見出し画像

「よんもじ」vol.8 WINTER 感想


灯を過るとき煙見ゆる寒夜かな 
若林哲哉

 今回ゲストとして参加してくださった若林哲哉さん。
灯→煙→寒夜の移動から暖かさが失われていく様子が字から見てとれる。
場面の色も赤→白→黒と移りかわっていく。
最後の寒夜が印象深く残るのは、煙のシーンという1拍があるからだろう。
冬がとても丁寧に描かれている。

 ゲストとしての参加を引き受けてくださった若林さん、その後北斗賞の受賞が決まり、忙しい日々を送られていたと思うが、予定通り冬号に原稿をくださった。今回は恐れ多くも贅沢に、若林さんが私たちの俳句も鑑賞してくださっている。

静かでほんのりと暖かさがあって、丁寧な視線。これが今回若林さんの俳句を受け取って感じたことなのだが、その次のメンバー4人の鑑賞文に目を移してみると、若林さんの選んでくださった句はどこか若林さんの世界観に近い(なんて自分の句に言うのは恐れ多すぎるのだが)ような気がした。

他のメンバーの句はもちろん秀句揃いなのだが、たくさん読んでいただいたであろう私たちの句からこの4句の組み合わせを選んだというところに、若林さんのセンスを感じたのである。

そして、若林さんの紡ぎ出す言葉で素敵な鑑賞文を書いていただいたことは、本当に嬉しい限りである。
面識のない者(私)の句を読んで鑑賞文を書くのは、本当に大変だったかと思うので、この場ではあるが改めて若林さんに感謝をしたい。

初夢にしつこく挙手を求められ 
西川火尖

 同じ毎日を送っていて、いつもと同じ睡眠なはずなのに、「新年」「初夢」という名前を付けられて無理矢理次のステージに行かされるような、有難く思うことを強要されているような、お正月の乱暴さを感じる。一般の新年詠にある清々しさとは違った、新しい新年の切り口だ。
挙手というのは、自らの意思でするものなのに求められる、それもしつこく。
無理矢理意見をつくらされて、表に立たされるような恐ろしさを感じる句である。
また、夢でよくある追い詰められる感も上手に出ている。

初富士を背にして走る仔犬かな 
藤田亜未

 今回のエッセイ「メンバーの作品鑑賞」でも「亜未さんの句の「かわいいもの✕きれいな季語」の取り合わせが好き」とクローバーと仔犬の句をとり上げて書いたが、またそんな好きな句を見つけてしまった。
静と動、大と小の構図もお上手だ。大きな景の中だからこそ仔犬のスピード、勢いを感じられるし、それは新年の喜びへと繋がる。
絵が浮かぶようで、新年にするカルタにしたいような俳句だ。

立ち位置のしっくりこない初写真 
相田えぬ

 毎年くる新年、毎年とる初写真。
同じことの繰り返しでも、しっくり来ないのは、いつもと違うところがあるから。
誰かがいないことで、変わってしまったような自分の立ち位置と全体像。
新年の寒さはその寂しさを感じる。しかしながら少し無理をしながらも正面を向き笑顔で撮る初写真は、新しいスタートを感じさせる。

とても豪華な冬号、是非お手にとってみてください♪
本年も「よんもじ」をどうぞよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?