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잠시の後に待つ未来


日差しが心地よい日の午後、そろそろ寝具を春夏のものに変えようかなと腰を上げた。今までならめんどくさがって先延ばしにするのだがなにぶん最近の休日は時間を持て余す。寝具を仕舞い込んでいるのは普段目をやることがないクローゼットの上段。さて…と思ってそこを見上げた瞬間、1番隅に押し込まれた寂しげな2つのキャリーケースから目が離せなくなった。

哀愁、とでもいうのだろうか。
普段見ることもない場所でひっそりと、いつくるかもわからない出番を待つキャリーケースの姿はとても切なく胸がぎゅっとなった。無機質なモノに今までこんな感情を抱いたことはあっただろうか。
私は国内海外問わず旅行が好きだ。出発の前日には、新たに訪れる土地はたまた再度訪れる土地でこれから見るもの食べるもの経験することへの期待を荷物と共にキャリーケースに詰め込む。そんな楽しみは唐突に奪われることになった。

パスポートの期限も切れた。
出入国の際に押されるスタンプが好きでたまにパスポートを見返しては「これはあの時の…」なんて異国の地に思いを馳せる。そんなスタンプも最後の日付は2019年。20歳の頃に初めて韓国に旅行をしてから毎年増え続けていたのに不本意にもそれは止まった。

“普通“であり“日常“だったものが大きく変わってしまった。
哀愁漂うキャリーケースも、当分更新されることのないパスポートも、変わってしまった私の日常の象徴だ。

でもそんなのは私だけじゃない。突然現れた災厄によって変わってしまったのは世界中同じ。辛いのはみんな一緒、なんなら私はマシな方と呪文のように心の中で唱えてきた。






2021年2月24日、BTSが「MTV Unplugged」に出演した。「MTV Unplugged」はアメリカのケーブルチャンネルであるMTVで放送されている有名な音楽番組だ。出演が発表されるとTwitterは大いに盛り上がった。放送当日朝にColdplayの「Fix You」をカバーすると知り脳内処理が追いつかずまだ夢を見ているのか…?と思ったのを覚えている。

2月24日は平日だったがどうしても帰宅するまで我慢できず、お昼休みにマックに出向いて食事もそこそこに動画に齧り付いた。

1曲目は「Telepathy(잠시)」。
収録されているアルバム「BE」の中でも特に好きな曲だ。


なぜだろう、動画が再生されてすぐ目頭が熱くなる。
セットはBTS仕様に細工された小道具が散りばめられ、少し古めかしい玩具が可愛くてとても楽しい空間。そこで自由に振る舞う彼らを見て自分でも良くわかない何かが込み上げてくる。そしてイヤフォンからRMの「Let's go」という声に続いてジョングクの綺麗な歌声が聞こえた瞬間、少しの涙が溢れた。
(真昼間のマックでいい歳の女が一人涙流してるの本当にやばいと思う)


スマホの中の彼らは笑顔だ。楽しそうに歌い楽しそうにリズムをとる彼らの姿は“涙“と正反対にあるだろう。それなのに曲が終わるまで涙腺は刺激されっぱなしだった。「なんか情緒不安定なのかな…自分怖…」と思い残りの曲は帰宅してから聴くことに決めた。これ以上小さなお子さんもいる公共の場で醜い姿を晒すわけにはいかない。

ちなみにこの後すぐTwitterに青髪ジョングクのセルカがアップされ不安定な情緒に追い討ちをかけられた。死体蹴りは良くないぞ!JK!


帰宅して「さあもう一度ゆっくり見るか」と意気込んでもやっぱりTelepathyは私の涙腺を刺激する。なぜだろう、彼らはとてもとても楽しそうに歌っているのに。



SUGAがたった30分で作曲したというTelepathyはメロディがポップで楽しく、ベースの低音が耳に心地よい素敵な曲だ。

JINはアルバム「BE」の記者会見の中で「Telepathy」についてこう話している。
(この会見のジンさんメガネでめちゃかっこいい)

「Telepathy」はレトロポップディスコジャンルの曲です。レトロ風なので、すごく楽しくて、ここにいないSUGAさんが作った曲です。コロナにより、全世界のファンの方に会うことはできない少し切ない現実を、歌詞に盛り込みました。僕たちはファンに会うとき、そしてファンと一緒にする瞬間が一番幸せで、今は少し離れていますが、いつも一緒にいるということを感じている、そういう望みを盛り込んだ曲です。


そう、歌詞には簡単には会えなくなってしまったARMYを安心させるかのように甘く優しい言葉が並んでいる。韓国語タイトルの“잠시”は「しばらく」という意味だ。しばらく会えなくても、そばに居ても居なくても、近くでも遠くでも、いつだって彼らの気持ちはARMYに寄り添ってる。わかってるでしょ?と言わんばかりに安心感そして多幸感を感じさせてくれる。

あまり早いのは、ちょっと危険だ
あまり遅いのは、ちょっと退屈だ
あまり早くもないように
または、遅くもないように
僕たちの速度に合わせて
行ってみようって
これはかなり長い
楽しいジェットコースター
 
たとえ、今は遠ざかっても
僕たちの心は同じじゃないか
僕のそばに、君がいなくても
君のそばに、僕がいなくても
僕たちは一緒だってこと
全部知ってるじゃないか
 
毎回同じ一日の中で
君に会う時は、一番僕は幸せだ
毎回違う日常の中で
君という人は僕に一番特別なんだ

ああそうか、私はしんどいんだなとふと気づいた。元来一人でいることも家に留まっていることも好きな私だが、さすがに一年近く続く非日常に疲れてきた。もはやその非日常がゆっくりと時間をかけて「日常」にとって変わろうとしているのが怖い。

