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【マジック名記事アーカイブ】PVルール【翻訳】
PV’s Rule
BY PAULO VITOR DAMO DA ROSA / DECEMBER 25, 2017 https://channelfireball.com/
序
俺は"選択"をテーマにした記事を何度も書いている。マジックの試合を成す要素中、最も軽視されているもの──その根幹を探っていくと、"選択"に行き当たるからだ。
選択肢を最大に広げること、今までの記事ではそれを言ってきた。選択肢がある場面を知ること、選択肢の中から最も情報に裏打ちされたものを選び取ること、等々。今回は少し別の見方をしてみよう。対戦相手から選択肢を奪うこと──特に、ハイレベルな戦いの場において。
・一つの問いかけ
一つか二つ前のスタンダード環境の頃(※訳注『イニストラードを覆う影』~『アモンケット』期)、Redditでこんな問いかけを見かけた。
先手のプレイヤー②は、2ターン目に沼を置き、『無情な死者』をプレイしました。
後手のプレイヤー①は2枚目の山を置き、召喚酔いの解けた『損魂魔道士』をコントロールしています。
問──手札にスペルがないとして、プレイヤー①は『損魂魔道士』でブラフアタックを仕掛け、1点のライフを稼ぎにいくべきでしょうか?
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……読者も少し、考えてみてほしい。
三つの答え
この問いかけに対する意見はほぼ等分されていた。
まず、"アタックすべき"派。『無情な死者』をみすみす失うリスクをプレイヤー②が取ることは考えられない、スペル1枚あれば大損するわけだから……。
次に、"アタックすべきでない"派。ブラフアタックで得られる1点のダメージは、仮にブロックされて『損魂魔道士』をただ失うリスクに見合っていない……。
そして"判断材料が足りない"派。残りの手札の内容如何でアタックすべきかどうかは変わるだろうから、盤面の情報だけでは判断がつかない……。
PVの答え、その根拠
この3つの答えはすべて間違っている。まあ確かに、正解のプレイを選んでいる意見もあるが、それは偶然そうなったというだけで、正確な根拠のもとに主張している奴はいない。
この状況で、プレイヤー①はアタックしてはならない。なぜなら、プレイヤー②は『無情な死者』でブロックしなければならないからだ。プレイヤー①が『ショック』を持っていようがなんだろうが、100%、常にこの状況下では、対戦相手はブロックしなければならない。そしてプレイヤー②が常にブロックしてくる以上、この例題の状況(手札に何もない)でプレイヤー①はアタックしてはならない。
だが、なぜプレイヤー②はブロックしなければならないのか? それが今回の記事の趣旨だ。先へ進む前に、俺が創り出し、(謙虚なことに)"PVルール"と名付けた定石を紹介しよう。
・PVルール#1
ハイレベルな戦いの場においては、相手にあるプレイを強制できるならそうすべきだ。それが自分にとって悪い結果だとしても、"その悪い結果を含む選択肢"を相手に与えるよりはマシである。
わかりやすく言おう。対戦相手にはいくつか選択肢がある、という場面があるとする。そして、その場面で君にもまた選択肢があって、
1.とあるプレイをする。そうすれば、相手はこうせざるを得なくなるだろうとわかっている。
2.しかしそのプレイをせずに、相手に複数の選択肢の中から選ばせる──その選択肢の中には、自分が①をやった場合と同じ結果が含まれている──としよう。
こういう状況では結果が好ましいかそうでないかに関わらず、①のプレイを選んで相手にプレイを"強制"すべきだ。結果が自分にとって好ましくないとわかっているプレイを相手に強制するのはおかしい、と反射的に思っただろうが、それでもそうすべきなのだ。なぜなら、ここで相手に選択肢を与えると、待っているのはより悪い未来なのだから。
具体例~ブラフアタック~
冒頭のブラフアタックの例に戻ろう。この時期のスタンダードの赤いデッキでプレイされている1~2マナインスタントは『ショック』と『削剥』だ。
