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10月に読んだ本の感想など

10月に読んだ本の感想などを書きます。

柳美里著『JR上野駅公園口』

外国で人気らしいので読んでみた。
あらすじは、福島県出身のホームレスの主人公が過去を回想していく、というもの。
主人公の回想シーンの描き方が上手いと思った。上野公園にいるホームレスたちの会話をはさみながら、主人公は過去を思い出していく。主人公は年若い息子を亡くし、また妻も六十五歳で亡くし、また震災で帰るべき街をも失ってしまう。彼は作中で運が悪いという風に言われる。そんな主人公と、運の悪い人生とは一見無縁に見える人たちの対比が上手く表現されている。
また主人公の主観で語られるため、彼の感じる世間への無常観によく没入できる。彼がいつどこで何を感じたのか、一見取り止めないように語られる書き方は、実際に記憶を呼び起こしている感覚に近く、より深く主人公の思考と一体化できる。
「人は死んだら死人に会えるのか?」という問いを作中のあるタイミングで主人公は思い起こすのだが、ラストシーンで描かれた描写が、果たして本当に「死人に会えた」のか、それともただの彼の妄想なのか。
主人公にはもう失うものはないはずなのに、どんどんと何かを失っていく。喪失の物語であると私は理解した。
解説では天皇制について論じられていて、こちらも興味深い内容だった。
面白かった。

長江俊和著『出版禁止』

面白いミステリーらしいので読んでみた。
あらすじは、『カミュの刺客』という内容がヤバくて出版禁止になってしまったルポルタージュを出版社の人間が読んでいくというもの。作中の内容のほとんどは『カミュの刺客』で占められている。
この作品の肝は言葉遊びのトリックなのだが、説明不足ですっきりとせず、読み終えた際にカタルシスがない。しかも前半250ページ近くの振りに対して落ちが言葉遊びでは弱いと感じた。これなら一レスに収まる意味怖を読んだ方がいいかな、とも思う。
心理描写の部分にも雑さが目立ち、強引なストーリー展開であると思う。ファム・ファタールもののストーリーだが、肝心の女性に魅力が感じられなかった。
芥川の入水自殺のくだりは面白いと思った。

麻耶雄嵩著『隻眼の少女』

あまり評判がよくないのでかえって気になってしまい読んでみた。
あらすじは、隻眼の少女である探偵が事件を解決するも、十数年後に再び同じような事件が起き、それを隻眼の少女の跡を継いで探偵を目指す娘が解決しにかかる、というもの。
正直な感想で言うと、ミステリを読み終わった際のカタルシスを期待している人には合わないだろうと感じた。基本的に後出しジャンケン的な話の進め方、しかもトリックについても強引であり、ミステリとしての完成度は高いとは言えない。
しかしこれが一部で評価される理由として、探偵が言うことが全て事実だと受け止めるミステリ読者達への皮肉的なものであるという意見もある。私としては、ミステリ読者に対する皮肉というのもかなり昔に『虚無への供物』がほぼ完璧にやってしまっているのでなんだかなあという感じ。
文章は読みやすいが、ページ数も多く長い作品であるので読む際にはそれなりの覚悟がいると思う。

鷺沢萌著『F  落第生』

古本屋で気になったのでなんとなく読んでみた。
落第生のように現実を生きる女性達を主役に据えた作品の短編集。
全体的に繊細さを感じる文体で、いわゆる女流作家的な書き味であると感じた。短編はすべてどこか仄暗くネガティブな雰囲気があるが、だからこそ作品の中にあるポジティブな感情が際立っているように思う。
個人的には、死ぬ前にほぼ絶縁状態である家族の墓参りがしたいと言う母を故郷へ連れて行く『岸辺の駅』が好み。面白かった。

高野和明著『13階段』

同著者の『ジェノサイド』が面白かったので読んでみた。
あらすじは、犯行時の記憶がない死刑囚の冤罪を晴らすため、傷害致死の前科がある青年と長年刑務官を務めた男が奔走するというもの。
ミステリをよく読む人からすると、怪しすぎる人間は逆に犯人ではないという法則からミスリードに気づくだろうという感じ。その上で明かされる真犯人も、意外性という意味ではインパクトに欠け、カタルシスは大きくはなかった。
しかし、死刑制度や日本の司法に対する刑務官の態度、意見が深く掘り下げられており、その点については非常に面白いと感じた。

堀辰雄著『風立ちぬ・美しい村』

そういえばこの前金ローでやってたなあと思い読んでみた。
『風立ちぬ』のあらすじは、結核の婚約者のいるサナトリウムで「私」がで様々な出来事を体験し、様々なことを考えるというもの。
情景描写が細やかに書かれており、テーマも合わせてどこか村上春樹作品と似たような雰囲気を感じた。
どんどんと弱って行く婚約者を看取る主人公、という悲劇ではあるものの、悲壮感がなく、むしろ青春小説のような筆致で書かれている。少し文体は固いが、近代文学の中では読みやすい部類であると感じた。

中村文則著『最後の命』

中村文則が好きすぎるので読んでみた。
あらすじは、主人公の部屋で女の死体が見つかり、主人公の幼馴染が容疑者として疑われる、というもの。
現在編→過去編→現代編という構成になっており、これが非常に秀逸であると感じた。現代編で事件が発生し、過去編で現在の事件が起こるに至ったと考えられる主人公と幼馴染の体験、そして再びの現代編での答え合わせという、ミステリー小説顔負けの緻密な構成になっている。
テーマとストーリーにも力があり、さらに物語の構成がそれを補強している。中村文則特有の無機質的な文章も健在で、非常に面白く読むことができた。
短い作品なので、中村文則の初心者にもお勧めできる一冊。

品田遊『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』

フォロワーの方が面白いと言っていたので読んでみた。
あらすじは、魔王が人類を滅ぼすべきか否かを人類に決めさせるため、人類の代表者達に話し合わせると言うもの。
本作はほとんどセリフだけで構成されており、小説というよりもビジネス本のような趣を感じた。
特に本作で話し合われているのはタイトルにもある反出生主義なのだが、これについて様々な視点から賛成意見、反対意見が出るので、どちらかに偏っていると言うわけではない。そのためこの議論を読み進めながら、読者自身に考える余地を与えられるものになっている。もし反出生主義に興味があるのであれば、入門書としては良いものであるように思う。
この本が好きな人は伊藤計劃著『虐殺器官』、中村文則著『教団X』あたりも好きだと思うので、ここでお勧めしておく。

先月はスイッチを買ったりエーペクスをしてしまったので、全然本が読めませんでした。今月もまだ一冊も読めていません。でも、エーペクスが楽しすぎるので、しばらくエーペクス漬けになってしまうと思います。許してね。にゃ〜ん。