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2021年、ぼくはこの漫画を【推し】ておく 7選

昨年も書きました、今年に熱量高く読んでいた漫画を紹介するnoteです。年末にかけては宝島社から「このマンガがすごい!」というムック誌が発売されることもあり、それを見てしまうとどうしても引っ張られるきらいがありますので、ちょっと早めですがこの時期に公開をさせていただきます。
なお、基準として「現在連載中」もしくは「2021年に完結」を対象とし、かつ「2021年の間、通年休載中の漫画」「昨年紹介した漫画」は除外としています。要はHUNTER×HUNTERは除外されるし、昨年の紹介とは完全に洗替されるってことだな!

参考:2020年、ぼくはこの漫画を推しておく 5選(+1)

ただ、ちょっとだけタイトルはいじりました。昨年全く意識してなかった作品に絡みつくことがあり……これで正直、何を紹介するかは察するでしょうね……!
では、早速紹介といたしましょう。あと、先に明言しておきますが、結果的にかなり「鉄板」なラインナップとなっています。


【推しの子】 (週刊ヤングジャンプ)

まずは記事タイトルの伏線回収から。
昨年「マチネとソワレ」を紹介し、「アクタージュ」の打ち切りに嘆いた私。
芸能漫画の面白さにここ数年目覚め、だからこそアクタージュを喪った幻肢痛に嘆いた穴をすっぽりと埋めてくれたのがこの「【推しの子】」でした。

「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」 地方都市で、産婦人科医として働くゴロー。芸能界とは無縁の日々。一方、彼の“推し”のアイドル・星野アイは、スターダムを上り始めていた。そんな二人が“最悪”の出会いを果たし、運命が動き出す…!?
(1巻Amazonコメント引用)

5巻発売。4巻時点で150万部を超えており、その人気と面白さは疑いようはなく、改めて私が紹介するまでもない知名度の高さのですが、それでも語りたい。
辺境の医者が殺害され、患者は天寿を全うし病死。その二人が推しのアイドルの子供に転生するという、ある意味「なろう」的入り、そして子供役者の成長という話をピースフルに展開していくかと思った中で起こった母(アイ)の殺傷という衝撃的な1巻の「引き」。
芸能漫画でありつつミステリー漫画の側面をかかえ、手綱の調整があまりにも難しい展開。どう転がすかと思ったら、かなり緻密に芸能界の「裏側」の「王道」を語ってくれる、創作家気質の読者に突き刺さる漫画でした。
「漫画のドラマ化」「恋愛リアリティショー」「地下アイドル」「2.5次元舞台」と目まぐるしくフィールドを変えながらも、話の幹であるアイの殺害をないがしろにせず、読者が漫画を読んだあとに「芸能界の実情」を語りたくなるくらいに緻密な取材が透けてみえる展開です。5巻でやる密度ではない……!!

(こういう「ぶち刺さる」展開がままあり、芸能界の読者も多いらしいですね)


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ここの「没入型」(黒川あかね)と「適応型」(有馬かな)の2ヒロインのライバル型対比とか、古くは「ガラスの仮面」の系譜の対比ながら、昨今の読者にとっては「アクタージュ」の夜凪(没入型)と百城(適応型)を意識します。よくはないことであろうけども、どうしても意識してしまう。
だからこそ、ここで2人がガチガチにバトルすることにより、ようやくアクタージュを喪った幻肢痛を昇華できた側面もあり、この漫画にその分の熱量を感じることとなっています。

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恋愛リアリティショー編のこことか明らかに実世界であった「テラスハウス」の木村花の一件を意識していますし、

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脚本家の思想の語り、及び

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2.5次元の舞台化の台本が気に入らないクオリティだった漫画家とプロデューサーのバトルは、如実に「なんで映像化は原作そのままをせずに変な改変をするんだ!」という素人が思う感想のジレンマを示しています。
ヤングジャンプだからここの描写に力を入れられるんだろうな、青年誌で本当に良かったと思うくらいにピッタリとはまっており、現在連載されている漫画では随一で続きを楽しみに毎週待っている漫画です。

それにしても昨今の芸能漫画、「【推しの子】」の転生、「マチネとソワレ」の自分が死んだとされている世界との混線、「AKB49」の男がAKBにメンバー入りしたことがバレない世界……昨今の芸能漫画は、縦軸にファンタジー的な大きな着地点を用意した上で、そのトンデモに負けない「芸能界の熱」を語るスタンスがメジャーですよね。
穿った見方をすれば打ち切りや完結の着地点を明確にするというメソッドかもしれませんが、そこで安心感があるからこそ描きたいことをガンガン描けるのかもしれませんね。

アニメ化、ドラマ化が目に見えて早そうな作品。本当にみんな読んでほしい!


