杉田協士『ひかりの歌』 その2
引続き、個人的な感想になりますが、ご容赦くださいませ。
■ひかりを否定する ー今日子
2章は今日子の話。ガソリンスタンドで働く女性だ。
今日子は変わりたくない。変えたくない。
幼い頃から付き合いのあるガソリンスタンドで働いている。毎日、好きなバイトの男の子を見つめている。毎朝同じコースをランニングしている。
私にはこの章の主題は「選ばないことと守ることの差異」に思えた。
「あなたも夜空に星座を見つけてみてください」
真っ暗闇の道には、見上げても星は見えない。
あるのは自動販売機だけ。自動販売機の中にオロナミンCはない。選べるもののなかには、今日子が変わらず欲しがっているものはないのである。
なんでもあるように見える「ひかり」の中、今日子は謝り続ける。
今日子にとってこの毎日は、何物にも代えがたい漠然とした幸福である。そしてその幸福は持続によってのみ幸福である。
明日になったら急に変わってしまう、失われてしまうものではないという信頼によって形成されている幸福。
それを侵す好意は今日子にとって「キモい」ものでしかない。そういった「キモい」勝手によって、今日子の理想は崩れる。他人の(一種自己満足的な)夢によって。
今日子はありきたりに見える得難い持続可能な幸福を、ほんとうの「ひかり」としたい人間ではないだろうか。
他人から与えられる「ひかり」を、今日子は決して選ばない。そして自分にとっての「ひかり」を守ろうとし続ける。
それがいかに自分の影響できない範囲に及んでいても、である。
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