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『ダークグリーン』

《ブックカバーチャレンジ(「読書文化普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿する」)という、Facebookで行われているリレー投稿の続き》
【4日目】

もともと父は割と頭が良かったらしく、本好きで、なかでもSFが好きだった。姉が生まれたとき、結構な蔵書もあったらしいが、姉が生まれたときに「女の子だからSFなんて読まないしね」といってそれらを整理して処分してしまったと母から聞いた。
ところが、ほんの数冊家に残っていたSFをめざとく見つけた姉がそれを読んでSFファンタジーの面白さに目覚め、しっかりDNAを引き継いだ私もSFへと傾倒していくことになる。両親は「しまった・・・」と思ったとのこと。
父は、若い頃にお酒と煙草と徹マン(徹夜で麻雀をすること)の日々で脳溢血となり、右半身がきかなかくなった。私が生まれる前のことである。びっこを引きながら歩き、本来の聞き手ではない左手でとても綺麗な字を書いた。博識であったが、生きることには不器用で、うまく自分を表現できず、人間関係では孤立しがちだった。だが長男として、弟や妹たちを養う義務があると両親から教育され、公務員として黙々と働いた。
父は、本当は新聞記者になりたかったのだそうだ。
若かりし頃は意外と美男子で、オーダーメイドの服しか着なかったのだそうだ。
プライドが高くて、自分以外は愚かだと思い(多分・・・)、そうやって虚勢を張って生きてきた。

そうしないと、さびしかったのかも知れない。
そう思わないと、怖かったのかも知れない。

それでも父は、父なりの方法で私たち娘を愛してくれていた。
小学生の頃、私がクラスメイトにちょっとした弾みで顔をケガさせられたときには、こちらが怖くなるほどの勢いで怒った。
パチンコに行って勝ったときには、お菓子やぬいぐるみを買ってきてくれた。
晩年はほぼ寝たきりで、介護なしでは生きられない状態となりながらも、プライドの高い父が黙って生き続けたのは、自分が生きていればそれなりの年金を受け取れるからだ。
そして最期は家族の誰にも看取られることなく、しずかにそっと息を引き取った。
母は、姉が父に似ているとずっと言っていた。
だが、私は、私の方が父に似ていると思うことが多々あった。
ムダにプライドが高いところ。虚勢を張ってしまうところ。自分勝手でわがままなところ。
文章を書くのが好きなところ。本が好きなところ。本が好きな人が好きなところ。
でも。
愚痴や文句を言うことなく、淡々と自分の義務をまっとうしていく強さは、受け継ぐことができていないかも知れない。
遺影の父は、いつも優しい笑顔で私をみている。
見たことがない笑顔で。
いや。
私は、父のことをきちんと見ていなかったのかも知れない。
本当は、私や姉の後ろでこんな笑顔を浮かべていたのかも知れない。
そう考えると、私は今まで多くのものをきちんと見ることなく、ちゃんと向かい合ってこなかったのかも知れないと思った。
人は誰しも、よいところはある。
そもそも、人間は愛情あふれる存在なのだ。けれどさまざまな困難や苦難と闘ううちに、すっかり自分を見失ってしまったのだと思う。
きちんと向き合って、きちんと見て。
ずっと静かに愛し続けてくれた父のように、人を愛し続ける存在になりたい。

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