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こんなご時世に読みたい諸星大二郎作品
コロナ禍で非日常な情勢でストレスもたまりますが、漫画でも読んで気分転換しませんか。今こそ書棚にしまい込んだ諸星本を開きましょう!
「諸星大二郎って名前は聞いたことあるけど読んだことはないなぁ」という人もこの機会にどうですか?
【1】 海から来たるモノに思いを馳せる
緊迫した情勢のなか、世間では予言獣「アマビエ」が市民権を得たようです。
「我こそは、アマビエと申す者なり。当年より6年の間は、諸国で豊作が続く。だが疫病もはやる。だから我の姿を絵にして描き写し、人々に早々に見せよ」
って言っただけで、絵を描いたからって助かるわけじゃない可能性があるのが何というかイイですよね。良くはないか。
ところでアマビエが目撃されたのは肥後国(現・熊本県)ですがグッズが全国各地で作られていますね。すごいブームですが、ご当地それぞれに伝わる妖怪が怒ったりしないんでしょうか? そもそも、ゆかりのない土地でグッズ化って……? そんな疑念は『海竜祭の夜』を読んだら一発で解決です。
「海はつながっとるけん…」
……きっとそういうことでしょう。あんとく様がどこにでも現れうるように、あまびえ様もきっとどこにでも出現するのでみんなで崇めましょうねっていうことでしょう。とにかく、海から来たるものが幸をもたらすか災いを喚ぶものか、そんなものは人間には選べないということで。あんとく様! おゆるしを!!
諸星作品では「海から来る得体のしれないもの」がテーマの作品がしばしば見られます。『悪魚の海』の「悪魚」は、これまた予言獣として脚光を浴びている「神社姫」と似た、魚に人面と角を有する姿をしています。
↓これが「悪魚」で…
↓これが「神社姫」。似てない?
神社姫と違って悪魚は予言はしない。ただ怪音を発しながら泳いでいくだけ……そんな得体の知れなさが恐ろしい『悪魚の海』は「妖怪ハンター 稗田の生徒たち (1) 夢見村にて」に収録。稗田先生の入浴シーンもある。
【2】 閉塞感打破! 読後感が爽やかな作品
鬱々としてきたら、娯楽よりの作品で気分を上げるのもいいですね。『西遊妖猿伝』はまさに「痛快」というべき展開も多いのですがちょっと長いので、1巻完結の作品から選びたいと思います。
まずは『碁娘伝』。剣と碁で悪人をバッタバッタと斬っていくつよいヒロインが主人公、殺陣もケレン味たっぷりで見応え抜群の痛快娯楽作! 碁盤上での戦いと剣での立ち回りがリンクする構造、地の利を生かした剣戟など活劇要素盛りだくさんです。もちろん囲碁のルールを知らなくても楽しく読めます。「悪あがきですわよ!」ってセリフがかっこいい。
2016年版は描き下ろし短編(16p)あり。
『私家版鳥類図譜』『私家版魚類図譜』も読後感が素晴らしいです。それぞれ鳥、魚をモチーフにした連作短編集で、SFっぽいものや幻想的なものなどバラエティ豊かに楽しめます。短編集なので後味が悪いものも含まれるのですが、1冊読み通したときに満ち足りた気持ちになれます。『鳥を売る人』『魚が来た!』は文明の衰退した未来で超構造体(メガストラクチャー)内に暮らす人間たちの話。設定も画も展開も素敵なんです。
【3】 「日常系」のような何かで癒やしを得る
『栞と紙魚子』シリーズ(既刊4巻)はいわゆる「日常系」に属する、人気のシリーズです。胃の頭町に住む女子高生が繰り広げるストーリーなので日常系よね。なんだか異形の生物がいたり、妖怪が出てきたりする気もするけど、日常系だわよ。ゆるシュールなやりとりに癒やされます。段先生の奥さんと弁財天さまがかわいい。
「日常系」の亜種として、「異世界における日常を淡々と描く」パターンも心が落ち着きます。『遠い国から』シリーズの乾いた空気感はまさに今読みたいところではないでしょうか。『諸星大二郎特選集 第3集 遠い世界』にはみんな大好き『ダオナン』も収録されています。ブピかわいい。
【4】 籠城中こそ「密室もの」を満喫する
『グリムのような物語 トゥルーデおばさん』『グリムのような物語 スノウホワイト』は名前の通りグリム童話をモチーフとした短編集。「グリム翻案ものなんて食傷気味だよ」と思われるかもですが、そこは諸星大二郎、すごいんです。読めばわかる。「密室もの」にあたるのはディズニーでもおなじみ『ラプンツェル』ですが、ジャンルを異にする短編としてそれぞれの単行本に収録されています。『トゥルーデおばさん』のほうは夢と現実が交錯する幻想怪奇作品、『スノウホワイト』のほうは人のいなくなった都市が舞台のSF作品で、読み比べると味わいがより深まる。
なお『トゥルーデおばさん』収録の『Gの日記』『鉄のハインリヒまたは蛙の王様』、『スノウホワイト』収録の『奇妙なおよばれ(※ 血のソーセージとレバーソーセージの話)』『小ねずみと小鳥と焼きソーセージ』などが読み応えがあります!
最後に上げたいのは『BOX ~箱の中に何かいる~』(全3巻)。主人公は男子高生、謎の館に閉じ込められるが、パズルを解かないと出られない。一つ謎を解くとさらなる謎が出現する展開。トリックスターや謎の幼女が出てきたり、お得意の不定形でグロテスクな生物が襲ってきたりするエンタメ性の高い作品です。氏の作品の中では作品のメッセージ性が強いほうだと思われるのですが、これが沁みるのです。諸星作品における「主人公の父」ランキングを作ったら光二父が1位になると思います。未読の方はぜひこの機会に!
番外編:むしろ今読みたくないモロ☆作品
「みんなで一丸となって苦境を乗り切ろう」的なフレーズが日に一度は聞かれる今日このごろ、「物理的に一丸となっちゃってる」作品を読むと精神衛生上よろしくない気がします。腰も背骨ももう痛まない『生物都市』、おらといっしょにぱらいそさいっちゃう『生命の木』、上流の食い物がおれたちにも食える『食事の時間』あたりは要注意です。
補記
諸星大二郎が「好きな映画」として挙げている『ファンタスティック・プラネット』が期間限定無料配信してるので見たいと思います。
高橋 もう一人、諸星さんの作風になんとなく似ているなと思ったのが、ローラン・トポール。フランスの小説家で漫画家で詩人ですけど、ブラックユーモアに満ちた作風が、実に面白い。
諸星 マンガはよく知らないのですが、この人が原画を描いたアニメ『ファンタスティック・プラネット』が好きです。それと、エドワード・ゴーリーの絵本も好きですね。
―――「諸星大二郎 不熟 1970-2012」諸星大二郎×高橋葉介対談
ということで、漫画読んだり映画見たり、充実した時間を過ごしてまいりましょう!
おまけの駄コラコーナー
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