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【声劇台本】雨呼ぶ君が、待つ晴れ間(男3:女3)

登場人物(男:3、女:3)
・日向(ひなた)/男
男子校生。誰にでも優しく何でもそつなくこなすが熱い性格をしている。ゆいに恋してる。

・ゆい/女
妖怪、雨女。身長は2メートル以上あるが美しい容姿をしている。性格は大人しい。

・幸人(ゆきと)/男
日向の同級生で友人の男子。明るい性格でオカルトマニア。

・弥生(やよい)/女
日向の同級生で友人の女子。幸人とは幼馴染で幸人が好き。優しく厳しいしっかり者。

・夜神(やがみ)/女
日向達が住む土地の土地神。厳格な性格で、ゆいを危険視している。

・ヨミ/男
夜神の従者で夜神の力により妖怪となった元人間。巨大な刃物を武器としており、過去にトラウマを抱えている。

・先生/不問
一言だけなので、兼ね役推奨。

【時間】約1時間
【あらすじ】
幼い頃、日向は美しい女性、ゆいに出会う。雨が降り始めた中、日向は幼いながらにその女性に心をときめかせた。
数年後、高校生になった日向はゆいが雨を呼ぶ妖怪と知っても想いを募らせていた。しかし、ゆいは人間と妖怪は相容れないと距離を取ろうとする。


【本編】


幼少期回想
森の開けた草むら

日向「あ〜した天気にな〜ぁれっ!……と、うーん…ありゃぁ靴が裏っ側向いちゃった。明日は雨かなー……ん?え、もう降ってきた!?今日はずっと晴れだと思ったのに……ん?」

