふぇ…」

エレン「ひぐっ………え?」

エミール「やぁやぁ、こんばんは♪こんな森の奥で何をしてるんだい?迷い子かな?」

クレア「えっ………!?」

エレン「ね、…ね、ね……」

エミール「ん?」

クレア「猫が喋ってるぅ!!?」

エレン「きゃぁぁ!?お化けぇぇ!?」

エミール「酷い言いようだな?猫だって喋るさ。僕は喋るタイプの猫さ?」

クレア「普通は喋らないわよ!」

エレン「お姉ちゃん、怖いよぉ…」

エミール「君らは姉妹かな?可愛らしいね。僕は黒猫のエミール。君らは?」

クレア「お、教えるもんですか!この化け猫!」

エレン「く、黒猫って…お姉ちゃん!」

クレア「はっ!あんた森に住んでる魔女の使い魔って奴ね!あのお話は本当だったのね!?」

エレン「お姉ちゃん、さっき嘘って言ってたじゃん!」

クレア「大人は正しい事を言ってたんだわ!やっぱり魔女はいるのね!」

エレン「うぇぇぇん!!」

エミール「…お嬢ちゃん達話は聞こうぜ?」



ロゼッタ「お前の話し掛け方が悪い」

クレア「!?」

エレン「だ、誰…?」

エミール「ロゼッタ様!いかがなさいまし…ぐぇっ!?」

ロゼッタ「お前が怪しげにこの子らに近付いたのを不信に思ったのよ」

エミール「そんな、僕そんな節操なしに見えますぅ?つーか、急に首根っこ掴んで持ち上げないで下さいよ…びっくりしちゃうから」

ロゼッタ「ふん」

エミール「機嫌悪そうですね〜」

ロゼッタ「……」

ロゼッタ、二人の方を向く

エレン「お姉ちゃん…」

クレア「っ…」

ロゼッタ「…姉妹か?」

クレア「そうよ!妹には指一本触れさせないわ!」

ロゼッタ「ふんっ…威勢のいい事だわ。お腹空いてるでしょう?着いて来なさい」

エレン「え!?」

エミール「おや、屋敷に招くのですか?」

ロゼッタ「気まぐれよ」

クレア「い、行く訳ないでしょ!?あんたは魔女なんでしょ?行ったら私達食べられちゃうじゃない!」

エレン「そ、そうだよ!やだよぉ!」

ロゼッタ「…うるさいな」

クレア「ひっ…な、何よ…近付かないで!私には何してもいいからエレンは見逃して!」

エレン「クレアお姉ちゃん…」

ロゼッタ「ふんっ…クレアと言うのね。私はロゼッタ。私は魔女ではないからお前達は食べないわ。人間の肉を食べるより羊のお肉の方が美味しいもの」

クレア「……」

ロゼッタ「ま、知らない相手に警戒心を持つのは良い事よ。でも、甘えときなさい…こんな森の奥、今頼れるのは誰かしら?」

クレア「…ほんとに魔女じゃない?」

ロゼッタ「約束するわ、貴方達に危害は加えない」

エレン「お姉ちゃん…」

クレア「分かった…」

ロゼッタ「良い子ね、おいで」

エミール「優しいじゃないですか〜、ロゼッタ様、明日は大雨が降るでしょうね!お洗濯は別の日にしましょうか…ぐえっ!?」

ロゼッタ「エミール、そのうるさい口は閉じられないの?」

クレア「その猫はなんなの?」

ロゼッタ「…こいつは…喋る猫だ。…私と出会う前から喋っていたからこいつは本当に魔女の使いかもしれない」

エミール「え、裏切らないで下さい」

ロゼッタ「黙れ」

クレア「……怪しい」

エレン「怪しい…」

ロゼッタ「エミール、お前は置いて行く事にするわ」

エミール「なんでぇ!?」


ロゼッタの屋敷

ロゼッタ「さぁ、ここが私の屋敷よ。入りなさい」

エレン「おっきなお屋敷…」

クレア「本当に森の中にあるなんて、やっぱ魔女じゃないの?」

ロゼッタ「…あまり私を怒らせない事よ?貴女もそこの猫と一緒に森の中に置いて行くわよ?」

クレア「や、やだぁ!」

エミール「僕まで巻き込まないで下さいよ〜」

ロゼッタ「来なさい」

屋敷の中へ入る

エミール「足元気をつけて、お嬢ちゃん達」

ロゼッタ「蝋燭に火をつけるわ、ちょっと待ってなさい」

明るくなる部屋

クレア「あ、明るくなって来た…」

エレン「お部屋の中も綺麗…!」

