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8月に読んだ本の感想など

8月に読んだ本の感想などを書きます。


石沢麻依著『貝に続く場所にて』

芥川賞作品なので読んでみた。
あらすじは、ドイツのゲッティンゲンで暮らす主人公の下に、東日本大震災で行方不明になった知人が幽霊として訪れるというもの。
非常に抽象的な物語で、一度読むだけで理解ができるタイプの小説ではなかった。文章表現は綺麗なので、文章が好きであるという人は読み込んでいってもいいと思う。しかしあまりにも全体を通して綺麗な文章であるがゆえに、わざとらしいとも感じてしまった。個人的には作中で色の表現に気を配っているように思えた。
コロナ過と震災を組み込みながらも、全体を通して清廉な雰囲気を崩さなかったのは見事だと感じた。

李琴峰著『彼岸花が咲く島』

芥川賞なので読んでみた。
あらすじは、(沖縄をモデルにした?)島に流れ着いた主人公が、ある男子と女子に助けられ、その島で暮らしていくことになるというもの。
いわゆるセカイ系といった雰囲気の作品で、純文学というよりはむしろ大衆文学に近い側面があるように思った。ストーリーはわかりやすく、またそのストーリーに沿って明らかになる裏テーマも現代における外国人差別、女性差別問題を意識したもので、著者の思いが直球で表現されている。
ストーリーが少しご都合主義すぎるところがあるように感じたので、もう少し島での過去の歴史について詳しく描写をするなどすれば説得力が増したのではないかと思う。また著者の考えをストレートに表現するのではなく、せっかく文芸作品で発表するのであればもう少し隠喩や暗喩をうまく使えるといいのではないかと感じた。

佐藤究著『テスカトリポカ』

直木賞なので読んでみた。
日本国内で組織的に臓器売買をする、メキシコ人をリーダーにした組織の話。
非常に登場人物が多く、さらに一人一人の過去を綿密に描いている。(おそらく)主人公であるコシモが登場するまでにはかなり読み進めなければならない。なぜなら、彼の母親が幼少期のシーンから始まるからである。
ストーリーの半分近くがこの過去にあった出来事を描くことで占められているのだが、それによって登場人物たちの実在性を強く感じることができた。それにより、作中で起きる事件にも説得力が増している。
またタイトルにもなっているテスカトリポカによって登場人物たちの運命が次々と変わっていくところには素晴らしいものを感じた。
無機質な文体も相まって、中村文則の『教団X』あたりがイメージとしては近いのではないだろうか。
個人的には地元の溝の口でコシモが遊んでいるシーンで、実際の場所を知っていたためにテンションが上がるなどした。
非常に面白かった。

ウイリアム・アイリッシュ著『幻の女〔新訳版〕』

有名なミステリなので読んでみた。
あらすじは、ある夜妻と喧嘩をして家を出た男が、行きずりの女と軽いデートをして家に帰ると、妻殺しの容疑で逮捕され、死刑判決を受けてしまうというもの。
章のタイトルが死刑までの日数であることにより、緊迫感が感じられる作品であると感じた。また新訳版であることで読みやすく、洋書を敬遠している人にも勧められる作品になっている。
トリックとしては、かなり強引なもので、犯人の存在が明らかになるシーンでもカタルシスを得られなかった。意外な犯人ではあるものの、このトリックを使う必然性が感じられず、個人的には残念だった。
ミステリマニアやミステリ作家志望の人間、古典だから読んでおくか、という人は読んでみてもいいのではないか。

本城雅人著『嗤うエース』

野球のミステリーは気になるので読んでみた。
あらすじは、八百長の疑惑をかけられている浪岡龍一という投手の一生を年齢ごとに様々な人物の視点から描くというもの。
全体のスタイルを見ると、伊坂幸太郎の『あるキング』によく似た構造になっている。内容としても、本人の心境が不透明なままストーリーが進行していくところなども似ているといえる。しかし内容は真逆であり、『あるキング』では順風満帆な選手の一生を描いたものだったが、こちらは八百長疑惑をかけられて身を崩していくというものになっている。
物語終盤で明らかになる真相は出来すぎの感じがあるが、投手の一生を追っていくという話の構成も含めて、全体的にまとまっているミステリーだと感じた。
面白かった。

