もし俺が地球防衛軍の司令官だが動物愛護の概念を地球外生命体にまで拡張していたら(もしカク)

 美容室に行くと緊張するので、出来るだけ行く回数を減らすために、切るたびに短めにして、限界まで伸ばして、また短く切るということを繰り返していると、「バッサリいきますね。夏だから短めにする感じですか?」と聞かれる。言った向こうもたいした興味はないだろうから「そっすね」と答えるが、帰り道に少しだけその嘘が引っかかり、次は別の美容室に行こうと思う。それを繰り返すと、家の近くのそこそこ空いている美容室が無くなってきて、もう自分で坊主にします!と鏡を見るタイミングで自分に宣言してみたりするが、どうせそのうち禿げるのに坊主にするのが勿体ない気がして、やっぱやめます!と俺は鏡の中の俺に軽く会釈した。すると鏡のそいつが喋った。
「QBハウスに、行ったら?」
「え?」
「QBハウスは、会話とかないよたぶん」
「そうなんですか?」
「QBハウスに、行くべきじゃないかな。普通に考えて」
 全身のシナプスが一斉に発火した。俺は普通に考えて、そしてQBハウスに行くことにした。
 
 あの日土砂降りの雨の中、藁にもすがる思いで駆け込んだQBハウスはたしかに俺に優しかった。めちゃくちゃ安い。会話も最低限で気が楽。仕上がりは良いとか悪いとか分からないので、なんとも言えない。おおむねよろしかったが、帰り際、何か物足りなかった。
 来た道を戻りながら、それは何なんだろうと考えて、シャンプーだと気づいた時、俺は髪の長さだとか、会話の気まずさだとか、御託を並べられるだけ並べて、俺が本当に欲しかったは、ちょっと強めの力で頭皮を触られることだったのだと悟った。土砂降りの雨の中、それは夜だった、俺は雲の向こうにいるであろう月に悲しみを吠えた。その声を聞いた月が言った。
「バカすぎわろた」

お月様、殺してやるよ、晴れた日に

以上が今泉力哉監督の最新作の冒頭です、多分。

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