ロゼッタ「掃除は欠かさないのよ…。スープがあるから用意をしてくるわ」

エミール「ロゼッタ様のスープは美味しいよ〜」

クレア「…何で私たちを助けてくれたの?」

ロゼッタ「……」

クレア「こんな森の中に住んで、ご飯まで出してくれるなんて…」

ロゼッタ「……それは」

エミール「まぁ、疑いたくもなりますよね〜」

ロゼッタ「クレア、貴女はエレンが大事?」

クレア「大事に決まってるわ!エレンだけは絶対守る。私はエレンのお姉ちゃんだもん!」

ロゼッタ「そう…」

エレン「え、エレンだって…クレアお姉ちゃん大事だもん!お姉ちゃんの事守るもん!」

クレア「ダメよエレン!あんた弱っちいんだから、私が守るの!」

エレン「やだ、エレンだって守るもん!」

ロゼッタ「こら、喧嘩しない…仲が良いのね、貴女達は…あの子達を思い出すわ」

クレア「え?あの子達…?」

ロゼッタ「…お話が長くなるから、先に食事にしましょう。ちょっと待っててねクレア、エレン」

その場を去るロゼッタ

クレア「…」

エレン「…やっぱり魔女じゃないんじゃない?あの人とっても優しい感じがするもん」

クレア「どうだろう…まだ分かんないわ」

エミール「というか、ずっと気になっていたんだが…何故君達はこんな時間にこんな森の奥まで入って来たんだい?」

クレア「え…」

エミール「恐らくだけど、この森の近くにある村の子供だろう?あの村の者はこの森に入るのを嫌う奴ばかりだ…だから魔女の話なんて出来たと思っていたんだが…」

クレア「…分かんない、気が付いたら森の中を彷徨ってた」

エレン「村に帰りたいよ…でも、帰り道も分かんなくてずっと森の中をぐるぐるしてたの」

エミール「妙な話しだな……ま、ロゼッタ様も深く追求しないのなら僕が探る必要もないし…」

エレン「エミール…さんだっけ…どうして貴方は喋れるの?」

エミール「え?そりゃ僕はロゼッタ様のーぐえっ!?」

ロゼッタ「エミール、減らず口を閉じなさい」

エミール「も〜、今日何回首根っこを掴まれた事か…」

ロゼッタ「油断も隙もない…ほら、二人とも用意が出来たからこっちに来てテーブルに着きなさい」

クレア「…行こ、エレン」

エレン「うん!」

エミール「言わなくていいんですか〜ロゼッタ様」

ロゼッタ「幼い子供を怖がらせるのは趣味じゃないのよ」

エミール「本当にそれだけかな〜?」

ロゼッタ「あんたの分のスープは抜きにするわね」

エミール「あ、ちょっと!?それはないですよ〜!」



エレン「ごちそうさま!すっごく美味しかった!」

ロゼッタ「口に合ったなら良かったわ」

クレア「…こんなに美味しいスープ、初めて食べた…」

ロゼッタ「そんなに美味しかった?嬉しいわ」

クレア「……」

エミール「そんで、クレアとエレンはあの村の人間だからパパとママの下に帰さないとね〜」

ロゼッタ「そうね、心配してるでしょうね」

クレア「うん……」

エレン「……」

エミール「ん?どしたの二人とも」

クレア「何でだろう…、さっきまで帰りたかったのに…帰るのが怖い」

ロゼッタ「怖い…?」

エレン「うぅ、帰りたくない…まだ此処にいたいよ…」

ロゼッタ「何言ってるの?帰らないとご両親が心配するでしょ。村の近くまで送ってあげるから安心なさい」

クレア「やだ!帰りたくない!!」

ロゼッタ「!?」

エミール「これは訳ありみたいですね〜」

クレア「…分かんない、何で帰りたくないんだろ」

エレン「帰ったら怖い気がする…」

ロゼッタ「……」

エミール「どうしますロゼッタ様?この状態で帰りたくないっておかしな話ですよ」

ロゼッタ「まぁ、戻った所で…とは思うけれど、それでこの二人が救われるなら元の場所に返してあげたいわ…でも、帰りたくないなんて…」

クレア「うぅ……」

エレン「ひくっ…」

ロゼッタ「泣かないで二人とも…気が済むまで此処にいて良いわよ。そうだ、さっきのお話の続きをしてあげる。私が此処に一人でいる理由…」

