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【翻訳】リード・デュークの思考法① 読みについて

訳者まえがき 

 この記事、及び続く2本の翻訳記事は、かつてCFB(チャネルファイヤーボール)のサイトに掲載されていた原文を私が翻訳し、DiaryNoteに投稿したものです。Diarynoteのサービス終了、そして何よりCFBのサイトリニューアルによって原文も読めなくなっている現状に鑑み、noteへと再投稿することにしました。

 再投稿に際し、訳文には所々手を入れた(先述の通り原文をもう参照できないため、日本語がおかしいところや気になったところを修正した程度ですが)ほか、見出しを付け、邪魔にならない程度にカード画像を挿入しました。4年前の記事ということで登場するカードは若干古いのですが、内容はまったく古びておらず、今のプレイヤーにとっても参考になるものです。著者への敬意と感謝を胸に、お楽しみいただければ幸いです。

 ”Getting a read isn't enough” by Reid Duke

 序

  カバレージブースで過ごした時間には、多くの学びがあった。プレイヤーとして、あるいは単なる観戦者としての経験値なら少しはあるつもりだけれど、コメンテーターという立場から眺めるマジックのゲームには、独自の味わいがある。普段と違う立場から観戦することで新しい視点が産まれ、他のプレイヤーに見えていて自分にだけ見えていないもの──もしくは、その逆──に気づくきっかけになった。

 僕が特に興味を惹かれたのは、プレイヤーたちが眼の前の対戦相手について集めようとする情報のことだった。手札、デッキ全体の構成、そこから導き出されるゲームプランなど、その情報は多岐にわたる。特に、一人のプレイヤーが相手の手札を「完璧に読み」切って、その読みに身を委ねてプレイしたとしか思えないような──たとえば3/3に対してアタックしてきた2/2をコンバットトリックをケアしてスルーするとか、もちろんもっと複雑な状況もある──そういう瞬間は大会を通じて何度も見ることができたし、そこにこそカバレージスタッフとしてカバーすべき(そして伝えるのは簡単ではない)ものがあるように思えた。

 実際のプレイの背後には、ゲーム中にプレイヤーが送りあい、受け取り合った無数のシグナルが複雑に絡み合っている。それを紐解いていく過程で僕が発見したのは、そのシグナルへの反応が一人ひとり異なる──かなり異なる──ということだった。判断力に優れた、実力あるプレイヤーでさえ、僕の見たところ、いつも自らの能力を最大限発揮できているというわけではなさそうだった。

 「相手が2/2でアタックしてきた。コンバットトリックを持ってそうだな」ここまではいい。ゲームに集中し、集めた情報を組み立て、相手の手札をほぼ推測できている。では、その情報をふまえたベストなプレイは? ここでつまづいてしまう人が多いんだ。

 さて今回は、こういうシチュエーションで僕がどう思考するかを皆さんにお見せしよう。自分で言うのもなんだけど、いい思考法だと思う。これを知っておけば、陥りがちな罠をかわす手助けになる。そして、こっちのほうがもっと大切なんだけど、無駄にビビって勝つためのプレイから遠ざかってしまうようなこともなくなるはず。なにより、この思考法はプレイスキルに応じてかなり幅広い範囲に応用できる。つまり、昨日マジックを始めたばかりでも使えるし、もっともっと成長して僕よりはるかに上手いプレイヤーになったとしても、依然として有用だろうってことだ。

・確実性の欠落

 通常、マジックのゲーム中に相手の手札を見ることはできないが、それについてのヒントはゲームの進行とともに手に入る。たとえば、ゲーム開始から2,3ターンめに対戦相手が土地を置かなかったとしたら、手札が何であれ土地じゃないカードでいっぱいであることはわかる。またたとえば、対戦相手がやたらアグレッシブなプランをとってきたときは、相手はライフレースを終わらせるカードを握っているかもしれない、という推測が成り立つ。

 ゲームのどこかの時点で、こういうヒントやシグナルが組み合わさって、読みを形成するわけだ。たとえば、こんなふうに──「相手は序盤に1ターンだけ土地が止まったけれど、そこから手札を1枚だけ残してクリーチャーを全展開して攻めてきている。もしコンバットトリックがあるなら前のターンがシャクる絶好のチャンスだった。でもそうしなかった──ってことは、あの残り1枚の手札は『溶岩の斧』だ!」

 相手が1ターンめを山でスタートした瞬間から、『溶岩の斧』の可能性はずっとチラついていたかもしれない。ゲームの展開がその可能性を少しずつ高めていく。そして相手がコンバットトリックを前のターンにキャストしなかったことが、確信へと至らせる。さらに何ターンか経つうちに、相手が何度もライフメモをチェックしたりすれば、その確信はさらに裏打ちされるだろう。

 さてここまで書いてきて、僕は注意深くある言葉を避けてきた。"知る"、ということだ。ゲーム中、相手が『溶岩の斧』を持っている(あるいは持っていない)ことを"知る"ことができる瞬間はない。では一体、どの時点から『溶岩の斧』があるものとしてゲームを進めていくべきなのか? 自分が6/6、相手が2/2をコントロールしている場合ならどうだろう。この場合、ダメージレースをしてもいいものか、それともライフを守っていくべきか?