曽根圭介著『鼻』

以前から気になっていたので読んでみた。
あらすじは、テングとブタに人間が分けられた世界でブタに迫害されているテングを救うべく、外科医の「私」がテングをブタにする転換手術を行う決意をする、というもの。そのほかに二編の短編が収められている。
個人的には表題作の『鼻』よりも『暴落』『受難』の方が好み。
ホラーではあるものの、幽霊やオカルトのようなものではなく、人間の恐ろしさというものを描いている。作風はダーク方面に特化した筒井康隆氏のイメージで、救いのない結末は井上夢人著『あくむ』に近いだろうか。
非常に面白かった。

西尾維新著『美少年探偵団 きみだけに光かがやく暗黒星』

アニメをやってるので読んでみた。
あらすじは、主人公の瞳島眉美が美少年の探偵団とともに小さなころに見た星の正体を探るというもの。
ミステリーというよりはキャラクターものという風味で、ストーリーとしてはまったく普通の展開なのだが、そこを西尾節で補っているという印象。特に中盤から終盤にかけてはかなり乱暴な展開で、キャラクターを書きたい感がかなり伝わってきた。西尾維新の作品だなあ。
漫画や映像で見るとまた違った魅力があるのかもしれない。

周木律著『眼球堂の殺人 ~The Book~』

タイトルで面白そうだと思ったので読んでみた。
あらすじは、天才建築家が山奥に建てた眼球のような形の屋敷に招待された学者たちが次々と屋敷の中で殺されていくというもの。
山奥の屋敷というクローズド・サークルを使った、ザ・本格ミステリー。展開も素直で、変に友情や愛情を絡めたサイドストーリーやわざとらしいお涙頂戴展開もなく、シンプルなミステリーとして楽しむことができた。理論的にトリックが明かされていく部分では、森博嗣氏の作品にも似た印象がある。またトリックも大がかりではあるが常軌を逸しているほどのはちゃめちゃさはなく、ある程度の説得力がある。『斜め屋敷の犯罪』が許せる人ならばまず間違いなく面白く読むことができるだろう。
面白かった。

誉田哲也著『Qrosの女』

著者が気になっていたので読んでみた。
あらすじは、あるCMに出た正体不明の女とそれを追う貴社がひょんなことから出会い、芸能界の闇に巻き込まれていくというミステリー。
非常に読みやすい文章で、話の展開や設定にも違和感を感じる部分がない。芸能界と記者という、普段かかわりのない世界を体験できる点についてはよかった。
キャラクターたちがすこしキャラクター然としすぎていること、また作中の核心部分である事件の犯人が突飛すぎる点については残念だった。特に後者についてはもう少し描写を増やすなどで説得力が欲しいところだと感じた。

野田サトル著『ゴールデンカムイ』

無料なので読んでみた。
あらすじは、金塊が眠っている暗号の入れ墨を入れられた囚人たちと、杉本とアシリパさんと第七師団が戦ったりご飯を食べたりするというもの。
アクションの描写の迫力がすごいことは何より、それ以外の日常のシーンにシュールなギャグがふんだんに盛り込まれていて、読んでいて飽きない。特にギャグから唐突にアクションシーンに以降することも多く、その逆もまたあるので、緩急がよくついている。
また映画をオマージュした場面も多く、シーンのかっこよさというところも魅力だ。特にタイトル回収のシーンなどは鳥肌が立つほどだ。
ひとつ懸念点があるとすれば、これを読んでしまうと日常で「チタタプ」や「ヒンナヒンナ」といった言葉を口にしてしまい、気味悪がられてしまうことだろうか。
非常に面白い。


八月は結構本を読めました。九月はどうかな? 少し忙しくなるから読めなくなっちゃうかもしれないね。でも頑張って読みたいね。読書の秋だからね。