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海外に学ぶ組織論② スイス:「単独親権から共同養育がスタンダードになるまでの15年」

こちらのアメリカの記事に続いて、今回はスイスの社会運動の例を紹介したいと思います。一言で言うなら「統括団体を作って共通見解を出し、力を一つに合わせろ」になります。日本における社会運動でも参考にすべきことが述べられていると思いました。


1. あらすじ

本記事は、2023年5月にアテネで開催された第6回国際共同養育会議の講演の一つを要約したものです。元の講演はリンク先で公開されています。

Oliver Hunziker - From Single Custody to Shared Parenting as a Standard. 15 Years Swiss Association of Shared Parenting
https://athens-2023.org/conference-videos/

  • 15年前、強大なシングルマザー団体に対して、共同親権を求める側は小規模団体乱立状態。団体同士の抗争に明け暮れていた。

  • その小規模団体が一堂に会して「統括団体(英語でUmbrella Organization) 」を作り、統一意見書をまとめたところから議会に取り上げてもらえるようになった。

  • その結果、スイスは単独親権が当たり前だった15年前から、法制度・実態ともに共同養育(Shared Parenting)が当たり前の社会にまで変わってきた。

  • 各団体は普段は自分たちのやり方で個別に活動しつつ、年に2〜3回会合を開いている。やり方は各団体違うが、統括団体が必要という認識は共通している。

  • 他にも統括団体を作ろうとする動きはあり、2〜3の統括団体ができたが、それらは失敗して今は存在しない。多様な団体をまとめるのは簡単ではない。

2. スイスで共同監護がスタンダードになるまでの年表

1970年代には共同親権制度があったアメリカ等と比べると、欧米の中ではスイスもかなり後発組のようです。2024年に日本も共同親権制度への法改正がされるのではと噂されていますが、現在の要綱案を見るに、スイスの2017年くらいの状態になるのではと言う気が自分はしています。原則共同親権・原則共同監護なのか裁判所の解釈次第でかなり割合が変わりそうなので、楽観的に見れば2017年と2021年の間くらいになる可能性もありますが。

https://vimeo.com/845264985/e3507b64ae

3. スイスの共同親権の歩み

これは過去15年間のまとめであり、私たちの「共同養育スイス・アンブレラ・グループ(Swiss Association for Shared Parenting: GeCoBi) 」の歩みでもあります。

課題は、どうしたらさまざまな組織の努力を一つにまとめられるかでした。私は「スイス親責任協会 (Swiss association of parental responsibility)」の代表です。また私はスイスで最初かつ唯一の男性や父親向けDVシェルターの創立者でもあります。私は上記のアンブレラ・グループの設立者であり代表で、「Pro-Familia Swiss」という団体の役員でもあり、ICSPの副代表もしています。目立ちたくて肩書きを列挙しているのではありません。いかに皆んなの努力をまとめていくかという話を始めたかったからです。

時間を15年前まで巻き戻しましょう。私が最初に別居・離婚で子供が抱える問題に興味を持ったのは2003年(時間がスライドと合わない。)でした。その頃、スイスにはこの問題に対処しようとする小さな団体がいくつかあるのみでした。シングルマザーの大きく強い団体がある一方で、離婚男性には小さな集まりがあるだけでした。いま私はわざと「男性」という言葉を使いましたが、これは当時「父性」というものが彼らには大した問題ではないと捉えられていたからです。彼ら男性の集まりは、「自分はいくら支払わなければならないのだろう」という問題にばかり関心を向けていました。

離婚法はその3年前に改正されていましたが、その改正では法的監護権(Legal Custody)は離婚時にはほとんど自動的に母親に与えられ、父母共同で申告した場合にのみ裁判官は両親共同での法的監護権を認めました。言うまでもなく、一方の親は自動的に監護権を勝ち取ることができるわけですから、共同での申告をする動機はほとんどありませんでした。

当時存在していた「男性団体」のうちで、そのままではどの方向に法改正の旅路が向いていくか気付いていたのは、一つだけだったように思います。その団体の会員になった私がすぐに思い知らされたのは、最悪の反対勢力はシングルマザー団体でも裁判所でもなく、同じフィールドで活動している他の小さな男性団体だということでした。あなたはこれをおかしな話だと思うでしょう。私も当時そう思いました。私はこうした態度を理解できなかったので、2005年に様々な団体に対して手紙を書き、一堂に会して円卓に座り話し合いをしようと招待することを始めました。当時私たちはその集まりを「避難所 (Retreat)」と呼び、今もそう呼んでいます。私たちは、当時私が代表となっていた小さな団体を、分断された状態から再び統合することに成功し、方向性を一つにまとめていく動きが始まりました。