 難しいのは読み自体ではなく、読みに基づいて適切なゲームプランを採ることだ。一般論としては、容易いことに思える。たとえ自分のライフが9で相手が18だったとしても自分がパワー6で相手がパワー2なら殴り合いをするべきだ。アグレッシブな赤いデッキには火力が入っていること、ゆえにライフを5まで落としてしまうのは得策ではない、というのもこれまた簡単に判るね。でもこの2つの考えが絡み合ったとき、複雑で面白いシチュエーションが産まれるんだ。

・可能性の追求


 ぎりぎりの決断をするときの助けになるように、僕は相手の手札が何であり得るか、確率を割り振るようにしている。もちろんこの数字は、時々刻々と変化する。

 相手が1ターンめに山をおいてきた瞬間には、確率はシンプルだ(そして、そこまで重要じゃない)。「経験から言って、赤いデッキの30%は『溶岩の斧』を1枚デッキに入れている。相手は7/40枚のカードを引いているわけだから、手の内にある確率は5%くらいか」ターンが経過して、相手が『溶岩の斧』を持っていそうなプレイをする(加えて、もちろん相手が引いたカードの枚数も増えている)。僕が割り振る確率も、それにつれて上昇していく。気をつけてほしいのは、スタート地点である「30%の赤いデッキが"溶岩の斧"をプレイしている」という考えにとどまり続ける必要はないということだ。相手が実際のゲーム中に取った行動に基づいて、計算はアップデートしていくべきだ(結果として最初の見積もりである30%を上回る場合も多々ある)。

 しかし、限りなく近づいたとしてもその数字は100%にはならない。これが可能性に基づいてプレイすることのキモだ。神の目線では、相手の手札が不確定、ということはありえない。『溶岩の斧』を持っているか、いないかは確定している。そしてすべてを完璧に運べるものならば、今相手が"それ"を持っているのかどうかを解き明かすことがきっとできるのだろう。でも人間の立場から見ると、相手が『溶岩の斧』を持っていることが確定するのは、相手がそれを自分に投げつけてきた瞬間だけだ。

 大切なのは、思い上がらないこと──いつも、自分が間違っているかもしれないと考えること。たしかに、同じフォーマットをプレイすればするほど経験値は溜まっていき、スキルは上がり、予測の正確性は増すだろう。でも少なくとも僕は、100%の確信なんて抱けたことがない。結局、相手は『溶岩の斧』を「引けたらいいな」と思いながらプレイしているのかもしれない。もしくは、ただ単に僕が状況を見誤っているのかもしれない。相手は置ききれない土地を握っているだけなのかもしれない。
 
 
 さて、相手が『溶岩の斧』を握っている可能性が75%くらいはありそうだと判断できたとしよう。相手のライフは18、僕は9。この状況、僕は6/6でアタックして相手の2/2とダメージレースをするべきだろうか。

ライフ18に対しては3ターンクロック
ライフ9に対しては4ターンクロック

 次のステップは、その場面に至るまでの文脈を読むことだ。
 見えていない火力をケアできる状況か否か? もしかしたら、僕はそのマッチアップを不利だと感じていて、多少のリスクは取るべきだと思っているかもしれない。
 攻撃を自重した場合、どうなりそうか? もしかしたら、僕は自分のデッキとスキル的に、消耗戦に持ち込めば勝てるだけの自信はあるのかもしれない。
 はたまたそうではなく、僕は相手が飛行クリーチャーや追加の火力をドローすることを恐れるべきかもしれない。
 じゃあ反対にアタックしたらどうなる? ダメージは与えられるだろうが、相手が返しに速攻クリーチャーを引いたらどうする? そもそも僕の読みが間違っていて、相手が持っているのがそもそも火力じゃなく速攻クリーチャーだとしたら?

 強いてこの状況に僕なりの答えを与えるなら、僕だったら一度だけアタックしてそれからもう一度計算する。もしお互いが何も引けずに盤面が変わらなければ、僕は自分の読みを信じて今度はアタックしない。そして盤面に変化が起こせるのを待つだろう。でもこの答え自体はどうでもいい。大事なのは考え方だ。

・『残骸の漂着』問題

  この記事を書くきっかけになったカード──それは『残骸の漂着』だった。カバレージを取るうちに、スタンダードで交わされる攻防の多くで、このカードの存在が重要な役割を果たしているのが明らかになったからだ。

実例を挙げよう。

 僕はスタンダードのゲームをプレイしている。リソースは2体の『栄光をもたらすもの』のみで、相手は忠誠度が5の『ドミナリアの英雄、テフェリー』をコントロールしているうえに4マナオープン、ライフも潤沢にあるという状況だ。相手は『残骸の漂着』を構えていそうだ……さて、どうプレイすべきだろうか?


