見出し画像

9月に読んだ本の感想など

9月に読んだ本の感想などを書きます。

辻真先著『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』

賞をたくさん獲っているので読んでみた。
あらすじは、昭和24年を舞台に、当時共学になったばかりの高校に通う、推理作家を目指している主人公の早川勝利が殺人事件に巻き込まれていくというもの。
そもそも本格ミステリがあまり好きではないので、トリックについての評価は避けておくが、物語の構成が非常に上手くできているように感じた。敗戦直後の日本における学生の姿がよく描かれている。殺人の動機もこの時代だからこそできたものであり、ただの舞台としてこの時代を選んだわけではない点もよかった。キャラクターの書き方や日常描写はライトノベル的ではあるが、それがかえって昭和を舞台としたこの作品を現代人にもとっつきやすくさせている。映画研究会にも所属している主人公が途中で映画を撮ったり、学園祭的な催しが行われヒロインたちがステージで歌ったりする流れは、「ハルヒじゃん!」と思った。著者が88歳だということを考えても、この書き味で青春小説を書けることは素晴らしいと感じる。88歳? エンドレスエイトってこういうことだったのか。
また小説という媒体であることを活かし、ラストシーンではかなりいい演出を持ってきている。それ以外でも物語の演出が上手いと感じるシーンが多かった。タイトル回収も忘れない、エンタメ小説としては非常に高い完成度の作品だった。
正直帯とタイトルの感じであまり期待はしていなかったのだが、近年のこういったタイプのミステリの中では上位の面白さだった。

ジョージ・ソーンダーズ著『短くて恐ろしいフィルの時代』

いつ入れたのか覚えていないが、読んだ本を管理するアプリの「読みたい」に登録されていたので読んでみた。
あらすじは、外ホーナー国と、外ホーナー国の内側に存在する国民が一人が入るのがやっとの領土しかない内ホーナー国の国境付近で起きるドタバタを描くというもの。
全体的に皮肉やアメリカンジョーク的なユーモアにあふれていて、どちらかといえばコメディ的な作品。しかし、独裁者フィルと内ホーナー国民たちの描かれ方は現在の国際問題を示唆しているようであり、かなり風刺的な作品であるように感じた。
値段に対しては内容が短いのでもう一編か二編作品が欲しいところ。

中村文則著『銃』

今月は中村文則氏の作品を多く読んだので、そのうちの一冊。
あらすじは、銃を拾った大学生が銃の持つ魅力に惹かれ、銃を撃ちたいという欲望を加速させていくというもの。
著者のデビュー作とのことで、確かに文章が「〜した。」で終わることが多く、固い印象もあった。しかし文章のテンポ自体は悪くなく、私は違和感なく読むことができた。
やはり人間の描写が上手い。人間の欲望に対する葛藤を、銃という物質を通して表現している。ラストシーンで主人公の精神状態が強気から弱気に一転する場面がとても良かった。
面白かった。

中村文則著『去年の冬、きみと別れ』

先の通り、中村文則氏の著作の一つ。
あらすじは、ライターの「僕」が二人の女性を焼き殺した死刑囚の本を書くために、死刑囚本人や周辺の人物に取材をしていく、というもの。
全体像がぼやかされた状態で話が進んでいき、かなりミステリー色の強い作品。途中に資料として死刑囚からの手紙や映像などが挟まるのだが、これがなんとも言えない不気味さを演出している。
ページ数自体は少ないが全体を通して重い作品であるので、読み応えは十分であるように思う。
非常に面白かった。

澤村伊智著『ぼぎわんが、来る』

映画版『来る。』を見ており、原作も気になったので読んでみた。
あらすじは、とある夫婦とその子供のもとに、何かおぞましいものがやってきて彼らを脅かすというもの。
映画の方を先に見ていたため、おおよそのストーリーはわかっていたが、それでも面白かった。前半で描かれる夫婦それぞれの視点によるストーリーでは「人間の怖さ」というものを主に描き、終盤では「化け物の怖さ」というものを描いていて、一つのホラーの中で二種類の恐怖を味わうことができる。
一部登場人物やシーンについては映画版と異なっており、特に「ぼぎわん」との戦闘シーンは小説の方が簡素に描かれている。映画と原作で差別化ができており、どちらかがどちらかの劣化版、あるいは上位互換になっていない点は素晴らしいと思う。
非常に面白かった。

西寺郷太著『プリンス論』

ブックオフの100円棚にあったので買ってみた。
こちらはバンド、ノーナ・リーヴスのボーカルである西寺郷太氏が、影響を受けたアーティストの一人であるプリンスについてその生涯を解説しながら論じるというもの。
学生時代にプリンスのベスト盤やゴールド・エクスペリエンスをよく聴いていたこともあり、興味深く読むことができた。
プリンスの音楽のルーツや数々のエピソード、アルバム解説などが西寺氏の主観込みで書かれており、彼のプリンスへの想いもまた随所に感じ取れる。ノーナ・リーヴスのファンもまた読んでいて楽しいのではないかと思う。
天才と言えるプリンスもまた苦悩が多く、時に間違いや反省をしてスタイルを変えながら生きるという姿勢には感銘を受けた。
面白かった。