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プレイヤー①が『ショック』を持っていたとして、もしプレイヤー②がアタックしてきた『損魂魔道士』をブロックすれば、プレイヤー①は本体に『ショック』を打ち込んで、『無情な死者』は死ぬだろう。これはプレイヤー②にとっては嫌な、そして"できるなら"避けたい状況だ。問題は、プレイヤー②がこれを防ぎ得る余地がまったくない点にある。『無情な死者』がブロックしなかったとしても、プレイヤー①は『無情な死者』に『ショック』を当てることで、"『無情な死者』は死んで本体に2点ダメージ"という、ブロックした場合と全く同じ状況を作り出せる。なおかつ、ブロックされなかった場合にのみ、プレイヤー①は『ショック』を温存して本体に1点与える、という新たな選択肢を与えられる。つまり、プレイヤー②の意思決定次第で、こう分岐するわけだ。
A.ブロックする。プレイヤー①が『ショック』と1マナを消費。『無情な死者』は死に、プレイヤー②は2点ダメージを受ける。
B.ブロックしない。プレイヤー①は以下の2つから、どちらか選ぶ。
B-1.『ショック』と1マナを消費。『無情な死者』は死に、プレイヤー②は2点ダメージを受ける。
B-2.『ショック』と1マナを温存。プレイヤー②は1点ダメージを受ける。
プレイヤー②は『無情な死者』を失いたくない。しかし、彼が『無情な死者』を失わずに済むのはそれがプレイヤー①にとって都合がいい展開である場合のみだ。
『無情な死者』を失うという結果を避けたいがためにブロックしないことを選んでしまうと、突如としてプレイヤー①には「『無情な死者』を放置する」という選択肢が産まれる。もしかしたら、プレイヤー①はこのターンに『航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ』をプレイしたがっているかもしれない。手札にプレイヤー②を殺し切るだけの火力が揃っていて、盤面の『無情な死者』を倒すよりも本体ダメージを優先して『ショック』を本体に打つことで4点を取りにくるかもしれない。『ショック』をブロッカーに打ってから本体に2点入れるのが定石だとして、プレイヤー①がそうしないのを選ぶ時は、『ショック』を温存すること(あるいは後続を展開すること、本体ダメージを優先すること)によって、ブロッカーを排除した時よりも自分が有利になると踏んでいるわけだ。
そして、プレイヤー②は『無情な死者』でブロックすることで、その選択肢を奪い『ショック』とマナの使用を"強制"できる。
数値化
さらに理解の助けとなるように、結果を10点満点で数値化してみよう。
Aを選択すると、相手は7点の結果を常に得るとする。
Bを選択すると、相手に選択肢が産まれ、相手の選択次第で以下の3つのいずれかが発生するとする。
B-1 相手は3点の結果を得る。
B-2 相手は7点の結果を得る。
B-3 相手は8点の結果を得る。
この場合、相手が(8点ではなく)7点を得ることに満足すべきだ。相手が7点を拒否するのは代わりに8点を得られると思う場合に限られる。7点と3点なら7点を選ぶのが道理だ。3点の選択肢が有り得るじゃないか、というのは考えに入れてはならない。それは基本的に起こり得ないことなのだから。
具体例 ~手札破壊とカウンター~
この"7点に満足すべき"シチュエーションにも典型的な例がある。
君がコントロールデッキをプレイしていて、手札は『対抗呪文』と『稲妻』の2枚。かつ対戦相手は君の手札がその2枚だと知っているとしよう。
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対戦相手のライフは潤沢だが、盤面に土地以外のリソースはない。つまり『稲妻』は今さほど重要なカードではないということだ。そんな中、相手は『強迫』をプレイしてきた。さて、君はこの『強迫』を『対抗呪文』すべきか?
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この状況下では『対抗呪文』は『稲妻』より何倍も価値がある。『対抗呪文』を『強迫』に撃ってしまえば、手札には使い道のなさそうな『稲妻』だけが残ることが"確定"してしまう。それは君にとってよくないシチュエーションだ。相手が何かの間違いで『稲妻』を落とす可能性がある以上、『対抗呪文』を『強迫』に撃つ理由はない。そうだろう?
