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忘れられないお笑い名シーン ジャンポケ斉藤さんのすごさを知った日のこと

現代を生きる日本人の嗜み程度には、漫画、アニメ、お笑いを楽しんでいる。

マンガもアニメもお笑いも、日本を牽引するクリエイティブ産業になってから、すでに何世代も世代交代している。
それなのに、今もものすごいクオリティの作品を生み出し続けていて、裾野の広さと未来を感じさせる素晴らしい業界だ。

今回は中でも、お笑いの話をしたい。
と言っても、普段テレビにかじりついて、お笑いに熱視線を送っているわけでもない私。
たまたま出会った、忘れられない爆笑の名舞台について話したいのだ。

ジャングルポケット斉藤さんの凄さを思い知った「バカリズム御一考様」

2013年4月から5月の終わりにかけて、テレビ朝日の火曜深夜25時台に「ネオバラ2」というバラエティ専門枠があり、そこで「バカリズム御一考様」という番組が放映されていた。
MCは当然バカリズムさん。

ゲストも毎回違うし(アシスタントも、裏回しする人もいない)、企画も尖っていて、さすがバカリズムさんと唸ってしまう実験的で挑戦的な番組だった。
と言っても、ど深夜の番組なので、欠かさず見ていたわけではなかったのだけれど。

その日の企画は「すでに出来上がっているコンビ(またはトリオ)のコントに、別の芸人さん一人が即興で参加し、さらに面白いコントを作り上げる」というものだった。

だれが、どのコンビ(またはトリオ)に参加するのかは、直前にくじ引きで決める。
即興参加する側の芸人さんたちにとっては「これ以上面白くしようがないほど完成されたところに、自分の腕一本で殴り込みをかけなければならない」地獄のような企画だ。

実は、この回、ほかに誰がいたのかよく覚えていない。
鮮明に記憶しているのは、ジャングルポケット(以下、ジャンポケ)斉藤さんの雄姿だけなのである。
即興参加する側の芸人さんたちがみんな尻込みする中、当時、ゲストの中で最も若手だった斉藤さんが「じゃあ、一番若いので僕が」とか言いながらくじを引き、東京03のコントに参加することになった。

企画のルールはこうだ。
一回目は、オリジナルのコントを見せてもらう。
その間に、即興参加する人は、自分がどこに食い込んでいけるかを考える。
そして、二回目の舞台には、その人も参加する。
視聴者は、一回目の完成度の高さを基準に見るため、二回目のひどさも、すごさもすぐにわかってしまうという仕掛けだ。

当たり前だが、どんなコンビ(またはトリオ)のコントだって、膨大な時間をかけて練り上げ、練習し、完成させてきた作品である。
すでに、物語も世界観ができ上っているし、余計なセリフも、関係ない人間が介入できそうな場面もない。
ましてや、超ストイックなコントの神・飯塚悟史さん率いる東京03のコントなのだ。どこに付け入るスキがあろう。
まだ芸歴7年目だった斉藤さんは、なすすべもなく舞台に立ちつくし、どスベリしてしょんぼり戻ってくるのではないか、と誰もが予想していたと思う。

ところが、白衣で登場した斉藤さんは、圧倒的存在感で、しょっぱなから見ている人たちに「場をコントロールするのはこの人なんじゃないか?」と思わせてしまった。

その時の、東京03のコントのあらすじを説明すると、こんな話だ。

病院のベッドにギブスをして寝ている飯塚さんのところへ、ミュージシャンらしき扮装の角田さんと、その友人豊本さんがやってくる。
角田さんが運転する車で、飯塚さんをはねてしまったため、同乗していた豊本さんを伴って病院に謝罪に来たのである。
角田さんは、病室で飯塚さんを認めると
「謝罪の気持ちを歌にしました。聞いてください」
と、ギターをじゃかじゃかかき鳴らして歌い出すのである。

斉藤さんは、この三人の中に「病院の医師」として乱入することを選んだ。
最初は
「ほかの患者さんもいるのだから、静かに!」
と注意する、良識的な医師として。

ところが、角田さんが

「僕には伝えたいことがあるんです! 不器用なんで歌でしか表現できないんです!」

と言うと、表情が一変する。

「伝えたい・・・ことが・・・? それを・・・歌で・・・?」

一言一言噛み締めるように、大きな目をさらに見開いて角田さんを見つめながら真剣に声を発する。
そして、さも、角田さんの熱意に打たれたかのように、こう言うのである。

「それなら、僕にも何か手伝えることがないだろうか?」

そして、「動き」で角田さんの伝えたいことを一緒に表現したいと提案するのだ。
ハチャメチャである。

ご存じの方も多いと思うが、斉藤さんはもともと役者志望で、NSCでも歌とダンスの成績は抜群だった。
白衣の裾をはためかせ、キレキレのダンスで舞台狭しと踊りまくり、角田さんの歌に変な合いの手を挟む斉藤さん。

飯塚さんは唖然とし、角田さんはノリノリで歌い、豊本さんは……いつも通りで、ダンサー斉藤さんは、誰よりも楽しそうだった。

私は深夜にもかかわらず、テレビの前で大爆笑し、その後、とても幸せな気持ちになった。
いい人たちが織りなす毒のない笑いに、ほっこりしてしまったのだ。
お笑いっていいなあと心から思えた瞬間だった。

私がジャンポケ斉藤さんの名前を覚えたのも、あの番組が最初だった。
「空回りしがちな、声の大きな若手芸人」という認識でしかなかった人物が、素晴らしい才能を持った「斉藤慎二」としてくっきり印象付けられたのが、この日のこの番組だったのだ。
それくらい素晴らしい即興だった。

その後、何年もテレビで斉藤さんを見続けるうち、何となく彼のキャラクターがわかってきた気がする。
斉藤さんは自分が目立つことよりも、その場、そのチーム、その番組のためになることを何より優先している。
そのため、とてもよく人を観察している。

「それなら、僕にも何か手伝えることがないだろうか?」

今思えば、このセリフは、斉藤さんという人の本質を表していた。
彼の普段のやさしさが詰まった一言だったのである。

常にそういう気持ちでいることが周囲にも伝わるので、斉藤さんは誰からも愛され、受け入れられるのだ。
だから、即興でも、あんなに東京03の3人と息がぴったり合っていたのだ、きっと。

録画していなかったため、もう2度と見ることができないのが残念でたまらないのだが、私の脳裏にはあの時の斉藤さんの濃い笑顔と、素晴らしい連続ターンが焼き付いている。

2度とみられない名舞台だからこそ、今も「奇跡のコント」として私の頭の中にあり続けるのだ。
いい人達が演じる、気持ちの良いコントの代表が、斉藤さんと東京03の即興コントだったのである。

即興には、その人が丸ごと現れる。
ぺこぱの登場以来「誰も傷つけない笑い」がもてはやされているが、斉藤さんは、そのずっと前から「誰も傷つけない笑い」を体現していたのだった。

**連続投稿82日目**

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