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【声劇台本】まじなうのろい(男3:女2)

登場人物(3:2)

・申神 京也(さるかみ きょうや)/男
呪具に関する物を集めるコレクター。昔は呪いに関する研究所に勤務していたが、価値観の違いで退職。圧倒的な天才だが、傍若無人で人格破綻者。生活力は皆無で、弟子の戌亥に全て任せている。

・ろにぃ/女
フランス人形を抱えた幼い少女。外界と遮断された山奥の村で生まれた。持ってる人形がろにぃ自身に移り、触る者に致死量の毒を流し込むと言う呪いにかかっているらしい。幼いのに文字の読み書きが出来、とても大人しい性格。

・戌亥(いぬい)/男
申神の弟子の少年。生まれた村で迫害を受け、申神に保護される。素直じゃなく口も悪いが、根は真っ直ぐで優しい。申神に悪態を付くが、誰よりも尊敬している。

・鷲尾 蓮実(わしお はすみ)/男
申神の友人で情報通の薬売り。定期的に申神の下へ訪れては薬や情報を売っている。申神の命とコレクションを狙っている射鶴の存在を危険視しており、動向を追っている。

・射鶴(いづる)/女
申神と同じ施設にいた元同僚。申神に価値観を否定され酷く憎む様になる。薬や毒物、話術に長けていて、呪いを扱う魔女になる事が野望。

【時間】約1時間
【あらすじ】
呪いに関する物を集めてる申神は友人で薬売りの鷲尾に連れられある村にやって来た。そこには1人の少女がおり、村人は全てその少女の呪いによって殺されていた。呪いに侵された少女に興味を持った申神は少女、ろにぃを保護することに。




ろにぃ「私は父と母を殺しました。村の人達も私の力で死にました。私は触れた人に毒の様な物を流し込み、それが広がって死にゆくもの。今よりもっと幼い頃、とある女の人にこのお人形を貰ってから、この能力が発現したのです。何度もこの人形を手放そうとしましたが、気付けば手元に戻って来るのです…この力は消えませんか?」

申神「……作為的な呪い。人形に込められた呪いの力がこの子供に乗り移っていると言うことか?」

鷲尾「治せないのか?こんな小さいガキが呪いの力に塗(まみ)れてるなんて、可哀想な話だ?」

ろにぃ「……」

申神「この子供自体が一種の呪具と言う訳か……。おい、我輩の名は申神京也と言う。呪いと言う物に魅了され、呪いとなった呪具を集める高尚な収集家だ。鷲尾、この呪い…我輩に預けろ」

鷲尾「んー、いいけどさぁ…お前ん所の弟子は良いのかい?連絡入れた?」

申神「後で良い」

鷲尾「怒られる姿が目に見えるなー」

申神「お前、名はあるか?」

ろにぃ「……ろ、にい……」

申神「ろにぃ……?」

鷲尾「外国の者みてーな名前だな。出身はあっちの山奥にある村から出て来たと言う話だぜ」

申神「行く宛があろうがなかろうが関係ない。我輩の下へ来い、ろにぃ」

ろにぃ「この力から解放されるなら…何でもします。私を必要として下さい」

申神「必要だ。我輩のコレクションの一つとしてやる」

鷲尾「高尚な趣味をお持ちの変人め…」

申神「二度と貴様の薬は買わんぞ鷲尾」

鷲尾「俺の薬は天下一!それを見込んでくれたお得意様の申神にはいつも感謝してますー」

申神「変わり身の速さは商魂逞しいな」

ろにぃ「…おじちゃん……」

申神「お兄さんと呼べ……もしくは、先生だ」

ろにぃ「先生…」

申神「お前の呪いを解読して、解決策を提示して見せよう。約束する」

ろにぃ「やくそ……く……先生」

申神「触るな」

ろにぃ「!?」

申神「まだ…触るでない。その力が分かった時、その時こそお前は呪いの力から解放されるだろう。その時まで、誰にも触ってはならん。分かったな?」

ろにぃ「……指切り、出来ない」

申神「約束は指切った…か。子供はお呪い(おまじない)が好きだなぁ。……いつか、小指同士を絡ませて約束が出来るようにしてやろう。今は少し離した状態で勘弁してくれ」

ろにぃ「………約束。指切った」

申神「嘘つきは、死んでやる。指切った」

鷲尾「おっかない呪い(まじない)だこって……」


申神の屋敷。

申神「ろにぃ、ここが我輩の屋敷だ。空室が多いからゆっくりすると良い」

ろにぃ「…さっきのお薬の匂いがするお兄さんは…?」

申神「鷲尾か?あいつは薬売りで色んな情報を持って来る奴だ。お前を紹介してくれたのもあいつなんだぞ」

ろにぃ「先生と仲の良い人?」

申神「あぁ、互いの利益の為に仲良くしている」

ろにぃ「…へぇ」

バタバタと足音が近付く。

戌亥「申ー!てめぇまた何も言わずに出掛けやがったなぁ!?書き置きの一つでも残しておくとか出来ねぇのかよ!これだから収集バカの変人野郎は、全く……………あ?申、誰だそいつ」

申神「先生と呼べ。何度言っても聞かんのはどっちだ戌亥?駒使い兼我輩の弟子と言う立場…誰もが泣いて喜ぶぞ!」

戌亥「弟子ではあるが駒使いって響きは気にいらねぇ。それより質問に答えろ。そいつは…」

ろにぃ「私、ろにぃ…」

戌亥「!?っ、触るな!」

ろにぃ「!」

戌亥「あ、……違っ。…君…呪われてる?」

申神「流石、我輩の一番弟子。ま…お前は呪いの感知能力は我輩と並ぶ程だからな。この子は鷲尾の紹介で手に入れた呪いだ。山奥の村に居たが、呪いが発現し村民を皆殺しにしたらしい」