×2
仮に栄光をもたらすもの2体の攻撃が通れば、テフェリーを処理できるが……


 答えに近づくために、まずは自分がXレイメガネを掛けていて、対戦相手の手札を正確に把握できていると仮定してみよう。

 そこに漂着がなければ、アグレッシブなプレイをすべきだ。すなわち、ドラゴン2体でテフェリーにアタックするのが最善手。
 そこに漂着があれば、より慎重なプレイを選択することになる。全くアタックせずに『強迫』を引くまで待つか、もしくは1体だけでテフェリーにアタックして『残骸の漂着』を使わせるかだ。

 次のステップとして、"「相手は『残骸の漂着』を構えている」と自分は推測している"という状況が意味するのはどういうことか、そして『残骸の漂着』が実際に手の中にある確率、について考えてみよう。
 僕に使える情報はこんなところだ。
「青白コンは通常、『残骸の漂着』を3枚採用している。そして、相手は結構な枚数のカードを引いているし、こちらの『栄光をもたらすもの』2体に対してテフェリーを展開してきた。前のターンのプレイの仕方にも迷いが感じられなかった。練習のときにこういう状況は何度もあったが、そのとき対戦相手は漂着を握っていた」。
 うん、相手は『残骸の漂着』を持っている、僕はそう判断する。

 でもそれは僕には知り得ないことだ。『残骸の漂着』は『アズカンタの探索』でサーチされたわけではないし、ハンデスで確認してもいないし、相手がうっかりテーブルに落としたわけでもない。つまり不確定なままで僕は決断を強いられるということだ。そして、僕はいつも正しい判断をくだせるわけではない。もしかしたら、練習のときは相手が常にぶん回ってなんでも持ってる状態だったかもしれない。たとえば前の2ラウンドを負けたことで弱気になっていて、判断基準がブレたりすることだってあるだろう。相手の強気な態度はミスリードかもしれない。

 きみがこういう状況に陥ったときには、きみ自身の判断基準から独自の確率を導くことになるだろう。ほんの一例として僕の数字を挙げるならこの状況、9割がた相手は『残骸の漂着』を握っている、と言える。

 さて、ではその読みを念頭に置いて、どうプレイするべきだろう。

 もしもアグレッシブなプレイを選んで漂着がなければ、テフェリーを処理することができる。もし漂着があれば、このゲームはほぼ負けだろう。
 もし慎重なプレイを選べば、とりあえずその場で負けが確定するようなことはなくなるけれど、相手はテフェリーの忠誠度を残した状態でアンタップできることが保証される。さらに、もし漂着があるならば、それは依然として手の内にある。

 このマッチアップでは経験上、相手にライフが潤沢にある状態でテフェリーが1ターン以上生存したゲームに勝ち目はほぼ(9割5分、とでもしておこう)ない。このケースでは、相手が漂着を持っていたら負けだ。慎重なプレイを選べば、持っていなくても負けることになる。

 結論として、ここで僕はアグレッシブなプレイを選択するし、読者もそうすべきだ。状況がいかに悪いかは数字が物語っている。僕に残された勝ちのチャンスはドラゴン2体をテフェリーに突っ込ませ、自分の読みが間違っていることを──相手が漂着を持っていないことを──祈るのみだ。

 ちょっと不自然だけれど、今回の例では自分の読みを裏切ることが最善手となるわけだ。こういう状況は、どう転んでも悲しい結末をもたらす。読みが合っていれば漂着を撃たれて負け。うまくアタックが成功してテフェリーを処理できたとしたら、自分の読みが間違っていたことが証明されるんだからね。

・結び──デューク流"読み"との付き合い方


 もし僕がMOをプレイする動画を観てくれたことがあるなら、僕が相手の手札を一点読みする姿を目にしたことがあるかもしれないね。相手が『至高の評決』を持っていそう、と僕は疑い、その疑惑はゲームが進むに連れてどんどん深まる。よし、あの残り一枚のハンドは『至高の評決』以外ではありえない! こういう読みは当たっていることも時にはあるけれど、相手がプレイした最後のカードはぜんぜん違うものだった──『至高の評決』なんて影も形もない──ことも多々ある。
  
 状況がどうあれ、勝つための最善手がクリーチャーを全展開することと確信できていれば、相手の手札をどう読んでいようと僕はそうプレイする。自分のマジックプレイヤーとしての価値は、相手の手札を見透かす能力にあるのではないと思っているからね。もちろん、鋭い読みができれば嬉しいけど……
 ともかく、全プレイヤーが目指すべきゴールはすごくシンプルに言える。どんな不確定情報やゲームの状況の前でも、常に勝利への最善手を取り続けることだ。


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