少し離れた所に傘を差した女性が立っている

ゆい「……」

日向「…お姉さん、今日雨降るの知ってたの?僕今日はずっと晴れだと思ってたんだ」

ゆい「え?……子供…」

日向「僕は日向!小学1年生なんだよ!」

ゆい「そう…傘の中に入る?そんなに強く降らないと思うけど濡れちゃうよりマシかもしれないわ」

日向「いいの?あ、お姉さん名前は?」

ゆい「ゆい…よ」

日向「ゆいお姉ちゃん、ありがとう!」

ゆい「ふふっ…」

日向「…ゆいお姉ちゃんって背高いねぇ。パパより大きいかも」

ゆい「えっと…まぁね」

日向「僕も大きくなりたいな〜。やっぱり牛乳いっぱい飲んだの?」

ゆい「えーっと…そう、ね…牛乳飲んだら大きくなるかもね…」

日向「そっかー…僕牛乳苦手なんだ。でも大きくなれるなら頑張る!」

ゆい「ふふ」

日向「……雨が上がるまで一緒にいていい?」

ゆい「いいわよ」



現代

日向「あーした天気になーあれっ……と、…表か…あー、飛ばしすぎたぁ…」

靴を履き直す日向

日向「ま、こんなんやるより今はネットで天気予報調べられるし…学校から帰る頃には雨ってなってたけどどうなんだろ?」

幸人「おはよ〜、日向!」

弥生「おはよー」

日向「あ、幸人に弥生ちゃんおはよ〜」

幸人「なぁなぁ、今日の宿題やってきた?見してくんね?弥生が見してくれなくてさ〜」

弥生「宿題くらい自分でやりなさいよ!」

日向「あはは、そりゃ弥生ちゃんの言う通りだよ。何してたんだよお前」

幸人「昨日はどうしても見たいオカルト番組があってさ〜、録画して何周もしてたら朝になってたんだよね〜」

弥生「このオカルトマニア!ちゃんと寝なさいって言ってるのに」

日向「仲良いなぁ二人は、流石幼馴染」

弥生「す、好きで幼馴染な訳無いわよ!」

幸人「え〜、俺弥生が幼馴染で良かったぜ?」

弥生「え!?」

幸人「弥生のお陰で遅刻しないからな!」

弥生「…バカ幸人!」

幸人「えぇ!?バカは酷いだろ!」

日向「今のは幸人が悪いよ」

幸人「なんで!?」

弥生「もう知らない!私先に行くから!」

足速に去る弥生

日向「あーぁ、弥生ちゃん怒っちゃった」

幸人「朝から機嫌悪そうだなぁ、宿題見してなんて言ったの不味かったかな?」

日向「それだけじゃないと思うけど…」

幸人「あ、そーだ日向。今日の放課後遊びに行こうぜ?弥生とも話してたんだけどカラオケとかどう?」

日向「あー…晴れたら行くよ」

幸人「何言ってんだよ晴れ男〜♪お前がいると大抵晴れるし、カラオケは雨降っててもいけるだろ?」

日向「そうだけど…」

幸人「雨が降ったらなんか用事があるのか?…そういやお前、雨の日ってすぐに帰るよな」

日向「まぁ…会いたい人がいるから…」

幸人「会いたい人?誰?どんな人」

日向「……秘密」

幸人「なんだよそれー」


放課後、雨

幸人「はー、やっと放課後だぜ。疲れたな〜」

弥生「あんたずっと寝てたじゃない」

幸人「まぁまぁ、細かい事は気にしない♪じゃあ早速遊びに行こうぜ〜、おーい日向ー……って、日向は?」

弥生「さっき凄い速さで教室飛び出していったわよ」

幸人「え!?なんで?」

弥生「よくわかんないけど…まぁ、外を見れば分かるんじゃない?」

幸人「え、…あ!雨降ってる!」

弥生「日向君って雨の日はすぐに帰るわよね。なんでかしら?」

幸人「うーん、よく分かんないけど会いたい人に会えるって言ってたぜ?」

弥生「会いたい人?」

幸人「詳しくは教えてくれなかったけど、こりゃ女かな…」

弥生「まじで!?」

幸人「あいつモテるけど、告白とかいつも断るから…本命がいるんだぜ、きっと」

弥生「…でも、雨の日にしか会えないってどういう人なのよ」

幸人「うーん…じゃあ違うのかな」

弥生「なによそれ…」


日向の家

日向「ただいまー………っと、確か今日は母さんはお出かけ、父さんも仕事で遅くまで帰って来ない筈だから……今日は会えるかな。………ゆいお姉ちゃん…」

暫しの沈黙、リビングの掃き出し窓がノックされる

日向「!?…窓をノックする音?庭の方…!来てくれた!?」

嬉しそうに窓に駆け寄る日向

日向「ゆい姉ちゃん!」

傘を差したゆいが立ってる

ゆい「…日向くん。こんにちは」

日向「今、窓開けるね。入っていいよ!」

ゆい「傘差してるとは言え、ちょっと濡れてるから…ここでいいわ」

日向「タオル持ってくるよ。母さんもいないし、中で喋ろう?お茶も出せるよ!」

ゆい「気を使わなくて大丈夫よ。私、体大きいから」

日向「ゆい姉ちゃんはそこも素敵だよ。俺、いつかゆい姉ちゃんを抜かしてみせるから!」

ゆい「ふふ、日向君もう高校生でしょ?伸び代あるかしら?」

日向「うわ!意地悪な事言うなー!牛乳以外にも身長を伸ばす方法試しても成果がなかったのに…」

ゆい「うふ、ごめんなさいね」

頭を撫でられる日向

日向「っ……ちょっと…」

ゆい「あ、急に撫でちゃってごめんなさい。手、濡れちゃってたかしら?」

日向「…大丈夫だけど、いつまでも子供扱いしないでよ。俺もう子供じゃないだから」

ゆい「…ふふ、そうね…ふふふっ」

日向「な、何で笑うの!?ツボってんじゃん!酷いよゆい姉ちゃん!」

ゆい「ごめ、ごめんなさい…ふふ、日向君が可愛くって…んふふ」

日向「もー、ゆい姉ちゃんだから許す!」



日向「ゆい姉ちゃんさ、何で今日は来てくれたの?前雨降った時は来てくれなかったよね」

ゆい「…日向くんのお母さんもいたから…ちょっとね…」

日向「そんなの気にしなくていいよ!むしろ紹介させて!」

ゆい「ダメよ、そんなこと…私が日向君と会うのは秘密…そういう約束でしょ?」

日向「…まぁ、ゆい姉ちゃんが他の人に色目使われる心配がなくなるから俺はそれで良いけど」

ゆい「な、何言ってるのよ!?」

日向「…ゆい姉ちゃん、俺の考えてる事分かってるでしょ?…俺、ゆい姉ちゃんの事…」

ゆい「だ、ダメ!!」

日向「……」

ゆい「ダメだから…私を困らせないで、日向くん…」

日向「困ってよ。俺、ずっと本気なんだから…」

ゆい「っ…、今日はもう帰るわ。夜遅くには雨も止むでしょうし…」

日向「ゆい!」

ゆい「…ゆい姉ちゃんでしょ?…ごめんね、日向君…貴方だって分かってるでしょ?今貴方が口にしようとした言葉は…私にとってとても迷惑なの」

日向「…でも、俺はゆいが良いから」

ゆい「今の貴方が良くてもいつかきっと後悔する…だから我慢して…」

日向「……」

ゆい「じゃあね」

日向「また来てくれる?俺、雨の日はすぐに帰ってくるから」

ゆい「…うん」

視界から外れると忽然といなくなってるゆい

日向「…もう、居なくなった。……ゆい姉ちゃんが何者でも俺は姉ちゃんがずっと好きなのに……」


翌日、学校

日向「……」

幸人「昨日の夜は弱まってたのに、また強くなってきたな…雨」

弥生「そうね〜、体育の授業も当分体育館かもね」

幸人「じめじめしてて嫌になるぜ」

日向「…当分雨なの?」

弥生「らしいよ。テレビもネットも急に予報が雨マークばっかりになってたもん」

幸人「はぁ、テンション下がるなぁ」

弥生「季節外れの梅雨入りだって言われてる位だもん」

幸人「じゃあ日向とは当分遊べないって事か?」

日向「あー…うん、どうだろ?まぁ、昨日カラオケ行けなかったし、次は雨でも行こうかな」

幸人「お!なら今日行くか!」

日向「それはちょっと急過ぎるかな…」

弥生「じゃあ今日もすぐに帰るの?」

日向「…えっと」

幸人「なぁなぁ、お前の会いたい人って女子か?何処の高校の子?可愛いの?」

日向「は?」

弥生「あ、ごめん。昨日幸人から日向君が雨の日に早く帰る理由聞いちゃって…、それで…会いたい人がいるってのも…」

日向「あー、なるほど…おい、幸人」

幸人「ごめんごめん⭐︎」

日向「はぁ、別に秘密にしてる訳じゃないからいいけど…。…歳は離れてるけど……好きな人が会いに来てくれるかもしれないんだ」

幸人「歳上?え、おばさんの友達とか?」

日向「いや〜…その……」

幸人「そんなに言い淀むって…まさか、人妻か!?」

日向「それはない……けど、俺の事を心配してるからだと思う…」

弥生「心配?」

日向「…なんというか、立場というか…俺の将来を考えてくれてるからこそ俺の想いには答えられない…って感じかな」

幸人「ほぉ…、ちょっと答え辛いな」

日向「ごめんね、ややこしくて…」

弥生「まぁ、日向君の将来を考えてるってのは優しい人だね。でも、その人自身は日向君の事どう思ってるんだろうね?」

日向「…そうだね。嫌われてはないと思うけど、どういう風に思ってくれてるのかはよく分からないな」

弥生「脈なし?」

日向「うーん…」

幸人「お前もたまに人の事考えない時あるよな。自分の事にいっぱいになって相手の考えてることを予想しないっていうか」

日向「幸人にそんな事言われるなんて思っても見なかった」

幸人「そういう所だぞ」

弥生「いや、私もびっくりしたわ…」

幸人「ま、他人の考えなんて聞くか予想するしかないから分からない事ばかりだけどさ、その人がお前と付き合えない理由が分かってるならそこを解消出来る方法を考えたら?絶対無理なんて0%って事なんだから、それは意外とないもんだぜ」

日向「幸人…」

弥生「あんた突然どうしたの?優しい事言うじゃない」

幸人「親友が悩んでたら励ますもんだろ?恋愛に関しては下手な事言えないけど、完全脈なしじゃなけりゃワンチャンあるだろ」

日向「まぁ、お前は恋愛に関しては下手なことは言わない方が良いな…」

幸人「え?」

日向「いや、なんでもない……でも、ありがとう幸人、弥生ちゃん」

弥生「私何もしてないわよ。でも、応援はしてるわ頑張ってね日向君」

日向「うん、弥生ちゃんもね」

幸人「0%は中々ないからな。俺はこれをモットーに日々オカルトの研究をしてるんだ!知ってるか!?この辺にも古い言い伝えがあってだな、特に雨の降る日は」

チャイム音、教師が入ってくる

先生「おはようみんな〜、席についてー」

弥生「あ、先生だ。じゃあまた後でね」

日向「うん。俺も席に戻るね」

幸人「あー、タイミング悪い〜!!」


放課後

日向「結局、放課後まで雨が降ってるな…。ゆい姉ちゃん来るかな…。でも、母さんが居る時は来ないって言ってたもんな……。そういや、いつも来てもらうばかりで、俺の方から会いに行ったのは子供の時だけだ……もし、まだあそこに住んでるなら…いるのかな…?荷物を置いて、見に行ってみよう。今行ったら夜までには帰ってこれる筈…!」

森の奥へ入っていく日向

日向「はぁ、はぁ…こんなに獣道だったかなこの山…昔より鬱蒼としてるな。雨も降ってぬかるんでる…でも、歩けなくはない。この道を抜ければ、ゆい姉ちゃんと初めて会った場所…!」