戌亥「えっぐぅ……。なら保護か?」

申神「そうなる。しかも触れたら呪いが発動すると言うので、触らないように気を付けろ。さっきの判断は間違いではなかったぞ、戌亥」

ろにぃ「……」

戌亥「…急に大きい声出して驚いたよな…。僕は戌亥、この変人に助けられた事で住み込みで働いてる使用人みたいなもんだ」

申神「変人…?」

ろにぃ「ろにぃ」

戌亥「ろにぃ?変わった名前だな…此処に来たって事は当分ろにぃは僕の後輩だな。呪いは関係ない、出来る仕事をして貰う!僕は子供相手にも容赦しないからな!」

ろにぃ「……貴方も子供じゃん」

戌亥「あ!?今、何か言った?」

ろにぃ「私よりちょっと大きいだけで子供じゃない」

戌亥「何だと!?このクソガキ!」

申神「ガキ同士で喧嘩すんな。戌亥も大人げないぞ」

戌亥「なっ!?」

ろにぃ「ふっ、先生に怒られてやんの…」

戌亥「っ〜!?申!本当にこいつ置くの!?今まで連れて来た奴等の中でもかなりムカつくぞ!」

申神「触れただけで発動する呪いだ。放り出すわけにはいかない」

戌亥「でも、こいつ…」

ろにぃ「ふんっ」

申神「がんばっ」

戌亥「っーーー!申、手前今日、食後のデザートなしだからな!」

申神「はぁ!?何でだ?」

戌亥「色々ムカつくのと連絡を怠った罰だバーカ!」

戌亥、その場を去る。

申神「クソガキめぇ…」

ろにぃ「…先生、私あの人嫌…」

申神「…まぁ、我輩の事を恩人と言う割にはクソ生意気だが…、あれでも最初は酷く臆病者だったんだ」

ろにぃ「そうなの?」

申神「今となっては見る影もないだろう?戌亥は呪いを克服し、成長した。…ろにぃもいずれそうなるだろう」

ろにぃ「…私も、この力を克服…出来る?」

申神「しただろう?約束…」

ろにぃ「……うん!」


数ヶ月後。

鷲尾「随分とまぁ、…馴染んだねぇ」

申神「何の話だ?」

戌亥「ろにぃ!お茶は僕が持つから、お前は茶菓子入れてる方の皿を出せ!」

ろにぃ「嫌!お茶くらい私が持てる!無機物に呪いは移らないもん!」

戌亥「ちげーよ!フラフラして危ないから僕が持つって言ってんだよ!このちび!」

ろにぃ「ちびじゃない!持てるもん!」

鷲尾「兄妹みたいだね〜」

申神「ろにぃを引き取って早2ヶ月…最初はあんな歪み合ってた二人がこんな仲良くなるとはなぁ」

戌亥「申も鷲尾さんも何勘違いしてんのか分かんないけどさ、僕とろにぃは先輩後輩の関係だから!」

ろにぃ「よいしょ……はい、先生ー。お茶です」

申神「あぁ」

ろにぃ「鷲尾さんも…どーぞ」

鷲尾「ありがと。…どう、ろにぃちゃん、ここの生活は?」

ろにぃ「え?…楽しい。先生の授業は大変だけど、先生もいー君も私を追い出さないから」

申神「……」

戌亥「ろにぃ…」

鷲尾「そっか、良かったね」

ろにぃ「うん」

申神「それで鷲尾、今日は薬以外の要件はあるのか?」

鷲尾「あぁ、あるよ。お前に頼まれてた件だ」

申神「……戌亥、あっちの部屋でろにぃと遊んどけ」

戌亥「え、……分かった。ろにぃ、行くぞ」

ろにぃ「…うん?」

二人、去る。

鷲尾「すまんな、申神」

申神「構わん。話せ」

鷲尾「……まず、ろにぃちゃんのいた村の話なんだが……」



ろにぃ「いー君、私外で遊びたい」

戌亥「え、いーけど…待って!申に許可取ってくるから」

ろにぃ「……いー君って先生の事何で申って呼ぶの?いー君も先生に色々教えて貰ってるじゃない」

戌亥「うっ……それは……」

ろにぃ「何で?何でー?」

戌亥「………今更、先生とか師匠とか…呼び辛いだろ?」

ろにぃ「何で?」

戌亥「……ろにぃはまだまだ子供だから僕の気持ちなんて分かんないんだよ!」

ろにぃ「私子供じゃない!」

戌亥「お前はまだ子供だ!僕よりちっさくて弱っちぃじゃねーか!」

ろにぃ「弱くない!」

戌亥「呪いの力に頼らねーと弱いくせに!」

ろにぃ「……っ」

戌亥「あ!…その……」

申神「おい!騒がしいぞ、喧嘩するなっていつも言ってんだろ!」

戌亥「あ、申…」

鷲尾「何々〜?大丈夫ー…おっと!」

戌亥「あ!ろにぃ、待て!」

鷲尾「申神、ろにぃちゃん外に出たぞ。追わなくて良いのか?」

申神「……遠くには行かんはずだ。それより戌亥」

戌亥「っ…」

申神「お前何を言った?ろにぃの呪いの力はまだ計り知れない。下手な言葉をきっかけに暴走したらどうする?」

戌亥「でも申っ…」

申神「言葉は呪いになる。何度言えば分かるんだ!?」

戌亥「……っ」

戌亥、自室へ逃げる。

申神「あ、戌亥!話はまだ……チッ、部屋に篭りやがったか…」

鷲尾「…んー、他人の家の事に口出しは出来ないけどさー。大変そうだな、子育てって…」

申神「何が子育てだ」

鷲尾「戌亥君もまだまだ子供じゃん。あれって、反抗期って奴じゃないの?」

申神「反抗期ぃ?……知るか。戌亥は子供だが、我輩の弟子だ……。しかし、話も聞かずに責め立てた過ぎたかもな…」

鷲尾「甘えさせても良いんじゃない?」

申神「ふん…、それより今は話の続きをしろ」

鷲尾「はいはい…何処からだっけ?」

申神「あの女、射鶴が関わってると言う話からだ…」


外。

ろにぃ「バカ…いー君のバカ…。いー君だって先生の事大好きな筈なのに…何であんな言い方するんだろ…それに、私の悪口…酷いよ…」

射鶴「それは呪い?」

ろにぃ「へ!?」

射鶴「こんにちは、お嬢ちゃん」

ろにぃ「だ、誰ですか…?」

射鶴「私は申神君の元同僚よ」

ろにぃ「…先生のお友達?」