2.5次元の誘惑 (少年ジャンプ+)

この漫画については過去「「拳で語らないバトル」。文化系バトル漫画の魅力を語ろう」というnoteでも取り上げ、公開日2021.1.5からも察することができるのですが、実は昨年の漫画を推しきったあとにハマったという、タイミング的に非常にもったいないハマり方をした作品です。

現実の女に興味無し!俺の嫁・リリエルは2次元にあり!そんな漫研部長・奥村の前に現れたのは…リアルなリリエル?ドキドキコスプレコメディ開幕! 
(少年ジャンプ+ 紹介引用)

というアオリから、いかにも中身のない萌えエロ漫画と思われそうなところなんですが……というより事実連載当初は一話完結ドタバタエロラブコメディでした。そこは疑いようがなく、事実、一回私はそのあたりで食傷気味になって読むのをやめていたことがありました。アプリ連載だから手を引きやすいんですよね。
しかし、そこから幾ヶ月後、この漫画が紛れもなく「コスプレバトル漫画」になっているという評判を聞き、あまりにも似つかわしくない「コスプレ」「バトル」に度肝を抜かれつつ改めて通読したところ、「こりゃあバトルやわ……」となりました。そこで完全に世界観にハマった次第です。
2020年時点で展開されていた「コススト編」にいて如実に語られた「職業コスプレイヤー」と「キャラクター愛からのコスプレイヤー」の葛藤は前述のnoteでも語ったとおり昨今のジャンプでもっとも熱いレベルのバトルでした。

例えば、「2.5次元の誘惑」はコスプレ漫画であることから、あくまでドライに勝敗を判断するのであれらカメコ(カメラ撮影)の人数が勝敗となるでしょう。ここで登場するコスプレ四天王の753(なごみ)(※上引用上とんがり帽子女性)はとある流れから、イベントにコスプレ出場することは初めてのヒロインと同じステージで参加することとなります。経歴・実力ともに753の方が圧倒しているのですが、その勝敗と想いは意外な形で着地することとなります。どういった着地になったのかは是非とも作品をご覧になってください……ダイレクトマーケティング……。(脇にそれますが、「コスプレ四天王」って単語の流れがもう『少年ジャンプ』でめちゃくちゃ面白くて熱いんですよね。しかし冗談抜きで、真面目に今一番ジャンプしているバトル漫画です)
(前述note引用)

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(コスプレすること「そのもの」への愛も立派な動機でした)

その後今年展開されている「コミケ編」「文化祭編」にも、コスプレないしは表現物そのものに対する筆者の思想がこれでもかとばかりにぶつけられており、その湿度は熱量を超えて何かしらの「執念」すら感じます。作品の脚本として表現をしたい、という枠を飛び越えて、作者の人生の中の思想をこれでもかとぶち込んで煮込んだかのような恐怖すらあるんですよね。

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このあたりの表現には声にならない唸りが出てしまったし、

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直近掲載のこのあたりの湿度もほろ苦かった。

こういう、コミケという場が許容されないご時世でコスプレという文化そのものがひしゃげそうになっているからこそ、その文化の中継としてこういう漫画があることはすごく素晴らしいことだと思います。なかなか漫画のテーマとされてなかった題材ですしね、なおさらです。
4巻までをまず読んでいただけたらその面白さを保証します。この漫画のファンはみんな多分そういうと思います。公式のアオリ『今もっとも「ジャンプっぽい」コスプレ漫画』。看板に偽りはありません。


逃げ上手の若君 (週刊少年ジャンプ)

「魔人探偵脳噛ネウロ」でその作家性を、「暗殺教室」で計算ずくでヒットする作品を生み出せる能力を存分に見せつけた松井優征という作家。「計算でヒット作を生み出せる」能力にかけては現代漫画家随一だと個人的に思っているのですが、そんな松井優征が連載三作目に選んだ舞台は歴史モノでした。

「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」の松井優征が少年ジャンプに帰還!
最新作は史実を描く逃亡譚!鎌倉と室町の歴史の狭間で、誰にも物語られたことのない逃げる英雄がいた――。
その名は北条時行。足利高氏によって鎌倉幕府を打倒され、家族も地位も失った少年は、地の果てまで逃げ延び復讐を遂げられるか!
(公式サイトアオリ引用)

とかく少年ジャンプというフィールドにおいては歴史漫画は難航する印象が強く、「鬼滅の刃」「銀魂」「るろうに剣心」のように超メガヒットになるか、かなり短命になるかという両極端になりがち。中堅を締める漫画が生まれにくい印象です。
当然松井優征クラスの作家だとその辺のマーケットの事情は存分に理解しているはず。
それでもあえてそのジャンルで来るというのは、相当な自信があるということ。「暗殺教室」のヒットから色んな意味での余裕ができただろうから「本気で描きたいジャンル」なんだろうな、「個人的に造詣の深いジャンル」なんだろうなと思いました。