違う。
"相手が7点を拒否するのは代わりに8点を得られると思う場合"だということを思い出そう。確かに、この状況では100回中99回は『対抗呪文』が落とされるだろう。そして残りの1回では『稲妻』が落とされ、君は「対戦相手が『対抗呪文』を落としてくれていれば!」と思うのだ。相手は『稲妻』を落とすことで相応の利益を得るからそうしたのであって、"どっちでもいいからテキトーに選んで"『稲妻』を落とすことなどありえない。『強迫』で『稲妻』を奪い去ってから、対戦相手は悠々と『大貂皮鹿』をプレイするかもしれない。
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君自身の視点から、"『強迫』が『対抗呪文』と交換になる"よりも良い結果(代わりに『稲妻』と交換になる)はもちろん存在し得るが、実際にそれが起こる瞬間は要するに、それが対戦相手にとってより好都合だったことが判明する状況だけなのだ。
さらなる具体例~『無私の霊魂』~
もう一つの例は、『無私の霊魂』や『セイレーンの嵐鎮め』、『呪い捕らえ』といったクリーチャーがいる状況での除去の打ち方だ。原則として、たとえ本当に殺したいクリーチャーが別にいたとしても、除去を打つならこれらのクリーチャーを対象にしなければならない。たとえば、相手が5/5と『無私の霊魂』をコントロールしていて、君が『破滅の刃』を握っているとしよう。
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『破滅の刃』を撃つ場合、以下の2つのオプションがある。
オプションNo.1 『無私の霊魂』に『破滅の刃』。『無私の霊魂』が死ぬ。
オプションNo.2 5/5に『破滅の刃』。対戦相手は以下の2つからいずれかを選ぶ。
2-1.『無私の霊魂』の能力を起動する。『無私の霊魂』が死ぬ。
2-2そのまま5/5が死ぬ。
『無私の霊魂』が死ぬ、という結果を強制し得る以上はそうすべきだ。たとえ君が本当に除去したいのが5/5だったとしても、5/5に『破滅の刃』を撃って5/5がそのまま死ぬのは、対戦相手がそれを望む場合だけだからだ。もしかしたらその5/5は伝説のクリーチャーで、相手の手札には2枚目がダブついていたのかもしれない。もしかしたら対戦相手は『神の怒り』を撃つ予定があるのかもしれない。手札にその5/5以上に守る価値のあるクリーチャーがいて、そいつを守るために『無私の霊魂』を温存しておきたいのかもしれない。何であれ、5/5が死ぬのは相手にとってそれがより好都合だから、というのは変わらない。
具体例~警戒クリーチャー~
警戒クリーチャーが絡むコンバットにも、こういう例は多い。対戦相手が3/2警戒、君が3/3バニラをそれぞれコントロールしており、お互いコンバットトリックはデッキに入っていないとしよう。
相手がアタックしてきたのを君はスルーした。次に、自分のターンで君はアタックした。君が何か特別なプランを持っていない限り、これはきわめてまずいプレイだ。なぜか? 相討ちかダメージレースか、相手が一方的に選択できるからだ。この例では、対戦相手がアタックしてきた時に君はブロックして相討ちを強制できた。しかし、そうしなかった。そして今アタックしている状態で、相手が相討ちかそうじゃないか好きなほうを選べる。相手の今の選択肢の内に、前のターン相手がアタックしてきたときに君が選べた"相討ち"が入っており、それを強制できるチャンスがあったのだから、君は最初のアタックをブロックするべきだったのだ。
・ネクストレベル、そしてPVルール#2
もし、俺が上手いプレイヤーと対戦していたとして、その相手が俺に対して選択肢──正しくプレイすれば与えずに済んだ選択肢──を与えてきた場合、俺は警戒する。
例えば俺が『無私の霊魂』と『異端聖戦士、サリア』をコントロールしている。そして俺の(腕の立つ)対戦相手は、サリアに向かって『稲妻』をプレイしてきた。さあ、どうだ?
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この状況では、今まで言ってきたことを反対側から見ていることになる。対戦相手は『無私の霊魂』が死ぬという結果を俺に強制できたのに、サリアが死ぬか霊魂かを選ばせてくれるわけだ。相手がわざわざそんなことをしてくれる理由は一つしかない。要するに、選択肢を与えた場合の結果(サリアか霊魂、どちらが死ぬか俺が選ぶ)が、"確実に"霊魂が死ぬという結果よりも相手にとって都合が良いってことだ。だから、こういう状況では『無私の霊魂』の能力を起動してサリアを守らなきゃならない。霊魂を殺すことを強制できた相手がそうしなかったってことは、サリアを殺せるかもしれないチャンスのほうが価値があったに違いない。
対戦相手があるプレイを強制できたにも拘わらずそうしなかった場合、その"強制できた結果"は相手にとって不都合なものだ。故に、もしそのプレイを選ぶ余地があるなら、そうすべきだ。これがPVルール#2だ。
