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【北陸ウミウシ日記】暴風警報発令中の水晶浜

ジグザグ進む台風7号のおかげで、しばらく怖くて海に入る気になれなかったのだが、さすがに3日も待っていると、
「ぬあああ、もう、荒れててもいい、海に入りたいっ!」
という欲求が押さえられなくなる。

午前中に菅浜に泳ぎに行った夫の情報では、波の高さ30cmほど、うねりは多少あるが、それよりも風が強く砂浜の砂が飛んできて体にあたると痛い、とのことだった。

痛いのは、いやだが、海はさほど荒れているわけでもなさそう。
ならば、行くしかない。
時刻は15時、昼のニュースの様子なら、台風は朝鮮半島に上陸したころだろう。
多少は勢力も弱まっているはずだ。
荷物を背負って、バイクにまたがった。

さて、急に話は変わるのだが。
こうの史代さんの名作「この世界の片隅に」の中に、幼いころの主人公のすずさんが、クラスメイトの水原くんの代わりに、2月の海をスケッチするシーンがある。
その時、水原君くんが荒れる海を見てこう言うのだ。

「この世界の片隅に」上巻44ページ

私は、この「うさぎが跳ねよる」海の光景が、一体どんなものなのかと、ずっとあれこれ想像していた。
きっと物悲しい光景なんだろうな、とか。
船が転覆するくらいなんだから、かなり高い波がざばんざばんと沖で割れているのだろうな、とか。
疑問は、本日あっけなく解決した。
バイクで走りながら見た敦賀湾には、沖に何千匹もの小さなうさぎが跳ねていたから。
壮観! そして、危なそう!
この時私は知らなかったのだが、敦賀には「暴風警報」が出ていたのであった。

しかし、ここで、諦めて帰るようでは、北陸ウミウシレポートなんて書く資格なし、だ。
風裏で、できるだけ荒れてないところを探して入ればいいのだ、そうなのだ。
そう鼓舞しながら、たどり着いた海水浴場では、以下のアナウンスが、何度も繰り返されていた。

「本日、水晶浜海水浴場は、強風のため遊泳禁止となっております。海には入らないでください。遊泳区域外は危険です。ビーチボールや浮き輪が流されても、絶対に追いかけないでください」

まじか…………。
しかし、こんな時でも、いつもの岩場には、陽気な外国人のみなさんが、浮かれた音楽を流しながら、アナウンスをガン無視で、泳いだり、飛び込んだりエンジョイしている。
もしこれが、「JAWS」のワンシーンなら、最初に食われる人たちだろう。
私も、ずんずんと食われる人達の輪に入り、かきわけ、その先へと泳いでいったのであった。

結果。
風は本当に強かった。
くわえたシュノーケルの先は、水面上に出ているため、強風に揺さぶられて小刻みにぶるぶるしている。
その振動がこめかみや頬に伝わる。
こんなの、なかなかできる経験じゃない。
なのに、海の中は、信じられないほど高い透明度を保っていて穏やかだった。
さらわれそうな大波も来ないし、荒れているのは水の上だけ。
誰もいない岩場で、存分にウミウシを探すことができたのだった。

リュウモンイロウミウシ
サキシマミノウミウシ
シロウミウシ
シラヒメウミウシ
アオウミウシ

新しい子たちには会えなかったが、引きこもっていた三日分を取り戻せて、満足な一日となった。

**連続投稿557日目**

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