エミール「あれ?僕もいますよー?」

エレン「…何で一人なの?」

ロゼッタ「本当はね、此処には私と旦那さんと可愛い可愛い二人の娘がいたの…貴女達みたいにとっても可愛い私の子供達が…」

クレア「そうなの?」

ロゼッタ「えぇ、でも…もう私一人なの…」

エレン「何で?何処か行っちゃったの?」

ロゼッタ「…うん、病気で亡くなってしまったの…旦那さんも…子供達が小さい時に崖から落ちて亡くなってるの…気付いたら私一人ぼっちになっちゃったの」

クレア「可哀想…」

ロゼッタ「貴女達を助けたのは、娘達の面影を見てしまったから…こんな可愛い子供達から目を離すなんて…貴女達のご両親も困ったものね」

エレン「…ロゼッタさん」

ロゼッタ「あーぁ…こんなに可愛い子達…私の物にならないかしら…」

クレア「……」

ロゼッタ「なーんて、貴女達のご両親に悪いわね…それに、死んだ娘達に怒られちゃいそう…ごめんなさいね」

エレン「エレン、ロゼッタさんの子供だったら良かった…」

ロゼッタ「え?」

エレン「エレン、此処にいたい…」

ロゼッタ「エレン…嬉しいけど、ダメよ。魔女と呼ばれてる私の所に長居してちゃ、何て言われるかわからないもの」

クレア「ロゼッタさんは魔女じゃないんでしょ?じゃあいいじゃん!ここに居させてよ」

ロゼッタ「クレアまで……ちょっと、どうしたの急にしがみついて来て…!?」

クレア「帰りたくない!」

エレン「此処にいたいぃ!」

ロゼッタ「クレア、エレン?な、泣かないで二人とも…!」

エミール「ふむ…」



ロゼッタ「泣き疲れて寝ちゃったみたいね…取り敢えずそこのソファに寝かせて……後でベットに運んであげなくちゃ」

エミール「ロゼッタ様」

ロゼッタ「何?エミール…この子達寝ているから静かにね」

エミール「やはり、調べて来ましょうか?様子がおかしい」

ロゼッタ「…あの村とはもう絶縁してるのよ。構わなくていいわ」

エミール「じゃあこの子達はどうするんです?こんな状態で…救えるものも救えませんよ」

ロゼッタ「そんなの知った事じゃないわ。この子達が此処を望むならそれでいいじゃない」

エミール「この二人は娘の代わりじゃない!それにこの子達も」

ロゼッタ「エミール!」

エミール「……」

ロゼッタ「ただのエゴよ…時が経てば、この子達も報われる時が来るわ…それまで、もう少し私に希望を抱かせて…」

エミール「ロゼッタ様…」


ドンドンと扉が叩かれる

ロゼッタ「!?…こんな時間に誰かしら?それに、こんな森の奥に…」

扉を開けるロゼッタ

ロゼッタ「何者でしょう?」

ローブを被った怪しい人間達が佇んでいる

ローブの男1「夜分に失礼します…我々、二人の少女を探しておりまして…」

ロゼッタ「二人の少女…?」

ローブの男2「はい、この森の近くにある村に住んでいた少女です」

ロゼッタ「…貴方達は何者なの?」

ローブの女「私達は旅の者…大きな声では申せませんが、魔道士の集団なのです」

ロゼッタ「魔道士?このご時世、魔道を扱う者は迫害されると聞くけど?」

ローブの男1「それと話は関係ありません。少女達を知りませんか?ご両親も心配なさってる」

ロゼッタ「そう言われても…」

エミール「にゃー!にゃー!」

ローブの男2「おや、猫の声がしますね」

ロゼッタ「……!?ちょっと待ってて下さい!」

扉を閉め、屋敷の中へ走り出すロゼッタ
ソファの上で怯える二人

ロゼッタ「クレア、エレン…?」

クレア「あ、あぁ…。やだ、助けて…」

エレン「痛い、痛いよぉ、もうあそこにいたくないのぉ…」

ロゼッタ「どうしたのエミール!?」

エミール「急に怯え出したんです!…もしかして、死ぬ直前の記憶が蘇って来たのかも…」

ロゼッタ「なんですって!?」

クレア「パパもママも助けてくれなかったぁ…!痛いよぉ、怖いよぉ!」

