その人

その人は僕が脳梗塞になったタイミングとほぼ同じタイミングで実家に帰っていった。

体が弱く東京で活動することに限界を感じていたのだ。

東京にいたときはよくファミレスでお互いネタの相談などしあっていた。

でも田舎にいる間はお笑いの話はせずお互いラインで現状を報告したり愚痴を聞きあったりしていた。

僕がパソコン教室で先生と揉めたとき、僕がセブンイレブンのバイトでオーナーと揉めたとき、僕が大食いYouTubeを始めるも大食いユーチューバーと揉めてしまったとき。

その人はどんな時も僕の愚痴を聞いてくれた。

復帰できるかどうかはお互いわからなかった。復帰したいかどうかも正直わからなかった。

だからいつもお互い自分のペースで出来る範囲で無理せず頑張ろうって励ましあっていた。

でも心の奥底にある小ちゃい火種はずっとプスプスいっていて僕は先に火がついてしまった。

ここ何年かは燃えきってもないのに薪を加えて加え続けて消えないようにずっと燃やし続けた。

そして。いつしかその人のことを忘れていた。

休んでいる間ずっと愚痴を聞いてもらっていたのに復帰した途端ほとんど連絡することもなくなっていた。

きっともうその人の火は消えたと勝手な解釈すらしていた。

でも違った。

その人はずっとずっと薪を並べていた。僕の知らないところで僕なんかより遥かに大きな薪を大量に並べて風を送りとんでもない火を起こしていたのだ。

そして今日その人は大舞台に立つ。

僕は優勝してなんて言わない。

いつも同じ。

体に気をつけて自分のペースで出来る範囲で無理せず頑張ってね。

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