夜神「…ん?人間…?」

日向「え、女の人…?すいません、貴女は何故こんな所に」

夜神「…君こそ、ここに何の様だ?雨も降ってるのにこんな山の中に」

日向「俺は日向って言います。ここは昔からよく来ている場所なのでご心配なく」

夜神「こんな危険な場所に子供の頃から…?」

日向「貴女こそ誰なんですか?」

夜神「……夜神(やがみ)。この地に潜む怪異の元凶を潰しにきた」

日向「かい、い?」

夜神「妖怪、妖…魔物?人ならざるもの事だ」

日向「…!?」

夜神「その顔…心当たりがあるのか?」

日向「………」

夜神「心当たりがあるなら答えてもらおう」

日向「心当たり、と言われても…俺には分からないです…」

夜神「背の高い女だ…。雨呼び女と私は呼んでいる。心当たりはないのか?」

日向「……ありません」

夜神「…日向と言ったな?私に名を教えたのは間違いだったな。私に嘘は通じない」

日向「え…」

夜神「お前は雨呼び女を知っている。あいつは子供を拐(かどわ)かす恐ろしい妖怪だ」

日向「ゆい姉ちゃんは俺を攫おうとした事は一度もない!」

夜神「やはり、知ってるか…何処にいる?」

日向「それは本当に知らない。俺だって姉ちゃんを探しに来てんだ!まぁ、もし知ってても教えないけどね」

夜神「クソガキ…手荒な真似はしたくなかったが、あの妖怪の事を知ってるとなればお前も処分対象だ…。こっちへ来い」

日向「いやだ!俺やゆい姉ちゃんに何をするつもりだ!?」

夜神「人間を殺しはしない。しかし、あの女はダメだ」

日向「じゃあ尚更これ以上教えない!ゆい姉ちゃんを狙う奴は誰であろうと許さない!」

夜神「……」


ガサガサと木々を掻き分けて現れる人影

ヨミ「夜神様、此方にも雨女はいませんでした……ん?人間?」

夜神「ヨミ…」

日向「っ、…また人が増えた…!?」

ヨミ「こやつは保護対象ですか?処分対象ですか?」

夜神「放っておけ」

ヨミ「放っておく…処分対象ですか?」

夜神「何故お前は二択でしか考えない。この人間はあの女を知っている様だが、今は放って置いて問題ないだろう。時が来たらこの人間の雨呼び女に対する記憶の処理をする」

日向「記憶の処理…?」

夜神「私は人間でもなければ妖怪でもない。私はそれよりも強い存在だ」

日向「…神様…なんて言わないよね?」

夜神「ふふっ…」

ヨミ「何故この人間は夜神様が神であると見抜いたのですか?」

日向「……」

夜神「ヨミ、お前は黙っていろ」

ヨミ「え、しかし疑問はすぐに聞けと夜神様が…」

夜神「あーもう分かった。後で話すから今はこれ以上口を開くな。お前と話してると時間がかかる!」

ヨミ「俺なんかに時間を割いて頂き誠に感謝しております!」

夜神「……はぁ。日向、次お前と会う時はあの女を処分した後だ。お前のその感情ごと、記憶も処理してやる。感謝するんだな」

日向「ゆい姉ちゃんには手出しさせない!」

夜神「人間の戯れ言だな。行くぞヨミ」

ヨミ「はい、夜神様」

日向「………」


二人が去り、立ち尽くす日向

日向「なんだったんだ…あいつらは」

ゆい「日向くん…?」

日向「!?ゆい姉ちゃっ…」

ゆい「しー!まだあの人達がいるかもしれない」

日向「ご、ごめんなさい…」

ゆい「はぁ、何でここにいるの?しかもあの人達に絡まれてたみたいだけど大丈夫だった?」

日向「うん…」

ゆい「良かった…。でも時間の問題ね。やっぱり日向君とはもっと早い内に離れていれば、こんな事にはならなかったのに…」

日向「え」

ゆい「あ、その…日向君のせいじゃないのよ。決して…でも、それがお互いの為になったのよ」

日向「…ねぇゆい姉ちゃん。教えて?あの人達は何者?ゆい姉ちゃんを何で狙ってるの?」

ゆい「……今更隠せないわよね。少し長くなるけどいいかしら?」

日向「うん!」

ゆい「…私は雨女と呼ばれる類の妖怪。それは昔から話してるわよね?」

日向「…うん」

ゆい「私は雨を降らせる力がある。それは時として神の力に逆らってまで…。だから神であるあの人は私のことが邪魔なのよ。ここ最近調子が優れなくて、力がコントロール出来ないの…」

日向「ゆい姉ちゃんが神様より強いから嫉妬して殺してやる…って事でオーケイ?」

ゆい「だいぶ端折ったわね…。まぁ、間違ってはないわ」

日向「何それ、絶対許さない!ゆい姉ちゃんが危険な目にあってるのに、そんなの見過ごせない!」

ゆい「…気持ちは嬉しいけど、何度も言うわ。迷惑なの」

日向「……俺が人間だから?」

ゆい「えぇ…。そうよ」

日向「…どうにか出来ない?」

ゆい「出来ない。私を殺したら日向君の私に関する記憶が消える。あの人は神様だからきっとそれが出来る…」

日向「いやだ…」

ゆい「…私はそれで良いと思うけどね」

日向「え?」

ゆい「私は消えて、日向君の中からも私が消える…これがきっと一番良い結末なのよ」

日向「……ゆい姉ちゃん、死にたいの?」

ゆい「…そうじゃないけど、日向君の事を思えば、きっとこれが最善なのよ。だって私は妖怪で、人間としてはとっくに死んでるから…」

日向「俺は、ゆい姉ちゃんに死んで欲しくないし、ゆい姉ちゃんの事を忘れるのは嫌だ。俺はゆい姉ちゃんが大好きなのに」

ゆい「…私も日向君が大好きよ」

日向「違う、違う!俺は本気で好きなんだ!何でここまで来てはぐらかすの?答えてよ!俺が人間だからダメなの!?」

ゆい「………そうよ。当たり前じゃない」

日向「……」

ゆい「これ以上話してたら遅くなるわ。当分、この山はきっとあの人たちが私を探す為に彷徨(うろつ)いてるわ。だから日向君はもうここに来ちゃダメよ?分かった?」

日向「俺…」

ゆい「日向君」

日向「…分かった」

ゆい「うん、じゃあ気を付けてね。ばいばい」

日向「…じゃあね……」

①⓪
翌日、学校

日向「……」

幸人「雨降ってジメジメしてる上に俺の親友もジメジメしてんな〜」

弥生「大丈夫?無理はしちゃダメよ」

日向「大丈夫…じゃないけど、大丈夫」

弥生「それ大丈夫じゃないわね」

幸人「何があったんだよ?好きな人絡みか?」

日向「うっ……」

幸人「図星だったみたいだな」

弥生「あんた本当にデリカシーないわね」

日向「あはは…幸人のデリカシーのなさは今更だよ…」

幸人「お前も酷い返しするな」

日向「…俺、勝手に脈無しじゃないって思ってたんだな…」

幸人「え?脈無しだったの?」

日向「そもそもの問題だった…」

弥生「…難しいわね。ねぇ、話してくれない?ここまで言われて気にするなって方が無理だわ。協力出来ることはないかもしれないけど、応援はしてるんだから」

幸人「そうそう、どういう人で、何でお前がそこまで本気なのか俺たちはよく分かってないんだ。相談してくれよ、友達だろ?」

日向「…じゃあ、放課後…人のいない所で話がしたい」

幸人「え?人に聞かれちゃ不味い系?」

弥生「一体どういう相手なの!?」

日向「不味い…というか、信じてもらえるかも怪しいから…これで信じて貰えなかったら……」

幸人「……よく分からねぇけど、お前が下手な嘘吐くはずねぇのは知ってるよ。何でも言えって!」

弥生「そうよ、日向君!」

日向「……ありがとう、幸人、弥生ちゃん」

①①
日向「………と、いうわけなんだけど」

弥生「……」

幸人「……」

日向「……やっぱ、信じないよね?…ごめん、変なこと言って…」

弥生「あ、いや…その」

幸人「ま」

日向「え?」

幸人「まじかーーー!!?」

日向「はぁ!?」

幸人「まじかまじか!?え、妖怪!?神様!?お前すげーな!何で今まで黙ってたの!?ずりぃよ!」

日向「…幸人、もしかして信じてる?」

幸人「は?お前が下手な嘘吐くわけねーだろ?実際目にして見なきゃ分からないけど、全く信じてない訳ないだろ」

日向「幸人…」

弥生「うーん、私は正直信用出来ない…けど、日向君がそんな嘘つく理由がないから複雑な感じ…」

日向「弥生ちゃん…」

幸人「そーかそーか、お前モテるのに彼女作らないのはその妖怪の女性が初恋だからかぁ…甘酸っぺ〜」

弥生「あんたその言い方はもう冷やかしよ?」

幸人「わりぃわりぃ♪…でも、その人の影響で予報外れの雨が降り続いてて、神様が怒ってるって事なんだよな?」

日向「うん…」

幸人「で?具体的に日向はどうしたい訳?」

日向「俺…?」

幸人「俺達に軽蔑されるかもしれないって覚悟でお前の隠してた事を話してくれて、俺は嬉しかったし、頼ってくれて信頼してくれてるんだって思えた。でも、話してくれたからにはお前は何かしたいんだろ?」

