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国道157線は酷道界のディズニーランドだった

国道157号線は、奥美濃経由で岐阜と福井をつなぐルートとして使われてきた道である。1年の半分くらいは雪で閉鎖されており(2022年は6月1日より開通)深い谷底へ落ちたら確実に転落死が待っているのにガードレールもないところが多い。道の上を川が流れているところもある。夜間なら、クマ・サル・イノシシ・シカ、お目にかかれない動物はいない。
そんな国道157号線を、人々は畏怖の念を込めて「酷道157号線」と呼ぶのである。

……こういった前評判は、散々いろんな方のブログで読んできた。どんな秘境を走る恐ろしい道なのかと、ワクワクもしていた。その酷道157号線を通って、先程、帰ってきたので、忘れないうちに私の見た実際の様子を記しておく。

2022.6.17酷道入り「樽見」まで

この日私は、30年ぶりに会う大学時代の同級生と、天狗党の聖地「蝿帽子峠」に登るため福井から岐阜にやってきた。303号から揖斐を経由し、谷汲口から根尾川沿に北上する。せっかくなら、揖斐で西へのルートを一旦諦め、北上に切り替えた天狗らと同じルートを辿ろうと思ったのだ。

国道157号線は岐阜市内から始まっている。谷汲口あたりでは、他の国道との差はわからない。綺麗に舗装され、二車線確保されている。信号だってある。普通の道路だ。

今夜宿泊するのは、樽見線の終着駅、淡墨桜で有名な「樽見」である。冬はそこそこ雪が積もるところらしい。

樽見までの間に難所があるのかとワクワク走ったが、全くそれらしいものはなく、肩透かしを食らった気分だった。
「なんだい、なんだい、酷道って呼ばれてても大したこたぁないね、顔でも洗って出直してきな」
という、酷道様を舐めくさった態度の私。
翌日以降に期待して、その日は早く眠ることにした。

2022.6.18蝿帽子峠入り口「大河原」まで

いよいよ当日。
最初は、既に廃村になった大河原で待ち合わせようと思っていたのだが、廃村になっているということは、住所もない。そこそこ広い大河原のどこで待てばいいのか?と考えて、やはり、樽見から一緒に行くことにした。

駅で合流し、車の後を走る。最初は二車線の快適な道なのだが、根尾川支流の根尾西谷川に沿って山に入るあたりから、一車線の隘路が延々続く。対向車が来たら、どこまで下がればいいのか見当もつかない。黒津集落跡より先は、片側は剥き出しの岩肌、片側は落ちたら助からない渓谷という厳しさ。
「ここがクラミ渓谷かしら」
と思いながら走るが、よそ見をすると自分の命があぶない。

樽見から40〜50分ほど走ると、目指す大河原集落跡だ。車を見つけた狐が出てきた。人馴れしている。餌をもらっているのだろうか。

登山の様子は、同行した米山くんがヤマレコに記録を残してくれたので、今はそちらを。(そのうち、私も天狗党に絡めてまとめます)

こちらにも書いてあるように、下山したら私のバイクのエンジンがかからなくなっていた。既に周りは真っ暗だ。どうやっても動かないので、諦めて放置していくことにし、前泊した宿に戻る。

予約もしていないのに、嫌な顔もせず
「お風呂沸いてるよ」
と暖かく迎えてくれたご主人には感謝しかない。
もし、酷道探求、又は、天狗党研究のために根尾谷を訪れることがあれば、是非こちらに。

2022.6.19大河原から大野まで

そんなわけで、バイクで酷道157を走る予定が、肝心のバイクは大河原に置き去り、私も筋肉痛で、ペンギンのように歩き、階段は四つ這いで登っている状態。どうしたものかと、途方に暮れる。

保険屋さんに連絡をしてみると、レッカーで引き取りに行けます、とのことだったが、レッカー車には基本、人を乗せてはいけないらしい。ドライバーさんは、私が同行しなくても、大河原の草藪の中に置いてきたバイクをみつけてくれるだろうか?もし見つからなくても、携帯電話の電波も届かない最果ての地、どうやってやりとりすれば良いのだろう?鳩か?

悩んでいたが、やってきたレッカー車のドライバーさんは、大変心優しい砕けた人で
「困ってるんでしょ?乗っていけばいいですよ」
と助手席を空けてくれたのだった。

しかし問題はもう一つ。
レッカー車が、車を運ぶための、やたらとでかいものだったのだ。2トン車だとおっしゃっていたが、サイズ感は4トン車だ。この車で、あの隘路を大河原まで行けるのだろうか?

すると、宿のご主人が出てきて、迂回路を教えてくださった。地図のグレーの「猫峠」を迂回するルートだ。

こんな山奥に大型トラックが走れる立派な道があったとは!とドライバーさんと喜んで向かったが、落石、たぬきの死骸、洗い越し(道の上を流れる川のこと)など、酷道特有の風物かと思っていたものが、ここでもたくさん見られたのであった。

大河原に到着し、エンジンをかけてみるがやはりかからず、ドライバーさんは、早速積み込みに取り掛かる。

私はここから岐阜市内の修理工場に向かうものだとばかり思っていたのだが、
「ここまできたら、福井に出るほうが近いですよ。ご自宅はどちらですか?」
と聞かれ、なんと、私もバイクも家まで送っていただけることに。その上、当初の目的であった、酷道157で福井に抜けるというおまけ付きだ。

「通れるんですか?!酷道ですよ?」
と驚いている私に
「157号線で1番タチが悪いのは、お客さんが泊まっていた樽見から大河原までですよ。あとは大したことありません」
と自信満々におっしゃるので、そういうものかと乗せていただくことにした。

洗い越しは合計4箇所、雨が降ればものすごい光景になるのかもしれないが、今日はおとなしいものだった。

対向車にはけっこうすれ違ったし、渓流釣りや山菜取りに来ている人たちが、道路沿いに車を停めて楽しんでいる姿もあった。人も通らぬ、山奥の寂れた道、というイメージは完全に覆された。

それにこれ。

駐車する車とバイクの列が延々連なっている。軽く20台はいる。写真には撮れなかったが、小さめの観光バスも来ていた。何かと思ったら、みんな、岐阜と福井の県境で記念写真を撮っていたのである。

なんと、これはもう、ドメジャーな観光スポットではないか。酷道は確かに酷道ではあったが、マニアが集う「国道界のディズニーランド」的な扱いに変わっていたのである。

まとめ

国道157号線は、車で走るには運転技術が必要だが、バイクなら長距離を走る気力さえ有れば、特に怖がらずに挑戦できる道だと思う。
私もそのうち、再挑戦してみるつもりだ。ただ、岐阜側の樽見から福井側の大野までは、本当に何もなく、休憩スペースとトイレはその辺の道路脇、お腹が空いても食べ物は補給できないので、事前の準備は大切だ。

以上、噂の酷道157号線の最新ルポでした。


**連続投稿142日目**

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