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神話を持った鉱物たち

スペクトロライトについて、感想など残しました。

スペクトロライト 珪酸塩鉱物
産出国 フィンランド (ユレマー)
色調 青、緑、オレンジ、黄、桃、紫

日本名 分光石

光に当たっていない時は自らのポテンシャルを静かに収納している。

スペクトロライトを写すのはとても面白い。鉱物面の角度を数ミリずらしただけで、色調がさらっと変化する。

友人との物々交換で手にした
スペクトロライト


【漆黒の地色から】

この漆黒の基盤を生みだしているのはラパキビ花崗岩なのだそう。フィンランドの地層は先カンブリア紀の緑色岩、花崗岩、片麻岩、雲母片岩、斑れい岩などからなる岩盤と、それを薄く覆っているスカンジナビア氷床による堆積物です。

石英、黒雲母、角閃石、磁鉄鉱などを含む17〜15億年前頃に形成したラパキビ花崗岩がフィンランドからスェーデンまで広く分布しており、ラパキビ花崗岩の中には斜長石やカリ長石の鉱脈が埋まっている為にスペクトロライトもその中で形成されました。

スペクトロライトの色彩が際立っているのは、このラパキビ花崗岩があったからなのです。これと似たラブラドライトの基盤は黒ではなく、グレー味がかっています。

ラブラドライト
ラブラドライト

日本名で言う御影石もこの様な地層から採掘されますが、やはり色調は黒です。ラパキビ花崗岩は日本国内では足摺岬がその地層なのだそうです。

鉱物を見る時、同じ種類の鉱物であっても産地によって、その表情が変わると感じる事があります。

水晶は特に分かりやすいのではないでしょうか?見慣れた人であれば陳列された水晶の中からその特徴の違いで、それがどこの産地なのかが大抵分かるのでは?と思います。見た目が違えばその印象も変わってしまい、別物の様に感じると言う事を、度々経験しました。

スペクトロライトとラブラドライトもこう言った視点で見ると別物の様に感じる鉱物のひとつです。

スペクトロライトに話を戻しましょう。

この石が発見されるまでの過程を、知っている範囲で書いてみます。不足箇所があるかもしれません。

スペクトロライト発見の始まりは、ロシア、サンクトペテルブルク近くの氷河からラブラドライトが発見されたことで、フィンランド国内にも鉱床があるのではないかと予測され調査が行われた事でした。

その指揮をとっていたのがフィンランドの地質学研究所、所長であったアーネ・ライタカリ氏でした。(彼はそこに息子のレッカを同行させることがあったようです。)

アーネ氏一行は鉱床を発見するに至らず時は過ぎ、第二次世界大戦中の1940年、ロシアとの国境付近に防衛線を掘る作業をしていた兵士によってこの石は偶然発見されたのでした。

発見した兵士はレッカ・ライタカリ。

長年鉱床を探し続けていたアーネ・ライタカリの息子だったのです。父の鉱床探しに伴われていたレッカだったので、ラブラドレッセンスを放つ黒い石を、そのままにはしておけなかったのかもしれません。

レッカはその石を父に送りました。その後解析され、スペクトロライトとして今に残されているのでした。(宝石商のウォルター・ミッコラ氏がアーネ・ライタカリ氏の許可を得てスペクトロライトと命名しました。)

発見者のレッカ・ライタカリさんはその翌年戦場で帰らぬ人となってしまいますが、残されたスペクトロライトから、彼にあの時あの場所で見つけて欲しかったと伝えているかの如く思えたのでした。

戦争と言う暗く重い空気の中で、父親の探し求めていた虹色に輝く石を見つけた時の興奮が、瞬時に伝わって来た感覚をもちました。

スペクトロライトの和名を分光石と言います。
spectrolite 
spctre(分光)に、ギリシャ語で石を表すリトスlithoを組み合わせたものです。

(現地の人はこの石を夢見石、予知夢石と別称している。)

分光は光を波長ごとに分解した配列で、虹をその現象のひとつとして見ています。太陽光も朝陽と夕陽では成分が違い、それを分光器で解析すると各々に固有の性質があるのが分かり、きっとその違いから受ける恩恵も多様になっているのでしょう。

命名者はこの石から、そのような機能を持つ分光器を連想したのかもしれません。

明暗が美しい


花の色を識別できるのは、霊長類、鳥類、魚類、昆虫だけといわれています。人は3原色(赤、青、緑)、昆虫はこれに紫外線を含む5原色で世界を見ており更に、明暗だけを感知する単眼と、六角形の目が複数集まる構造の複眼を備えていて、トンボはその数が2万個以上になると言います。

夕陽は橙とは限らない。

曇り空がクレーとは限らない。

スペクトロライトを眺めながら、そんな事をしみじみと思い、閉じられたままの別の窓を、もしかしたら人は持っているのかもしれないと思えたりもしました。

同じ一つの石から
色彩の世界は広がる

パワーストーンという言葉は、その言葉だけで敬遠したくなる時もあるけれど、実際に手にした鉱物から、これは単なる石ころではないと感じる自分もいます。敬遠していた窓を開ける時にはいつも、植物や鉱物や動物の後押しがあった。

微生物と微生物を結ぶ有機物同様、鉱物を無機物とは思っていない自分は確かにいると、思い知る事となった石でもありました。

現在でもユレマー以外の地からスペクトロライトの発見は無く、またこのユレマーがフィンランド神話「カレワラ」発祥の地とされている事で、フィンランドを象徴する鉱物となったと思えます。

様々な発見秘話や事情を持つ鉱物たち。

それを、一つの神話としてここに残したいと思いました。

スペクトロライト:ギャラリー


繰り返しになりますが同じ石です
青いスペクトロライト

こんな美しい鉱物が眠る上に生きているとは何という奇跡だろうか











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