日向「…ゆい姉ちゃんを守りたい」

弥生「…でも、それって私たちにどうにか出来ること?相手は妖怪と神様なんでしょ?」

幸人「確かにな、打開策は思い付かないな」

日向「…やっぱり俺が人間だから何も出来ない……」

幸人「…何で人間だからダメなんだよ?」

日向「え?」

幸人「妖怪とか神様なんて人知を超えた存在なのは当然だ。俺たちが太刀打ち出来る訳がない。でも、お前のゆいさんを思う気持ちは種族違いだからって諦められる物なのか?」

日向「…」

幸人「諦められるなら諦めろ。それがゆいさんの望む事でもあるんだろ?」

弥生「幸人…」

日向「……」

幸人「今お前に出してる選択肢は二つだけだ。諦めるか、諦めないか」

日向「………今更諦めてたまるか」

幸人「…」

日向「俺は、まだちゃんと、ゆいに答えを聞いてないのに…諦めてたまるか!」

幸人「…ふっ、それでこそ日向だぜ」

弥生「もう、焚き付けるのは上手いのね」

日向「出来ることは少ないかもしれない。ゆい姉ちゃんを守れないかもしれない。でも、俺がここでゆい姉ちゃんを守ることが出来たら…俺の事見直してくれるかも知れない」

幸人「俺も手伝うぜ。妖怪が見れるなら余計にやる気が起こるってもんよ」

弥生「…私も、雨ばっかりは嫌になっちゃうからね」

日向「…ありがとう、二人とも…巻き込んじゃって本当にごめん」

弥生「いいのよ。いっつも私達に巻き込んじゃってるんだから、今度は私達が巻き込まれてあげる!」

幸人「オカルトちっくな事は巻き込まれてなんぼだぜ?俺は大歓迎だ!」

日向「…ほんと、ありがとうね」

①②

ヨミ「雨のせいで視界が悪いですね…こっちにもいませんでした。夜神様」

夜神「ふむ…ここまで身を隠すのが上手いとは思わなかったな。ヨミ、次はあっちを探してこい」

ヨミ「かしこまりました。しかし夜神様、このまま闇雲に探しても埒が開かないのではないですか?いっその事、ここら一帯を焼き払ってしまうとかどうでしょうか?」

夜神「お前は極端だ。そんな事したら生態系に影響が出る」

ヨミ「夜神様が許可をしてくだされば、他の神々も承諾してくれましょう。神の下した決断となれば人間も神々を畏れ敬うでしょう」

夜神「ヨミ。我々の成す事は人間や生き物、この土地を守り統治する事だ。悪いのは害を及ぼす人外であり、人智の知れぬものは速やかに排除する。人の領域は人に。動植物の領域も動植物。神や妖怪の領域には我々が。餅は餅屋と言うのを知ってるか?」

ヨミ「餅は餅屋にあります」

夜神「アホ。専門分野に素人は立ち入るべからずだ」

ヨミ「なるほど」

夜神「ま、我々は立ち入らせてはならないがな。昨日の少年の存在が気掛かりだ」

ヨミ「雨女を匿おうとしてるんでしたよね?」

夜神「あぁ、下手に人間が介入されるのは厄介だし、人間が妖怪に心を拐かされてる…可哀想に」

ヨミ「?」

夜神「お前には分からんだろう。雨が降るのは良い事だが、降り続けるのはいけない。私の沽券にも関わる」

ヨミ「よく分かりませんでしたが、貴方様の為ならこの身果てるまで、お仕えします」

夜神「あぁ」

①③
翌日、昼

日向「本当に今日で良かったの?土曜日の昼にゆい姉ちゃん探しを手伝うって…」

幸人「良いんだよ、どーせ暇だし!」

弥生「早く日向君が元気になって欲しいもの」

幸人「これで妖怪や神が見れたら最高過ぎるからな〜」

弥生「あんたはもう少し日向君に気を遣えないの?」

日向「ほんと、ありがとう…」

弥生「何回謝るのよ。気にして無いわ」

日向「うん…!」

幸人「よしっ!早速山の中に行くか。雨も降ってるし、道も険しそうだから気を付けないとな」

日向「ダメそうだったら言ってね、弥生ちゃん」

弥生「大丈夫よ!私幸人より体力あるんだから」

幸人「俺だって人並みにあります〜」

日向「痴話喧嘩はいいから、とにかく気を付けてね」

弥生「痴話喧嘩ってなによ!?」

幸人「あっはは〜」

しばらくして

日向「もう少ししたら、開けた所に着くから」

弥生「はぁ、はぁ…凄いさくさく進むわね、日向君」

幸人「俺、ちょっともう…ギブ」

日向「もうすぐだから。頑張れ幸人」

幸人「ひぃぃ…」

弥生「あ、着いた…?」

日向「うん…ここだよ」

幸人「…なんか、不思議な感じがするな」

弥生「霊感?あんたそんなのあったっけ?」

幸人「無い方だと思うけど…霊感って言うより、言葉にしがたい…感覚…」

日向「…ゆい姉ちゃんがよくいた場所だから…姉ちゃん、妖怪だし」

弥生「まぁ、何か雰囲気違う様な気もしなくはないけど」

幸人「で、そのお姉さんが来るのか神様が来るのか…」

日向「ゆい姉ちゃん!ゆい姉ちゃーん!」

弥生「…本当にいるのかしら。でも、身を隠してるなら下手に出て来れないのかも…」

日向「かもね…。俺、少し奥の方見てくるよ。二人はこの辺りにいて」

幸人「おいおい、ここまで来て置いてけぼりかよ。俺もついて行くぜ」

日向「え!?」

弥生「ちょっと!?私だって一人は嫌よ!」

幸人「じゃあやっぱ3人で行くか!案内頼むぜ日向」

日向「え、えー…。何か連れて来たの後悔して来たかも…」

幸人「なんでだよ!」

日向「だって…、危険な目に合わせるかもしれない…いくら二人が興味本位や優しさで俺の心配をしてくれてても、これ以上は……」

幸人「は?興味本位と同情で着いて行くなら最後まで見届けるのが親友ってもんだろ?それにお前、この前俺が心霊探検する時最後まで付き合ってくれたろ?その時の貸しを返させてくれ」

