エタノールの共感促進効果の話

最悪である。第一に、気温が低い。第二に、空が暗い。第三に、腹が痛い。すべてを「天」のせいにしてふてくされたいところだが、三番目は確実に、動かしようもなく、自分のせいなのだ。

話は至極単純だ。飲みすぎたし、食べ過ぎたのである。

昨夜、友人と韓国料理屋に行った。普段「お会計127円です」「Suicaでお願いします」程度の対人コミュニケーションしかしないわたしにとって、久々に2ラリー以上の会話が行われた。二時間以上に及んだから、1000ラリーくらいは達成したはずだ。卓球選手なら次回休場するレベルだろう。

馴染みの店。気が置けない友人。わたしにとって久々の「人間活動」。酒も食事も進まないわけがない。とにかく飲み、食べまくった。すべてのメニューが予想以上のボリュームだったことと、野菜の多いものから順々に食べていこうというわたしの健康意識の高さが相まって、満腹のあまりシメの炭水化物を頼めなかったくらいだ。

今年の八月、ある研究結果が発表された。東京大学の池谷裕二教授、坂口哲也特任研究員によって、エタノール(酒の主成分)がマウスの「共感」を促進することが証明されたのだ。わたしなりに乱暴にまとめれば、酒を飲むと人の気持ちにシンクロしやすくなる、ということだ。

そう考えると、あらゆる会合で酒が出されるのにも納得できる。結婚式でも、葬式でも、同窓会でも、送別会でも、あらゆる機会で人は飲みまくる。居酒屋で人の話にもらい泣き・もらい怒りしている人は、酒の力で自分を相手に寄せているのだ。

月刊Newtonによると、エタノールのこの効果は「共感以外の活動を抑える」ということらしい。人を共感に集中させる、ということだ。だから喫茶店でお茶をしながらだって、人は人に共感できる。

前述の友人は、女性である。年齢も六つか七つ違うし、職業もライフスタイルもまったく違う。そんな彼女の話に大いに共感できたのも、きっと酒の助力があったからなのだろう。なんとか科学的事実を曲げて「俺は女性の気持ちがわかる男だから」と思いたいが、月刊Newtonには敵うわけがない。

とりあえず、いまもお腹が痛い。科学的な根拠をもとに、白湯でも飲もうと思う。

次回の更新は11月23日金曜日、正午です。


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