射鶴「そうよ。……申神君の事、先生って呼んでるの?」

ろにぃ「はい!先生は私の呪いを直してくれる約束をしたんです!」

射鶴「へー…私はね、昔…彼と同じ職場で働いていたの」

ろにぃ「先生とお仕事…?」

射鶴「えぇ、申神君は呪いを研究していた私達職員の中で1番優秀な人だったのよ」

ろにぃ「先生すごい!」

射鶴「すごいでしょ?」

ろにぃ「…でも、今は先生ずっとお家にいますよ?たまにお外へ出て呪具を集めてるらしいけど…」

射鶴「そーね、申神君は私や他の職員と喧嘩して出て行っちゃったの。申神君が居なくなってからの研究所は色々と言い争いが絶えなくて…私も抜けたのだけど…」

ろにぃ「お姉さんも大変だったんですね…」

射鶴「そーね、大変だったわ…」

ろにぃ「…って事はお姉さんは先生に用があって来たんですか?」

射鶴「……うーん、近くを通っただけ。申神君は素っ気ない人だから、私には会いたがらないわ」

ろにぃ「そうなんですか…」

射鶴「ねぇ、お嬢ちゃん…お嬢ちゃんは呪いって何だと思う?」

ろにぃ「呪い…?」

射鶴「そう、呪い…」

ろにぃ「怖いもの…。私はずっとそれに苦しめられてたから…。でも、そのおかげで先生の所へ来られた…。呪いって不思議なもの…」

射鶴「ふぅん…」

ろにぃ「いつか…このお人形を完全に手放して、呪いが消える…そうなれば、先生といー君は私を手放すのかな?」

射鶴「……ねぇ、お嬢ちゃん」

ろにぃ「っ!?だ、ダメ、私に触らないで!」

射鶴「あ、……頭を撫でられるのは嫌だった?」

ろにぃ「ちが……その、私まだ…呪いが掛かってるから…」

射鶴「そう…。ごめんなさいね。……ねぇ、お嬢ちゃんはあの文字、読めるようになった?」

ろにぃ「え?」

射鶴「地面を見てて…土の上に書くから……」

ろにぃ「……あれ、お姉さん…貴女……」

射鶴「『貴女は呪い、私は射鶴。貴方を迎えに行きます。私の京也』……」

ろにぃ「あぇ……?」

射鶴「伝えて頂戴ね…呪いの子」

射鶴が居なくなっている。

ろにぃ「あれ、お姉さんは?……地面に書かれてる文字…カタカナのロと漢字のあ……違う。この文字、呪いだ……」


射鶴「貴女は呪い」(フラッシュバックする様な射鶴の声)


ろにぃ「あ!?……え、あの人…確か…」



鷲尾「あ、いたいたー!ろにぃちゃーん」

ろにぃ「鷲尾さん…?」

鷲尾「俺帰るんだけど、ろにぃちゃんはまだ帰んないの?そろそろ暗くなるし、危ないよ?」

ろにぃ「でも…いー君が……」

鷲尾「…んー、戌亥君ねぇ…君が出ていって申神からこっ酷く怒られて塞ぎ込んじゃったの。申神もキツイ言い方したってちょっと反省してたし」

ろにぃ「…そうなんですか?」

鷲尾「うん。だから、戻って戌亥君と仲直りしてあげて?そしたら申神と戌亥君も仲直り出来ると思うから」

ろにぃ「……でも、私悪くないもん」

鷲尾「…そーか、まぁ戌亥君って素直じゃないからなぁ。ろにぃちゃんがお姉さんになってあげてよ」

ろにぃ「なんで?」

鷲尾「……戌亥君はね、申神に拾われる前は酷い暴言や暴力を色んな人に浴びせられてたんだ。だから、あの子の言葉がキツいのは自分を守る諸刃の盾なんだ」

ろにぃ「……」

鷲尾「もっと遠くの山奥の村に悪い神様を信仰してる場所があったんだけど、そこで生まれ神様の生贄にされそうになった時、申神が戌亥君を助けたんだ」

ろにぃ「先生がいー君を?」

鷲尾「うん、だから戌亥君にとって申神は命の恩人なんだよ」

ろにぃ「…それなら尚更、何でいー君は先生を申って呼ぶの?」

鷲尾「ありがとうって言葉を知らなかったんだ、戌亥君は」

ろにぃ「え」

鷲尾「感謝の言葉も優しい言葉も何も知らなかった。今はマシになったけど、まだまだ勉強中なんだよ」

ろにぃ「……いー君」

鷲尾「分かったら戻ろう?戌亥君にありがとうやごめんなさいって言葉を教えてあげられるのは、ろにぃちゃんだけなんだよ。申神だって戌亥君に劣らずの素直じゃない大人なんだからさ」

ろにぃ「うん…、私帰ります。ありがとう鷲尾さん」

鷲尾「いーえ……あれ、地面に書いてる文字…、これろにぃちゃんが書いたの?」

ろにぃ「うぅん、お姉さんが書いたんです」

鷲尾「お姉さん?」

ろにぃ「鷲尾さん、これって呪いって文字だよね?」

鷲尾「……そういえばろにぃちゃんって文字の読み書きが出来たんだよね…小さいのに凄いなぁ」

ろにぃ「教わった…気がする……でも、これって私の事。私はろにぃじゃなくて呪いだった…私の名前じゃない…」

鷲尾「………あの女か!?」

ろにぃ「鷲尾さん?」

鷲尾「……ろにぃちゃん、この呪いって字はね、呪い(まじない)とも読めるんだ。呪い(まじない)は申神とやっただろう?」

ろにぃ「…指切り?」

鷲尾「うん。呪いも呪い(まじない)も同じ意味だが、違う意味にもなる。君に巣食うのは呪いだが、申神と交わしたのは呪い(まじない)だ。呪いの世界も奥が深いだろう?」

ろにぃ「うん」

鷲尾「それに呪いって悪い物ばかりじゃないんだよ。呪いと言う名前を名乗るのなら善も悪も全ての呪いを理解出来るはずさ。申神のようにね」

ろにぃ「先生の様に?私は先生の様になったら、先生といー君とずっと一緒にいれる?」

鷲尾「……それは、本人達に聞いてみな」

ろにぃ「うん、聞いてみます!ばいばい、またね鷲尾さん!」

鷲尾「またねー………呪い…。くそっ、まさか直接接触してくるとは……早い所射鶴の在処を割り出して申神に伝えないと……。あの女、申神を殺してあいつのコレクションを奪う事、まだ諦めてなかったのか!?」