エレン「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん…」

クレア「エレンの事守るって…守るって言ったのにぃ…」

ロゼッタ「………」

エミール「ロゼッタ様…」

ロゼッタ「エミール、二人の事見てて…」

エミール「わ、分かりました…」

ロゼッタ「クレア、エレン…」

クレア「あっ…」

エレン「ロゼッタ、さん…?」

ロゼッタ「落ち着いて…、ね?良い子だから…」

クレア「うん…」

エレン「ロゼッタさん、暖かい…」

ロゼッタ「うん、ぎゅーってしたら暖かいね……。ちょっとだけ静かにしててね?」

クレア「分かった…」

エレン「うん…」

ロゼッタ「ありがとうね」


玄関に戻り、扉を開けるロゼッタ

ローブの女「どうかしましたか?ご婦人」

ロゼッタ「こんな時間に迷惑ですわ。お引き取り願えます?」

ローブの男1「何故です?…やはり貴女は怪しい。知っているのではないですか?少女達を」

ロゼッタ「知りません。こんな時間にこんな森の中に少女なんていませんわ。お引き取りください」

ローブの男2「少女は少女でも少女達の魂を探しているんです!肉体ではありません、魂なのです!」

ロゼッタ「それこそ知りませんわ!何ですか魂って!?怪しげな宗教団体は国の処罰対象ではなくって?帰って下さい!」

ローブの男1「我々をただの宗教団体と仰らないで下さい!我々は魔女を讃え魔女の使う術(すべ)を授かりし崇高なる黒魔道士なのです!」

ロゼッタ「なんですって…」

ローブの女「きっと貴女は魔女の素晴らしさを知らないのですわ!迫害を受ける魔女は、本来人間の手には負えるものではないのです」

ローブの男1「それを愚かな人間共は悪戯に半端な人間を殺していくだけ。俗に言う魔女狩り等、陳腐な行いに興じている」

ローブの男2「魔女は狩るものではなく、崇高するべきものなのです!」

ロゼッタ「帰ってください!!」

強引に扉を閉めるロゼッタ

ロゼッタ「はぁ…はぁ…はぁ…」

エミール「とんでもない人間達ですね…」

ロゼッタ「…エミール、頼みがあるの」

エミール「分かってますよ。あいつらの事、村の事を探って来ます…」

ロゼッタ「お願い…」



クレア「あ、ロゼッタさん…」

ロゼッタ「もう泣いてない?大丈夫だった?」

エレン「うん…大丈夫…」

ロゼッタ「…ごめんなさいね、辛い事を思い出させてしまって…」

クレア「…私達死んじゃってたんだね」

エレン「何で忘れてたんだろう…エレン達、今幽霊なの?」

ロゼッタ「…そうね、幽霊になっちゃったわね」

クレア「怖かった…急に村に怪しい人達がやって来て、大人の人達を集めて毎晩毎晩、儀式みたいな事をしてたの…」

エレン「そして、子供達を集めて次々と殺していった…そして、私たちも…う、うぅ…」

ロゼッタ「もういい、もう喋らなくて良いわ…辛かったわね、怖かったわね…」

クレア「変だと思った…いつも優しくないママがニコニコして抱き締めてくれて…私達と遊んでくれなかったパパがだっこしてくれて…」

エレン「そして、村の広場に連れて行かれたの…」

ロゼッタ「儀式に魔女を崇拝する黒魔道士…。魔女の事を語るのすら危険なのに…恐ろしい組織があったものだわ…。ねぇ、何で子供達を集めてたか分かる?」

クレア「分かんない…でも、子供の体と魂がどうとか言ってるのは聞こえた」

ロゼッタ「そう…」

エレン「ねぇ、エレン達どうなっちゃうの?エレン達幽霊になってるのに…」

クレア「そうだよ…幽霊って目に見えないって聞いたよ?何でロゼッタさんは見えてるの?あの人達にも見えてるの?」

ロゼッタ「…魔力と霊感はちょっと違うと思うんだけどねぇ…」

クレア「?」

ロゼッタ「あの人達はきっと、幽霊を見る事が出来る力があるのね…。霊感って奴。もしかしたらそれを魔女の持つ力と勘違いしてる可能性があるわ…だからあんな大きな態度を取ってたのかもしれない」

