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運命の人

「『あ。』」

俺は出会ってしまった。運命の人に。

「あなたもこの作者好きなんですか?」

「ゔぇ?うぼぁ、ばふん。」

コンクリートから浮き上がる陽炎が視界を歪め、アブラゼミの即興演奏がいよいよ前衛さを増し始めた頃、解放されるため逃げ込んできた町の小さな図書館。適当に本棚をあさり、ふと気になった筒井康隆の『俗物図鑑』を手に取ろうとしたその瞬間のことだった。

「私も好きなんですよ!でも、これはもう読んだことあるやつなんで、良かったらお譲りしますよ。」

「ひょえ!?のへぁ…あんがとっ」

俺は足早にその場から去った。脈打つ心音がラテンのビートを刻み、今にも気が狂いそうで耐えられなかった。


帰路、茜刺す人もまばらな電車の中にてうろ覚えながらもあの子の首元や指先、身体の曲線を絞り出すように思い出し、考えていた。

「季節は違えど、俺にもやっと春が来たってことなのかな…」

独りごつ。

続けて、独りごつ。

「あのセフレの3人、どう切ろうかいね…」


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