申神の屋敷。

ろにぃ「た、ただいま戻りました……」

申神「あ?」

ろにぃ「ひっ!?」

申神「……ろにぃか。全く、此処は託児場じゃねぇんだよ。喧嘩されたら空気が悪くてかなわん」

ろにぃ「ご、ごめんなさい……」

申神「あ、……いや…そこまで怒っているわけじゃ……すまんろにぃ、我輩は子供の相手は分からんでな……」

ろにぃ「いえ、先生は素直じゃないって鷲尾さんも言ってたので大丈夫です」

申神「あんにゃろぉ…」

ろにぃ「いー君は?」

申神「部屋に籠ってるよ」

ろにぃ「分かりました…」

申神「ろにぃ?」

ろにぃ「いー君に謝って来ます」

申神「え、お…おぉ」

戌亥の部屋の前。

ろにぃ「いー君…いる?……先生ー。いー君、中にいますか?」

申神「あぁ、気配はあるぞ」

ろにぃ「……いー君…あの…さっきは」

戌亥「………」

ろにぃ「さっきのはやっぱり、いー君が悪いと思うの!」

申神「は?」

戌亥「あ!?」

ろにぃ「いっつも私を子供扱いする癖に、先生の事になるといー君の方が子供っぽい!」

申神「ろ、ろにぃ…?」

ろにぃ「私はいー君より子供だけど、中身はそこまで子供じゃないから!私に言った悪口は許してあげる!外に逃げちゃったのは大人げなかったわ。それはごめんなさい。だからいー君、晩御飯作らないと先生困っちゃうよ?」

申神「……謝ってねぇし、我輩どんなイメージ持たれてんの?」

扉が開く。

戌亥「ろにぃ…」

ろにぃ「あ、いー君出て来てくれた?」

戌亥「……なんか、ある意味僕の負けだわ…」

ろにぃ「え?」

戌亥「いや、いい……。悪かったよ…」

ろにぃ「…なーんだ、謝る言葉知ってるじゃない!」

戌亥「…お前さぁ、さっきからバカにしてない?」

ろにぃ「なにが?」

戌亥「……いや、無意識でそれとかお前強過ぎ…」

ろにぃ「本当?私強い?」

戌亥「はいはい、晩飯作るぞ」

ろにぃ「はーい」

申神「おい。い、戌亥。さっきは強く言い過ぎた…」

戌亥「申…、いや…あれはろにぃに対して僕も言い過ぎたから、申が謝る必要はないよ」

申神「そうか。…つーか、何で喧嘩したんだ?」

戌亥「そ、それは……」

ろにぃ「何でいー君は先生の事申って呼ぶの?って聞いたの。いー君も先生の事大好きな筈のに」

戌亥「わー!?ろにぃ変な事を言うなー!」

申神「ほー、へー、ふっ…ふふふっ」

戌亥「ニヤニヤすんなこの変態トンデモコレクター!」

申神「おい、今のはライン超えたぞ!?」

戌亥「いーか、ろにぃ!こいつはすぐに調子に乗るんだ!だから甘やかすな!」

申神「お前なぁ、恩を仇で返すとはこの事だぞ?」

戌亥「うるせぇ!だったら一回くらい食える飯を作ってみろ!散々材料無駄にしやがって!」

申神「お前が作れる様になってからは家事炊事は任せてるだろ!?だから何も無駄になってないわ!」

戌亥「そー言うとこだよ!天才だからって生活力ない設定は今更うまくねぇからな!来た時の僕がどれだけ苦労したか…」

申神「それ以上喋るなこのクソガキっ」

ろにぃ「ぷっ、ふふ…あはは!大きな声で喧嘩なんて…二人とも子供みたい!」

申神「っ……」

戌亥「ちっ…」

ろにぃ「はい、もう仲直りしてご飯を作りましょう?先生のお腹の虫が鳴いちゃうもん」

戌亥「あー、はいはい。そーだなぁ」

申神「おい、我輩をなんだと思ってやがる」


数日後、町の市場。

戌亥「えーっと、申から頼まれてた薬草は…これで全部か。次は夕食の材料……んー、夕飯どうしよっかなぁ。あの二人野菜多いと文句言うから、生野菜を大量に入れてやるか……」

