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3月に読んだ本の感想など

3月に読んだ本の感想などを書きます。

江國香織著『真昼なのに昏い部屋』

タイトルが気になったので読んでみた。
あらすじは、会社社長の妻である美弥子さんが大学の先生であるジョーンズさんと「フィールドワーク」と呼ばれる散歩を繰り返し、次第に美弥子さんはジョーンズさんのことばかり考えるようになってしまうというもの。
単純に言えば不倫の物語であるが、本作は他のものと違って「不貞」というようなイメージを持てない不倫小説になっている。美弥子さんの価値観には幼さを感じ、まるで小中学生の恋愛観を持っているような印象を受ける。
また、ですます調で文章が描かれており、登場人物のことを「さん」付けで呼ぶことによって、児童書に近しい読み味になっているところが一層物語のイメージを幼くしている。
衝撃作。非常に面白かった。

朝井リョウ著『正欲』

著者の作品が好きなので読んでみた。
性的マイノリティについて、何人かの登場人物が主人公となった小さなエピソードを連ねたオムニバス形式の作品。
タイトル通り正しい性欲とは何か? という部分についてを掘り下げている作品。同性愛などは現代では当たり前のように受け入れられるようになっているが、まだまだ受け入れられていない性的嗜好は多く存在する。そのようなものに対し、作中の人物にさまざまな意見を持たせた上で、読者にもまた自身で考える余地を残している。
読後感の悪さは過去の朝井リョウ作品の中でも高い方になっているので、まだ著者を未読の方は『何者』『スペードの3』『もういちど生まれる』などから読むことをお勧めする。
非常に面白かった。

富士本由紀著『包帯を巻いたイブ』

タイトルが気になったので読んでみた。
あらすじは、レズビアンバーで働くケイはタチであり、色々な女性と関係を持つものの、本心ではバーの店長でタチである麻生に惹かれているというもの。
かなり前に書かれた作品ではあるものの、レズビアン同士の恋愛が繊細な筆致で描かれている。
コピーライター出身らしく、71ページ途中にインテリ層のレズビアンのことを揶揄して「人格の伴わない教養」というパンチラインが登場するが、非常に使いやすいので今後も使っていきたい。

李龍徳著『死にたくなったら電話して』

ネットで大人気のにゃんたこ氏の愛読書とのことで読んでみた。
あらすじは、浪人生三年目のイケメンだけが取り柄の男が、これまた顔だけが取り柄の変わった性格をしたキャバ嬢に付き纏われ、だんだんと彼女に依存していき周囲との関係を絶っていってしまうというもの。
このキャバ嬢の変わった部分というのが、やたら凄惨な歴史に詳しかったり、周囲の空気を読まず我を通したりという、要はこじらせた中二病である。今までも顔がいいから色々と見過ごされてしまったのだろうというもっともらしい理由も見つかるのがにくいところ。
いわゆるファム・ファタールものであり、徐々に主人公は破滅に向かっていく。しかし、『椿姫』などと違ってまったくヒロインに可愛げがない部分が読んでいてキツい。
この作品についてツイキャスで話していたらヒロインを「女版太宰」と揶揄するコメントがあったが、割と的を射ている気がする。
面白かった。

北村薫著『元気でいてよ、R2-D2。』

人に著者を薦められたので読んでみた。
女性を主人公とした短編が9編収められている。
まえがきで注意書きがあったが、『腹中の恐怖』はサイコ・ホラーとしてかなり完成度が高く、洒落怖のレベルの高いエピソードのような読み応えがある。他の作品もサイコ・ホラーテイストなものが多く、苦手な方は注意が必要。
個人的には『三つ、惚れられ』が好み。
面白かった。

名梁和泉著『二階の王』

人に薦められたので読んでみた。
引きこもりの兄がいる八州朋子を主人公としたストーリーと、「悪因研」と呼ばれる機関のメンバーが「悪因」と呼ばれる人々を「悪果」に変えて破滅に導く存在を追うストーリーが同時に展開される。
壮大なスケール感を持った作品であり、クトゥルフ神話を思わせるとも評される独特な表現が特徴。しかしこういった壮大なスケール感の作品はあまり好みでは無いため私には合わなかった。
悪因としての「王」と、二階に引きこもる兄を揶揄した「王」、さらに物語の核心で明かされる部分でのダブルミーニングは見事。タイトル回収の部分が秀逸だった。

