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へぇー。

「夏っちゃん、俺が守るよ!君を何処へも連れて行かせない!」
俺は叫ぶ。麦わら帽子を被り、水色のワンピースにサンダルを履いた夏っちゃんは、怯えながら俺の手を握っている。しかし、容赦なく迫り来る冷ややかな気配。それが近付くにつれ少しずつ、掴む手の力が弱まっていく。
「あたし…もうダメ。」
「夏っちゃん!ダメだ!行くな!夏っちゃぁーん!」

そんな叫び声が心の内で響く頃、現実世界では
「いやいや、まだ夏は終わってないから。」
と半袖Tシャツ姿で主張する俺がいた。
「なんだかんだ、10月の真ん中位まで暑いからね!」
と、少し早口でまくし立てている。
夏を愛するがあまり、季節の変化に必死で抗っているのだ。しかしその時、剥き出しの俺の両腕をひんやりとした風が北から撫であげた。
さぶっ、思わず口から漏れたその言葉を押し戻すように唇を手で覆う。
しまった!しかし言葉が鳴ってしまってからではもう遅い。

「きゃー!」
夏っちゃんの悲鳴が響く。
「夏っちゃん!ごめん!」
「アフロくん…短かい間だったけどありがとう。あまり楽しませてあげれなくてごめんね。」
「何言ってんだよ!すごく楽しかった!海にもプールにも行けなかったけど、冷奴は美味しかったしスイカも甘かった!まだ離れたくない!行かないで!」
「ごめんね。もう限界みたい。あのね、一つお願いがあるの。」
「なに?なんでも言ってよ、夏っちゃん!」
「あなたの手であたしを眠らせて欲しいの。」
「え…そんな…出来ない!出来ないよ!」
「だってこのままじゃあなた、風邪ひいちゃうでしょ?」
「で、でも…」
「ほら、早く。時間に消される位ならあたし、アフロ君に。ね?」
「…わかったよ。さようなら。夏ちゃん。ありがとう。」
「こちらこそだよ。次会う時はあたしと濃厚接触してね。約束だよ。さようなら。」
そして俺は、夏っちゃんの首にゆっくりと手をかけたのだった。

その頃、現実世界では
「いやー、サツマイモのスイーツって本当にハズレがないよなぁ。秋っていいよねえ。」
そう言ってスイートポテトを頬張り、コーチジャケットを羽織る俺がいた。
さっきまで夏にしがみついていたのに、吹く風の寒さに負けてすっかり秋の装いだ。
まったく調子の良い男だ。
こうなると心の内では新恋人の秋ちゃんと戯れている俺がいる、という事になる。なんという軽薄さ。だが彼女もまた刹那の恋人、時が流れれば別れの時が来る。季節とは儚いものだ。

しかし、あれだ。

羽織ったコーチジャケット、まぁまぁかっこいいな。
まぁまぁっていうか、うん、かなり、いいよな。
ふーん、MOROHAのコーチなのかぁ。
硬派な黒にシンプルロゴが胸にドカン、背中はハンドサインのレーベルロゴかぁ。

へぇー、BASEで買えるんだ。

へぇー。

https://moroha2020.fashionstore.jp/items/26836478

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