日向「幸人…」

弥生「ちょっと!あんたまた心霊探検なんて行ったの!?日向君も心配だけど、あんたの脳みそも心配になるわよ!危ない事をしないで!!」

幸人「あー、余計なこと言ったわ俺」

日向「…ははっ、何なんだよお前ら、マジで…」

弥生「もう、日向君ツボってるじゃん」

幸人「え?俺が悪いの?」

日向「あははっ」

弥生「ふふっ」

幸人「ふっ………ん?何かあっちの茂みからガサガサ音しねぇ?」

日向「ん?…本当だ」

弥生「何?野生動物?」

幸人「俺達の後ろにいろ弥生」

日向「…ゆい、姉ちゃん?」

①④
茂みから現れるヨミ

ヨミ「人間…昨日より増えてる?」

日向「お前…ゆい姉ちゃんを探してた奴…」

幸人「二人いるって言ってたけど…あいつがその内の一人か?じゃああいつも神様か!?」

ヨミ「…俺は夜神様に仕える従者。神では無い。しかし、妖怪とは一歩引いた存在。お前達は人間だろう?その人間は昨日もいたが、他の二人はなんだ?」

日向「二人は俺の友達だ。関係ない」

ヨミ「関係ない者が何故いる?ここは人間が寄り付かない。だからこそ妖怪が潜む場所に相応しい。だが、害を成す妖怪は処分する必要がある」

幸人「…あんた自分の言い分を述べまくってるけどさ、ゆいさんは悪い妖怪じゃねぇと思うぞ」

ヨミ「…そこの人間も何故雨女を知ってる?お前だけじゃなかったのか?」

日向「っ……」

ヨミ「まさか…教えたのか?処分対象が増えてしまった…。これは夜神様に聞かなければ…いや、聞きすぎだど怒られてしまうか?なら、処分するべき…」

弥生「な、何をブツブツ言ってるの?あの人…」

幸人「俺、余計な事言ったかもしれねぇな…」

日向「確か…夜神って言う神によると、ゆい姉ちゃんを殺した後、俺のゆい姉ちゃんに対する記憶を消すって言ってた…もしかしたら二人も同じ様にしようとするんじゃ…」

幸人「はぁ!?こんな貴重な話と経験を忘れるとか絶対嫌だわ!……つーか、お前今夜神って」

弥生「夜神…様?…それって…」

ヨミ「ふむ、やはり処分対象が増えたと言う事だろう。人間どもよ、大人しくしていろ。痛みも少なく処分してやる」

日向「え!?」

幸人「な、なんだあの馬鹿でけぇ刃物は!?」

弥生「記憶を消す…ってそんな物理的な感じなの?」

日向「これ、やばいんじゃ…」

ヨミ「夜神様の為!」

3人に向かって刃物を振りかざすヨミ

日向「逃げろぉ!」

幸人「うわぁ!?」

弥生「きゃあぁ!」

ヨミ「逃げるな!手早く済ませれば夜神様に褒めてもらえるかもしれん!」

幸人「殺されるかもしれねぇってのに逃げないのはおかしいだろ!!」

弥生「喋ってないで走るわよ!」

日向「二人とも俺に着いて来て!」

ヨミ「待てぇ!!」

①⑤

ヨミ「どこへ行った…?人間のくせに逃げ足の速い…」

歩き去るヨミ

日向「はぁ、はぁはぁ…まけたみたいだね」

弥生「びっくりした…何なのよあの人…」

幸人「はぁはぁ、も、もう一歩も走れん…」

日向「あの人…ヨミって言ってたかな。昨日見た限りでは、少し頭の弱そうな印象だったから直情型って感じ…」

弥生「それにしても、あの人夜神様って言ってたよね?」

日向「え、うん。あいつは夜神って神に従ってるみたい」

弥生「ねぇ、幸人…」

幸人「あぁ…弥生には何回か話したことあるよな」

日向「え?幸人と弥生ちゃん、夜神の事知ってるの!?」

幸人「知ってるも何もこの土地を守る神様だよ。土地神って奴。この山の中に夜神様を祀る祠があるんだ。ヨミって奴は分からねぇけど、妖怪であるゆいさんを目の敵にしてる可能性はあるかもな」

弥生「妖怪と神様はそんなに仲が悪いの?」

幸人「ここからは俺の推測だけど、土地を守る神様にとって守る対象は人間や動植物。妖怪は二の次だと思う。妖怪って人間の世界とは一線引いた存在と考えて、妖怪は人間に悪影響を及ぼす奴が多いから、神にとっては害虫だと思うんだ」

弥生「幸人から聞いたけど、妖怪って人間が作り出した悪い現象が具現化した物なんだよね?人間が生み出した物なのにそんな簡単に消そうとするの?」

幸人「消さなきゃ更に悪い事が起きる。具現化した時点で人間とは別物だ。自らの意思で悪い事を行えてしまうんだからな」

日向「すごい…幸人そんな事まで知ってるの?」

幸人「俺はオカルトマニアだからな♪…でもこれは一つの説に過ぎないし、俺の推測的な部分が殆どだ。出来る事ならその夜神様に話を聞きたい所だぜ〜」

日向「…まぁ、今はそんな悠長な事は出来ないけどね…」

幸人「そりゃそうだ。早い所あいつに見つからないように山を降りねぇと」

弥生「でも、ゆいさんはどうするの?」

幸人「それどころじゃねぇだろ。あいつがうろうろしてるのに下手に探してたら俺達が先に殺されちまう。話が通じないみたいだから、まず逃げる手立てを考えるべきだ。それでいいか、日向?」

日向「…うん、流石に危ないから一旦策を練り直した方がいいかもね」

幸人「よし、じゃあ早速山を降りるか…」

①⑥

夜神「ここで何をしている。日向、そして追加の人間か?」

日向「っ!!?や、夜神!?」

弥生「きゃあ!?いつの間に後ろに!?」

幸人「うわ!?こ、この人が夜神様!?」

夜神「ほぉ、私の事を話したのか?日向」

日向「……っ」

幸人「うわぁうわぁ!貴女が夜神様!?すっげぇまさか見れるなんて!」

夜神「…なんだこのテンションの高い人間は」

幸人「俺、幸人って言います!オカルトマニアなんすけど、この土地の神様である夜神様にすっげぇ興味があって図書館とかで土着信仰についても色々調べてたんすよ!」

弥生「芸能人にあった見たいなテンションね」

夜神「す、凄いなお前…信仰を持って貰えるのは嬉しい限りだ」

幸人「そこで知りたいんすけど、…神様にとって妖怪って奴はやっぱ邪魔な存在なんすか?」

夜神「…」

日向「幸人!?」

幸人「これはオカルトマニアだからこその興味プラス親友を助ける為に聞いてるんです」

夜神「…ふっ、命知らずだな。日向よ、こいつらにも雨呼び女の事は話してるんだろ?この二人の記憶もいじらんといけん…手間をかけやがって…」

日向「幸人!逃げて!」

幸人「っ!?やば、腕掴まれた!」

弥生「この、幸人を離してよ!!」

夜神に体当たりする弥生

日向「弥生ちゃん!何してんの!?」

幸人「弥生!?」

夜神「おっと、か弱い女と思ってたが私に突進してくる勇気があるとはな」

弥生「幸人も日向君も大事な友達なのよ!二人とも逃げましょう!」

夜神「仕方ない。これ以上事が大きくなるのは厄介だ。ここで記憶を消す、逃がさない!」

日向「走るよ二人とも!」

弥生「っ、きゃあ!?」

弥生、ぬかるみにハマり転ぶ

幸人「弥生!?大丈夫か!」

弥生「足元がぬかるんで…っ、二人とも私はいいから逃げて!」

幸人「お前を置いて逃げる訳出来ねぇだろ!」

日向「幸人!弥生ちゃん!?」

夜神「まずはお前達からだ。そんなに怯えるな、痛みはない。すぐに済むから安心しろ」

日向、夜神と二人の間に立ち塞がる

日向「二人には何もするな!」

幸人「日向…!」

夜神「…だから記憶をいじるだけだ。痛みはない。…もしかしてヨミの奴に何かされたのか?」

日向「っ……」

夜神「あのバカ…。まぁいい手早く済ませてやる。目でも瞑っていろ」

日向「もう、ダメか…ゆい…」

①⑦

ゆい「もうやめて!!」

夜神「!?…雨呼び女か」

日向「ゆい、姉ちゃん…」

夜神「やっと姿を現したか。その図体でよく隠れられたものだ」

弥生「あれが…ゆい、さん?大きい人…」

幸人「嘘、俺妖怪を目視してる…!?これは夢か!?」

日向「ゆい姉ちゃん!何で来たの!?あいつは姉ちゃんを狙ってる奴だよ!」

ゆい「日向君達が危険な目に遭ってるのに黙ってられなかったのよ…。お願い、夜神様。私はどうなっても構わないから、この子達はこのまま帰してあげて」

日向「ゆい姉ちゃん!」

夜神「愁傷な心がけだ。記憶を消したい所だが、怖い目に合わせてしまったのは此方だ。雨呼び女も素直に現れた事だし、今回は特別に何もせずに見逃すとしよう」

ゆい「…ありがとう、ございます」

日向「ちょっと待って!何勝手に決めてるの!?」

ゆい「日向君、私に関する記憶は消さないで大丈夫みたいよ」

日向「そ、そんな事言われても、ゆい姉ちゃんが殺される事に変わりはないんでしょ!?」

ゆい「…もう、決心がついたわ。これ以上君が無茶をしないように、早く居なくならなきゃいけない…」

日向「なに、勝手な事言ってんだよ…嫌だよ!ゆいが居なくなるなんて俺は納得しない!」

ゆい「日向君…」

日向「俺はゆいが好きなんだ!好きな人が居なくなって、でも思い出だけは残ってて…そんなの、簡単に割り切れるほど俺は大人じゃない!やっぱりダメだ!ゆいを助ける!」

夜神「随分聞き分けの悪い人間だな。そいつだけ無理にでも記憶を消した方がいいんじゃないか?」

ゆい「…」

幸人「おい、どうなるんだこれ…」

弥生「しっ。私達にどうこう出来る問題じゃないわよ…。だって、日向君はずっとゆいさんの事が好きだったんだから」

ゆい「…夜神様。少し彼とお話ししていいかしら?」

夜神「…あまり待たせるなよ」

①⑧

ゆい「日向君…」

日向「……」

ゆい「私も日向君が好き。大好きよ」

日向「…っ」

ゆい「日向君が私の事が好きなのもとっくに分かってた。それでもその気持ちに答えられなかったのは私が妖怪だから。雨を呼ぶし、人間とは思えない見た目。貴方が好きだからこそ、貴方のそばに居てはいけないと判断したの」