エレン「ロゼッタさん…?」

ロゼッタ「クレア、エレン。貴女達の無念は私が晴らしてあげる。儀式の為に子供達を犠牲にするなんて絶対に許せない…貴女達の親も…許せないわ」

クレア「ロゼッタさん…、でもどうするの?」

ロゼッタ「任せて、大丈夫だから」


音もなくエミールが現れる

エミール「探って来ましたよ、ロゼッタ様」

ロゼッタ「随分早かったわね」

エミール「ま、あの村の事は貴女が迫害されてから度々様子を伺ってましたから…けど、今回は中々酷い事になってます」

ロゼッタ「そう…で?」

エミール「あの怪しい集団はタチの悪い宗教団体ですね。旅をし、国からの情報が入りにくい小さな村を占拠して、魔女を信仰する様に仕向ける。そして信者を増やし、金品も得る…時として、殺人も厭(いと)わないとか……」

ロゼッタ「儀式があると聞いた…その事もわかる?」

エミール「それが、信仰自体は本格的でして…魔女は人間の子供を好物としている。だから66人の子供の血肉と魂を捧げれば、偉大なる魔女が我らを導いてくださる…なーんて言ってましたよ」

ロゼッタ「っ……」

エミール「しかも奴等、霊感があるようで余計に厄介ですね。二人の魂が逃げたなんて言ってましたし…幽霊であるあの二人の事を探しています」

ロゼッタ「……ふざけやがって…」

エミール「どうしますか?」

ロゼッタ「決まってるわ」

エミール「…止めはしません…あの村の連中は昔から嫌いでした。それにあの怪しげな奴等もむかっ腹が立つ…しかし、」

ロゼッタ「子供を殺して捧げれば魔女が導いてくれる?…なんて愚かなの?そんなバカな人間たちがいるなんて…。……エミール、二人を任せていいかしら」

エミール「ロゼッタ様…」

ロゼッタ「私一人で片付けてくる」

エミール「…しかし、そんな事をして貴女になんのメリットがあるのです?貴女が首を突っ込む必要はない」

ロゼッタ「二人に言ったの!私がどうにかするって、これこそエゴよ!でも…あの二人の魂が報われるのなら……苦しみながら逝ってしまった我が子達の様にしたくないのよ!」

エミール「ロゼッタ…」

ロゼッタ「…ごめんなさいね、貴方だってこんな姿になってまで私の側にいさせてしまって…」

エミール「…大丈夫だよ、ロゼッタ。一緒に居たいと望んだのは僕も同じだから」

ロゼッタ「ごめんなさい、ごめんなさい…貴方。クロエ、エリン…」

エミール「謝ってばかりだね、君は…本当に優しい人だ…だから僕は君を愛して、今も放って置けないんだ…」

ロゼッタ「……エミール、貴方…」

エミール「だから僕は待ってるよ、あの二人の事は任せて…。行っておいで、愛しのソルシエール」

ロゼッタ「えぇ…!」



クレア「ロゼッタさん!何処に行くの!?」

エレン「何処にも行かないで!」

ロゼッタ「…大丈夫よ、二人とも。すぐに帰ってくるから」

クレア「でも…」

ロゼッタ「約束。貴女達をふたりぼっちにさせない…だから帰って来るまでエミールと一緒にいて?」

エレン「…嘘吐いちゃダメなんだよ」

ロゼッタ「勿論よエレン…ほら、おいでぎゅーってしてあげる、クレアも」

エレン「うん…」

ロゼッタ「暖かい?」

クレア「暖かい…ロゼッタさんも暖かい?」

ロゼッタ「そうね…貴女達幽霊なのに暖かいわ…不思議ね」

エレン「帰って来てね…」

ロゼッタ「えぇ…じゃあ、行ってくるわ」

クレア「……」

屋敷を出て行くロゼッタ

エレン「行っちゃった…」

クレア「本当に大丈夫なのかな?…ロゼッタさん一人で危ないよ…」

エミール「…心配はいらないさ。でも、これ以上君らを騙すのは僕も忍びないんだよなぁ…」

クレア「え?」

エミール「彼女は誰よりも娘達を大切に思っていた。だからこそ、あの子達にも黙っていた事がある…君達にも隠している事だ…」

