童話「あっ、しまった」
ある日、クモが丈夫な丈夫な巣をこしらえました。
大きなケヤキの木に何度も練習して
「これなら大丈夫。どんな大風が吹いても、絶対破れないぞ。」
と思えるような立派な巣ができました。
クモは、ケヤキの葉の裏にかくれて虫がかかるのを待ちました。
しばらくして、チョウが巣にかかりました。
「いや~ん たすけてえ!」
どんなに羽をバタバタしても巣はびくともしません。
べたべたの糸にますますくっついてしまうだけです。
クモは、自分がべたべたの糸に絡まらないように、気を付けてゆっくりチョウに近づきました。その時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
クモは、風にあおられて、べたべたの糸にくっついてしまいました。
その様子を木の下で見ている者がおりました。
カエルです。
「しめしめ。クモとチョウが食べられるぞ。」
カエルは、いそいそとケヤキの木を登っていきました。
「うわー、カエルだ!助けてくれえ」
木の上にたどり着いたカエルが、口から長い舌を出してクモを食べようとしたその時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
カエルは 風にあおられて、べたべたの糸にくっついてしまいました。
その様子を近くのくさむらの中から見ている者がおりました。
ヘビです。
「しめしめ。カエルが食べられるぞ。」
ヘビはにょろにょろとケヤキの木をのぼっていきました。
「ゲロゲロ、ヘビだ!助けてくれえ」
ヘビが、首をのばしてカエルを食べようとしたその時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
ヘビは、風にあおられてべたべたの糸にくっついてしまいました。
その様子を空の上から見ている者がおりました。
タカです。
「しめしめ。ヘビが食べられるぞ。」
タカは急降下で巣に近づきました。
「どひゃ~、タカだ!助けてくれえ」
タカのくちばしが、もうちょっとでヘビに届きそうなその時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
タカは、風にあおられてべたべたの糸にくっついてしまいました。
その様子を小屋の中から見ている者がおりました。
猟師です。
「しめしめ。タカの生け捕りだ。」
猟師は、ひょいひょいとケヤキの木にのぼっていきました。
「ぐへえ、人間だ!助けてくれえ!」
猟師がタカをつかまえようとしたその時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
猟師は、枝から転がり落ちてべたべたの糸にくっついてしまいました。
その様子を雲の上から見ている者がおりました。
神様です。
「ありゃりゃ、あれはなんとしたことだ。助けてやらねば。」
神様は、雲をあやつってケヤキの木に近づきました。
「おお、神様だ!これで助かったぞ。」
みんなは、喜んで神様を見上げました。
神様が、まずは人間を助けてやろうと猟師に手をのばしたその時、強い風が吹いてきました。
「あっ、しまった!」
神様は、雲から転がり落ちて、べたべたの糸にくっついてしまいました。
チョウと、くもと、カエルと、ヘビと、タカと、猟師と、神様は、そのままはらぺこで二日間を過ごしました。
三日目に、近くの村の子ども達が、クモの巣にかかったチョウと、くもと、カエルと、ヘビと、タカと、猟師と、神様に気づいて大人を呼びに行きました。
村の大人達は、それを見て
「なんてまぬけなんだ」
と指をさして大笑いしました。
クモの巣にかかった者達は、お腹がすいて気が立っていたので、ものすごく腹を立てました。とくに神様は
「なんてばちあたりな村人達だ。まとめて地獄に落としてやる」
と思いました。
四日目になりました。この日は、朝から誰も来ませんでした。なぜなら、台風がきていたからです。
クモの巣は、風にあおられてびゅわんびゅわんとゆれました。
チョウと、くもと、カエルと、ヘビと、タカと、猟師と、神様も一緒にびゅわんびゅわんとゆれました。
そして、丈夫な丈夫なクモの巣も、ついにぶつんと切れてしまいました。
みんなは、風にあおられて空に舞い上がりました。
「やった、これで 自由になれる!」
みんなそう思いながら、ケヤキの木にむかって落ちていきました。
「あっ、しまった!」
クモが叫びました。
落ちていく先に、練習用にはった巣が見えたからです。
それを聞いた神様は、とっさに近くにあった枝につかまりました。
猟師は 神様の足に、タカは猟師の足に、ヘビはタカの足に、カエルは、ヘビのしっぽに、クモは、カエルの足に、チョウは、クモの足につかまりました。
一列につながったみんなは、一晩中、台風の風にあおられながら、はげましあって飛ばされないように頑張りました。
夜が明けました。
台風は去って、穏やかな朝が訪れていました。
みんなは、そろそろとケヤキの木から降りてくると、お互いの頑張りをほめあい、無事を喜びました。
そして「元気でね」と言い合って、それぞれの家に帰っていきました。
クモは、
「これからは、あんまり丈夫な巣を作るのはやめよう」
と思いました。
それから、クモの巣はあんなに切れやすくなったのだそうです。
**連続投稿251日目**
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