射鶴「こんにちは」

戌亥「でも最近野菜は高いし……うーん、どうしてやるべきか…」

射鶴「……こんにちは」

戌亥「あっちの八百屋にも行ってみるかぁ」

射鶴「…わざとかしら?わんちゃん」

戌亥「……師匠とおんなじ匂いがすんだよ。あいつも常々言ってた。自分と同じ奴はそうそういないけど、いた時は関わるなって…」

射鶴「ふふっ、京也らしい…」

戌亥「あんたが噂の射鶴って人?」

射鶴「あら、どんな噂かしら?」

戌亥「自分を陥れ様としてるクソアマ」

射鶴「…それって京也が言ってたの?」

戌亥「あぁ」

射鶴「相変わらず素直じゃないのね、あの人ったら…」

戌亥「もういいか?僕は忙しいんだ」

射鶴「待ちなさい。今は貴方に用があるの」

戌亥「僕に…?」

射鶴「えぇ、ついて来なさい」

戌亥「……悪いけど、あんたの言う事を聞くつもりは…」

射鶴「ついてくるの、わんちゃん…これは命令よ」

戌亥「っ……」

射鶴「ふふ、良い子ね。わんちゃん」


申神の屋敷。

ろにぃ「……いー君遅いですね」

申神「だな。もう帰って来て飯の準備をしてる時間だろう」

ろにぃ「先生、いー君大丈夫でしょうか?」

申神「まだまだガキだが、心配する程でもない。あいつには色々教えたしな」

ろにぃ「でも言葉遣いは教えてないでしょう?」

申神「お前も言葉遣いを誰かに教わっとけ」

ろにぃ「いー君…」

申神「……心配だな」

突然、家の扉が開く。

鷲尾「申神!」

申神「鷲尾?…おい、来るならノック位しろ」

鷲尾「そんな事より、大変だ!戌亥君が…」

ろにぃ「いー君?」

申神「戌亥がどうかしたのか?」

鷲尾「戌亥君が…射鶴に連れて行かれたらしい!」

申神「何!?」

ろにぃ「い…づる…?」

申神「何で…何故、あいつが戌亥を!?あいつが狙ってるのは我輩のコレクションだろう?」

鷲尾「それは知らないが…、戌亥君を拐(かどわ)かし、お前を誘い出そうとしてるんじゃないか?」

申神「ちっ……」

鷲尾「もしかすると、俺がこうして申神に伝えに行くことも分かっていたんじゃ…?本職である薬売りの傍ら、射鶴の事を探っていたからな…」

申神「鷲尾を利用するか…あいつならやりかねん」

鷲尾「どうする、申神」

申神「鷲尾、射鶴の居場所は?」

鷲尾「検討は幾つかついている。おまけに俺でも把握出来る位、射鶴の気配が残ってるからな」

申神「あいつ…わざと……。コレクションを得るために、遂に強硬手段に出るつもりか」

ろにぃ「いづる……」

鷲尾「ろにぃちゃん?どうかしたのかい?」

ろにぃ「『貴女は呪い、私は射鶴。貴方を迎えに行きます。私の京也』」

鷲尾「え…」

申神「ろにぃ、射鶴にあったのか?」

カタカタと体を震わせ、独り言の様に呟く。

ろにぃ「あの人…が、私に…呪いを…呪いを」

申神「何?」

ろにぃ「この人形を…呪いを…みんなを殺す力を与えた…!」

鷲尾「射鶴が、ろにぃちゃんに呪いを…?申神」

申神「やっぱり、あの女の仕業か……」

ろにぃ「え…」

申神「利用されたんだよ。ろにぃ…」



ろにぃ「利用…?」

申神「鷲尾、この間教えてくれた、ろにぃの事…」

鷲尾「え、あ…あぁ」

ろにぃ「私の事…?」

申神「ろにぃ、お前は覚えてないはずだ。父や母、村の者たちの顔や名前は覚えていようと、その人形を手にする前の記憶はほとんどないはずだ」

ろにぃ「え?」

鷲尾「君の呪いの元凶を探るために色々調べたんだ。そしたらろにぃちゃん、君は村の者達から虐げられていたはずだ」

ろにぃ「……え」

鷲尾「君は幼い外見をしているが、物書きの理解がかなり早かった。普通はそんな子供がいると驚かれるが賞賛される物だ。でも、君が居たのは山奥の小さな村。しかも射鶴の息が掛かっていたのか発達の早過ぎる子供は奇異の目で見られてしまう。君は孤独だったはずだよ…」

ろにぃ「あ……あ…」

申神「鷲尾、一旦ここまでにしておこう。お前の持ってきた情報とは言え、真実と断言は出来かねん。それに全てを話せばろにぃの負担になる。それより戌亥が優先だ」

鷲尾「そ、そうだな…」

ろにぃ「……」

申神「案内を頼む鷲尾。ろにぃは家から絶対に出るんじゃないぞ」

ろにぃ「先生!」

申神「…何だ?」

ろにぃ「私も行きます。行きたいです」

鷲尾「え、でも…流石に危険じゃ…」

ろにぃ「あのお姉さんに聞きたい事がいっぱいあるんです。それに、…いー君が心配です…」

鷲尾「申神…」

申神「行くぞ鷲尾、ろにぃ」

ろにぃ「!はい!」

鷲尾「まじかぁ…」

①①
山奥の廃墟。

戌亥「ん……っ、ここは…?」

射鶴「お目覚め?わんちゃん」

戌亥「っ!?手前はっ…!」

射鶴「改めて、私は射鶴。申神京也の元仕事仲間よ」

戌亥「何で僕を捕まえっ…!?ぐっ…か、体が…思う様に動かない…?」

射鶴「無理に動かさない方が良いわよ。今、体の自由を奪う呪いをかけてるんだから」

戌亥「…そんな呪い…聞いた事ねぇぞ?」

射鶴「それがあるのよ。私、魔女だから」

戌亥「……魔女は御伽噺だと、申…師匠は言っていた。お前は人間だ」

射鶴「人間が持つ悪意が変化したのを呪いと言うの。その呪いが物に宿ったらそれは呪具となる。京也がコレクションしてる物ね。それを完璧に、自由に扱う事は出来ない。それが出来るのは魔女だけ。だから私は魔女なの!」

戌亥「…申神師匠はそれを間違いだと言うだろうよ」

射鶴「でしょうね。だからこそ、京也を殺めて彼の持つ呪いのコレクションを私のものにすれば、誰にも否定されず私は呪いを操る魔女となる」

戌亥「我欲を満たす為に申を殺す気か!?あいつはお前の同僚だったんだろ?」

射鶴「京也はね…組織の考えを、私の考えをも否定して自分の答えだけを述べて去っていった。あいつは確執を生んどいて勝手に居なくなったの。私も正直あの職場にはうんざりしてたけど、あいつの尻拭いを全て任されて言いたい放題言われたわ。だから私は京也が大嫌い」