エレン「何?どう言う事?」

エミール「死んでしまった君達にも黙ってるなんて…彼女は…本当は人間になりたかったんだろうな」

クレア「人間になりたかった…?」

エミール「彼女の事を知りたいかい?」

エレン「え…」

エミール「もし、知ってしまっても怖がらないかい?」

クレア「…」

エミール「どう?」

クレア「……怖がらない!」

エレン「え、エレンも!」

エミール「じゃあ、着いておいで。…君らなら彼女の事を知っても大丈夫だろう」

①①
森に近い村の広場

ローブの男1「は〜、結局少女達の魂は見つからなかったな…。しかし次の村で必要な数の生贄は揃うだろう」

ローブの女「そうですね。あぁ…これでついに魔女様とお会い出来るんですね!」

ローブの男2「すみません、少しいいでしょうか?」

ローブの男1「どうかしたか?」

ローブの男2「大人の死体はどうしますか?今回は少し数が多いですが…」

ローブの男1「森に捨ててしまえ、あの森は獣が多い。血肉は貪ってくれるだろう」

ローブの女「でも、森には女がいませんでした?」

ローブの男1「そうか…なら、後でまた出向こう。我々の姿も見られているからな」

ローブの男2「了解です」

ローブの女「では、私は子供の死体をまとめて来ますわ」

暗闇の中から現れるロゼッタ

ロゼッタ「貴方達…何をしているの?」

ローブの男1「貴様っ…!?」

ローブの男2「森にいた女…何をしに来た!?」

ロゼッタ「それは此方のセリフよ。何をしている?この死体達は何?村の…大人の死体よね」

ローブの男1「……これは儀式の為の尊い犠牲なのです。貴女の様な方にはよく分からないでしょうが」

ロゼッタ「…犠牲は子供達だけじゃないの?」

ローブの女「貴女、何故それを…!?」

ロゼッタ「大人達まで殺すのね…死体を隠して、貴方達の事を誰も喋らない様にしてるの?…外道が…」

ローブの男1「外道?我々は魔女を信仰する黒魔道士…!人間の魂を目視出来るこの力は紛れもなく魔女の持つ素晴らしい魔法!」

ロゼッタ「……」

ローブの男1「我々は魔女に認められる存在!魔女を低俗と思い殺しまくる人間は愚かだ!そんな人間達なぞ死んだ方がいいだろう!!」

ローブの男2「そうです!しかも殺されているのは何の力も持たない、虚偽の申告をされている人間がほとんど。なんとバカな話か」

ローブの女「ねぇ?貴女もそう思いませんこと?なんなら私達の旅に同行しませんか?」

ローブの男1「いけません…。きっとこの方も人間の魂は見えていない…。それなのに我々の事を知ってしまった…なら、どうするか」

ローブの男2「えぇ、分かっておりますとも…」

①②

静かに息を吐くロゼッタ
近づいて来るローブの集団

ロゼッタ「…愚かなのはどちらか…そんなの明白よ」

ローブの男1「何…?」

ロゼッタ「見えていないのは…どちらでしょうね?」


離れた所から様子を見ているエミール達

エミール「おっと、もう始まっているか?」

エレン「あ、ロゼッタさんだ…!」

エミール「エレン、これ以上近付くな。足元も危なそうだし…」

エレン「え?」

クレア「あれは、死体…?大人の……あの顔、ママ…?」

エレン「お姉ちゃん?」

クレア「……」

エミール「クレア、前だけ見てなさい。ロゼッタだけを見ていなさい」

クレア「…わかった。エレン、下は見ないの…ロゼッタさんだけを見てるのよ」

エレン「う、うん…」


ロゼッタの怒りで空気がひりつく

ロゼッタ「私はこの村が嫌いだった。私が先にこの地に住んでいたのに、私を追い出して、私が愛した人を魔女の使いと騒ぎ立て、崖から突き落とした。あまつさえ、私の可愛い子供達が病で亡くなったのを笑いやがった…!」