当時私がまったく理解できなかったのは、小さな男性団体たちが口々に「法律がますます父親に不利になっていっている、ひいては子供にとって不利になっている」などと言う割に、膨大なエネルギーを互いに争うために浪費していたことです。

それと同時期に、政治家たちはその法改正での親権に関する誤りを正すためのステップを踏み始めていました。その狙いは、法的監護権は一般論として両親に残されるべきであるし、将来的には結婚していない両親にもそうあるべきだというものでした。

我々は連盟を組んだ団体すべてと協力して「共同法的監護権(Joint Legal Custody)」を求める請願を書き、国会に提出しました。我々は報告書を提出することを許され、さらに驚いたことに連邦行政府のこの問題を取り扱う部署も熱心に我々に耳を傾けてくれました。その結果、関わったすべての団体が気づくことになったのです、統一されたアプローチによってもっと大きな力を得ることができ、関連部署へのアクセスが改善されるということを。

その後同年中に、国会広場前(Bundesplatz)での大きな全国アクションの準備が始まりました。同時に、共同養育のための新たな統一団体(アンブレラ・オーガニゼーション)であるGeCoBiがそれと同日に設立されるということになりました。そしてイベントの数日前、統一団体GeCoBiは正式に、すべての傘下団体の代表の参加の下承認され、設立されました。信じられないかもしれませんが、私のノートによればそれは7 May 2008で、ちょうど本日は団体が発足して15年の記念日になります。
 ※アンブレラ・グループ = 統括団体 (一つの傘の下に個別団体が集まるイメージ) 

その国会広場でのイベントは数日後開催されました。その時の登壇者の一人は本日もお見えになっているドイツのユルゲン・ルドルフ裁判官で、よく覚えています。当日は雨で、我々がこうしたイベントをするときはいつも、なぜだか雨が降ります。ともかく、これはその時の写真ですが、600人が参加して赤や黒の風船を飛ばしたりして、大きなイベントでした。

私たちは近年、たくさんのことを成し遂げました。我々は様々な法改正に関わり、まず法的監護権、これは2014年には共同であることが原則になりました。2017年には養育費の法律改正に関わり、これは当時の大臣がクレバーな方で、もし我々が法的監護権について声を上げるのならば、もう一方の人々を助けることも約束してほしいとおっしゃり、それは我々にとっても明らかなことに思われました。そして養育費についての法改正とともに、我々は共同身上監護(Joint Physical Custody)の導入の可能性を提示しました。これが共同身上監護と言う言葉が法律に書かれた最初となりました。

午前の部でペトラ・ディーター博士は、政治家に声を届けたいのならばこれこれこうした人達にまず行きなさい、と述べられました。私も、それが私たちが何を求めているのかを伝えるチャンスを得るのに必要なことだと思います。

それ以来、スイス連邦裁判所は複数の決定の中で、法文化されているような申告があった場合だけでなく、可能なときはどんな時でも共同行使こそが優先されるべきモデルだと発言しました。同時期に、議会は共同身上監護を原則とするべきかどうかについて未だ話し合いを続けていました。そうしている間にも、共同身上監護を求める声は引き続きますます強まっていきました。なぜなら共同身上監護が可能だというのが今や明らかだったというだけでなく、若い夫婦たちは別居・離婚の問題をどう解決するかについて新しい考え方を持っていたからです。

私たちは現在は、片親疎外(Parental Alienation)の問題について集中して活動しています。この問題について議論する際に多くの困難につきあたる状態が何年も続いています。そこで我々はxxxx(*注 聞き取れず)とともにキャンペーンを立ち上げることを決定し、昨年11月にベルンで「もう涙はいらない」という意味のキャンペーンを始めました。これは人々への周知と情報の正確化を目指しています。なぜなら、未だにスイスでは、片親疎外について話すと、「そんなものは存在しない」とか「科学的に調査されていない」などと言われる有様だからです。私たちはこの運動を続けていないといけません。すべての子供が、可能な限り、両親との繋がりを持てるべきだからです。