戌亥「……」

射鶴「わんちゃん。君は京也を誘(おび)き出す餌。大丈夫、コレクションじゃない君は京也を呼び出したらお役御免。師弟仲良く殺してあげる」

戌亥「くそっ…」

①②

申神「この先に射鶴がいるんだな?」

鷲尾「あぁ、間違いない……しかし」

ろにぃ「この先って、私の住んでた……」

鷲尾「あぁ、ろにぃちゃんの住んでた村がある。でも、射鶴は村の先にある廃墟にいるはずだ。奴のアジトの一つなんだ」

申神「あいつは一体何をしてんだか…」

ろにぃ「先生…」

申神「ろにぃ、やはりお前は帰るか?」

鷲尾「村を通るんだ、嫌な記憶を思い出すかもしれない…」

ろにぃ「……それでも、行きます」

申神「ふっ、なら行くぞ。何があるか分からん、二人とも気を締めていけよ」

鷲尾「あぁ」

ろにぃ「はい!」

見えない壁に阻まれる鷲尾。

鷲尾「おわっ!?」

申神「鷲尾?どうした?」

鷲尾「どうしたもこうしたも…見えない壁みたいなのに弾かれたぞ。申神とろにぃちゃんは問題なく通れてるのに…これって」

申神「結界の類か?」

鷲尾「射鶴の仕業だとするならば、お前らだけで来いって事かな?」

申神「だろうな。しかし、奴がこんな技まで持ってるとは…。すまんが鷲尾、ここで待っててくれ」

鷲尾「あぁ、気をつけて」

ろにぃ「先生…」

申神「何が起こるか分からん。何度も聞いてしまうが、本当にお前も行くんだな?」

ろにぃ「はい、先生と一緒なら大丈夫です!」

申神「力強い言葉だ。それならば今度こそ行くぞ、ろにぃ!」

ろにぃ「はい、先生!!」

①③

射鶴「あら、思ったより早い到着ね?やっぱりあの薬売りに尾行させて正解だったわ」

申神「最初から鷲尾がお前を追っているのを知っていて泳がせたな?あいつの尾行技術はそこらの探偵より抜群に高いのに逆に利用するとは大したものだな、射鶴」

戌亥「さ、申……!」

ろにぃ「いー君!」

申神「射鶴、うちの戌亥に何を嗅がせた?筋弛緩剤の類か?」

射鶴「やだわ、京也。呪いの力よ?」

申神「嘘つけ。お前のやり口は呪いじゃなくて薬や毒物の力だろう。他の奴等は簡単に騙せても、我輩が騙されるものか。呪いについての研究が天才すぎて職場をボロクソに貶してから出て行ってやった時の事忘れたか?」

射鶴「それのせいでどれだけ私に迷惑がかかったか、貴方知ってる?」

申神「どうでもいい」

射鶴「相変わらず、憎たらしい男…。まぁいいわ。私の要求は分かってるでしょう?良い加減このやり取りを終わらせたいのよ」

申神「ろにぃを寄越してからがこの戦いの最終幕って所か?」

ろにぃ「え……?」

射鶴「お察しの通り。その呪いは私が貴方を殺す為に育てた呪いの卵。内側から爆発するように仕組んだ時限爆弾って感じかしら?」

戌亥「ろにぃを…利用、しようと…してたのか?」

射鶴「利用する…と言うよりは、京也を殺す為に私が作り上げた物なの」

戌亥「どういう…事だ…」

申神「ろにぃの生まれた村は山奥にあり、外界からは遮断されていると言っても良い。そこに現れたのが射鶴。射鶴は薬学に精通している。大方、薬の力を呪いだの何だのでっち上げて村に入り込んだんだろう?」

射鶴「酷い言い様ね。私は呪いの力を信じさせてあげただけ。みんなも私の呪いの力を賞賛してくれたわよ?」

申神「マジでインチキ宗教の教祖様じゃねぇか。あの頭が固くクソ真面目だったお前は何処へ行ったのか…」

射鶴「京也は変わらずの口の悪さね」

申神「まぁ、良い。お喋りはここまでだ。お前に灸を据えてやるよ」

射鶴「それはこっちのセリフ。おバカな京也、魔女である私の呪いの力を忘れたの?」

申神「は?……ぐっ!?」

うずくまる申神。

戌亥「申…!?」

申神「くそっ、時間稼ぎで会話を伸ばしてたのか?我輩に薬が回るように…」

射鶴「えぇ、私は何でも出来る。結界も呪いも薬だって私の手の内…。どう?これから貴方、死んじゃうのよ?」

申神「ぐぅぅ…!?ち、くしょう…がぁ!」

射鶴「でもまだ殺さない。弟子が心配でまんまとやってきたお間抜けな京也は、1番お間抜けな方法で死ぬの」

申神「っ、…はぁ?」

①④

射鶴「呪いの子」

ろにぃ「へっ?」

射鶴「貴女はその呪いの力で申神京也を殺すの。簡単でしょう?だって、貴女の呪いの力は触れた相手に毒を流し込んで殺してしまう力なんだもの」

ろにぃ「や、やだぁ。先生を…殺したくない…」

射鶴「やるの。呪いの子」

ろにぃ「やだぁ!」

戌亥「ろ、にぃ…」

射鶴「呪いの子。貴女に私の言葉を拒否する権利はない。貴女の呪いの力は人を殺す事。母親も父親も村のみんな貴女が殺した…そうでしょう?だって、その記憶があるんだから。そもそもは京也を殺す為に利用したものだけど家族も村人も殺したのは貴女。だって、酷い目にあっていたんだから」

ろにぃ「うぅぅぅ……」

戌亥「ろにぃ…」

申神「随分勝手な事を…ベラベラ並べるじゃ…ねぇか、射鶴」

射鶴「あら、まだ喋る元気があるのね?」

申神「…お前のやり口を、我輩が覚えてないとでも?解毒用の薬は鷲尾に頼んで常備してある。…少し、苦かったがな」

射鶴「私が呪いの子に話しかけてる間に飲んだの?その即効性、興味があるわね」

申神「呪いの子じゃない、そいつは我輩の二番弟子、ろにぃだ」

射鶴「ろにぃ…ねぇ。面白い読み方をしたものね。元々別の名前があったって言うのに…」

申神「なら、その名前を教えて貰おうか?ま、言えないだろうけどなぁ」

射鶴「……」

ろにぃ「私の…本当の名前?」

戌亥「言えないって、一体どう言う…」

申神「言ってしまったら、暗示が解けて記憶を思い出す恐れがある。そしたら、お前の言う呪いとやらが水の泡となるもんなぁ…はぁ、お前のやり口は全てお見通しだ。我輩を誰だと思ってやがる?」

戌亥「申…、どう言う事なんだよ…」

射鶴「やめろ」

申神「だからお前はインチキ野郎なんだよ、射鶴。お前のやってる事は薬や話術を使っての洗脳や催眠だ。戌亥を攫った時も感覚を鈍らせたり言う事を聞く様に薬と言葉をかけたんだろ?今みたいに筋弛緩剤を堂々と使っておいて何が呪いだ」

射鶴「っ…」

申神「だから我輩はお前が嫌いなんだ。我輩を殺す為だけに呪いと言う言葉を悪用するんじゃねぇ!」

射鶴「全部あんたが悪いからだろ!?あんたが私を、組織をバカにして好き勝手して出て行ったのが悪いんじゃない!掻き乱すだけかき乱して、あんたは何がしたかったのよ」

申神「我輩は我輩の正しいをハッキリ言って抜けただけだ。あそこは我輩の考える価値観と違っていた。無論、お前ともな」

射鶴「……」

①⑤

申神「だからこそ今ここでお前のその鼻っ柱を砕いてやるよ!鷲尾にデマを流してろにぃの事を欺いていたんだろう?鷲尾から色々話を聞いて、お前が関わっている事を知り、独自のルートで情報を集めた。ま、鷲尾が集めきれなかった情報を我輩が得られるはずがないが、お前の話を聞いて大体は予想通りだ。ろにぃ、思い出すかどうかはお前次第だ」