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俗っぽくいえばショタ主人公ではあるんですが、「無垢ゆえの威圧」を感じる主人公描写は「暗殺教室」の渚から脈々と受け継がれる系譜ですし、この度の漫画は歴史譚を軸にしているからこそ神話的描写が映え、実際「御伽噺」「水墨画」「劇画」のような古風日本描写を存分に取り入れる様子が画面的に華やかです。
その一方で、以下のような漫画的描写のアクロバティックさはさすがのベテランの妙技。

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舞台は邪道に見えますが、縦軸は「仲間を集め、強気をくじき弱気を助ける」、少年漫画の王道です。
逃げに特化した能力を持つ主人公であるから、俊敏さが画面的に躍動するので見栄えもいい。「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」で培ったブラックジョークも切れ味は良いまま。また、とんでもないくらいテンポの良さで、対峙する敵が目まぐるしく変わりながらも決して展開に無茶や詰め込みを感じないのも技巧の極致を感じています。
この度紹介した漫画では「【推しの子】」と合わせて展開圧縮能力の化け物さを感じています。


怪獣8号 (少年ジャンプ+)

本当にアプリ『ジャンプ+』のラインナップ、滅茶苦茶厚くなりましたよね…。上述で紹介した「2.5次元の誘惑」、また今回紹介してないですが「SPY FAMILY」「左ききのエレン」「ダンダダン」あたりはかなり楽しく読んでますし、この「怪獣8号」も面白い。
「ニッチな特殊能力持ち主人公」「強大なエネミー」「エネミーを討伐する上層組織」の構造は、思い返すのは「BLEACH」「僕のヒーローアカデミア」「ワールドトリガー」あたりでしょう。パクリとかそういう意味で言いたいわけではなく、このメソッドには少年漫画の王道を感じたということを表明したいだけ。
王道だし、熱血。この展開でされるバトル漫画は、技術がある人が描くと、直球に面白いんですよ。そして、ハードルは高いながらもこの漫画は及第点で仕上げてきている。

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連載当初の展開的にエネミー討伐後のスイーパー(掃除屋)を舞台とした漫画になるのかなと思ってたんですが、これ……もしかして映画「大怪獣のあとしまつ」のティザーが公開されたことから方向性を切り替えたのかもしれないのでしょうか? 

人類を恐怖に陥れた巨大怪獣が、ある日突然、大きな光に包まれて死んでしまった。未曾有の国家的危機は去ったかに見えたが、果たして、この巨大な死体を“誰が、どうやって処理するのか”という問題が残された。前代未聞の緊急事態を前に、特務隊員の帯刀アラタ(山田)は、誰も経験したことがない巨大怪獣の死体の“あとしまつ”を命じられる。そんな彼を見守るのは、環境大臣秘書で、かつて特務隊で同僚だった雨音ユキノ(土屋)。彼らの前に立ちはだかる巨大怪獣は“死してなお”人類を脅威にさらそうとしていた。
映画.com 記事引用

時系列に構想の先出しがどちらかが読めないですが、この線は邪道だからこそカブりのダメージがでかい。おとなしく切り替えたという線もあるかも……。

だからこそ、このザ・熱血な展開。少年漫画の王道を如実に感じて、読んでてとても爽快な漫画です。


葬送のフリーレン (週刊少年サンデー)

昨年は「図書館の大魔術師」を取り上げたんですが、昨今の漫画、めちゃくちゃ丁寧なハイファンタジーが増えましたよね。昨年ハマってもよかったレベルなんですが、今年一気読みして完成度にうなりました。

魔王を倒した勇者一行の魔法使い・フリーレン。彼女はエルフで長生き。勇者・ヒンメルの死に何故自分がこんなにも悲しむのかわからず、人を“知る”旅に出る。僧侶・ハイターの葬送を機に、ハイターが育てていた少女・フェルンと魔法使いの二人旅へ。途中、戦士アイゼンの弟子・シュタルク、若き僧侶・ザインの二人も加わり、四人それぞれの目的をはたすべく、長い旅は続く…
(少年サンデー公式サイト あらすじ引用)

ハイファンタジーは、力を入れて描写してもあえなく爆死することが多い、読者の食指に耐えうるレベルが高いジャンルです。さらに、主人公をエルフという長寿の種族にし、過去の仲間(人間)の寿命を見届けてから展開されるという、あまりにも大器晩成……どっしりと構えた序盤です。
漫画でもゲームでも「インスタント」なものが求められるご時世にしっかりと作り込んだ序盤は「自信」を感じます。

