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【敦賀便り1】「年取ったらのんびりが一番だ」とおじさんは言った

このお話は、2020年11月に30年近く暮らした神奈川県相模原市から福井県敦賀市に引っ越した私の備忘録として記録しています。
敦賀のことはまだよく知らないので、あてずっぽうに書いてるところもあるかもしれません。
小さな町だけれど住みやすくていいところだなあと思っています。

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敦賀に着いてまだ一週間しかたっていないのがウソのようだ。
小さな小さな町なので縦横5キロくらいの地理を把握すれば、なんとなく土地勘がつかめてしまう。

引っ越しの荷物とは別に陸送してもらったバイクが届いてからは、暮らしを整えるためのあれこれを物色しに出かけることも多く、迷いながら少しずつ自分の町になってきた感覚がある。

今日は四連休を取っていた旦那氏が
「午前中晴れるみたいだから遊びに行こう」
と誘ってくれて海のそばと山の上と二か所の神社を訪問してきた。

その一つが、ここ常宮神社。

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海のすぐそばにある立派なお社の神社だ。
敦賀には越前国一之宮「氣比(けひ)神宮」という立派な神社があるのだが、そちらの神様が年に一度七夕の日に海を渡っていらっしゃるのが、この常宮神社らしい。
地続きなんだから歩いて来たらいいのにと思うのだが、神様でも七月ともなれば海に入りたくもなるのだろう。

さてこの神社、行ってみたら驚いたのだが、なんと国宝が保管されていた。

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実物はさすがに撮影禁止とのことで、看板しかお見せできないのだが、統一「新羅」の時代(西暦833年)に作られた鐘なのだそうだ。
同時代に作られた鐘は世界中探しても朝鮮半島に6つ日本に5つしかなく、国宝に指定されているのはその中でも最古のこの神社に奉納されているものだけ。
(当然ながら韓国は、日本に返還を求めているらしい)

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300円の拝観料をお支払いすると、案内のおじさんが保管庫の鍵を開けて鐘を見せてくださり解説を聞ける。

それによるとこの鐘は、秀吉の朝鮮出兵の際に日本に持ち帰られたものであるという説が最有力とのことだった。
戦利品なのか? というとそうとも断定できないらしい。

もともと、これは新羅の「蓮池寺」というお寺が建立されたときにつくられたものなのだが、中国から儒教が伝わってきて朝鮮半島を席巻した際に「廃仏毀釈」の運動が起きたのだそうだ。
「蓮池寺」はその流れで打ち壊されたのか人心が離れ廃れてしまったのか、今ではどこにあったのかも詳細は知れず、鐘もその時から行方不明になっていたという。
最終的にこの鐘を常宮神社に奉納したのは、秀吉の命を受けた大谷吉嗣らしいのだが、倭寇で日本に奪われたという説もあったりして実際のところはよくわかっていないらしい。

この鐘と日本のお寺にある梵鐘との違いは、響きや音色を重視した楽器のようなつくりがなされているところだ。
竜頭(りゅうず=鐘の吊り手)の横に甬(よう)または旗指しと呼ばれる筒状の突起がついていて、音が鐘の上からも抜けるようになっている。
実際にお寺に吊られていた時も、鐘の下に穴を掘って音がその中で反響するような工夫もされていたという。
音による「極楽浄土」の再現を試みていたのだろうか。

「音、聞きたい?」
と案内のおじさんが言った。

「聞きたいです! 聞けるんですか?」
「録音したものならあるよ」
そう言いながらおじさんが、古いカセットテープレコーダーの再生ボタンを押すと
「ごおぅぅぅ~ん」
という鐘の音が流れた。

正直、その辺のお寺の鐘の音との違いはよく分からなかった。

「この鐘がさ、国宝だってとこだけがうちの誇りっちゅうか、意地みたいなもんでね。この保管庫も建てて40年以上たってるから、来年には建て替えするんだけど、全部うちの持ち出しなんだよね。200万くらいかかるのかな。でもさ、国宝だから。国宝持ってる神社なんてそんなにないから。だから、頑張って守ってかなきゃと思ってるよ」

おじさんは、そんな風に話してくれた。
今日は天気も良く、七五三のご祈祷に来ている親子連れが何組もいたが、この神社のすぐ近くの常宮小学校は子どもの人数減少により休校している。
常宮神社よりさらに敦賀半島の先端に近いところにある西浦小学校も休校中だ。
参拝する人はどんどん減っているのだろうし、これからも減り続けることが予想できる。

もったいないなあ、と思った。
こんなきれいな海の近くにあって、国宝もあって、海に面した休憩所もあるのに。

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「ねえ、おじさん。
今さ、御朱印ブームもあって、神社仏閣に興味がある人ってすごくたくさんいるじゃないですか? 乗っからない手はないですよね。
国宝アピールをもっとしたら、たくさん人が来てくれるようになるかもしれないですよ?」
おばちゃんならではの余計なお世話精神を発揮しておじさんに言ってみた。

すると、返ってきたのが冒頭のおじさんの言葉だったのだ。

「そんなにたくさんの人に来られたら、忙しくてかなわんだろう。
年取ったらのんびりが一番だ。
死ぬまで今のままのんびりやってくよ」

なんだか、自分を振り返ってしまったおじさんの言葉だった。

向上する・拡大する・大勢に向けて広報し知らしめる。
もちろんいいことではある。
でも、どこまで?
どこまで向上し、どこまで拡大したら、自分は満足できるのだろう?
「のんびりが一番だ」と言える自分にいつかなれるのだろうか。
そんな風に思ってしまった常宮神社だった。

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常宮神社
◆所在地
福井県敦賀市常宮13-16
◆交通アクセス
西日本旅客鉄道(JR西日本)北陸本線・小浜線 敦賀駅から
福鉄バス(常宮線立石行)で「常宮」バス停下車 (乗車時間約22分、下車後徒歩すぐ)


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