ろにぃ「え……?」

申神「ろにぃはあの村で生まれたが、射鶴がろにぃを迫害するように仕組んだんだろ?」

戌亥「え!?」

申神「村を自分の物とした時、生まれたのがろにぃだ。ろにぃは幼くして聡明な子供であった、故にその発育の速さは呪いの力であると、射鶴は村人達に言いふれ、ろにぃに悪意を向けさせた。洗脳されている村人など簡単に操れた事だろう。そして向けられた悪意を利用して、ろにぃ自信を呪いの呪具とする為に何の変哲もない人形を手渡した。言ったんだろ?『貴方は呪い』だって、ろにぃに呪いと言う言葉を教えたんだ。そして、呪いの力で村人を皆殺しにしたと吹き込んだ。だが、実際村人を殺したのはお前だろ?」

射鶴「…」

ろにぃ「それって…」

戌亥「ろにぃは、誰も殺して…ない?」

申神「村人を皆殺ししたと言う程の呪いがあれば我輩が食いつくと思ったんだろ?まんまとかかったが、お前が関わってるとなると話は別だ」

射鶴「…………はぁーーーあ。そこまでバレてたのー?流石京也…。本当大嫌いっ!」

申神「さぁ、茶番はこの辺で終わって戌亥を解放しろ。今なら元同僚サービスで見逃してやるぞ?」

射鶴「じゃあ今から呪いを生み出せばいいわ」

射鶴、刃物を取り出す。

申神「おい!刃物なんて取り出して何するつもりだ?言っておくが我輩は体術の心得も少々…」

射鶴「あんたの目の前でこの犬っころを殺す以外あって?」

戌亥「え!?」

射鶴「これを殺せばあんたは壊れる。本当はそのガキを使って殺してやろうと思ったけど、正直こっちの方が手っ取り早かったわね!さぁ、狂い死ねばいいわ申神京也ぁぁあ!」

申神「やめろぉ!」

ろにぃ「いー君!」

①⑥
刃物を振りかぶり、戌亥を狙う射鶴。

戌亥「死んで、たまるかぁあ!」

起き上がり、射鶴にタックルする戌亥。

射鶴「キャァ!?」

戌亥「はぁ、はぁ…くっ…。少し時間が経ったからか、薬の効果が薄まってたみたいだな…」

射鶴「だとしても、自らぶつかりに来るなんて…、師匠が師匠なら、弟子も化け物ね」

戌亥「化け物で結構。申の所にいると嫌でも実感させられるよ」

申神「マジで我輩の事なんだと思ってんの?」

ろにぃ「いー君、大丈夫!?」

戌亥「大丈夫だよ、ろにぃ。僕だって申の弟子だ。これくらいのピンチ、どうって事はない!」

申神「…戌亥」

射鶴「どいつもこいつも厄介ね。なんでいつも私は邪魔ばかりされるの?全部あんたのせいよ!」

申神「何度も言わせるな。我輩は我輩の価値観で動いてる。お前だって我欲で動いてるくせに棚に上げるんじゃない」

射鶴「うるさい!時間をかけてあんたを殺す算段を立てたって言うのに水の泡だわ!」

申神「うーん、我輩には通用しなかったってだけだろ?落ち込むな。それに昔より成長してたぞ?花丸をやろう」

射鶴「バカにすんな!今すぐにでも殺してやる!」

申神「しかし、お前は元同僚である我輩からの見逃しサービスを断り、弟子を傷付けようとした…。これは…」

射鶴「っ!?」

申神「簡単には許してやれんなぁ」(ドスを効かせた声色)

射鶴「ひっ!?」

申神「そうだ射鶴、君にはとっておきの呪いを見せてやろう。特別だ」

射鶴「の、呪い…?」

申神「ろにぃ、おいで」

ろにぃ「え?はい…」

申神「射鶴、驚け!お前の呪い、本当は成功していたんだ。このろにぃはまさにその成功した呪具。当初、呪い自体は人形に掛けられたと思っていたが、実際はろにぃ自身が呪いだったんだよな?」

射鶴「は、…はい…」

申神「お前がろにぃを我輩の所へ送ったお陰で、ろにぃに宿る呪いが完成したんだぞ!ろにぃが人形を捨てても自力で戻してやった努力も報われるぞ?…何を惚けた面をしている?お前がろにぃに悪意を向けたから、ろにぃが手に持っている人形にも呪いが移ったのだ。この人形は完全なる呪い!やったじゃないか?念願の呪具だぞ!」

射鶴「え、そんな…」

申神「ろにぃ、人形をこいつに返してやれ」

ろにぃ「は、はい」

射鶴「え?」

申神「よかったなぁ、我輩が天才的な呪いのコレクターで。多くの呪具に呪いに関する書物。そして我輩の知識と実力。我輩の屋敷にいたおかげで、お前が人工的に作り上げた呪い以上の物が出来上がったという事だ!…あぁ、その人形に宿る呪いの効果なんだがな。ろにぃと同じだ」

射鶴「……へ!?」

申神「触れた者の体に致死量の毒を流し込むと言うもの。お前が自力でやっていた事が、現実になったんだ。よかったな、射鶴」

射鶴「い、いやぁ!」

申神「おい、逃げるなよ。待望の呪具だぞ?お前の苦労が報われるってのに、簡単に手放してんじゃねぇ。今度はお前がこの人形に呪われる番だ」

射鶴「あっ……」

倒れる射鶴。

申神「おっと、流石にやりすぎたか?気絶しちまいやがった」

戌亥「今のは怖いって。でも、その人形に呪いが宿ったって本当なのか?」

申神「嘘に決まってるだろ」

ろにぃ「え!?」

申神「そんな簡単に呪いが宿れば、呪具と呼べる物は数え切れないだろ。…ま、こいつの口八丁を真似てこうして吹き込んだ事は、こいつにとって呪いとなった。だから、射鶴にとってはこの人形は恐ろしい呪具かもな」

