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覚悟のススメを読んだ。また主人公に悪霊が憑依する「王道展開」について

覚悟のススメを読んだ。
春頃にシグルイを読んで以来、山口貴由の著作を次々に読んでいる。

これまでにシグルイ、覚悟のススメ、衛府の七忍、エクゾスカル零、連載中の劇光仮面を読んだことになる。


覚悟のススメは、ざっくりとあらすじを説明すると世紀末が舞台で零式防衛術という戦闘技術を備えた主人公が闇落ちしたその兄と対決するという流れなのだが、この零式防衛術というのが単純な徒手格闘技術に留まらず「零式鉄球を体内に取り込むことによる身体の金属化」「戦術鬼」「強化外骨格」など色々なジャンルを網羅していて面白い。

特に強化外骨格がこの作品のアイコンとなっていて、特に主人公の纏う強化外骨格には、それを造るために人体実験にされた三千の英霊の魂が宿っている。英霊たちは主人公の手助けをしたり時に叱咤激励して、その様はニンジャスレイヤーに憑依したナラク・ニンジャを彷彿とさせる。

ニンジャスレイヤーは全く関係ない作品なのだが、こちらの作品も主人公には敵に虐殺された数万の怨霊が憑依していて、その力で虐殺を行った敵に抗するという感じなので非常によく似ている。

どちらも本来邪悪なものだが、でも虐殺された被害者なので主人公が敵に対する時に復讐者リベンジャーという立場になってを付与してカタルシスを増加させている。そしてアンチヒーローみたいな感じにもなって格好良い。


主人公自身に邪悪で強大なものが取りつきヒロイックにふるまうための力を与えるというのは、呪術廻戦であったり怪獣8号であったりNARUTOであったり、最近の流行であるが、これは単純な主人公の内的戦い・それを打ち倒すための成長を描く上で有効なテーマだから多用されていると言える。
しかし、実はそれだけでなく、現実にある問題のオマージュにもなっているのだ。

例えば、他人を大金で買収して利用することは一般的には悪いことであるとされているが、自分がある日急に10000億円手に入れたとしたら、他者を買収して動かそうとしてしまうのではないか?それをまさにやってしまうのではないか。

また、覚せい剤は完全に悪で使用すべきでないが、覚せい剤には集中力を極限まで高めたり、疲労を軽減したりする効果がある。決して手を抜けない、自分が抜けたら破綻してしまうような壮大なプロジェクトの渦中、激務の連続で弱った時に覚せい剤がたまたま手に入ったとして、それを使わずにいられるか。

浮気は完全に悪いことでやるべきではないが、ある日ひょんなことからテレビで見るようなモデルやアイドルと仲良くなり、そしてかんぜんに色目を使ってすり寄って来たとしたら、一切手を出さずに居られるか…
といったような倫理的問いだ。

極端な例を挙げたが、でもこれくらいのこと、それかもっと規模が小さい事例は人生を生きていたら常に起こりうる。だからこそこの問題自体は普遍的で、たなぼた的に不意に他者への優位性が手に入る時はあるし、その力の使い方次第では、本当に力に溺れたりしてしまうものだ。(金の亡者などはSNSでもよく見かけることだろう)

かなり暗喩的だが、そういった現実性リアリティがある物語展開なので、読者の感情移入には大いに寄与するし作品の厚みを増やす効果的な設定であると考えられる。


上に挙げた作品群では、その力をそれぞれ別の方法で克服していて、主人公成長のカタルシスに繋げている。
しかし、ほとんど最初から己の覚悟の強さを見せつけることで自分をかんぜんに認めさせていた葉隠覚悟(覚悟のススメの主人公)は相当に特殊だろう。(もはや鎧に取りついた怨霊の方が、あれは運命の出会いだった♡みたいになっていた)


まとめると、娯楽作品において、最もストーリーの主軸となりうるのは常に主人公の成長(受容を含む)なので、こういった設定は、常に非常に王道的で善いものだと言える。

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