ローブの男1「な、なんだこいつ…」

ローブの男2「なんだか、空気が熱い…?」

ロゼッタ「復讐してやろうと幾度思った事か!」


エミール「ロゼッタ…」


ロゼッタ「だけど、そんな事をしても…無意味。だってクロエもエリンもこの世にはいないんだもの…」

ローブの男1「何を言ってる…」

ロゼッタ「……長い時を過ごした。私は人間の様に生きれないと確信するまで充分な時間だった…。私は……」

ローブの女「な、あの女から炎が上がってます!?」

ローブの男1「何っ!?ま、まさか貴様は本物のっ…」

ロゼッタ「村人が恐れるのも分かる。私を愛した人間も私が産んだ子供達を恐れるのも分かる。殺して、死を望むのも分かる!でも、私はずっと生きているのよ!…だって、だって私は全てを燃やし尽くす!恐ろしい恐ろしいーー」

ローブの男2「魔女だぁぁぁ!!?」

ローブの女「やだぁ!燃えてる!?も、燃えてるぅ!!」

ローブの男1「は、はははっ…これが…これが我々が求めていた魔女…」

ロゼッタ「私を追い出し子供達を犠牲にしたこの村も、私利私欲の為に全てを利用し殺したあんた達も絶対に許さないわぁぁぁあ!!」

ローブの男1「美しい、美しいぃぃぃいーーー」

激しく燃え盛る村

①③

クレア「も、燃えてる…」

エレン「凄い…」

エミール「ロゼッタ…彼女の心が怒りに侵された時、放たれる魔法は全てを燃やし尽くす…炎が収まり、その地に残るのは灰だけ……。ついた異名が『残灰(ざんかい)の魔女、ロゼッタ』…」

クレア「魔女…」


ロゼッタ「ふぅ…」

エレン「ロゼッタさん!」

ロゼッタ「!?エレン?何故ここに!?」

エミール「すまない、連れて来てしまった…」

ロゼッタ「エミール!?貴方ねぇ…」

クレア「ロゼッタさん…」

ロゼッタ「く、クレアまで…」

エレン「ロゼッタさん、怪我してない?大丈夫?」

ロゼッタ「え?え、えぇ…大丈夫よ…」

エレン「良かった…すっごい炎だったからびっくりしちゃった」

ロゼッタ「…エレン………。怖くなかった?」

エレン「うん!かっこよかった!」

ロゼッタ「え、」

クレア「ありがとう、ロゼッタさん」

ロゼッタ「クレ、ア…?」

クレア「私達の為に怒ってくれて…」

ロゼッタ「……!」



ロゼッタ「…貴女達の為だけじゃない…、私の為でもある。それに…貴女達のご両親も…その…」

クレア「うん、でも…今はロゼッタさんが無事で良かったって思うの…」

ロゼッタ「クレア…」

クレア「死んじゃったのに助けてくれたロゼッタさん、美味しくて温かいスープをくれて、私達をぎゅーって抱きしめてくれたのはロゼッタさんだから…」

ロゼッタ「クレ…ア…、エレン…」

エレン「大好き、ロゼッタさん…!貴女の子供が羨ましいよ」

ロゼッタ「あ、…あぁ…、クレア、エレン!」

エミール「!……なんだ、地面から…いや、燃え尽きた灰から小さな白い光の球体が幾つも上がってきた…?」

ロゼッタ「これは…」

エミール「人間の…村の子供達の魂か…?とても暖かい感覚だ…」

クレア「すごい、綺麗…」

エレン「魔法みたい…!」

ロゼッタ「まるで、天へ登るみたいね…」

クレア「ロゼッタさん…」

エレン「エレン達も…行かなきゃ行けないの?」

エミール「…ロゼッタ、決めるのは彼女達だよ」

ロゼッタ「………」

エミール「僕の時は、僕が息を引き取る前に君が見つけてくれた。猫の身体に僕の魂を移した。僕自身も望んだ事だ…。しかし、娘達の時は、娘達の魂が君の魔法に耐えられないと思い、僕と同じ事は出来なかった…」

ロゼッタ「………」

エミール「今も同じだ。この二人は娘達と同じく幼いし、代わりの身体もない…。そもそも別の体になるリスクは高過ぎる…ロゼッタ、魂は天へ身体は地へ…これが人間の理(ことわり)だ…彼女達は還してあげよう…」