今日の結論は単純です。

2005年に最初のアンブレラ・グループに参加したすべての団体は、今でも存在しています。当初は、全部の団体をいっしょくたに大きな団体に詰め込んでしまうのではないかという懸念がありましたが、そうはなっていません。今でもそれぞれの基礎団体は路上で活動をして人々と直接の接触をしています。その一方でアンブレラ・グループはむしろ政治的な団体として存在しています。除名や中間マージンなどはありません(*注 うまく聞き取れず)。個別の団体はいまも問題を抱えた人々への助言と支援に重度に関わっています。それぞれの団体はそれぞれ別の「やり方」を持っていますが、皆一つの点について同意しています。それは、政治的な変革にはそれに集中する専門団体が必要と言うことと、協調した取り組みが必要ということです。それがアンブレラグループとそのムーブメントの今日までの成功につながっています。私たちは現在良好なネットワークを持っており、政治および専門家の世界でもしっかり意見を聞いてもらうことができます。ここまでくるのに時間はかかりましたが、現在はもし私たちのリストにある問題を相談すれば話は聞いてもらえるし、法制化につながる場合もあります。最初の国内および国外のネットワークは私たちがxxxxxを解決し認識することを助けてくれただけでなく、私たちにそれをあるべき場所に位置付けることも助けてくれました。私たちは国会に召喚されて証言することもありまし、制度変更に関する報告書を書くこともあります。

2008年には、離婚した父親たちは良くて月に2回子供に会えるだけでした。2023年現在、別居又は離婚家庭の子供達にとって、両方の親と大なり小なり同程度に住み、養育を受けることが殆ど当たり前のことになっています。

表舞台でも裏方でも継続的に取り組みを続け、政策決定者や専門家とのネットワーキングをし、メッセージを出来るだけ広く伝え続けたことが、こうした変化を可能にしたのです。

私は多くの人たちと協力してこの15年間で成し遂げたことに誇りを持っています。このスピーチで、小さな団体が思い思いに動いている状態から、体系化されたシステムを作って話し合い、それを政治的な変化にまで繋げていくまでの概要をお伝えできていれば、幸いです。ご清聴ありがとうございました。


Q. 画面の団体全てが最初からメンバーだったのですか?

A. いえ、この画面の団体はメンバーではなく、パートナーです。その中には、裁判官の団体ですとか。。。これらは古くから一緒に活動しているパートナーで、助けてくれたり、フィードバックをくれたり、私たちは彼らの意見を聞くし、彼らは私たちの意見を聞きます。彼らを誘って円卓会議を5年前に立ち上げ、COVIDで中断していましたがまた再開します。オーストラリアの教授を招待して彼らのモデルについて発表して貰ったり。彼らは実務的な人たちで、情報交換をしています。

Q. どのようにしてアンブレラ・グループを安定化させたのですか?私の国ではある団体は攻撃的すぎたり、ある団体は精神的に不安定すぎたりして、統合の試みは失敗しました。

A. 私が周囲を観察し始めた頃、すでに2〜3のアンブレラ・グループがありました。彼らのホームページはまだありますが、団体はすでに存在しません。あなたの言いたいことはよくわかります。私たちも、今でも苦しんでいます。それも活動のうちといえます。私たちの団体は互いに年に2〜3回顔を合わせますが、今でも大変です。あなたも言ったように、より攻撃的な団体もいるし、特定の問題だけに集中していたり、開放的だったりする団体もあります。それらをなんとかしなくてはいけないし、中間点を見つけなければいけません。しかし全体として、我々の団体は皆、協調して動くことで政治的な声を持ちうるのだという点は合意して共通認識になっています。


Q. (会場)GeCoBiはイデオロギーのために動いているのではなく、子供たちのために努力するのだという点が明確だから、それで人々が一つにまとまるのだと思います。

A. ありがとうございます。嬉しいです。

4. 講演者について

上記講演は、スイスのGeCoBiという団体のオリヴァー・ハンツィカー氏によるものです。英語ですがWikipediaに記事があり、IT関連の実業家でありつつ、親権問題での活動でも有名なようです。

5. ICSP(国際共同養育審議会)について

以前こちらの記事でも触れましたが、International Council on Shared Parenting (ICSP:国際共同養育審議会)は、ドイツのボンに本部を置く共同養育推進の国際的団体で、各国から集まった法曹・児童心理専門家・当事者団体の三者から構成されています。定期的に国際会議を開催しており、共同養育に関わる最新の学術的知見や各国の情報が交換されています。今回紹介したスイスの事例は、2023年にアテネで開催された国際会議からのものです。

日本の共同親権を求める運動についても、組織化すると共にこうした世界的な流れに合流して、情報交換して進めていくことが大切だと思います。何故ならば、親子関係の重要性は多少の文化的違いはあれど人類に普遍的ものであり、他国の成功事例は日本でも活かせるはずだからです。また、共同親権導入済みの国においても、親子を引き離しひとり親家庭を増やそうと考える勢力はおり、常に綱引きが続いています。いわゆる「反対派」は既に海外の反対派と結びついていると思われるので、「賛成派」も国際的に連帯して協力していく必要があると思います。

6. もう、足の引っ張り合いや変な人にかき回されるのはやめて、組織化して客観的データを蓄積し、子供のための政策実現をしくみとして進めていくべき。


工事中


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