日向「それでもいい…」

ゆい「今はそれでいいかもしれないけれど、いつか絶対後悔する。私は能力のコントロールが上手く出来ない時がある。もし、日向君が別の人を好きになったら、私は心がぐちゃぐちゃになって、大雨を呼ぶかもしれない。雨を降らさなくなってしまうかもしれない。何が起こるか分からないの」

日向「そんな事…」

ゆい「あるのよ。だから、私が貴方のことが好きでも、分別が付く前に貴方の前から消えて仕舞えば良い。そう思ってしまったの。この土地や貴方に未練があって隠れていたけど、決心したわ。日向君の為、自分の為にも私は消える。ありがとうね日向君」

日向「やだ…いやだ…!っ…」

日向を抱き締めるゆい

ゆい「大好きだったわ。長い事初恋を奪ってしまってごめんなさいね。嬉しかった…」

日向「いやだぁ…!」

ゆい「いつか、私の事を忘れて…幸せになって…」

日向から離れるゆい

日向「ゆい、ゆいぃ!」

ゆい「…夜神様、お待たせしました」

夜神「なかなか、酷な事をするな。あれではお前の事は忘れないだろう」

ゆい「…少しばかり狙いました。私は人間に害をなす存在ですから」

夜神「ふっ、腹の立つ奴だ。しかし、心意気には感動したのは事実。すぐに楽にしてやる」

ゆい「…はい」

①⑨
木々を掻き分け、現れるヨミ

ヨミ「見つけた!覚悟しろ人間共!」

日向「え、」

夜神「ヨミ!?」

日向に切りかかるヨミ

日向「うわぁ!?」

ゆい「日向君!?」

弥生「きゃあ!日向君、血…血が…!」

幸人「おい、大丈夫かよ!?」

日向「い、…うぅ…」

その場に座り込む日向

ヨミ「足元がぬかるんで踏み込みが甘かった…掠った程度か…。今度はちゃんと真っ二つにしないと…」

夜神「ヨミ!お前何をしている!?おい、ヨミ!」

ヨミ「ちゃんとしなくては。ちゃんと…ちゃんと…。怒られない為に…」

ブツブツと呟き続けるヨミ

夜神「私の声が聞こえていない…?」

ゆい「どういう事ですか!?彼は一体…」

夜神「ヨミは…妖怪によって殺された人間だ。大昔、この土地での出来事だが、哀れんだ私が奴を引き取り従者に迎えた……あいつは妖怪への憎しみが強いんだ」

ゆい「なら、何で今は日向君を狙ってるのよ!?」

夜神「……妖怪に殺された原因は、この土地の人間のせいでもある。みなしごだったヨミを神の供物として神を気取っていた妖怪に食い殺させた…それ故、時折タガが外れると妖怪や人間を見境なく襲う…私の声を認識出来なくなるのも珍しくない…」

ゆい「そんな危険な…!」

日向「くっ……」

ヨミ「胴体。刃をこう…切れば、体を真っ二つに出来る…うん。そうだな。妖怪も人間も切り刻んで仕舞えば…問題はない…」

夜神「ヨミ!これ以上人間に危害を加えてみろ!また痛い目に合わせるぞ」

ヨミ「…神、様。殺す対象は人間と妖怪…でしたよね?大丈夫。俺は任務を遂行致します。なので、もう怒らないで下さい…」

夜神「っ…」

ゆい「日向君!」

日向「ゆい、姉ちゃ……」

ゆい「大丈夫!?傷はそこまで深くないわね…すぐに病院に連れて行くから!」

日向「ゆい姉ちゃ…危な…!」

ゆい「え、…きゃあ!?」

ゆいに切りかかるヨミ

ヨミ「…図体がでかいせいで切り込みが甘い…妖怪の方は時間がかかりそうだな」

日向「ゆい姉ちゃん、大丈夫…!?」

ゆい「えぇ、人間よりも体は丈夫だから…でも、このままじゃ夜神様以外全滅する…。これ以上夜神様達に逆らうつもりはなかったけど、背に腹は変えられない!っ、これ以上日向君を怪我させないで!!」

ヨミ「っ!?…こんなぬかるみで俺に突撃してくるなんて…これだから妖怪は…!」

ゆい「そこの二人!日向君を連れて逃げて!!」

幸人「お、俺たち!?」

弥生「っ…、わ、分かりました!」

幸人「弥生…」

弥生「こんなの私達が解決出来るわけないわよ!…あんたも言ってたじゃない。人知を超えた世界は所詮人間には分からないって…日向君も私達も死んじゃうかもしれないのよ!」

幸人「…でも…日向は…」

ゆい「早くして!!」

日向「っ……、」

ゆい「早く!!」

雨が強くなる

ヨミ「雨が強くなって来た…これはお前のせいだな。雨呼び女」

ゆい「もう、抑えられない…」

②⓪
雷鳴

日向「夜神ぃぃ!!」

夜神「!?」

日向「神なら、自分の部下くらい止めろよ…!」

夜神「…今の奴に私の声は届かない。力付くで止めるしかないが…これ以上ヨミを苦しめたくない…」

日向「じゃあ止めろよ!今のあいつの方が苦しんでるじゃん!このままじゃみんなやられんだぞ!」

夜神「…しかし、」

日向「しかしとかじゃないんだよ!こんな形でゆいが殺されたら俺は一生お前を恨んでやる!何でお前に神頼みしてると思ってやがる!」

夜神「……」

ゆい「日向君!いいから二人と一緒に逃げて!!」

幸人「そうだ、行くぞ日向!」

弥生「早く逃げましょう!」

日向「うるせぇ!俺は行かねぇ!くっ…くそがぁ!」

ふらふらと立ち上がる日向

弥生「ちょっと、怪我してるのに大丈夫なの!?」

日向「好きな人が頑張ってるのに、逃げてたまるかってんだよ!!」

走り出す日向

幸人「おい!日向!?」

ゆい「日向君!?何でこっちに来るのよ!」

ヨミ「邪魔する奴…殺してやる!」

ゆい「ダメ!危ないから来ないで!」

日向「人間だから何も出来ねぇって思われたくねぇんだ!…ゆいから、離れろこの野郎ぉ!!」

落ちてる石をヨミに投げつける

ヨミ「ぐっ!?」

ゆい「!?」

幸人「うわ!ナイスコントロール!」

弥生「石を当てた?…この雨の中、運動神経…ってか目ぇ良過ぎ…!」

ヨミ「っ…」

日向「野球部の助っ人務めた事あるんだよ!ゆいから離れねぇともう一個投げるぞ!?」

ヨミ「……」

夜神「よ、ヨミ…!?」

ゆい「…何で、この人…妖力が上がってるの?」

ヨミ「うわぁぁぁぁぁあ」

幸人「な、なんだ!?いきなり叫びだしたぞ!?」

弥生「ねぇ、なんだか不穏な感じなんだけど…」

夜神「っ…皆、離れろ!」

②①

ヨミ「痛い事しないでください。僕が悪かったんです。僕が、僕が生きてるから…この村は不幸になるんです…」

ゆい「何、この人…」

ヨミ「はい、僕が悪いんです。僕が生きてるから…だから、やめて…石を投げないでぇ!!」

日向「ゆい!危ない!!」

ゆい「え?きゃあ!?」

ゆいに飛びつく様に庇う

日向「急に刃物を振り回しやがって…!」

ヨミ「はぁ、はぁはぁ…」

弥生「何か、我を失ってる様に見える…」

幸人「この土地の……古い悪しき風習…?もしかして、実際にあったかも知れないって言う生け贄の犠牲者なのか!?」

夜神「っ…!」

弥生「ど、どういう事?」

幸人「さっき夜神様が言ってたあのヨミって人の過去…本で読んだ事あるんだけど、この辺で実際に起きた事らしいんだ。かなり昔の話だからただの都市伝説だと思ってたけど…」

