フレデリックの経年変化 vol.1 逃避行編



(noteの性質上、一部歌詞を抜粋する記載が以下多くありますが、もしこの記事を読んでくださった方がいらっしゃったら、ぜひ扱った楽曲の歌詞をフルで読んでみてください!というか、フルで読んで、聴いてください!お願い致します。)

(ひたすら、個人の解釈なので、終始「こう思う人もいるのね〜」という気持ちで読んでください。約束ですよ。)


 『君とばっくれたいのさ』というハイパーキラーワードを組み込んだ『逃避行』という曲。
この曲は、先日リリースされた『フレデリズム2』というアルバムに収録されています。(このアルバムについては後日別の記事で書きます!絶対!何回も言っているのは自分のケツを叩く意です!すみません!)

フレデリック の楽曲の中には、度々この『ばっくれたい』のような『現実から逃避する』類の表現が出てきます。
そこで今回は、フレデリックが『フレデリズム2』の『逃避行』に至るまでの『逃避行譚』を紐解いていこうと思います!


まず、はじめに触れたいのが『WARP』という曲です。この曲は、フレデリックがインディーズの時に発表した『ヒツジのうた』という作品に収録されています。ここで『WARP』の1番のサビを抜粋しますと、

『見えない力を信じてる 救えない未来を前にして
何もない世界にワープして 僕はヒトリで笑う』

文字通り、現実から『WARP』してしまいたい、という旨を叫んだ楽曲です。ざっくり言うと、そんな感じです。


ざっくり言うと!そういう曲なのですが、ドッコイざっくりじゃあ終わらせません。

この曲には『現実逃避して、トリップして、楽しくやろうや!』的な表現が一つもないのです。加えて、現実の息苦しさ、のようなものが色濃く現れています。

『狂った日々は嫌いさ 眠れぬ夜も嫌いだ
固いベッドで眠った 怖い夢が見れそうだ
いろんな人に言われた 「悩むことなんてないだろ」
君は何見て解かった? その目は飾りなんだろ』

『静かに立っていた 一人たたずむ馬鹿だろう
うつむく表情は 暗い言葉を待ってた
狂った 嘆いた 変わってく自分を見ていた
急いだ 焦った 焦っていいことなどないのに』

これも一部抜粋になりますが、これだけでも逃げ出してしまいたくなるような、目を逸らしてしまいたくなるような現実を描いた楽曲だと分かっていただけると思います。

そして、『WARP』の大サビ、

『見えない力を信じてる 救えない未来を前にして
何もない世界にワープして 僕はヒトリで・・・
言えない気持ちを感じてる 笑えない夜空を前にして
何もない世界にワープして 僕はヒトリで笑う』

ワープしても、何もない世界でヒトリ、言い聞かせるような『ワープ』という言葉に息苦しさすら覚えてしまいます。


フレデリックの歌詞では、よく、本来の言葉のイメージとは真逆のイメージを持たせる言葉の使われ方をしています。
『WARP』もその一つで、一般に『ワープ』というと魔法のようなワクワクする印象が強いですが、この楽曲の中では『ワープ』という言葉の明るさと相対的に、現実を浮き彫りにするような印象を受けます。

フレデリックの『逃避行譚』という観点から考えると、私は、『WARP』という曲は背負いきれない現実を一人きりで背負って逃げてしまいたい、と解釈しました。



次に触れたいのが、『TOGENKYO』という楽曲です。

この曲、そもそもどうして『ユートピア』じゃなくて『桃源郷』なのか?これは500%私の勝手な想像なので、読み飛ばして頂いても構いません。多分長くなります。






読む気になってくれた方!ありがとうございます!
それじゃあお付き合いくださいね。

古代中国、東晋の末から宋の初めを生きた、陶淵明という詩人がいました。彼の作品の中に『桃花源記』という作品がありまして、この物語をこれまたざっくり説明しますと、


漁師が川で漁をしていたら偶然、桃の林の中にある秘境の村に辿り着く

完全にその外の世界と断絶されているものの、とっても平和で豊かな村で、漁師びっくり!

実は、その村の住人は戦乱の世から逃れてきた人々だと分かる

漁師、その村を出て自分の村の人をその素晴らしい村に連れていこうとするが、その村には二度と辿り着くことは出来なかった


という物語です。
この作品が、『桃源郷』のいう言葉の語源になったと言われています。

『TOGENKYO』がどうして『桃源郷』でなければならなかったのか、そこに話を戻します。

この曲で歌われている『桃源郷』が『手の届かない理想郷』というだけの意味であれば、『TOGENKYO』は『UTOPIA』でも同義だと思います。
しかし、『桃花源記』で描かれている『桃源郷』は、戦乱の世から逃れてやって来た人々が作った、という点で、苦しい、悲しい現実を目の当たりにした人々の理想、という前提があります。

