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7月に読んだ本の感想など

7月に読んだ本の感想などを書きます。

京極夏彦著『遠巷説百物語』


京極夏彦のファンなので、発売日に買った。
あらすじは、江戸時代の遠野を舞台に、怪異と思しき事件が起きていくのだが、果たしてその正体は……というもの。
巷説百物語はシリーズものであり、その最新作だったのだが、今までのシリーズ作品と比べると完成度はそこまで高くないように感じた。短編集でありながら全体を通して一つの大きな事件に繋がっている、という構成が好きな人ならばいいかもしれないが、そのせいか一つ一つの編のクオリティはあまり高くないように思った。
また、今までのものと比べても事件の真相が荒唐無稽すぎる部分が目立った。もしシリーズが気になっているのであれば、一作目の『巷説百物語』か直木賞作品の『後巷説百物語』からがいいと思う。
ファン的には京極夏彦の新作というだけで助かるので、まあ嬉しいことには嬉しい。しかし、『鵺の碑』近日刊行! から一年経ちましたが。

折原一著『倒錯のロンド』

以前から気になっていたミステリー。
あらすじは、『幻の女』という作品を思いついた主人公が、ミステリーの文学賞に原稿を送ろうとするのだが、清書を頼んでいた友人に電車内で原稿を無くされてしまい、そのうち別の人物が自分が書いた原稿と全く同じ内容の作品でミステリーの文学賞を獲っていることを知る、というもの。
基本的には主人公の日記の描写がメインとなり、原稿を落とした友人、原稿を拾った男の視点が切り替わりながら物語が進行する。このあたりの視点の切り替えが頻繁に起こるので、なかなか情報の整理に苦労した。
最終的に提示された結末は、納得できるかどうかで賛否が分かれそうなところではある。作者の力が大きいタイプのトリックであるため、やや強引な印象を受けた。
クラシカルなミステリーファンであればほぼ間違いなく楽しめる作品であろう。

三島由紀夫著『金閣寺』

新潮文庫夏の限定カバーが出ていたので、読んでみた。
あらすじは、幼い頃から吃音がある男が、僧侶として育っていく中で様々な体験をし、最終的に金閣を燃やすというもの。
実際の金閣寺もかつて吃音のある男によって放火されており、この事件から三島由紀夫は着想を得て描いたという。実際に寺で寝食を共にするといった取材のおかげか、寺での若い僧の生活が事細かに描かれている。その精緻な文章と併せて、真に迫る描写になっている。
どこか主人公と自分を重ねてしまう部分も多く、太宰治の『人間失格』を読んだ時のような感動があった。普遍的なテーマなので、いつの時代でも受け入れられる作品であると思う。
面白かった。

宿野かほる著『ルビンの壺が割れた』

以前無料公開で話題になっていた作品。
あらすじは、久々にインターネットで昔の婚約者を見つけた男が、その婚約者にメールを送り、婚約者もそのメールに返信するというもの。書簡体小説の体を取っている。
本作はお互いのメールのやりとりしか登場しないせいか、感情的なやりとりの中にもどこか言葉を選んでいて、信用できない語り手が2人登場しているような不思議な読み物である印象を受けた。
メールのやりとりの中で段々とお互いの素性や本性がわかっていく様子はある種ミステリーともいえるが、なかなかジャンルをつけるのは難しい内容。
個人的には、最後の一文は果たして必要だったのだろうか、などと考えてしまう。
読みやすくわかりやすいストーリー、本編の短さ、作中の文章がすべてメールの本文という形式であることから、読書をしない人にはかなり読みやすい作品であると思う。

深水黎一郎著『最後のトリック』

あらすじを見て面白そうなので読んでみた。
あらすじは、読者が犯人となるミステリー小説のトリックを、2億円で買わないかとある小説家が持ちかけられるというもの。
本作は作中で実際に読者が犯人になる。読者とはつまり作中で言うところの読者ではなく、私であり、この本を読んでいる読者のことである。
はじめから犯人が名言されているようなものなので、割合ミステリーを読んでいる自分としてはなんとかトリックを暴いてやろうと思ったのだが、結局最後まで見抜けなかった。
トリックも一見強引に見えるが、途中で挟まれるエピソードや途中で明かされるある事実によって説得力があるものになっている。
面白かった。

山本文緒著『自転しながら公転する』

本屋大賞候補作品ということで、読んでみた。
あらすじは、アウトレットのアパレルショップで契約社員として働く32歳の女性の姿を描くと言うもの。
本作は持病を抱える母や付き合っている年下の彼氏とのすれ違いなど、現代の若い女性が持つ悩みがクローズアップされている。
母親視点のパートがあるのだが、個人的にはもっとガッツリと描くか、もしくはなくても良かったのではないかと思う。
山本氏の作品は多く読んでいるが、こういった日常の不満や鬱屈を描くことに長けていると感じる。しかし今作では今までのものと比べると希望を持てるような展開になっていると感じた。
『プラナリア』や『恋愛中毒』といった作品よりもテーマがマイルドであり、現代の価値観に合っている分、もし読み始めるなら本作からがいいのかもしれない。

朝井リョウ著『少女は卒業しない』

朝井リョウ氏の作品は面白いので読んでみた。
あらすじは、廃校が決まった学校の最後の卒業式を、複数の女子生徒の視点で描くというもの。
少女たちの繊細で不安定な精神を、卒業式に乗せてさまざまなアプローチで描いている。卒業式の進行に合わせて各パートが綴られているあたりは、朝井氏らしい遊び心だと感じた。
はっきり言ってしまえばテーマ自体に目新しいことはないのだが、それは『何者』や『桐島、部活辞めるってよ』でも同じことが言える。こういった平凡なテーマを現代の若者の視点で描かせたら朝井氏がナンバーワンであると思う。
個人的には『寺田の足の甲はキャベツ』が好み。
面白かった。

藤本タツキ著『チェンソーマン』

流行っているので読んでみた。
あらすじは、主人公のデンジが悪魔と契約してチェンソーマンとなり、マキマという者の下で他の悪魔や魔人と戦うというもの。
とにかく構図の見せ方が上手い。漫画でありながら、まるで映画を見ているような感覚に囚われる。コマ割りや見開きページの使い方が独特なのだが、これによって読者に著者が想定する間合いで作品を読ませることができているように感じる。
ストーリーの完成度も高く、読者が「そうなって欲しくない」と思っているであろう方向へと話がどんどん進んでいってしまう。従来のジャンプ漫画では大体救いがあるのだが、それがない。かと言って命を軽く扱っているということもなく(モブはその限りではないが)、必ず主要キャラクターが退場する際には、そこに何らかの意味がある。
全11巻と短くまとまっていて、ダレることがないのも評価の高いところだ。
非常に面白かった。

今、ゴールデンカムイを読んでいます。世界の終わりとハードボイルドワンダーランドは、半分読みました。読み終わるのかな? 読み終わらないかな? わからないね。
今月も、本を、読もうね!