欲の在処
欲とはそれ自体、発散もされないし、満たされもしない。いくつになっても生きることは、しみじみと難しくも、愛おしい。
できることは欲の在処を変えること、と知ってはいても、繰り返される性的衝動に今日も巻かれて生きている。
柔らかな春の雨が降っている。春を欲していた心には、不意に今夜の雨に満たされてしまうことだってある。
その場所に欲がなければ、その場に欲情することもない。かといって私の欲とあなたの欲を重ね合わせ、お互い欲まみれの先に行けることなど、人生には滅多に起こらない。
寂しいのだ。ぼくらは春の雨もやがてどこかへ消えてしまうことを知っている。だから春の幻を追いかけ、追憶の森から抜け出せなくなることで生きてゆく。
さて、今夜はなにを食べようか。
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