・PVルールの2つの例外 その1
相手の技量
1つは、何らかの理由で、相手が正しい選択をできないだろうと考えられる場合だ。相手が経験の浅いプレイヤーだとか、その選択に対して重要な情報を自分だけが持っている場合、などがそれに該当する。
5/5と『無私の霊魂』の例に戻ると、たとえばグランプリやプロツアーといった大型大会や、顔見知りで技量が高いと知っている相手に対しては、俺は常に『無私の霊魂』に対して除去を撃つだろう。
しかし、もしプレリリースのような場でなら、むしろ(本当に除去したい)5/5の方に除去を撃つ。相手が『無私の霊魂』の能力を忘れるとか、『無私の霊魂』と5/5どちらを守るべきか、正しい判断がつけられないといった棚ボタの可能性が現実味を帯びてくるからだ。
相手が上手ければ上手いほど、PVルールはより有効になる。
自分しか知らない情報、相手しか知らない情報
次に、自分だけが情報を持っている場合の例。相手の目線からは"良い"プレイが、自分の目線からは"ダメな"プレイであるタイミングがある。前に書いた数値化の例えをもう一度出せば、相手が8だと信じているプレイが実は6だという場合だ。そのときは相手に実のところは6である8を選ばせてやることで、優位に立つことができる。
さっきの例に戻ろう。俺は『無私の霊魂』と『異端聖戦士、サリア』をコントロールしている。そして俺の(腕の立つ)対戦相手は、サリアに向かって『稲妻』をプレイしてきた。しかし、今度はもう1つ追加情報がある。俺は手札にもう2枚の『異端聖戦士、サリア』を抱えている。もちろん、レジェンダリールールのせいでそいつらは今までプレイできなかったわけだ。
この状況では、自分だけが持っている情報と相手だけが持っている情報、とりわけこの選択に影響しそうな情報の量を比べる必要がある。相手は霊魂の死を確定させられるのにそうしなかった。つまり、サリアを倒すほうが自分にとって都合がいいと考えているんだろう。しかし同時に、その結果(サリアを倒す)が起こるのは俺がそうしたほうが俺にとって都合がいいと考えている場合のみだ(PVルール#1)。相手はそのうえでなお俺に選択肢を与えている、ということになる。つまり、俺にはうかがい知れない何らかの情報によって、対戦相手は俺に選択権を与えるほうがベターだという判断を成したのだ。
サリアが2枚腐っている手札を見て、俺は霊魂を残してサリアを墓地送りにしたいと強く思う。しかし、対戦相手が同じくサリアを墓地送りにしたいと望んでいること、"たとえ俺がサリアを死なせるのはその方が俺にとって都合がいい場合だけだと理解していても、それでもなおサリアを対象に『稲妻』をプレイする"ほどに強く望んでいること、をも俺は思う。俺と対戦相手、どちらかが状況を見誤っている……だがどちらがだ?
例えば、相手はどうしてもこのターンにアンタップインさせたいクリーチャーか土地を持っているのかもしれない。この場合、サリアを失うと致命傷になるかもしれない。しかし、その"相手がアンタップインさせたかったクリーチャーや土地"がゲームにさして影響を及ぼさないということも考えられる。この場合、素直にサリアを焼かせて次のターンに出しなおしたほうが勝利の公算は大きい。自分だけが知っている情報のほうが価値が高いと信じるなら、サリアを焼かせるべきで、対戦相手だけが知っている情報のほうが価値が高いと推測するなら、『無私の霊魂』を生贄にすべきだ。
注意してほしいのは、比べる情報は自分や相手だけが知っている情報同士だ、ということだ。上の例でいえば、もしも相手が俺の手札に2枚腐っているサリアの存在を(手札破壊か何かで)知っているとするならば、彼はサリアを次のターンに出しなおされることを織り込み済みでサリアをこのターンに排除しにきているわけで、『無私の霊魂』をサクることに疑問の余地はない。
・PVルールの2つの例外 その2
"選択肢を与えてしまう"よりも悪い状況
2つめの例外はシンプルだ。相手に強制できるプレイよりも自分にとって悪い選択肢が存在しない状況では、PVルールは何の意味もない。
例えば、相手が3/3と『無私の霊魂』でアタックしてきている。俺のライフは3で、ブロッカーはおらず、唯一の手札が『稲妻』だとする。
PVルールに則れば、正しいプレイは"相手に選択肢を与えないために、『無私の霊魂』に『稲妻』を撃つ"なんだが、これをやっちまうとそもそも俺が死ぬ以上、これは正しいプレイとは言えない。この状況下では相手に選択権を与えることが唯一の生き残る道であり、自分を殺すプレイを相手に強制するのはナンセンスだ。
結び
以上がPVルールの要点だ。相手に選択肢を与えるな。結果を確定させられるなら、たとえそれが嫌な結果だとしても、そうすべきだ。時に直観に反していたとしても、大体の場合はそれが正しい判断なのさ。
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