東北の旅③ 八甲田山瀕死の彷徨
さて、青森の続き。
三内丸山遺跡に、3時間もみっちり居座り、これでもかと縄文時代を堪能した私たちは、予定を大幅に過ぎて、遺跡を後にした。
この時、14:30は過ぎていたと思う。
我々は19:00までに盛岡に着かなくてはならない。
なぜなら、友人が盛岡の焼肉と冷麺の有名店「ぴょんぴょん舎」を予約してくれていたからだ。
なのに、せっかく来たのだからと、観光を諦める気がない我々は、そこから、奥入瀬渓谷と十和田湖に寄ることを提案、「まあ、それくらいならなんとかなるでしょう」と寄り道を認めてもらえていた。
三内丸山遺跡から盛岡までは、高速道路を使い、まっすぐ帰れば2時間半ほどの距離だ。
ところが、ここに、奥入瀬、十和田を経路に入れるとこうなる。
約4時間。
まあ、なんとかなるかな?という感じだ。
しかし、我々は奥入瀬の手前に横たわる、八甲田山をあまりに、甘く見ていた。
新田次郎の小説、さらには、その映画で有名になってしまった八甲田山。
いくら、八甲田山が恐ろしい山だと言っても、もう5月も下旬、各地で夏日を記録する初夏である。
八甲田連峰の最高峰「大岳」だって1585mしかない。
富士山の約半分だ。
それに、青森側から見た時、八甲田は快晴で、素晴らしい眺望だった。
山頂まで登るわけでなし、これは気持ちのいい森林浴を兼ねた、最高のドライブになるな、と全員が感じていたのだ。
ところが、である。
山の天気は変わりやすいというけれど、本当にそうだった。
上の写真を撮った後、5分も走ると「雪中行軍遭難記念碑」という案内看板が現れる。
日本人で、八甲田山に赴き、すぐ近くにこの碑があるのに、寄り道せずにいられる人がいるだろうか?
……いや、いるのかもしれないが、私には無理だ。
「寄って行こうよ」
とドライバーである友人を唆し、みんなで車を降りて碑を見にいく。
その間往復30分もかかってないと思う。
碑には、亡くなった方々全員の名前が刻まれており、「熊谷熊造」という、ものすごく強そうな名前の人も、極寒の八甲田には勝てず亡くなったのだなあ、などと思いながら見学していると、見る間に霧が湧いてきた。
あわてて車に戻るが、すでに下界はまっしろだった。
風も強くなり、凄い勢いで自分たちが山を覆う雲の中に取り込まれていくのがわかる。
嫌な予感は大抵当たる。
車で走り出すと間も無く、視界は3mほどになった。
前の車のテイルランプと、足元のセンターラインはかろうじて見える。
が、その先、なにがあるのかが、まるで見えない。
ヘアピンカーブが連続する山道で、ドライバーの友人は迫る予約時間に焦って、前の車にイライラと
「ヘタクソ、どけ!」
と悪態をついている。
けれども、小さな軽自動車に乗ったその人は、高齢者なのか、免許取り立てなのか、はたまた、こんな濃い霧に慣れていないだけなのか(たぶん3番)、時速20kmにも満たないノロノロ運転をやめない。
そりゃそうだろう。
私なら、どこか、安全な退避場所を見つけて、霧が晴れるまでテコでも動くもんかと頑張ると思う。
その待避所だって、場所によっては、吹き溜まりでまだ雪が残っているのだ。
しかも、うっすらと、ではない。
外気温8℃はあったのに、雪の壁の高さは、1番高いところで1mはあったぞ?!
なんてとこだ、八甲田。
この山に夏は来るのか?
しかし、友人は、カーナビでこの先カーブがないことと、対向車のライトが見えないことを確認すると、直線でその車をバビュンっと追い抜いたのである!
正直、ゾッとした。
このまま、霧の中、転落して熊谷熊造さんといっしょに、八甲田を彷徨う霊となってしまうのかと思った。
今夜のニュースを見て、子どもたちはどう思うだろう。
いつか捨てなきゃと思っていた、私のやばいコレクションが白日のもとに晒されたら、友人達はギョッとするだろうか。
一瞬の間にそれだけ考えた。
が、友人は、霧の山道を、平均時速50km程でグイグイ降りていく。
注意を削いではならないと、霧が晴れてくるまで、声をかけるのも遠慮していたのだが、奥入瀬が近くなって、ようやく視界が良くなって来た。
その時、遠慮しながら撮った一枚がトップ画である。
これより前は、本当に真っ白でなにを撮っているのか、わからなかったと思う。
いやー、生きて帰ってこられて本当によかった。
山は本当に舐めてはいけない。
そんなギリギリの帰路だというのに、われわれは懲りずに奥入瀬で数カ所、滝を見学し、なんとか無事に盛岡冷麺にありついたのであった。
八甲田に観光に行こうと考えている皆さん。
5月はまだ早いです。
夏になるまで待ちましょう。
**連続投稿473日目**
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