ゆい「じゃあ、あの人が今苦しんでるのは…」

日向「昔の事を思い出してるのか…」

ヨミ「僕が贄になります。僕が贄になります」

弥生「酷い事を言われて、石を投げられたのかしら…?」

幸人「日向が石を投げた事で当時の事が鮮明に蘇って来たんじゃないか…?」

ゆい「私も知らない話…この土地に本当にあった事なんて…」

ヨミ「あぁぁぁあ!!」

夜神「ヨミ、ヨミ!!」

更に雨が強くなる

日向「っ…ゲリラ豪雨じゃん…!?」

ゆい「夜神様も、天気のコントロールが上手くいかなくなってるんじゃ…」

幸人「おい、山の中にこのままいたらマジで危ないぞ!」

弥生「…私達生きて帰れるわよね?」

夜神「……」

日向「……」

ゆい「…絶対に帰さなきゃ」

日向「っ……」

②②

夜神「くっ…雨も酷いのに、どうすればヨミを…」

日向「いい加減にしろよ!!」

ゆい「え…」

幸人「ひ、日向…?」

日向「ゆい!あいつの武器どうにか出来ない?」

ゆい「…え、多分…出来るけど、何をするつもり?」

日向「いいから手伝ってくれ!」

ゆい「は、はい!!」

ヨミ「あぁ…はぁ…うぅ…うあぁ!もういやだ!全員殺してやる!殺せば俺は苦しみから解放されるぅぅ!?」

ゆい「悪いけどその武器!危ないから手放して、ちょうだい!!」

ヨミの手から武器を蹴り飛ばすゆい

ヨミ「がっ…雨呼び女ぁ…何をしやがるぅ!?」

ゆい「きゃっ…!?」(よろける)

日向「いい加減にしやがれぇ!!」

ヨミにビンタする日向

ヨミ「っ!?」

夜神「え…」

弥生「び、ビンタ…!?」

幸人「あいつ何してんの?」

日向「雨降って視界も聴覚も鈍ってんのか!?夜神の声も聞こえないのか!?危ねぇっつってんだよ!こんな山の中、バカでかい武器を振り回して…頭悪そうだって思ってたけど主人の声も聞き分けられねぇのか?おい!今の俺の声は聞こえてるのか!?」

ヨミ「な、にを…」

日向「何じゃねぇ!神の遣いなら危ない事をするんじゃねぇよ!人間に危害を加えちゃダメって夜神が言ってたろ!?」

ヨミ「うっ…人間のくせに…」

日向「人間とか妖怪とかどうでもいいだろ!つかお前も人間だったんだろ?お前の過去とか辛さとかまでは分からねぇよ!……俺だって…未だにゆいの事分からないのに……」

ゆい「……え」

日向「人間とか妖怪とか、分かり合えないのは分かってる。人間同士でも分かり合えないんだから…でも、同じ様に感情を持ってるならほんの少し…ほんの少しでも理解出来るつもりだ…綺麗事だと思うけど…知りたいって思ってるなら分かち合う事位…夢見たって良いだろ…」

雨が弱まってくる

ゆい「雨が…」

弥生「止んだ…?あんなに激しく降ってたのに」

幸人「…すっげ、やっぱあいつ晴れ男だ」

夜神「日向、ヨミ…」

②③

日向「ヨミ…。石投げて悪かったよ。知らなかったんだ、お前のトラウマ…」

ヨミ「……」

日向「俺、妖怪になりたかった。妖怪になって、ゆいとずっと一緒にいようと思ってた。…でも、それだと俺が俺でなくなる気がした…。つーか親も友達も人間だからさ、それを手放すのも怖かった」

ゆい「……」

日向「人間の俺は、妖怪のゆいを好きになったんだ。だから俺は…少しでもお前達に寄り添いたい…幸人より知識は浅いけど…俺は俺の為に人外達を守りたいんだ…」

ヨミ「……意味が分からない。俺は夜神様の為にお前達を殺す!殺してやるんだ!それが俺の為なんだ!!」

日向「言ってる事がおかしいって気付いてないのか?夜神の為?夜神はずっとお前にやめろって言ってたぞ。お前は結局、お前の過去を拒絶したいだけだろ?」

ヨミ「俺は…」

日向「夜神の声を聞いたか?夜神の方を見たか?…雨も止んだんだから、直視出来るだろ」

ヨミ「…夜神、様…」

夜神「…ヨミ」

ヨミ「夜神様…俺……」

夜神「すまん、ヨミ。すまん…!」

ヨミを抱き寄せる夜神

ヨミ「や、がみ様…何で、俺に謝るんですか…?こんな俺を…抱き締めるのは神様として…」

夜神「黙ってろ!お前はバカだ…私も…大バカだ…。お前の過去を知っていながら結局苦しめる方法でしか躾けなかった…。私が間違っていた」

ヨミ「え…?」

夜神「お前の過去を哀れに思ってお前を従者にしたのに…何で傷付けてしまったのだろうか…」

ヨミ「夜神様……」

ゆい「…貴女は神様。人間や私達妖怪は理解の範疇外でしょう?そんな貴女が自らの意思でヨミさんを従者にした…。その事実に変わりはない。だからそんな言葉じゃまた足りないわよ」

夜神「…」

ゆい「日向君は昔からよく喋る子だった。好意の言葉を惜しげなく伝えるのは…私と彼の生きる長さが違うから…伝えれるだけ伝える。彼はそれを選び続けてる。そして今も…ヨミさんに伝えた彼の言葉は全て彼の本心…今必要なのは貴女自身の間違いへを悔やむ事じゃない。ヨミさんがどれだけ自分の中で必要な存在かを教えてあげる事…」

日向「ゆい……」

夜神「……ふっ、まさか妖怪に説き伏せられるとはな…ヨミ」

ヨミ「…?」

夜神「愛している。お前は、私の守るべき物達とは違うが…お前の事を誰よりも愛している。だからまた…共にこの土地を守ろう…お前の憎んだ土地だが、美しく…永く永く続く様に…」