『誰だって僕だって君だって後悔を飲み干して
悲しくたってそんな顔みせずに笑って過ごしてんだ』

と歌うこの『TOGENKYO』という曲。
フレデリックの楽曲としては珍しいくらい分かりやすく、誰にでも伝わる表現で描かれています。
現実が、『桃花源記』でいう『乱世』であるならば、『桃源郷』はこの曲に共感できる人全員に等しく想像しうるものだということを、『TOGENKYO』というタイトルで表しているんじゃないかなぁ〜、と思っています。個人の解釈なので、鵜呑みにしないでね。約束ですよ。






ここで、やっとこさ『逃避行譚』に話を戻します。読み飛ばした人はここで帰って来てくださいね。おかえり〜。

この曲は、先に述べた『WARP』とは異なり、楽曲内に出てくる一人称は、現実から『ワープ』しません!
「それじゃあ逃避行じゃないやんけ!」とブラウザバックする前に、もうちょっと頑張って読んでくださいね。


『桃源郷 待って 待ってほら
桃源郷 待って 待って』

この曲の中で繰り返し歌われるこのフレーズ、キャッチーなメロディで聞き流してしまいがちですが、このフレーズこそ、『逃避行譚』に繋がるのです。


例えばの話ですが、人間にワープやテレポーテーションの能力があったとして、それを使うときに必ず必要なもの、それがないと移動できない!というものは、なんだと思いますか?

ワープやテレポーテーションに絶対に必要なもの、それは『目的地』です。

ワープして、もしワープしている途中で目的地がフッと消えてしまったとしたら、良くて元の場所に戻されるか、最悪何もない空間に一人ぼっちで漂い続ける、みたいなことになるかもしれませんね。完全に私の妄想ですがね。


『WARP』では、ヒトリで現実から何もない世界にワープして、
『TOGENKYO』ではワープ出来ない現実にもがいて、

少しずつ繋がって来ましたね〜〜!長い!!!簡潔に書いて〜!私〜!


そして最後に!
『逃避行』に繋がっていきます。

『君とばっくれたいのさ このままばっくれたいのさ
ばっくれたいのさ このまま正解不正解掻っ攫って
さぁ 飛び出して 誰も知らないまだ見ぬ街へ
ばっくれたいのさ このまま現在過去未来掻っ攫って』

これは、『逃避行』の1番のサビの歌詞です。

これまで述べて来た二曲と明確に違うのは、楽曲内に登場する一人称だけでなく、二人称もワープ(逃避)の対象になっているという点です。また、ワープする目的地も『何もない世界』や『桃源郷』と比べて、『誰も知らないまだ見ぬ街』と、抽象度が高い表現になっています。

『退屈をしらばっくれたい』

という歌詞から転じて、この曲も前の二曲と同じように退屈な『現実』から逃避することを意味していると仮定すると、1番のAメロにある、

『搖れる列車の窓からふたつの目が覗いた
見つめあったのは起点と終点の二人
目指す終着駅には何が見えているのか
溢れ返るターミナルに向かって君は走っていた』

で描かれている『ターミナル』は、現実と『まだ見ぬ街』を繋ぐ叉路のようなものであるイメージを受けます。前の二曲とは異なり、逃避に至るまでの過程が、『息苦しさから逃れるため』というよりも、『あっちの方が面白そうだから』という、ポジティブな印象が強いようにも感じられます。

『逃げる』のは決して悪いことばかりじゃない、と作詞を担当する三原康司さんもおっしゃっているように、『逃げる』という言葉の新しいイメージを構築するような表現になっています。


先日、フレデリックのライブに行った際に、ボーカルを務める三原健司さんがMCで、

『どこのシーンにも属さない場所でフレデリズムと銘打って音楽を続けて来たけど、フレデリズムっていう国をどんどん大きくして、みんなも巻き込んじゃえばいいと思うようになった(注:意訳です!!!)』

とおっしゃっていたのですが、その体現とも言えるのがこの『逃避行』という曲なのではないか、と個人的には思っています。



現実から『WARP』したいけれど、その目的地である『TOGENKYO』はいつまでも掴めなくて、と、もがき苦しんでいた彼らが、
私たち聴衆も巻き込んで『まだ見ぬ街』へ逃げてしまおう、一緒に『逃避行』してくれますか?

と、最後に私たちに判断を委ねてくるあたりも、フレデリックらしい、というか、『一緒に』という意思を強く感じる楽曲だなぁ、と思ってしまいます。


『君と逃避行』


というフレーズでアウトロが無く終わるこの曲には、明確に聴衆の存在が描かれています。以前のフレデリックの曲には、このような表現はあまりないように、個人的には思っていますが、
この変化は、バンドが大きくなったことによって、物理的に広がってしまった聴衆一人ひとりとの距離を、バンド側から縮めてくれているように感じます。

バンドの中で、こういった経年変化とも言える心情の変化があったからこそ、この『逃避行』という曲が生まれたのでは、と思います。





長い!!!!!長いよ!!!!!

フレデリックの経年変化 vol.1 逃避行編、でした。
次回はもう少し、簡潔に書けるように頑張ります。




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