多少日々の楽しみが奪われたくらいで、仕事で苦労しているわけでもなければ身近に罹患者がいるわけでもない。医療従事者や大打撃を受けている業界で働く人、コロナで大切な人を亡くしてしまった人たちの方が辛いだろう大変だろうと思うと、「しんどい」と口に出すことが自然と憚られた。

一年間何度も飲み込んできたしんどさが、いつでも一緒にいると優しく寄り添ってくれる彼らの歌によって、明るい場所で楽しそうに歌う彼らの姿によって、溶け出していくようだった。涙の理由はきっとそれ。

いつもありがとう。



そして先日4月17日、BANG BANG CON 21が開催された。過去のLIVE映像を3本もYouTubeで無料公開するという何とも太っ腹な企画だ。ラインナップは以下の通り。

BTS LIVE TRILOGY EP.1 BTS BEGINS(MEMORIES OF 2015)
BTS 5TH MUSTER MAGIC SHOP in釜山
BTS WORLD TOUR SPEAK YOURSELF sao paulo

MAGIC SHOPは円盤化しているし(ただし現在日本版は手に入らない模様…)、SYSサンパウロは動画配信サービスで見ることもできる。とても嫌な言い方をすると「わざわざこの日に無理しなくても見ることができる公演」だ。

それでも私はインターネット環境さえあれば 世界中どこでも 誰でも 無料で 平等に 楽しめる場を与えてくれたことに感謝をしたい。世界中のARMYが一斉に同じものを見て同じものを聞いて一つになって楽しむ、きっとそこに意味がある。ARMYのために何かできないかと、憂鬱な世界を少しでも明るくできないかと、彼らも会社も考えてくれているんだろう。

私はありがたいことに当日午後から仕事を休むことができたのでお酒とおつまみを大量に用意して15時の開始に備えた。



最初の公演は2015年のBEGINS。少年ではない、かといって大人になりきれているわけでもない、とても貴重な「狭間」にいる彼らを見ることができた。キャパ3000人ほどの会場でギラギラとした瞳をする彼らから感じたのは「可能性」。

そして続くMAGIC SHOPとSYS。規模の大きくなった会場、ファンの数、成長した彼らの姿。歌やダンスの技術向上はもちろんだが、パフォーマンスやメントでは余裕が感じられ、カメラへの意識や自分自身の魅せ方が抜群に上手くなっていた。

SYSサンパウロは圧巻だった。ブラジルという国の国民性もあるかもしれないがARMYが全身でライブを楽しんでいるのがビシバシ伝わってくる。バラード曲では大合唱だ。そしてBTSはというとARMYの大歓声を浴びて生き生きとしている。心の底から音楽とその場を楽しんでいる彼らはとても「自由」に見えた。


2020年からはBTSに限らずオンラインライブというものが新しい興業の形として確立された。以前から実際にファンの前で行われているライブの中継(ライブビューイング)はあったが、それとはやはり少し異なる。
オンラインライブが浸透するのはこのご時世しょうがない。ARなどの技術で工夫の凝らされたステージは見ていて楽しいだろうし、オンラインに限定されているからできることもあるだろう。それを席の優劣なく見られるのはいい事なのかもしれない。

でもやっぱりライブはナマモノだ。その場でしか味わえない臨場感、空気感、一体感がある。満足感も桁違いだ。会場の反応によってアーティストに変化があって、全てが筋書き通りにはいかない。アーティスト・スタッフ・ファンで作り上げる特別な空間はとても愛おしい。

可愛くて面白い姿を見ることができる“Run BTS”、素の彼らを覗くことができる“V  Live”…彼らを見ることのできるコンテンツはいくつかあってもBTSの主戦場はステージの上。ライブに情熱を注ぐ人たち。ドキュメンタリーを見ていると世界を飛び回る華々しいツアーの裏側は過酷であることがわかる。「僕らの苦労と観客の熱狂は比例する。苦労するほど盛り上がる。それなら苦労するしかない。」と言ってのけるのにステージ上では苦しい顔なんて一切見せない彼らに私たちができることといえばやはり目の前で歓声を送ることだ。


BTSは舞台の上で歓声を浴びている姿が1番似合う。舞台上はきっと「自分たちが自分たちらしくいられる場所」。
バンバンコンでそれを痛いほどに感じた。早く彼らが大好きなARMYの前に立つことができますように、彼らがいるべき場所に戻ることができますようにと願わずにはいられない。



このコロナ禍で彼らの人気をさらに高めたDynamiteはMVが10億回以上再生されているというのに誰一人として生のパフォーマンスを見たARMYはいない。世界の現状を物語るような事実だ。

初めてファンの前で披露されるDynamiteは一体どんなステージだろう?BEの曲のステージはどんなだろう?「ほら、しばらく離れていても大丈夫だったでしょ?」と言わんばかりにTelepathyを歌われでもしたら私はまた泣いてしまう。
そうやって楽しくて明るい未来を想像して、無理なくやっていこう。

先日V  Liveの中でユンギさんとテテちゃんが「思ったよりバンタンのスケジュールが忙しい」「皆さんに見えているより3倍、4倍のスケジュールがあると思ってください」と言っていた。日本でのベストアルバム、噂されている本国カムバ、ロッテコンサート…見えているだけでもたくさんの楽しみがある。
いつもファンのために頑張ってくれてありがとう。


今はまだ寂しそうな私のキャリーケースやパスポートに次の役割が与えられるときはBTSがいい。「しばらく」の後の明るい未来、ワクワクと愛を詰め込んで舞台上で輝く彼らを見るための旅に出たい。

それまではもうしばらく、余計な心配は置いたままで。




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