ロゼッタ「…いや、いやぁ!」

エミール「!?」

ロゼッタ「私はクレアとエレンと離れたくない!幽霊でもなんでもいい!二人を手放さない!」

エミール「っ…、何を言ってるんだ!二人はもう死んでる!この二人は…クロエとエリンの代わりなんかじゃないんだぞ!」

ロゼッタ「この子達はクレアとエレンよぉ!」

エミール「っ!?」

クレア「…」

エレン「…ロゼッタ、さん」

ロゼッタ「私の可愛い子供達じゃない…でも、この子達も同じくらい大切で可愛い子供達よ…。この子達は人間なのに親から愛されず、あいつらの犠牲の一片で…。私はこの子達を愛したい…愛を与えたい…。亡くなった娘達を冒涜する行為でも、愚かで自分勝手な考えでも…」

エミール「……」

ロゼッタ「愛してあげたいのぉ!!」

クレア「うっ……うぅ…」

エレン「ふぇ…うぇぇぇん!」

ロゼッタ「うぅぅ…もっと強く抱き締めさせて…二人とも…」

クレア「ロゼッタさん、ロゼッタさぁん…!」

エレン「えぇぇぇぇん!こ、ここにいるぅぅ!」

エミール「…エゴ…か。…神が許さなくても君達が幸せなら僕も幸せだよ…。君を愛してから、全てを奪われる君が可哀想で仕方なかった…僕が与える立場になりたかったのに…結局君は奪われてしまった…」

3人に歩み寄るエミール

エミール「僕自身もエゴだ…。この姿になってまで君の側にいたのはきっと…君は僕を奪われてないって強引に証明したかったからなんだ…」

ロゼッタ「いいのよ…どんな形であれ、私が望んだの…貴方が望んだの…この子達が望んだの……それを悪い事なんて言われたくないわ…」

エミール「あぁ、きっとあの子達も許してくれるさ…」

ロゼッタ「許されなくて良い…、私はこの子達もあの子達の事も…誰よりも愛しているもの」

エミール「…あぁ、そうだね。僕も愛してるよロゼッタ…」

①④

エレン「むか〜しむかし、その森にはとっても強くてとっても優しくてとっても美しい魔女が住んでいました!魔女はお話が大好きな黒猫ととっても可愛い幽霊の姉妹と仲良く仲良く…いつまでも幸せに過ごしました…とさ!」


クレア「エレン?何を書いてるの?」

エレン「お話!エミールと一緒に考えた物語なんだよ!」

エミール「いや〜エレンも口が達者になって来てね〜、僕の語る物語に色々付け足して更に面白くしていくんだ♪こりゃ作家の才能があるな〜」

エレン「本当?エレンすごい?」

エミール「すごいすごい!」

クレア「もう、ママが呼んでるよ!ご飯出来たって!」

エレン「ご飯!」

エミール「よぉし、じゃあ食堂まで競争だ!」

エレン「わーい!エレンがいちばーん!」

クレア「こら!走っちゃダメよ!」

エミール「いえ〜い!僕がいちばーーぐえっ!?」

ロゼッタ「全く…呆れたものね。食堂に走って入って来ないで頂戴?埃が立つでしょう?」

エミール「ごめん、ごめん…」

エレン「ママ!ご飯なーに?」

ロゼッタ「羊肉よ。後エレンの大好きなカボチャのスープもあるわ」

エレン「やったー!」

クレア「カボチャのスープ?私も好きー!」

ロゼッタ「ふふっ、じゃあ席に着いて?みんなで一緒に食べましょう?」

エレン「はーい!お姉ちゃんはエレンの隣に座るんだよ?」

クレア「分かってるわよ!」

ロゼッタ「ふふっ」


エミール「…むかしむかし、その森にはとても強くとても優しくとても美しい魔女が住んでいました。魔女はお話が大好きな黒猫ととても可愛らしい幽霊の姉妹と仲良く…いつまでも、いつまでも幸せに過ごしています………」

ロゼッタ「貴方、ご飯が冷めるわよ」

エミール「すまない、今行くよ」

クレア「みんな席に着いたね?」

エレン「それじゃあ、いくよー?いただきます!」

全員「いただきます」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?