内藤了著『魍魎桜 よろず建物因縁帳』

私が普段モーリョーというHNで活動しているので読んでみた。
あらすじは、ミイラ化した人柱が掘り起こされてしまって以降、老婆の霊が近辺の人を憑き殺す事件が起きており、それについてサニワ(神からのメッセージを受け取れる者)の春菜と祓い師の仙龍が調査をするというもの。
設定やストーリーはライトノベル風に見えるが、文章は砕けた部分も少なくきちんと構成されており、一般文芸に近しいように思う。
本作はシリーズものの5作目で、それを知らずに読み始めたのだが、まったく違和感などは感じられなかった。フックとなる一つ目のストーリーも作品を読むとっかかりとしてかなり機能しており、著者の力量の高さが窺える。
普段小説などを読まない人で、結界師のような作品が好きな方に薦めたい作品。

似鳥鶏著『叙述トリック短編集』

ヨビノリさんがすごいって言ってたので読んでみた。
タイトル通り、収められている短編が全て叙述トリックと予め宣言されている挑戦作。
叙述トリックとわかっていても騙される! とのことだったので読んでみたが、私は目次を読んで大体察しがついてしまい、結局察したままの結末になってしまったので、楽しめなかった。元々本格ミステリーのような「どうやって読者を騙してやろうか」みたいな意図が強く見えてしまうようなものが好きではないのでこれは仕方ない。そういった作品にはよく「ただ長い文章を読まされるだけ読まされて得意げにネタバラシされても……ウミガメのスープの方が面白い」と思ってしまうので、本作は私向けではなかった。叙述トリックは叙述トリックと言われずに不意打ちされるから面白いのであると再確認させられた。
ミステリ大好き! ミステリに親を救われました! ミステリおじさんが奨学金を負担してくれました! という方は読んでも損はないだろう。

千街晶之編『魍魎回廊』

私がモーリョーというHNであるので読んでみた。
私の敬愛する京極夏彦氏をはじめ、小野不由美氏、道尾秀介氏らによるホラー・ミステリーの短編が7編収められているアンソロジー。
京極夏彦氏の『鬼一口』は他の文庫に収録済のものなので再読となったが、『ルー=ガルー』、『魍魎の匣』のスピンオフであり、どちらも読んでいることによって面白さが増すタイプのものなので、正直ここに放り込むのはどうかという印象もある。ただ『魍魎回廊』だからなあ。魍魎が絡むエピソードにしたかったのかもしれない。
また一番初めに収録されている宇佐美まこと著『水族』が個人的に最もヒットした。水族館を舞台とした仄暗い雰囲気の漂うホラー・ミステリー。トリック、話の構成共に短編の中では高レベルであるように思う。今後彼女の作品を読んでいきたいと思う。

京極夏彦著『地獄の楽しみ方』

京極夏彦だ! と脊髄反射で読んでみた。
京極夏彦氏が「言葉」についていろいろ喋った講演会の内容が書いてあるというもの。
読んでみて、「うわ、詭弁論者!」という印象を持った。でもこの本の内容的にも「うわ、詭弁論者!」と思っていた方がいいのだろう。なんかいろんなことに疑いを持て! みたいなことを言っていた。
正直京極夏彦氏の小説というわけではなく、ただ本人が喋った内容が書いてあるだけなので、京極作品らしさみたいなものは一才ない。本人のファンなら買ってもいいだろうが作品のファンならば別に読まなくてもいいかとは思う。あとめちゃくちゃ薄ぃのに高ぇ。京極夏彦って背表紙に書いてあるのにこんなに薄いことあるか? これがSDGsってやつか。尊敬だ。
なんでもいいから早く『鵺の碑』を出せ。

先月は寒いね。でも今月も寒いね。クソ! 寒い寒いヤー。家で本読もうね。ヤー。