ヨミ「っ……」

夜神「お前が笑顔で過ごせる様に………そうだった…だから私はこの土地を守りたかった。お前と共にあり続ける為に、私の居場所を…お前の居場所を守り続ける為に…!」

ヨミ「夜神…様ぁ…」

夜神「言葉足らずでごめん。いっぱい叩いてしまってごめん。でも、お前の事を想ってる。少しづつやり直そう。だから、まだ私のそばに居てくれるか?ヨミ…?」

ヨミ「います…います…!俺には夜神様しかいないんです…。だから、俺を捨てないで…」

夜神「捨てるものか…絶対に手放さないから…。約束だ…ヨミ!」

泣き続ける二人

②④

日向「…ゆい、姉ちゃん…大丈夫?」

ゆい「日向君の方こそ…無茶ばっかりしてびっくりしたわよ。…君たちも大丈夫かしら?」

幸人「あ、はい!大丈夫です!」

弥生「雨で制服が泥まみれだけど…私たちは大きな怪我はしてないです」

ゆい「良かった…。あ、日向君怪我してるんだった!早く連れて行かないと!!」

日向「ちょっと血が出ただけだよ。そんなに慌てなくても…」

ゆい「慌てるに決まってるでしょ!」

夜神「お前達…」

日向「夜神?」

夜神「…すまなかった。こんな事になるなんて思ってなかった…」

日向「…まだゆい姉ちゃんを狙うつもり?」

夜神「……いや、ここまで迷惑をかけてしまったんだ。そいつをどうこうするつもりはない」

日向「…本当だろうな?」

夜神「本当だ。私とヨミを助けてくれたお前達には感謝しかないんだからな」

日向「……」

幸人「んじゃ、一件落着って奴?ならもう帰ろうぜ〜」

弥生「もう、気が抜ける事言うわねあんた」

幸人「制服もドロドロだし、このままじゃ俺たち風邪ひくぜ?日向も怪我してるし…」

日向「これどう言い訳しようね…」

ヨミ「…あの、」

日向「ん?」

ヨミ「……すまなかった。ありがとう、助けてくれて…」

日向「…助けたって言うか、ゆいと二人を守りたかったから、夢中になってただけだよ」

夜神「しかし、結果的には助かった。な、ヨミ?」

ヨミ「はい。夜神様以外に叱られたのはお前が初めてだ。お前はすごい人間だな」

日向「あんたらに褒められるのは正直嬉しくない。…でもまぁ、もうゆいに手出ししないならその言葉は受け取ってやる」

ヨミ「…お前は本当にその妖怪が好きなんだな」

日向「当然だろ」

ゆい「っ〜〜///」

幸人「日向ってあぁいう性格もしてんだな」笑

弥生「堂々としててカッコいい…のかな?意外な一面を見れてちょっと困惑するわね」

夜神「…私は妖怪と人の繋がりは反対だ。しかし、私達を救ったお前にはその繋がりを良い物と出来る事を期待している」

日向「え?」

夜神「晴れ男…なんだろ?雨呼び女がいるのにこの天気だ。期待しない方がおかしいさ」

ゆい「…確かに、久し振りに見たわ、太陽……」

日向「…」

夜神「だから日向。この夜神の加護がお前達を守り続けるだろう。雨呼び女…いや、ゆい。お前もだ」

ゆい「夜神様…。ありがとうございます…」

夜神「人間の子供達、感謝する。さらばだ」

ヨミ「失礼する」

二人、去る

②⑦

弥生「はぁ…もう疲れたわ…」

幸人「だなー。つーか制服…どうしよう…」

日向「そうだな…」

ゆい「…」

日向「ゆい姉ちゃんも大変だったでしょ?また日を改めて来てもいい?」

ゆい「…日向君、話があるの。少しだけ、二人きりでいいかしら?…すぐに終わるから」

日向「え…」

幸人「…あー、いいっすよ!弥生、少し離れてようぜ?」

弥生「え?…あ、うん…。じゃあ、近くで待ってるね!」

二人が離れる

日向「……話って?」

ゆい「怪我をしてるのに引き止めてごめんね…。色々謝りたい事があって…」

日向「謝りたい事?」

ゆい「その、日向君の気持ちを分かってて突き放す様な態度を取ったり、危険な目に合わせたり…すごく後悔してるの…。人間の子供達を巻き込んでしまって…」

日向「それは、俺が勝手に首を突っ込んだからで…」

ゆい「でも、…それが嬉しかったの」

日向「え…」

ゆい「私だって、日向君のことが大好き。大好きだからこそ、人間と妖怪って関係に戸惑っていた。ずっと私を想ってくれてる事に罪悪感しかなかった…。そのせいで、感情がぐちゃぐちゃになっちゃって、雨を呼ぶ力が暴走してたの…」

日向「それで、夜神に目を付けられたの?」

ゆい「うん…ごめんね、こんな私で…。貴方の気持ちに乗っかって、貴方を好きになってしまって…本当にごめんなさい」

日向「……」

ゆい「…やっぱり、このまま一緒にはいられない。好きって気持ちを伝えたかった。私は、君の前から消えるから…どうか、幸せになって……」

日向「ゆい」

ゆい「…?」

日向「俺の事が好きなんだったら、もうゆいってちゃんと呼んでもいいよね?」

ゆい「え、…え?」

日向「俺、ゆいにそういう目で見られてないんだと思ってた。ゆいが俺の事を男として見てないんだったらもう諦めようとは思ってた…でも、違うんだね?俺の事…そういう意味で好き…って事なんだよね…?」

ゆい「…そ、……それはそうだけど。ち、違うじゃない!私が言ってるのは私は日向君とは結ばれない…結ばれちゃいけないの!」

日向「何で!?夜神が言ってたじゃん!あいつは俺とゆいの事を認めてくれたって事だろ?」

ゆい「それは…」

日向「…好きなのに妖怪と人間って壁のせいで諦めないとダメなら、俺はもうとっくにその壁と向き合う覚悟はしてる。それはゆいを好きになった時からずっと…」

ゆい「……」

日向「この先、どうなるかなんて今の俺には考えられない。ゆいを裏切る事をしちゃうかもしれない。妖怪と人間の壁に阻まれるかもしれない。それでも、自分の気持ちを抑えられない位、今はゆいの事が何よりも好きだ」

ゆい「…日向君」

日向「好きです、ゆい。まだ俺と一緒にいて下さい!」

ゆい「……」

日向「……」

ゆい「っ…、バカ」

日向「え!?」

ゆい「何で、何でそんな事言うのよ…!バカ、人間のくせに…この大バカ!!」

日向「え、…そこまで言う?…き、傷付く…」

ゆい「バカぁ……!」

日向に抱き付くゆい

日向「ひぇ!?ゆ、ゆい!?な、何で、ハグなんて大胆な…!?」

ゆい「もう、離してあげないんだからぁ…!!」

日向「…!」

ゆい「私に好かれた事後悔しなさい!別の女好きになんてなったら呪い殺してやるんだからぁ!!」

日向「…うん」

ゆい「うぅ…、バカ。バカぁ…!……大好きなんだからぁ……」

日向「俺も大好き。俺が死ぬまでは俺の事を好きでいて…」

ゆい「長生きしてよ…?少しでも長くそばにいて欲しいから…」

日向「うん、約束する」

②⑥
数年後

幸人「なぁ弥生、明日どっか行かね?」

弥生「え?急にどうしたのよ」

幸人「最近梅雨で雨ばっかだろ?でも明日は一日中晴れっぽいしさ、仕事も休み。ならどっか出掛けないとつまんないだろ!」

弥生「なるほど、一理あるわね」

幸人「あ、そうだ!日向も誘おうぜ。昔みたいに3人で遊びに行こうぜ。なんなら嫁さんも誘って…」

弥生「日向君ね〜、メール入れてみようかしら。ってか、向こうも予定や仕事あったりするかもしれないのに勝手に決めようとしないの」

幸人「ごめんごめん♪」

弥生「あら、返信早っ!…えーっと?」

幸人「どうどう?」

弥生「……ざーんねん!日向君予定あるって」

幸人「えー、そんなぁ」

弥生「次の休日以降だったら空けれたって。お嫁さんとデートみたいよ」

幸人「まー、あいつ休みあったらデートと称して嫁さんに会いに行くしなぁ」

弥生「ん?またメール来た。…っ!?」

幸人「ん?どした?顔真っ赤だぞ?何て来たんだ?見してくれよ」

弥生のスマホに覗き込む幸人

弥生「ちょっ、勝手に見ないで!」

幸人「そっちも新婚でしょ?二人きりで出掛けないの?……おっとぉ」

弥生「で、出掛けてるわよね!?コンビニとかスーパーとか!」

幸人「…よし、海にドライブ行こうぜ!」

弥生「はぁ!?」

幸人「あ、海といえばこの時期の海のオカルト話があってな…明日詳しい事話してやるよ!」

弥生「海に行くのにオカルト話するとかバカなんじゃないの!?」

幸人「あ、海に行く事は賛成か?」

弥生「う、うるさい!黙って連れて行きなさいよ!!」

②⑦
翌日、森の中

ゆい「良い天気…雲が少なくて青空がよく見える…。こんな天気を何度も見られるなんて……風も気持ちが良い…」

日向「おーい!ゆいー!」

ゆい「!…日向君!」

日向「良い天気だね。やっぱりあらかじめ予定を立てとけば、梅雨の時期でも晴れるね」

ゆい「もう、日向君ってば私より妖怪なんじゃない?この晴れ男さん」

日向「雨女の力に打ち勝った男はもう嫌いになった?」

ゆい「…嫌いになる訳ないのに、意地悪な事言う旦那さんね」

日向「ふふ、今日は夜神様の祠をお参りしてから、デートに行こうか」

ゆい「えぇ!」


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