戌亥「こわっ…」

①⑦

申神「さてと、では帰るか。村の前に鷲尾を待たせているしな」

戌亥「鷲尾さんもいるの?」

申神「あぁ、お前が連れ攫われたと情報を持ってきたのは鷲尾だ。今は結界だなんだのに引っかかって身動きが取れんと泣いていたな」

戌亥「結界…?」

申神「邪魔されないように射鶴が張ったと言ってたが、鷲尾は射鶴の動向をずっと探ってくれていた。しかし射鶴の方はその動きを知っていたから、どこかのタイミングで鷲尾に接触してる恐れがあるな。嘘の情報を流したり、わざと泳がせたり、結界についても元よりそんな物は張っておらず、奴を洗脳していたのかもしれん。ま、それはいずれ、このアホから聞き出すとしよう」

戌亥「鷲尾さんを洗脳するなんて、ある意味この人すごいな…」

申神「射鶴のやり口は言葉と薬だ。薬売りを誑かすなんて、そう考えるとすげーな」

戌亥「でも、これでろにぃは人形を手放せたな!……でも、申の話を聞いてた限りじゃ、そもそもろにぃに呪いは宿っていたのか?」

申神「宿ってねぇよ。ろにぃにも人形にも」

ろにぃ「…」

申神「射鶴は毒や薬に精通している。小さな村だった、毒殺するのもそれをろにぃに宿った呪いのせいだと洗脳して、ろにぃの記憶を改ざんするのも容易な事だったんじゃないか?全く、素直に我輩だけを狙っておけばよかったものを…。回りくどく、残忍な手口だ。胸糞悪い…」

ろにぃ「先生…、あの」

申神「ん?どうしたろにぃ、呪いも人形も全部あいつのせいだ。お前にははなから呪いなんてなかった。我輩達が感じた呪いの気配は、お前に向けられていた悪意と、射鶴の殺意だったんだ。気付いてやれなくてすまなかったな」

ろにぃ「私は、もういらないですか?」

申神「え…」

ろにぃ「呪いのない私は、もう必要ありませんか?先生のコレクションじゃなくなりましたか?」

戌亥「ろにぃ…」

申神「…馬鹿者、お前は我輩のコレクションではなく、2番目の弟子だ。本当の名前や過去も関係ない。お前はこれからもうちにいていい」

ろにぃ「…本当?」

申神「お前が出て行きたいなら止めはしない。だが、まだまだ勉強すべき事はあるだろう。判断するのはお前自身だ」

ろにぃ「まだ、二人といたい…です。一緒に…いたいです!」

申神「それで良い」

戌亥「ろにぃは子供なんだから、素直に言葉を言って良いんだよ。良い事やダメな事は兄弟子である僕や鷲尾さんとかの大人が正してくれるからさ」

申神「なんで我輩じゃなくて鷲尾なんだよ」

戌亥「申は口悪いからな」

申神「ぶん殴るぞ、このくそ弟子!」

戌亥「体術訓練以外での攻撃は体罰とみなすぜー!申ったら大人げな〜い」

申神「待てこら、戌亥!」

ろにぃ「ふっ、ふふ!」

申神「!」

戌亥「ろにぃ?」

ろにぃ「ふふ、あははっ!」

申神「…ふ」

戌亥「へへっ」

申神「ろにぃ、改めて我輩たちの所へ来い。コレクションとしてではない。お前の新たな旅立ちの為に…」

ろにぃ「…これからも、居ていいと約束してください!」

申神「小指をだせ。今度はちゃんと絡ませて…指切りだ」

ろにぃ「はい、このお呪い(おまじない)は約束を破ったら呪いになります!」

申神「恐ろしいことだ!はい、指切った!」

ろにぃ「指切りました!…いー君も!」

戌亥「え、僕も!?……うー、わ、わかったよぉ」

ろにぃ「はい、指切った!」

戌亥「指切った…。ある意味これが1番怖い呪いだろ…」

申神「ふっ、では帰ろうか。家に」

ろにぃ「はい!」

戌亥「うん」

①⑧

鷲尾「あ!申神、ろにぃちゃん!戌亥君、無事だったんだね!」

戌亥「鷲尾さん!」

申神「お前ずっと待っていたのか?」

鷲尾「当然だろ。お前らが心配だったし、怪我でもしてたらどうすんだ?…それより、射鶴は?」

申神「気絶させたら、全然目を覚まさねーから放ってきた。そもそも戌亥を助ける事が目的だったしな…。それより鷲尾!元はと言えば、お前のおかげで色々こんがらがったんだぞ?後で説教だからな!」

鷲尾「はぁ!?なんでだよ!」

申神「お前にも呪いとはなんたるかをじっくり教え込んでやる!」

鷲尾「えぇ!?俺何したの!?」

ろにぃ「あのね、いー君。先生ってばいー君が連れて行かれてすっごい心配してたのよ?すぐに助けに行かなくちゃって」

戌亥「へー!」

申神「おいそこぉ!変なことを言うんじゃねぇ!我輩は夕飯が遅くなることを危惧していただけだし、射鶴が何をやらかすか分かったものじゃなかったからで…」

戌亥「はいはい、だいぶ遅くなっちまったから、帰ってすぐに飯作ってやるよ。さーる」

申神「どいつもこいつも…」

鷲尾「あ、そういえばろにぃちゃん人形手放せたんだ?」

ろにぃ「あ、うん……」

鷲尾「ろにぃちゃん?」

ろにぃ「……」

立ち止まり、村の方を見るろにぃ。

鷲尾「村の方を見て立ち止まっちゃった…。何があったのかは知らないけど、大丈夫そうなの?」

申神「大丈夫だ。約束をしたからな」

戌亥「…」

ろにぃ「………バイバイ」

戌亥「ろにぃー!」

ろにぃ「!」

戌亥「ほら、腹減ったろ?早く帰ろうぜ!」

ろにぃに向かって手を差し出す戌亥。

ろにぃ「いー君?」

戌亥「暗いんだから手を繋がないと逸れちまうだろ。だから」

ろにぃ「うん!」

鷲尾「え、手なんて繋いで大丈夫なの!?」

申神「帰ったら説明してやる。まずは腹に何か入れたい」

ろにぃ「先生、今お腹の虫さんが鳴きました?大きな音!」

申神「やかましい」

戌亥「ははっ、早く帰って飯作んねぇとな!」

ろにぃ「うん!早く帰ろ!」


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