尾崎世界観著『祐介・字慰』

クリープハイプのボーカルが書いた作品ということで、読んでみた。
あらすじは、売れないバンドマンの祐介の生活を描いていく、というもの。
半自伝的な私小説ということだが、やたら性的な描写や生々しい汚さのあるシーンが多く出てくる。破滅的な生き方をする主人公で、イメージとしては『限りなく透明に近いブルー』に近く、かなり純文学的な内容。
ファンでもなかなか読むには体力のいる内容であると思う。個人的にはこう言った作品はあまり合わない。
同時に収録されている『字慰』の方は、主人公が好きな女の子の字を真似るという話なのだが、こちらはなかなか面白かった。

加藤シゲアキ著『オルタネート』

著者がアイドルであり、直木賞候補だったので読んでみた。
あらすじは、「オルタネート」という高校生限定のマッチングアプリを通して三人の若者の運命を描くというもの。
主人公が三人いるのだが、一人目の主人公の料理番組で優勝を目指すというストーリー以外は割とありふれたテーマであり、個人的には一人目のエピソードだけで深く掘り下げて欲しかった。
また主人公三人中二人がオルタネートをやっておらず、タイトルに据えるからには、単にギミックとして使うのではなくもっと話に深く干渉するものであって欲しいと思った。
全体的にどこかで見たようなストーリーの詰め合わせといった感じなので、あまり本作ゆえの魅力というものは感じられなかった。
文章は読みやすく、わかりやすいストーリーなので、それこそ同年代の高校生や、あるいは中学生が読むのであればちょうどいい青春小説であると思う。

デュマ・フィス著『椿姫』

名作なので読んでみた。
あらすじは、ある青年が、死んでしまったかつて恋人だった娼婦との恋愛を回想するというもの。
はじめは主人公アルマンがファム・ファタールであるマルグリットに堕落させられていく話だと思っていたのだが、むしろアルマンの方がクソめんどくせ〜彼氏であることに驚いた。
マルグリットは浪費癖こそヤバいのだが、そこを除けばとてもいい恋人である。アルマンの父親に頼まれて自ら愛しているアルマンの元を去るところには彼女の独善的でない愛情が見えた。
逆にアルマンは付き合ってすぐに「マルグリットは俺がほんとに好きなのか不安なんだけど。。。別れよ。。。別に返事とかいらないし。。。」みたいな手紙を送りつける、いわゆるメンヘラクソ男で、見ていて本当にイライラする。カス! それで後悔して謝りに行く。バカ。現代でも一方的にこういうLINE送ってブロックする奴いるよね。
最終的に傷心のまま亡くなっていったマルグリットが不憫でならない。被害者面しているアルマンはバカ。独善的な愛情を振りかざすんじゃないよ。アルマンの父親もたぶんいい人なんだと思う。だから息子がバカで本当に可哀想。このストーリーで一番の被害者っぽいアルマンが一番の加害者でもあるという、近くで見れば悲劇だが遠くから見れば喜劇を体現したような作品。
非常に面白かった。

丸戸史明著『冴えない彼女の育て方』

ラノベをツイキャスで読みながら実況するために購入した。ハルヒが面白かったので、青春ラブコメっぽい作品を選んだ。
あらすじは、ギャルゲーを作りたい主人公と、その主人公の周りの美少女たちとのワチャワチャを描くというもの。
文章はさておいて、キャラクターに背景がなく、その場のノリだけで書かれているという印象を受けた。なぜヒロインたちがこんな主人公とつるんでいるのか? という説明がない。ヒロインたちの家族構成や過去などがまるでわからないので、理解のしようもない。ラノベだからと言われればそれまでだが、なんとかやって欲しい。
あとメインヒロイン以外のヒロインが出てくる章のストーリーが薄く、この二人の存在意義がよくわからない。次巻以降でメインの扱いを受けるのかもしれないが、いくら続きものでも一つの本で一つの物語というのは完結させておいて欲しいと思う。
ヒロインとの出会いのシーンとラストシーンを同じ演出にしたのはエモポイントが付与されるので良いのではないでしょうか。

先月も本を読みました。あまり批判的なことを言うと、「じゃあお前が書けよぉ!」と言われてしまうので、気をつけたいですね。ちなみにブックオフで買ったプリンス論がサイン本(真偽は分からないがおそらく本物っぽい)でテンションが上がってしまいました。
今月も頑張るぞ。