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見てもらえればわかるのですが、ほんとあらゆる描写が丁寧だし、世界観の設定の撒き方も、焦らず適切なタイミングで適切な量を展開される。だからといってダレないように敵や危機の展開をスパイスとしていれていく様は、上述の漫画「【推しの子】」らのような展開圧縮能力の妙技によるスピーディーさと対極にある「沁みわたるように展開する『丁寧な温かい料理』さ」を思うわけです。
どちらがいい、とかでなくて、双方に強みがある。甘いスイーツ、辛い刺激的な料理、それらは比較して甲乙つけるものじゃないですもんね。
寿命・歴史の取り扱いを主軸とすることからわかるように、「時間の流れ」の扱いがデリケート。世界観に非常に誠実な作品です。


トリリオンゲーム (ビッグコミックスペリオール)

「Dr.Stone」で今をときめく稲垣理一郎原作、劇画調の画風は一目で彼とわかるクオリティの作画担当の池上遼一タッグによるビジネス系の漫画。長期連載ながら今なおそのテンションと面白さが衰えない「Dr.stone」の信頼からそのストーリーテリングには全幅の信頼を置いているのですが、読みすすめると誰しもが思うはず。「こいつはゲスなDr.stoneだ」

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こういう言い回しに如実に「稲垣節」を感じるし、ダーティーな主人公が「ハッタリ」「透かし」に「男気」を添えてすすめるサクセスストーリーは非常に読んでて心地が良い。
上述の舞台は「ディープラーニングを作り込む資金のないベンチャー企業が、売り込みコンペのタイミングのみ、バックオフィスでAIっぽく人力で操作するガワアプリを作る」点幕なのですが、トンデモをリアリティで包み込んで面白くする技量は驚愕する他ありません。
監修に「くられ」(Dr.Stoneの科学監修でおなじみ)が、この漫画においてもスタッフとして入っていることがなおさらDr.Stone感を際立たせているし、今一番アツいビジネスファンタジーものなんじゃないかなと思います。


ウマ娘 シンデレラグレイ (週刊ヤングジャンプ)

今をときめく2021年のメガヒットソシャゲといえば「ウマ娘」であることは異論もないでしょうし、記憶に新しいところ。そんなウマ娘を舞台にしたコミカライズ、明らかに期待値は高かった。というか高すぎた。
しかし、それを裏切らなかった。例えるならポケモンにおける「ポケットモンスターSPECIAL」、ドラクエにおける「ダイの大冒険」や「蒼天のソウラ」。名作ゲームのコミカライズのクオリティが高くコミカライズそのものが名作になるケースもままあるのですが、この作品もその域となっています。
アプリゲーム・アニメの方の「ウマ娘 プリティーダービー」は、美少女ウマ娘の可愛さを中心にスポットしていることで、ギャルゲー的立ち位置のファン層の掴み方をしているのですが、「シンデレラグレイ」はどちらかというと熱血バトルサイド。アプリやアニメ側で可愛かったキャラでさえ、えげつない圧と能力を感じる描写をされているギャップがあります。

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このひりつく威圧感と、

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このじゃりン子が同じキャラなの、高低差ありすぎません?

Cygamesがしっかり監修していることから、史実に関しては完璧でしょう。アニメを見ている人やアプリを遊んでいる人達はみんな思っているでしょうが、ここについての信頼感はあまりにも高すぎる。
そしてそれに負けないバトル漫画としての筆致が作品を彩っています。なんなら、アニメ3期の題材としても良かったレベルの名馬を贅沢にもここで使ってきた。
競馬は、その培われた長い年月からあまりにも「悲劇」「逸話」「喜劇」が多い、現代の歴史譚。このコミカライズの成功は、同時並行で他誌に他の馬をフィーチャーしてくる作品を掲載することの強力な土台となりそうですよね。
サイバーエージェント(Cygames)には、このウマ娘旋風に乗っかって稼げるだけ稼いでいただきたいものです。そして、たまにユーザーに還元してくれたら嬉しいかな?


見ての通り、今年の選出は「次にくるマンガ大賞 2021」とダダかぶりする状況です。
過去ほど「漫画といえば紙媒体!」という風潮が薄れ、適切に面白い作品であればどんなプラットフォームであってもしっかりウケる、そういうご時世になったんだな、だからこそ万人がすべての媒体の良作に目を通せる時代なんだなと感じています。
そのため、漫画としての面白さのクオリティが誠実に求められる時代。言い訳がつかないという点もあります。

ただ、読者としての願いは一つ。「面白い作品をこれからもどんどん見せて!」
来年も、よろしくお願いいたします。


(アイキャッチイラスト:yuki6mamaさん)

いずれいっぱい記事を書いた暁にでも、コーヒーでもおごってやってください……!